形式保存(エクスポート)
この力を使うと、昔を思い出す。
オレがいじめられていた頃の話だ。
この力の存在に気づきそれを初めて使ったのは
小六の夏だった。きっかけはお金持ちの家のクラスメイトが
誕生日とで親から貰った”メタルパネル”の実験台になってくれ
と頼まれたことだった。
最初は怖かった。異能が。
だが、その頃のオレにとって
その頼みを断りそのクラスメイトや、周りの人達が
自分から離れる方が怖かった。
そして、了承してしまった。
そこから、オレの運命が大きく変わった。
〜形式保存_エクスポート_〜
力が湧いてくのが分かる。
うぬ惚れでも、勘違いでもない、それは
もはや自分だけでなく、周りが見ても分かるほどに
力、、いや能力というものが具現され衣の様に
体を覆う。色で言えば白色透明。
_ってことより。
今は、目の前の彼女を助けなくては。
腰を低くし、戦闘姿勢に入る。
サッ!
地を蹴った、一瞬だった。
ほんの僅か、それだけで大和に近づく
「そのまま!」
オレは大和に向かって叫ぶ。
大和は振り向くことなく、頷き
剣を弾き続ける。
_剣は任せていい。後は・・・。
再度地を蹴り
方向転換を行う。向かう、先は柱が投げた
巨大な火の玉。
「な!?バカですのあなた!!」
柱は先ほどの自信満々な表情から一変
驚きの表情を見せる。
巨大な火の玉が近づいてくる。生身で喰らえば
火傷では済まない。しかし、今のオレには
そんなの関係なかった。どんな、技だろうが
どんな、奥義だろうが。
相手が初見ならば絶対にオレは負けない。
それが、オレの能力
『初見殺し(ファーストブレイカー)』である。
拳に力を込める。
すると、体を覆っていた衣は右手の拳に集中する。
それは、能力自体が意思を持ち、
オレの意思に呼応するかの様だった。
火の玉が近づいてくる。
熱い。それは、徐々に増す。さっきの時と同じだった。
しかし、先ほどまでとは違い今のオレはそれを危険とは感じない。
タイミングを計る。
顎を引き、右手を引く。
_いまだ!
「ハァッ!!」
力んだ声と共に、拳を真っすぐに突き出す。
衣のおかげか、触れている拳からは熱を感じない。
殴ったつもりだが、殴った感触はしない。
スパッ!
目の前の火の玉はまるで
花火の様に弾ける。
_これも、この能力の力なのか・・?
自分の能力なのにも関わらず、オレはこの力の全てを知らない。
それが、今のオレの唯一の恐怖であった。
_んな、ことより。大和の方は!?
すぐに後方を振り向く、そこには無数の剣を全て弾き
無傷で佇んでいる大和の姿があった。
_どうやら、剣も弾切れのようだな。
流石の柱も”メタルパネル”の二枚同時、さらに大技の連発で
体力の限界のようだ。
「柱、もういいだろ。これで。」
大和の無事な姿を見て安心したオレは再び振り向く。
そこには、肩で息をし、もはや見るだけで
体力の限界だと分かる。柱がいた。
「こ、この・・程度では、まだまだですわ」
「いや、お前流石に”パネル”の使い過ぎだ。模擬戦闘なんだしこの辺でお開きってことでさ。」
「いえ、柱家はいかなる時も負けてはなりませんの。それも、あなたに二度も、ましてや大和の末裔
に・・。」
強がってはいるが、それが無理をしていると
誰もが分かった。
_でも、模擬戦闘なんだし勝ち負けは別に気にしなくても。
オレはどうしようか分からず大和に聞くことにした。
「おい、大和!どうする?」
大和の方を向き問う。
一瞬、目が合うと大和はその答えをオレではなく
柱に向かって言っているように答えた。
「彼女がまだ勝敗を望むのであればそれに全力で応えるまでの事です。」
どうやら、大和は柱のプライドを尊重している様だった。
しかし、勝負が長引けば大和が勝つのは明らかだった。
そろそろ、止めないとな。そう、思い能力を解こうとした
その時。
_!?。
心臓が締め付けられる様な痛みがオレを襲った。
痛みに耐え切れず、その場で片膝をつき左手で左胸を抑える。
「くっ・・。う、うぁ。。」
あまりの痛さ声が漏れる。
「慧!!」
涼華は異変に気づき一目散に近づいてくる。
「だ、ダメだ!涼華!!来るな!」
いつもの自分らしくもなく、叫ぶ。
「で、でも・・。」
今にも泣きそうな目で涼華はその場に止まりこちらを見る。
幼馴染みなだけに、普段とは違うオレを見て動揺しているのが一目で分かった。
_は、はは。。こりゃ、マズイかも、、な、。
『お前は、この力の本当の意味をまだ知らない。』
_!!?
突然、脳にフラッシュバックされるかのように
その言葉が浮かび上がる。
『何故、戦いを止める?彼女はまだ生きている』
彼女、それは柱の事を差す言葉だった。
『彼女は、もう標的にした。なら、殺すべきだ。これはその為の力だ』
_な!?
「ふ、ふざけるな・・。」
『よいのか?殺さなくて』
「だ、黙れ」
『二度目はないのだぞ』
「そんなの、分かってる・・。だけど、殺す事は出来ない。」
『ふん、何処までも甘い男だ。だが、今のままではお前は暴走し、いずれ死ぬ』
「は、ここで死ぬなんてごめんだ。なんとかしてみせるさ。」
スッと頭が軽くなり、心臓の痛みが徐々に引いていく。
しかし、
_な!?
痛みが引いた途端、自分の意思とは関係なく
体を纏う衣が徐々に増えていく。
_このままでは・・。
自分の身の危険より周りの人達への被害を先に考える。
「り、涼華!!二人を連れて逃げろ!」
「え!?」
涼華は突然の事に正しい状況判断が出来ず
おろおろしてしまう。このままでは、能力を制御出来ずに、、。
最悪の事態を考える。なんとかすると言ってみたは良いものの
自分の意思とは別に、勝手に増えるこれをどうすれば・・・。
再度、周りを見る。
涼華は、その場に佇み困惑している。柱は先ほどの疲労からか
動く様子がない。
大和は・・・。
先ほどまでいた場所に姿が見えない。
_危険を察し逃げたのか?それなら、それで・・。
一人でも被害が少なくなればなどと
考えていた時。
_、、殺気!?
後方から視線を感じる。
瞬時に後ろを向く、しかし時既に遅く、
間合いに入られる。一瞬の事に
目が追いつかない。しかし、目を凝らして
その視線の元を見る。
そこには、あの時と同じ目をした
大和の姿があった。
_なんで、、。
腰を低くし、刀を構える。
その、姿勢にオレは察する。
_あぁ、そうか。
「ごめんなさい」
大和は消えそうな声で言う。
「いや、助かった。」
全てを理解した、上でオレはその大和の剣を受けた。
体を纏う衣が大和の刀に吸収されていく。
全てが吸収される手前で意識が朦朧としてくる。
_や、やべぇ・・・。
気を失う、自分でもそれが分かった。
_さ、最後に大和にお礼、言わねぇーと。
朦朧とする中、大和の顔を見る。
しかし、そこには先ほどまでとは
全く、別の雰囲気の大和の姿があった。
「お、お前は、、、」
「やっと、見つけた。大丈夫よ、もう私がいるから。だから、静かにお休みなさい。」
そう言うと、人差し指を突き出し、眉間に当ててきた。
そして、その言葉を最後にオレの意識はスッと闇へと消えていった。
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「会長。やはり、大和 涼菜は、
「あぁ、分かっている。それに五十嵐 慧。流石は生徒会入りを拒否しただけの
事はある。」
「ですが。」
「分かっている、このまま野放しにしておくつもりはないよ。」
校舎の四階、生徒会室から校庭を眺める二人の生徒がいた。
そして、この怪しい影が迫っている事に
彼らはまだ気づかなかった。