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初見殺しとブレイカー  作者: siro kisi
4/10

模擬戦闘

オレは極力戦いを避けてきた。

それは、オレがただ単に弱いという

だけの話ではなかった。しかし、このままでは

いけないとわかってる。変わらないと

いけないんだ。


半年前の入学式に思った事を

何故か、今走馬灯のように浮かんできた。

それは、今がその変わる時なのだと

思ったからかもしれない。


〜模擬戦闘〜


柱 ルリーシャは詠唱し”パネル”を体に取り込んだ。

今までとは違う禍々しいオーラを柱 ルリーシャは放っていた。

そのオーラのせいか、辺りの空気が鋭い刃のようなチクチクと

刺されるような感覚に襲われた。


オレはふと、大和の方を見た。

大和はこの重い空気の中でも

一切、表情や姿勢を変えずに佇んでいた。

「大丈夫か?大和。」

オレは少し心配になり声をかけた。

「なにがですか?」

オレはその予想していなかった答えに驚いた。

てっきり、なんの反応も示せないほど硬直しているものだと

思っていたからだ。

_そうだった・・。こいつも只者じゃなかったか。


と思い出し、少しホッとしたのか

さっきよりも気が楽になった。


「で、どうするんだ?大和。あいつもう形式変換インポートして

攻撃態勢に入っているぞ。」

「大丈夫ですよ。五十嵐さんのお相手が出来なくて残念では

ありますが、降りかかった火の粉は払わなくてはいけませんから。」

と自信満々に大和は言った。

_しかし、どうやって・・・。柱のやつ、この感じだと惜しみなく

”メタルパネル”使ってるしこっちもそれと同等かそれ以上じゃないと

勝ち目がないぞ。


「何をさっきからゴチャゴチャ言ってますの?さっさと構えなさい!」


_先に形式変換インポートしておいて相手を待つだなんて

やはり、柱の方も大和の能力アビリティが気になっているのか?


”パネル”を体に取り込んだ際にその能力に応じて

見た目が変換する能力アビリティがある。

ある奴は翼が生えたり、筋肉増加でゴツくなったりだとが主なものだ。

しかし、能力アビリティの大半は内蔵型のもので。

見た目では判断できない。柱も”パネル”を取り込んだにも

関わらず見た目が変換しないのはあいつの”パネル”の能力アビリティ

内蔵型であるということになる。


「分かりました。」


大和は先ほどまでと少し

声のトーンが低く感じるほどに冷たく落ち着いた口調で返した。

そして、大和も同様に配布された”パネル”ではなく

懐から出した自分専用であろう、”パネル”を取り出し詠唱した。


「我が鞘より出で、力を欲しなさい。形式変換インポート


大和は詠唱をする。

詠唱が個々人様々なのには理由がある。

”パネル”を体内に取り込む際に自分の覚悟を示す

必要がある。そして、その示し方こそが詠唱である。力を欲し

力のあり方を決める覚悟は人それぞれ。その為、口にする詠唱も人それぞれなのだ。

しかし、オレはこの大和の詠唱に少し違和感を感じていた。

通常、覚悟とは自分に対しするもの、

つまり、自分自身がこの力をどうするかということ。


先ほどの柱は「___我が糧となりなさい!」と言っていた。

しっかりと力のあり方を唱えている。

しかし、大和の詠唱は「___力を欲しなさい。」と言っていた。

こんな風に他人事みたく言うことはまず、ありえないと感じた。

だが、詠唱と共に現れた物を見てオレは一つの

仮説が生まれた。

そこに現れた物は、鞘に収まっていない刃が剥き出しの


日本刀だった。



「は、刀に武器なんてありきたりすぎですわ。」

柱は大和の刀を見て嘲笑する。

確かに、”パネル”が武器になる物はいくらでもある。

しかし、その小柄な大和とには少し大きすぎる日本刀は

業物だと感じさせるほどの輝きを放っていた。

それを持っているのが華奢な女の子という

ことで違和感を感じるが

それよりも、大和本来の和を感じさせる雰囲気と

刀がとても合っているという感想の方が強かった。


「正直、期待外れですわ。ですが、挑んだ以上全力でいきますわ!!」

そう言うと、柱はスッと右手を上に挙げ、手のひらを天へとかざした。

_なんだ、

柱の行動の意図がわからなかった。しかし、

柱との距離は約7、8メートル。もし柱が取り込んだ能力アビリティ

身体能力増加系でしかも”メタルパネル”級のものだとしたら

いっきに間を詰められる。なので、ここは気の抜けない場面

ということだけは分かっていた。


_ん、なんか急に暖かくなって・・。


そう感じた時だった。

何やら、柱の手のひらに小さな火の玉ようなものがあった。

そして、それは次第に大きくなっていった。

それと、同時に辺りの温度が急激に上昇するのを肌で感じた。


「これが、わたくしが今取り込んだ”メタルパネル”の能力アビリティ

『地獄の業火ヘルフレイム』ですわ」

「なるほど、お前が取り込んだ能力は炎系統の”パネル”だったのか

すぐ感情的になって熱くなるお前にはピッタリの能力アビリティだな。」

褒めたつもりでオレは言った。

「なんですって!!!!??」

しかし、焼け石に水・・いや油か、、・?

オレのせっかくの褒め言葉が柱は皮肉に聞こえた

らしく手のひらの炎はさらに大きさとその熱を増す。


「あんた、バカじゃないの?相手を刺激してどうすんの!!」

涼華がこの状況にも関わらずツッコミを入れてくる。

「いや、そういう意味で言ったんじゃ・・・。」

「ふん、もういいですわ。あなたも大和 鈴菜同様に消し炭にして差し上げますわ!」

柱はそう言い手のひらにある大きな火の玉を投げてきた。

火の玉といっても大きさはオレと大和を消し炭にするには十分すぎる

大きさで、なによりそれがいかに危険なものかが肌で感じ取れた。


_マズイな、このままでは・・。

そう思った時だった。今までオレの後ろにいた

大和がオレの前に立ち、華奢な体格のせいか通常より刃渡りが長く感じる刀を

両手で構えた。

「そのような刀ごときでなにができますの!!さぁ、消し炭になりなさい。」

柱は嘲笑した。

しかし、大和は何の策もなく、前に出てくる愚か者ではない。

そう感じていた。それに・・・。オレの仮説が

正しければ。そう思った時だった。


スッと、大和は剣尖を下げ、下段の構えを取る。しかし、それはあまりに

無防備すぎる構えだった。一瞬でも、タイミングを逃せばその業火に焼かれてしまう。

だが、大和はその一瞬を逃しはしなかった。


柱の投げた火の玉が目と鼻の先、というほどまで

近づいてきた時、刀の刃はすでに天を向いていた。

そして、次の瞬間。



「はっ!!」


という大和に力の籠もった叫びと共とに

ブンッ!!

という鈍い音がした。それは、下段の構えから繰り出された切り上げをした

際に刀が風を切る音であった。そして、目の前で起こったことが

オレの仮説を実証へと変えた。


そこには、真っ二つに切られ、割れた火の玉があった。

そして、何より驚いたのが切られた火の玉が大和の持つ

刀にどんどん吸収されていき、跡形もなく姿を消したことだった。

しかし、これこそがオレの仮説通りの内容であった。


大和は、「___。力を欲しなさい。」と言った

つまり、力を使うのは自分ではなく刀ということになる。

そうなれば、あの違和感があった詠唱も説明が付く。


「んな!?」

柱はその光景に驚きを隠せなかった。予想していた

オレでさえこの光景は目を疑う。

「なるほど。これは想定外でしたわ。まさか、こんなところで出会えるなんて。」

柱は何やら意味深なことを言う。

「なにが、言いたい」

オレは率直に質問した。

すると、柱は自慢げな顔で答えた。

「柱の権限において、ほぼ全ての”パネル”の試作品はウチで預かっていますの。

わたくしも全てを知っている訳ではありませんが、今までの柱が集めてた能力アビリティ

のデータにそんな能力アビリティは存在しませんでしたわ。


そう、”古代鏡盤エンシェントパネル”の能力アビリティデータを除けば、ですわ。」


柱の言葉に衝撃が走った。

涼華も驚いているのが表情からみてとれた。


「でも、現在、世界で五つしか確認されてないんだろ?なんで、そんなものが

ここに。」

「あら、?別に不思議なことなんて一つもないですわ。なんたって、”パネル”開発者で

ある鳴斎様が創設なさった学校ですもの、本来なら、我が校が全ての

古代鏡盤エンシェントパネル”を保有してもいいぐらいですわ。」

柱は誇らしげに答える。


「ですが、これはまたと無いチャンスですわ。」

柱の視線が大和ではなく、その刀を捉えた。

「この能力アビリティでは、少々部が悪いようですわね」

柱は何やら懐に手を伸ばす。

それと、同時に大和が無言で構える。


そこに、一瞬だが沈黙が生まれた。


そして、柱が懐から手を出そうとした僅か一瞬に、

大和は地を思いっきり蹴り、柱との間合いを縮める。


それに、反応したかのようにすぐさま懐から手を出す

そこには、もう一枚の”メタルパネル”があった。


そして、今、取り込んでいる”パネル”を解除リリースすることなく

詠唱を始める。

しかし、その時既に大和は刀で柱に致命傷を

与えるには十分なほどに距離を詰めていた。


そして、



キィィィン!!!

鉄と鉄がぶつかり合う激しい音がする。

それは、柱が咄嗟に大和の刀を懐から出した”メタルパネル”で防いだ

からであった。


「くっ、不意打ちとは卑怯ですわね。」

「いえ、戦いにおいてそのような気心は捨てるべきです。柱さん」

向かい合った二人は言葉を交わした。


「確かに、その通りですわね」

次の瞬間、空いているもう片方の手のひらに先ほどと同様に

火の玉を作った。しかし、それは、先ほどよりもかなり小さいもの

だが、大和が目の前にいるこの状況では十分な物だった。


「ハッ!」


柱はその玉を巻き添え覚悟で大和に投げつけた。

大和は、すぐさま競り合いを解き、刀でその玉を吸収しようとした。

しかし、柱はその解く瞬間を狙っていた。


投げた、直後に同様の玉をもう一発用意していた。

そして、その玉の狙いは大和ではなく

最初に投げられた火の玉であった。



バーーーン!!!

という、爆音と共に爆風が押し寄せてきた。

立ち込める煙の中を大和が無理矢理距離を離され下がって出てきた。

そして、煙の中から柱の詠唱が聞こえる。


「そのやいば、我がしもべと成り敵を葬らん! 形式変換インポート!!」


さっきとは違う別の詠唱をする。

_おいおい、解除リリースもしないで複数の”パネル”を

体に取り込むなんてこっちのお嬢様も只者じゃないな。


そして、ファーーーン

と煙の中から風が吹く。

煙は一気にはれ、その中には柱が立ち尽くしていた。

またしても、外見に変化がない、つまり、内蔵型の

能力アビリティだ。


一旦、落ち着こうと大和は深呼吸をする。

それを見たオレは

「大丈夫か?なんならオレも___。」

「このくらい大丈夫ですよ。」

話掛けたが途中で大和に遮られた。

「来ます」

そう一言、言った時


キィィン!


また、鉄と鉄がぶつかり合う音がした。

しかし、柱は先ほどの所から動いておらず

まだ、数メートル先にいる。

なのに、何故。その時、大和が弾いた

小刀のような小さい剣を見て、先ほど柱が詠唱した

言葉を思い出した。


_そういえば、さっきあいつやいばがって言ってたな。

だったら、これが奴の二つ目の能力アビリティか。


再び、柱を見返す。

すると、背後に何やら無数の光が見えた。

目を凝らして見ると、それはいくつもの刃が

太陽の光を反射しているものだった。


_なるほど。

それを見てオレは柱の策を理解した。


「あなたの、その剣の能力アビリティは大方

相手の能力アビリティを吸収する『能力吸収アビリティポインター』と

いったところですわね。なら、能力アビリティそのものではなく

あなたの刀のと同じく、具現化されたものだったら吸収はできなくてよ」


柱はまるで何か確証があるようにいった。

そして、その確証を裏付けることは既に起こっていた。


_あいつ、一見感情的で流されやすい性格かと思ったけど

意外に考えてるんだな。


と、思いながらオレは足元にある

大和が弾いた、剣を見た。

そう、それこそが彼女の布石だった。

先ほどまでの『地獄の業火ヘルフレイム』は刀で

吸収されたが、今回のは弾いただけ、つまり

具現化された武器などは吸収できない。

と、いう事実を示していた。


柱は手を水平に挙げ、まるで家来に命令するかの様に

いきなさい!!と背後にいる剣達に命令する。


大和もそれと同時に、地を蹴り前に出る。

だが、今回は柱の剣達の方が大和より早く

相手に到達した。


キィィン!キィィン!キィィン!


無数にある剣を全て刀で弾く。

その速度は人間としての限界に達していた。

しかし、無数にある剣に終わりは見えない。

このままでは、もはや時間の問題だった。


キィィン!キィィン!キィィン!


前、左右無数の剣が襲う。

大和の歩みが徐々に下がっていくのがわかった。


_ここままじゃ、ヤバイな。

オレと涼華は固唾を飲んで見ていた。

しかし、大和のピンチはすぐに訪れた。

徐々に辺りの温度が高くなるのを肌で感じた。


_!!これは、さっきと同じ。


そう思い、柱の方を向く

そこには先ほどの様に巨大な火の玉が手のひらに形成されていた。


「これで、フィニッシュですわ。」

そう言うと、柱は無数の剣を弾くので精一杯な大和に対し

それを投げつけた。


_こりゃ、マズイな。


その火の玉をまた吸収することは容易だ。

しかし、それはこの無数の剣が無ければの話。

火の玉を吸収することに集中すれば確実に剣の餌食になるだろう。

かと、いってこの強大な火の玉を無視するなんてできない。

まさに、絶体絶命だった。


_やるしかないのか・・。


その時、入学式に思っていた事を

思い出した。

_そうか、今がその時なのかもな。


「悪い、涼華。やっぱり、ダメだわ」

涼華は悟ったようにオレに質問してきた。

「いいの?』

「あぁ、確かに模擬戦闘なんて安っぽいもの知れない。でも

決めたんだ。変わるってさ。それに、男として、目の前にピンチな女の子が

いたらほっとけねぇーじゃんか。」

「そ、なら。頑張りなさいよ。」

「あぁ」

そう言うと、一歩前へ踏み出し、

オレは体の中にある覚悟を再確認し、唱える。


「徹頭徹尾の元に、その力を示せ。形式保存エクスポート!」



















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