時計うさぎとネコの剣士
ほんわか系、ちょっと切ない、恋愛物のお話です。
にんげんたちの住む世界のとなりには、どうぶつたちの住む世界がありました。どうぶつたちの住む世界には、いろんなどうぶつたちがくらしています。
にんげんたちは、どうぶつたちの住む世界には行けませんが、どうぶつたちは、にんげんたちの住む世界に行くことができました。
そしてどうぶつたちの中には、にんげんの友だちになったり、にんげんのふりをして、楽しくくらすものたちがあらわれました。
――「どうぶつたちの世界のお話」
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ある森の中に、うさぎの女の子がおりました。耳はぴん、と立っていて、白くてふわふわとした体に、くりくりとした黒い目が、とても可愛らしいです。
その女の子は、みんなからうさぎちゃん、と呼ばれています。
うさぎちゃんは、むらさきの屋根をもったレンガのおうちに、一人で住んでいました。
うさぎちゃんはおきにいりのレースがついた、むらさきいろのワンピースを着て、せっせと洗濯物を干しています。
空にはふわふわとした雲が、うかんでいました。
「今日はいい天気!」
物干しざおに干された洗濯物が、風にたなびきます。
うさぎちゃんは空になった、洗濯かごを抱えて。とことこ、とおうちの中に入って行きました。
うさぎちゃんはいつものように、寝かしておいたパイ生地を、とだなから取り出します。真っ赤ないちごといちごのジャムをのせて、オーブンに入れました。
えんとつからは、おいしそうなにおいが、もくもく、と立ち上がりました。そのにおいにつられて、うさぎちゃんの所に、あるどうぶつがやってきたのです。
りーんりーん、とすずが鳴ります。ドアベルの音です。
「ごめんなさい、ちょっと待っててもらえないかな?」
うさぎちゃんはドアにむかって、大きな声でそう言います。
そうしてから、てきぱきとお客さんへのじゅんびをします。
タルトをオーブンから取り出しました。
あまいあまい、いいにおいが鼻をくすぐります。
うさぎちゃんは、焼きあがったばかりのタルトに、切れこみをいれました。さくっ、さくっ、といい音がします。
いちごのタルトと紅茶のポット、カップを、トレーにのせました。お庭にある白いテーブルセットに、それを運びます。
「ネル、いらっしゃい。待たせちゃってごめんね」
「いや、早く来すぎたオレが悪い」
ネルは、はいいろの長いふわふわとした毛に、空のように青い、すんだ目。腰には、きらりとひかる剣をさしています。
うさぎちゃんは、笑顔をうかべます。
「冷めちゃうし、食べましょう?」
「ああ、そうだな」
紅茶を、カップになみなみとそそぎます。白い湯気がたちあがり、いいかおりがしました。
「いつも通りうまい」
「! ふふ、うれしいなぁ」
「ありがとう、そろそろ仕事に戻る」
「うん、分かったわ」
紅茶をのみ、タルトを食べ終わると、ネルはその場を後にしました。
ネルはうさぎちゃんの思い人でした。けれど種族もちがいますし、何より彼には仕事があります。
「ネル・・・・・・」
うさぎちゃんは、ネルと会った後、いつも涙を流すのでした。
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「今日もうまかったな・・・・・・」
ネルは仕事場へと、歩いています。
「うさぎ・・・・・・」
ネルは、はぁ、とため息をつきました。ネルにとっても、うさぎちゃんとの時間は、大切なものだったのです。
ネルも、うさぎちゃんのことを思っていました。けれど、ネルは門番として、やってくるいきものたちと、たたかうこともあります。種族もちがいます。
それでも、ただただ会いたいのです。えがおを守りたいのです。
「いまは何をしているんだろうな・・・・・・」
ネルはきょうも、だいすきなうさぎちゃんと、この世界のへいわを守るため、門番として仕事をしているのです。