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初見殺しとブレイカー  作者: siro kisi
7/10

女の子とは


東城 涼華は目尻が赤く腫れた目を気にしながら

鏡の前で髪型を整えていた。

「よし、仕方ないから慧の見舞いに行くか。」


自分の中でさえも慧に対しては上から目前の考え方。

だが、それは彼女が彼女らしさを保つ唯一のものだった。

仕方なくと、言ったが見舞いに行く彼女の

思いは、心配よりあの時自分が何も出来なかった後悔の念の方が強い。

多分、彼女は今、慧本人に会ったら

大丈夫?という心配の言葉ではなく

ごめんなさいという言葉が出るであろう。

しかし、そんなことを言ったら慧は間違いなく

お前のせいじゃないさ、急にしおらしくなんなよ、と笑って

返してくるに違いない。いや、そうであって欲しいと。それが

長年、幼馴染みをやってきた彼女の答えだった。

なら、自分はどうするか。簡単だ。慧が慧らしくあって

欲しいと望むならまず、自分が自分らしくあるべきだ。


そう考えた彼女は、自分の本心を偽ってでも

自分らしい、いつもの振る舞いを見せるのであった。


〜日常Ⅱ〜


オレは、 辺りの色が紅くなっていくのをカーテン越しに感じた。

_あれ、もうこんな時間か・・。


夕日の日差しを感じ、ふと現実に戻る。

今は、9月の末。徐々に日の入りが早まっていく頃だった。

大和と会話をしている内に二回、チャイムが鳴った。

それは、最後の授業である、6限目が終わり、放課後を知らせるチャイムと

規則の厳しいこの学園は5時を完全下校とし、教師及び生徒会役員以外を帰らせる

為のチャイムが鳴る。非常事態などが無い限りは

この二回はその目的で鳴らされたチャイムにまず間違いはない。

そして、二回目のチャイムが今さっき鳴った。

つまり、今の時刻は5時ちょっと過ぎという事になる。


時計が無い、今の状況で現在の時刻を把握出来たのは

良いが、その一方で嫌な予感がした。

それは、今の今まで誰一人この部屋に出入りした

気配がない事だった。

生徒が保健室に来ないことはそれはそれで、良い事かもしれないが

保健室を担当している先生が一度も姿を見せないのはおかしい。

そして、放課後になったのなら、涼華が見舞いに来てくれても

良いはずだ。うん。・・・幼馴染みのよしみで。


そして、一番の謎は・・・。

そう思い、オレは正面にいる

大和の姿を直視した。


目が合うと、ん?と

首を傾げる。

「どうしたんですか?」

急に視線を感じた大和は

夕日のせいか少し頬が赤かった。

「凄い、今更なんだけどさ。」

大事な事だと思い、オレは大和から目を離さず

まっすぐに言う。

「は、はい。」

そんな、視線に圧倒されたのか

大和の声が震えてる。

「・・・お前、なんで布団の中に居たんだ?」

「・・へ?」

大和は気の抜けた声を出した。

そして、力が抜けたのか、

ヘナっと上半身がベッドの上で崩れる。

「お、おい。大丈夫かよ。」

「は、はい・・。」

なんとも、気の抜けた返事をする。

最初の時の凛々しい和のお嬢様は

どこへ行ったのか。それとも、これがいわゆる

ギャップ萌えというやつなのか。

崩れ落ち、ベッドで横になる大和を見て

そんな事を考えた。






しばらくすると、

失礼しました。と言い恥ずかしそうにしながら

大和が起き上がってきた。

その顔は淡い期待をしていたが、やはり

駄目で期待通りには事が運ばずむくれている

子供の様な一面があった。

しかし、パッと一瞬にしていつもの

気品ある顔になる。

これも、ギャップ萌えなのか

それとも、女の子というのはこうも

一瞬にして、変わるものなのか。


「それで、」

話を戻すべく、おもむろに切り出す。

「はい。その件ですね」

「そうそう。」

「それは、ここで待機と学園からの指示を受けたからです。」

「指示?」

その言葉が嫌な予感を助長させる。

「そうです。五十嵐さんが気を失ってから午後模擬戦闘は中止になり、

皆さん速やかに教室に戻りました。」

「そっか」


それから、オレが気を失った後の事を詳しく聞いた。

あんな規模の戦闘があったにも関わらず怪我人が0人だったという。

どうも、柱が暴走した辺りで如月先生が状況を察し、生徒を避難させたらしい。

意外にも、有能な教師だったのか、と失礼ながらに驚いた。

それと、その現場にいた涼華と事を起こした張本人である

柱は、何やら生徒会の集まりがあるといい

すぐにその場からいなくなったという。


なにやら、

今回の事や今、感じている嫌な予感に

生徒会が深く関わっているようでならなかった。



「そういえば、五十嵐さん」

大和が改まって言う。

「なんだ?」

「あの時はありがとうごさいました。」

「あの時・・?」

先ほどの頭痛から記憶が曖昧なのと突然の事で上手く

頭が回らない。

「助けてくださって。」

あっ!

その言葉でやっと思い出した。

_そうか、オレこの娘を助ける為に能力アビリティ使って

ぶっ倒れたのか・・・。


まるで、アハ体験の様に脳に思い出したという刺激が来る。

先ほどと違い痛みはない。どうやら一時的なものだったらしい。


「あ、いや、結局は助けたというよりは助けられ・・。」

そこで言葉が止まる。それは思い出したからであった。

あの時の大和の別人みたいな雰囲気、目つき、声のトーン。

ポッカリと開いていた最後の穴にピースがはめ込まれた。

そんな気分がした。

_そうだ。思い出した。


「おい、あの時!」

唐突にあの時の事を聞こうとした瞬間

シャーーっと仕切られていたカーテンが開いた。


「んなっ!?」

どこかで聞いた事のある声だった。

そこには、一瞬驚きの表情をしたが、何故かすぐにその表情が

憤怒の形相なった幼馴染みである、東城 涼華と

そっぽを向いてムスッとしている柱の姿があった。


_なんだよ、今大事な事を聞こうとしてたのに。


邪魔されたことに少し

腹が立ち、涼華を睨む。

だが、その涼華の睨みは蛇を睨む蛙の如く

恐ろしい目をしていた。


あ・・。

ここでやっと

事の大変さに気づく。

保健室、ベッドの上、カーテンで仕切られた空間、

年頃の男女。役満であった。


ハハ、、

もはや乾いた笑い声しかでなかった。


「唐突に、どうしたんですか?」

大和はこの状況を察してないのか、それとも察した上でなのか

くすっと涼華の形相を見て吹きながら言う。


「い、いえ・・。今し方生徒会の仕事が終わったので様子を見に来たのですけど・・。」

怒りで声が震え、頬をピクピクしながら涼華は答える。

「ですが、何やら元気そうにですね・・?ね?」

そう言う涼華の顔はもはや鬼も逃げ出すほどの怖さがあった。

_ま、まずい。


涼華の額には怒りマークの様に

血管が浮き出て、頬をピクつかせている。

しかし、最も怖いのがその表情である。

最初は驚き、次に憤怒の形相を浮かべたと思ったら

次は笑顔。だが、その笑顔はオレの知っている笑顔と

似ても似つかぬものだった。


今の涼華に何を言っても無駄だと

その顔を見れば分かる。どうせ言い訳は男らしくない。

などと言われ流されるのが落ち。ならば、いっそここは

何も無くても謝るべき。うん。

こちらに非があっても、なくても(実際はないけど)

今は涼華の怒りを鎮め、その後ゆっくりと事の顛末を話そう。

それが、今自分が出来る最善の策だと考えた。


「涼華、ごめ__。

「ちょっと!!」


大声が保健室に響く。

それは、涼華より先にこの状況に痺れを切らせた

柱の声だった。

「いつまで、こうしているつもりでして?」

何やら、柱も柱で違う理由ではあるがイラついているらしい。

ってか、こいつはいつもイラついてるか。


「東城 涼華!わたくし達はここに立ち話をしに来たのではありませんわよ。」

冷静なその指摘に涼華は、ハッと我に戻り反省したのか

頬を染め、俯き

ごめんなさい。と一言小さな声で言う。

「殿方の事で我を忘れる様では生徒会役員として失格でしてよ。」

上機嫌にそう言うと、オレと大和の方を向く。

俯いたまま涼華が、そんなんじゃないもん。

と呟くが柱はそれを無視し、言葉を続ける。


「貴方達が何故ここにいるか分かるかしら?」

鋭い視線を向けながら、柱は言う。

「いや、オレはただ気を失って、保健室に連れて来られたってことぐらいしか。」

自分で分かった範囲のみを答えた。

「そう、で貴方は?」

オレから大和へと視線を移す。

「私は学園からの指示でここに来ました」

それは、オレが聞いたのと同じ答えだった。

「そうですの。まぁいいですわ」

柱はそう言うと、うんうんと頷き何やら

納得のいかない表情を浮かべていた。


「今日はもう帰っていいですわ。」

ぶっきらぼうに柱が言う。

「えっ?」

その意外な言葉に驚く。言葉自体にではなく

その前に何やら意味深な事を言い、そして

その後何か起きるのかと思っていたからである。


「もう、一般生徒の下校時刻は過ぎてますの。それに、怪我人に

対し長話もなんでしょう?」

どうやら、この続きはあるが今日はこの辺でお開きらしい。

生殺しほどではないが、勿体ぶられるのは何か癪だ。

しかし、どうもこのお嬢様はオレの体を案じてくれている様なので

今日のところは大人しくしようと思った。


「そうか、なんか心配かけて悪いな」

「誰が、貴方の心配なんてするものですか!」

ムキになり、柱は怒鳴る。

「東城 涼華がどうしてもと言うからそうして差し上げたのですわ」

ふんっと、鼻を鳴らしツンツンしながら、柱は

では、わたくしはこれで。と言い保健室から出て行った。


「ありがとうな、涼華」

お礼を言うも柱が居なくなった途端

先ほどみたくまた態度がキツくなる。

ようやく、状況を察したのか大和が

「私も今日はこの辺で失礼します。」

と言い、ベッドから降りると何やら意味深な事を言う。


「あ、慧さん。今日の二人っきりの時間

とても楽しかったですよ、また明日お会いしましょうね」

_んな!?

そういうと、ササッと逃げる様に大和

保健室を後にした。そう、爆弾を残して。


「あー、いや違うんだ涼華。あれは大和が勝手に言った事で・・」

ギロリ、と鋭い眼光がこちらを向く。恐ろしい。

しかし、そんな中ある事に気づく。

_あれ?


涼華の目尻が赤く腫れているのに気づいた。


まだ少し痛む体を無理矢理動かし

何とか布団から足を出し、床に足を着く。

確かに、目の前にいるのは鬼をも逃げ出すほどの怖さだった。

しかし、それでも女の子なんだ、と思った。そして、その女の子が

オレの幼馴染みでしかも真っ赤になるまで泣いた後まである。

そう気づくと自然と体動いた。

足に力を入れ、立ち上がる。そして、そのまま

真っ直ぐに進む。涼華の元へ行く。

涼華少し、驚きは見せるもののその顔にはまだ怒りの表情が

見て取れる。


一歩一歩、ゆっくり進み

手が届く所まで近づく。そして、

右手を挙げ、涼華の頬にそっと手の平を寄せ

指で目尻を優しく摩る。


「こんなになるまで、泣いたのか?」

涼華の真っ赤に腫れた目尻を見て言う。

「そんなんじゃ、ないわよ・・」

涼華はオレの手を払いのけそっぽを向く。

「本当、ごめんな」

「だから、そんなんじゃ__」


「ごめん。」


涼華の言葉を遮り再び謝る。

その、言葉に涼華の表情は次第に

怒りから顔を曇らす様になる。


「ねぇ、大丈夫なの?」

低いトーンで涼華は聞いてくる。

「え?あ、あぁ体のことか?それならもう__」

「違う。」

「違う?じゃあ、何が?」

涼華の心配していることが何なのか分からなかった。

「慧の能力アビリティについてよ」

「その事か・・・。」

「私、怖かったの。だって慧の能力アビリティの事は知っていたけど

あんな風になるなんて思ってもみなかったし、それに慧もいつも違って怖くて。」

涼華のその声は震えていた。

「でも、一番はそんな怖い思いよりも何も出来ない自分の不甲斐ないさが嫌だったの。」

赤く腫れた目尻に涙が溜まる。プツッと糸が切れたみたいに

涼華は自分の本音を話す。


「でも、」

そこまで、言いかけた時

オレはそんな涼華の姿が見ていられずに抱きしめた。

「分かったから、もう泣くなって。」

「でも、でも、」

「何だよ、いつものお前らしくないな。」

その言葉に涼華は鏡の前で自分に言った事を思い出す。

自分らしくある、と。


「今回の事でお前が気に病む事はない。それに、いくら能力アビリティが暴走したからと

いっても、オレはオレだ。」

その言葉がさらに涼華を思い出させる。

そうだ、私は__。


「だから、もう泣くなってな?」

そう言うとしばらく、涼華を抱きしめた。

右肩は涼華の涙でじんわり濡れるのが分かった。


涙を拭い、涼華の顔を上げる。

「もう、大丈夫だから。」

と言い、オレから距離を取る。

どうやら、いつもの落ち着きを取り戻した様だ。


「ごめんね、こんなに取り乱して・・。」

ようやく、落ち着いたのか

涼華は恥ずかしそうに言い、涙を拭う。

そんな、普段とは違うギャップについ

可愛いと思ってしまう。

「大丈夫だって、ここにはオレしか居ないんだし。」

辺りを見回す。外はすっかり暗くなり、静寂が保たれていた。

「後、能力アビリティの事なら心配すんな。なんか分かりそうな感じなんだ。」

オレは、さらに涼華を安心させるべく一言加えた。

「そうなの?そういえば・・・。」

何故か、涼華は布団に目をやる。

「もしかして、それって大和さんと二人っきりでいた事に関係あるの?」

げ、唐突に痛いところを突いてくる。

しかし、『神器者』の事は話す訳にはいかない。

「い、いや大和とはただ世間話をしていただけだよ。うん。」

それは、もう苦し紛れであった。

「そっか。」

「お、おう。」

「そう、それは良かったわね。大和さんが『慧さん』なんて呼ぶぐらいだもんね?」

あれ、おかしい。なぜ話題が振り出し近くに戻っているのか。

なぜこのまま、ハッピーエンドに終わらないのか。

「い、いや。あれは大和が勝手に・・。」

「言い訳は男らしくないわよ」

えー。

「話は帰りにキチンとしてもらいますから。」

そう言い、無理矢理首根っこを掴まれ引きずられる。

今の体では抵抗するだけ無駄だと思い、大人しく引きずられ

ながらオレは

女とは、一体幾つの顔を持っているのだろうと。

そして、この尋常じゃない切り替えの早さ。

もしや、これも能力アビリティ?なんて事を考えていた。
























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