裏切り
恋愛ものです。
僕は孤独だった。君に出会うまでは。
無表情で口数の少ない君は恐ろしい存在だった。そんな僕のそばにずっといてくれたのは君だけだった。
「どうして君は僕に優しくしてくれるんだい?」
「……」
君の存在だけが僕を慰め、癒してくれる。君の笑顔を、声を求めたのは必然だったのだろう。
「―――」
けれど君はすでに傷つけられていて声を失ってしまっていた。大事な人に裏切られたのだという。
君もずっと一人だったんだろうか。僕と同じ気持ちを味わっていたのだろうか。
「気づいてあげられなくて、ごめん」
「だい、じょうぶ」
今にも消えてしまいそうな君に触れようとして、ためらう。君は僕に触れることを許してくれるのだろうか。
君の気持ちを知ることが恐ろしかった。
裏切られた者同士、傷をなめ合う。それが何も生み出さないことは分かっていたのに。
時とともに君の傷はいつしか癒え、君は表情と声を取り戻す。くるくると変わる表情と拙いながらも生き生きと話しだす君を、見守ることが大好きだった。そばで優しく微笑んでいたかった。
けれど君は再び傷つけられ、表情と声を失う。
「っ……」
「僕は君を裏切ったりしない!」
君は僕を信じない。君の傷は大きく広がり僕への疑いにつながったのだろうか。
それほどまでに君にとっては大事な人だったのだろうな。
君は涙を流しながら僕の前を去ってしまう。
「僕は……何かを間違えてしまったんだろうか」
僕は君の笑顔を声を求め、悲しみ、嘆き、苦しむ日々。
そんなある日、机の引き出しから君が書き残した手紙が出てきた。僕は封を開けそこに書かれた事実に衝撃を受ける。
《――それでもいいのなら、会いに来て》
僕は走る。君をもう一度手に入れるために。
「君は、バカだ」
僕を裏切ったのは、まだ僕の事が大事じゃなかったからだろう。僕はまた大事な人に裏切られていたのだった。
君を恨めればどれほど楽だっただろうか。
僕は君に向かって手を伸ばす。なりふり構わずに。
君が望むなら、君のために思いを込めた歌を歌おう。たとえどんなに陳腐な曲だろうと。
惨めに這いつくばっても構わない。
それで君が僕をもう一度好きになってくれるのなら。何度裏切ってくれても構わない。
この思いが君に届くまで。何度だって僕は君に手を伸ばすだろう。君に伝え続けるだろう。
君の中に咲き誇っていた、もう一つの赤いバラが砕け散った。
「……やっとあなただけを見れる。今まで、本当にごめんなさい」
君は嗚咽をこぼした。甘い、とは分かっているけれどそれだけで僕は君を許してしまう。
「裏切りたくて裏切った訳じゃないんだろう? それなら、構わない」
僕はずっと君に焦がれていたんだ。
焼けつくすような愛で僕を縛るのは君だけだ。
「愛してる」
手に入れた君を掻き抱く。
もう、離さない。
例え君が再び僕を裏切ったとしても。僕は君だけを愛するだろう。
僕が裏切る、その日まで。
BGMはabingdon boys schoolの「innocent sorrow」です。「汚れのない悲しみ」がなぜか「裏切りの愛」に変換されてしまいましたね。