ゲーム世界で冒険決定!
再投稿しました。
言葉の表現の仕方をいつもと変えてみました。また、珍しく三人称で書いてみました。
お題は最強・無双・チート・学校・雲・消しゴム、原稿用紙換算で10枚程度のお話です。
タイトル通り、ジャンルはファンタジーです。
彼女は佐々木 千尋。オシャレよりもゲームの方に熱意を傾け過ぎている、十七歳の女子高校生です。
千尋はいつものごとく学校から自室のゲーム機の前に直行します。そして有名RPGのゲーム画面を見ながら、コントローラーを高速で操り始めました。
千尋は魔物を倒し終えたところで、何かをぼそっと呟きました。
「やっと倒せた~! 新しい素材も手に入ったし、早く武器を強化したいな。これで倒せなかったら、千里に馬鹿にされちゃうもん」
千尋には千里という弟がいました。二人はとても仲がいい姉弟なのです。
……ただしこの二人、ゲームに関してだけはライバルです。ただし千里の方がレベルが上です。ゲームに限定せずとも、千里はいつも千尋の一歩先を歩いています。
ゴミ箱には消しゴムのカスやら紙やらが、山のように捨てられる日々が続きます。
(あいついっつも上から目線なんだもの。今度こそ倒してやる!)
負けず嫌いな千尋の中では、千里はラスボス。千里の高笑いは魔王の嘲笑と同等です。
と、そんなことを考えている間に、ゲーム画面から急に人間の両手が……!?
千尋がその両手から必死に逃がれようとしても、時すでに遅し。千尋はあっさり捕まって、ゲーム画面の中にひきずりこまれました。
「助けて……千里っ!」
千尋は突然の事態に、思わず千里の名前を呼ぶはめになりました。その声を聞きつけた千里は、部屋の扉を壊しそうな勢いで扉を開けて入ってきました。
「千尋姉ぇ!? いない……なんで?」
その部屋に千尋がいたことを証明するものは、千里の足元に転がり落ちたゲームのコントローラーだけでした。
◆◇◆◇
千尋が意識を取り戻した時、そこには何もない草原が広がるばかりでした。
生い茂った草はそよ風に揺らされ、さわやかな風が千尋を優しく包み込んでいます。
高く澄んだ青い空には、ぽっかりと雲が浮かんでいました。
「あれっ、ここは……さっきまでやっていたゲームの世界!?」
千尋が最後に覚えている記憶は、部屋の中で画面から出てきた白い手のことだけでした。
千尋は座り込んだまま頬をつねってみますが、痛みで目じりに涙が浮かびます。これで現実だということを理解したようです。
「嘘……どうしよう」
(帰り方も分からないし、どうすればいいんだろう。前々から異世界に行きたい、とかほざいていたけど、実際に来たら来たで家が恋しく感じるわぁ)
千尋は、そんなことを考えていたために、ゲームの世界に来てしまったのだと思った様子です。
現状確認のため、千尋が体をよく確認してみますと、服は現実で着ていた服そのままに、ジーパンに長袖のTシャツ、ジャンパー、といった服装でした。
(これじゃあ魔物が現れたら危険だわ……)
とにかく草原は魔物が出現します。武器や防具もなしに、魔物に勝つことは不可能です。
「とりあえず、町に行ってみよう!」
千尋はゲーム内マップを頭内に浮かべて、太陽の方角のみで位置を把握しました。
◆◇◆◇
「やっと着いた~。遠すぎ! もう脚がパンパン」
千尋はあの草原から一番近い町・ホルンに到着していました。
辺りは日も落ちかけ、もうすぐで夜の帳が落ちようとしています。
ホルンは街中がしっかりとした石畳で舗装されている、治安のいい街です。街にはたくさんの屋台が並び、あちこちからおいしそうな匂いが振りまかれています。
千尋は空腹からお腹が鳴ってしまい、恥ずかしさから頬を染めました。
しかも周囲とは全く違った格好をしているものですから、妙に注目されてしまっています。
(とりあえず宿を決めないと)
と、ここに来てようやく大事なことに気がついたようです。そもそもお金はもっているのか、という問題もあるのですが……。
千尋は疲れながらも楽しそうな表情で、大通りから少し外れた所にある小さな宿屋へと足を進めました。
「夕飯どうしよう……まぁ、近くの屋台でいいか」
千尋が宿屋に入っておかみさんに話しかけると、すぐに宿をとることができたようでした。お金はちゃんと持っていたようです。
夕食は隣のレストランがおすすめなようで、そこに足を向けるのでした。
千尋はレストランの中に入り、席に案内されたので着席します。その時点でようやく人心地がして、すぐに肩の力を抜きました。
「ここがゲームの世界だなんて信じられないや」
千尋はそう言って、スプーンやフォークで手遊びを始めてしまいます。
(でも、もしここで死んでしまったら、ゲームオーバーになるわ。でもそうなったら、元の世界に帰れるのかな? それとも自殺しても帰れるのかな。……うーん、でも戻れるとは限らないから、やっぱりやめておこう)
「よーし、とりあえずこの世界を冒険してみようかな。元の世界に戻る条件がゲームクリアかもしれないんだし」
千尋は考えても無駄と思い、前向きに捉えることにしました。
こうして千尋の冒険が始まるように思われましたが、地響きとともにガラスの割れる音がして、気づいた時には千尋の目前に、今までに見たことがない程巨大な魔物が立っていました。
「……へっ!?」
――ギャオォォォッォォォォォ
魔物の目は血走り、口からは唾液がしたたり落ちます。
千尋は冷や汗をかきながら魔物のステータスバーを見ますと、理由は不明ですが〝魔王〟の文字が踊っていました。
「何でこんなところに〝魔王〟がいるのよぉぉぉ!!」
千尋の声と同時に、〝魔王〟は千尋に向けて鋭い爪を振います。
(あんなもので攻撃されたら、死んじゃう!!)
千尋は間一髪椅子から転がり落ちて難を逃れました。竦んでしまっている脚を必死に動かし、千尋はその場を後にしますが、その甲斐もむなしく〝魔王〟は後をつけてきます。
千尋は必死に頭と足を働かせました。
(! あれは……。こうなったらもうやるしかないわ!)
そして千尋の足は、すでに破壊済みの武器屋の前で止まりました。
そして瓦礫の中に埋もれてしまっていた一振りの剣を引き抜きます。
「うりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
千尋は力の限り剣を振り上げ、〝魔王〟に一矢報います。けれど千尋の手に伝わるのは、剣の重みのみでした。
「あれっ?」
――グギャァァァァァ
こうして〝魔王〟はチーズのようにあっさりと、真っ二つになってしまったのです。
「!? 何これどうなっているの!?」
そこには恐怖と異常事態のために、腰が抜けてしまっている千尋がおりました。
(今の私は最強とか無双とかチート状態なの!?)
そのような中、よく分からない謎の声が辺りに反響しました。
『ふふふふふっ、さすがだね』
「誰っ!?」
突如として空から声が聞こえたかと思うと、巨大な二つの白い手袋をした手が瞬時に出現しました。
『ようこそ、ゲームの世界へ。君を歓迎するよ、千尋』
白い手のみが宙に浮き、拍手をします。それはどうにも見覚えのある手でした。そうそれは、この世界に引きずり込んだ手そのものだったのです。
「ふざけないで。私をゲームの中に引きずり込んだのは、あんたね!!」
千尋が声を荒げると、白い手はあっさりとそれに応じます。
『そうだよ、僕が君を呼んだんだ~。でもね、君をゲームの世界に引きずり込んだせいか、魔王が二人になっちゃってね。倒してもらえてよかったよ。ありがとうね』
白い手はどこか楽しそうです。千尋は瞬時に、自分がこの白い手の上で踊らされていることに気づきました。
「一体何が目的なの!?」
『ふふふっ、それはこのゲームをクリアした時に教えてあげるよ』
そう言ったきり、白い手は現れた時と同様に、幻のように消え去ってしまったのです。
「待ちなさいよ!!」
そんな千尋の声は、白い手に届かなかったのでしょう。
千尋はなんとかその場で立ち上がり、拳を握ります。
「こうなったらこのゲームをクリアして、あいつを倒してやるんだから!!」
――こうして千尋の、ゲーム世界での冒険が決定したようです――
……やたら勢いのみで突っ走りました。