表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

男爵閣下の本音

作者: 壱条つづら

「――ではよろしいですか?」

「うむ、彼に書状を送ってくれ」

国王は大臣に向かって頷いた。



 ブルムクヴィスト共和国首都ブルムダールより馬を走らせ二日、馬車なら三日。潮風の吹き込む書斎で公文書に調印をしている青年こそがレナート・ダレッシオ男爵、このクレメンテ地方の領主である。

 窓の外から聞こえてくる波の音に混じって廊下を走る足音を聞き、彼は手を止めた。

「カストル、あいつか?」

「はい。おそらくフェリシテ様でしょう」

傍らに控える黒髪黒眼の少年がにっこりと笑った。

「そうか」

レナートは木で出来た立派な扉を見やる。と同時にその扉が勢いよく開かれ、一人の少女が入ってきた。

「レナート、聞いたわよ! 首都に栄転するんですってね。おめでとう」

彼女の名前はフェリシテ・バディオーリ。バディオーリ伯爵の一人娘だ。

「あぁ、その話なら断った」

「なんで!?」

あっさり言い放つレナートに、フェリシテは詰め寄った。首都への栄転は地方貴族にとって大変名誉なことであり、通常断る者などいない。

「俺はこの土地が好きだからな。まだここに居たいのだ」

  一際強い風が吹き込み部屋中に潮の香りが広がった。

「……嘘臭いわ」

事実八割方は嘘だ。確かにこの土地が好きだというのは本当だが、それはただの言い訳に過ぎない。若いうちの出世には暗殺という危険がつきまとう。現在二十代前半、まだ命が惜しい。

「失敬な。本当だよ」

怪訝な顔をするフェリシテにレナートはそう言った。二割はね、と心の中で付け足しながら。

 彼の他に唯一事の真相を知るカストルはただ黙って微笑んでいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ