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お礼小話2 ~ティナリアの目覚め~

 今回お気に入り3000件突破しました。

 おもわず書きました。ヒントを感想で頂きました。ありがとうございました。今回ボーイズラブ、ツルペタ等が乱舞します。また、解釈については個人差がございますので、あくまで個人の見解としてお読み下さい。


 ティナリア・ロゼ・ジロンド。それがわたくしの名前。

 わたくしには両親と、7つ年上の兄と4つ年上の姉がいる。

 兄と姉はお父様似で、わたくしはお母様に似ていると言われた。

 ふわふわのレースがたっぷりついたドレスも、リボンのついた靴も、ピンクに黄色に、オレンジ、白とパステルカラーで沢山そろえられ、毎日お母様やメイド達が喜んで着飾ってくれた。

 大輪のバラよりもコスモスやかすみ草。可憐な花がわたくしに贈られる。

 でもね、わたくし1度でいいから大輪のバラが欲しいの。それも真っ赤な、そして毒々しいまでに色濃いものが。

 ドレスだってふんわりじゃなくて、体の線をいかすようなぴったりタイトな、大人なドレスが欲しいの。靴だってピンヒールがいいわ。色だって深みのある赤や光沢のある青紫やグレーなんか大人っぽくていいわ。

 でもね、わたくしには似合わないんですって。

 わたくしの夢のドレスも靴も花も、それは全部お姉様のものだった。

 シャーリーお姉様はとにかくボンキュッポン。そう、お尻は小ぶりだけど形のいい桃尻で、ポン!がお似合いなの。背も高くてすらっとしてて、足はなよなよした細足じゃなくて、きゅっと引き締まった脚線美。並みの男くらいなら1撃で撃破するの。

 対してわたくしは何?

 背も低いし、目はお兄様やお兄様みたいに凛々しいものじゃない。とろんと眠そう。胸はささやか、腰もほどほど、おしりはまあまあで、古株のメイドには安産型って言われたわ。そんなの嬉しくない!

 お姉様の真似をしては筋肉痛で寝込むという生活を繰り返し、わたくしはいつの間にか『儚い妖精姫』なんて呼ばれ始めたの。対してお姉様は『金の毒姫』。かっこいい!


 そんなある日、子爵家の友人リンディ様とお茶をしていた。

 彼女は濃い茶色の髪をし、同じ目をした才女だった。10才~12才までの間、貴族の子息令嬢はマナースクールに入学し、作法から国のこと、世界のこと、貴族のあり方などを学ぶのだ。

 去年14才で一緒に社交界デビューし、わたくしの悩みを分かってくれる数少ないお友達だ。

 「そんなにお悩みなら、色は変えられなくとも形は変えられますわ。ティナ様に似合うドレスを作ってもらえばよいのですわ」

 「でもどう言っていいのかわかりませんの。お姉様みたいなのがいいって漠然としたイメージでは、すぐいつものふんわりひらひらドレスに仕立てられてしまって……はぁ」

 深いため息をつくわたくしに、リンディ様はにこっと微笑み立ち上がった。

 「わたくしのお部屋へいらっしゃいませ。服飾の本がいくつかありますの」

 「まぁ」

 「その本を見て、お勉強なさってはいかが?具体的な希望を言えば皆分かってくれますわ」

 わたくしはいそいそと、リンディ様のお部屋へ向かった。

 

 リンディ様のお部屋はお姉様のお部屋のように、片側の壁一面に本棚があり、そこにぎっしり本が詰め込まれていた。ただ、なぜか半分だけカバーのようにロールスクリーンがかけてあったけど。

 テーブルに座って待っていると、リンディ様が数冊の本を持ってきてくれた。

 「さぁ、こちらが女性用の服飾関係の本ですわ。小物もありますが、まずはドレスが先かと」

 「はい、ありがとうございます!」

 わたくしはうきうきと本をめくってみた。

 馴染みのドレスから、異国のドレスまで幅広く紹介されていた。このスリットというスカートに切り込みが入ったものは、ものすごくお姉さまに似合いそう。タイトドレスに深くスリットを入れてもらえば、あの脚線美にまたモテモテね。お姉様の蹴りが炸裂しそう……。

 うんうんと色々妄想しながら読んでいると、リンディ様に来客が訪れた。

 「ごめんなさい、ティナ様」

 申し訳なさそうなリンディ様に、わたくしは首を振った。

 「いいえ。今日来客があることはわたくしも知っていたし、それを承知で読ませていただいているんだもの。こちらこそご迷惑お掛けしてごめんなさい」

 名残惜しく本を閉じた。

 「あの、もし良かったらこのままお読み下さい。少しお一人にしてしまいますが、それでもよろしいなら……」

 思わぬ申し出に、わたくしはぱっと顔を上げた。

 「ぜひ!まだ読み足りませんの」

 「では、すぐ終らせて参りますから」

 リンディ様を見送り、わたくしは再び本を開いた。

 

 「ふぅ」

 3冊読んでようやくイメージが決まった。

 それにしてもと壁の本棚を見る。

 小物の本もあると先程言っていたので、わたくしは本棚へ近寄った。

 こうして見ると幅広いジャンルの本がある。中には風景画集や寝具やインテリアの雑誌まで。


 やはり才女は違うわ。


 うんうんと妙に納得しながら、本を選んでいたときだった。

 ふわっと妙な匂いに気がついた。


 あら?

  

 インクの匂いより、少し油が混じった違った匂い。

 それはロールスクリーンが掛けられた棚の方からだった。

 何かしら、とわたくしは大した疑問も持たずにシャッと開けてみた。


 そこには、ずらりと並んだ文庫本と画集、大判のもの、薄いもの、厚みのあるもの、そしてインクと絵の具がぎっしり詰め込まれていた。一番下の段にはバスケットが3つ設置され、引き出しのようになっていてそこには文具のようなものがぎっしり詰まっていた。 

 「ずいぶん本格的な絵を描かれるのですね」

 そういえばスクール時代も絵画入選を何度もされていた。

 どんな絵を描いてらっしゃるのだろうと、たまたま目の前に積まれていたA4くらいの紙を手に取った。ずいぶん厚めの紙だわとは思った。

 

 …………はい?


 そこには人物が描かれていた。

 女性にしてはずいぶん短い髪で、なぜか潤んだ瞳で悲しげにこちらを見ていた。

 そんな彼女は森の中の泉に、なぜか肌蹴たシャツで浸っていたのだ。

 しかし問題はその胸だ。ふくらみはささやか過ぎるのか、あるいはいわゆるツルペタなのか、リンディ様が描きわすれたかのように何もない。

 次を取ってみた。

 

 …………え?


 次はさっきの彼女と、彼女より幾分上の男性が描かれていた。

 この男性、純愛小説に主人公を狙う悪役美形という役柄そのもので、意地悪で魅惑的な目つきをしていた。その彼が、やはり肌蹴たシャツとズボン姿で、さきほどの彼女に覆いかぶさっていた。

 対して彼女は目を伏せ、顔をそらし、手首は彼に固定されている。しかもツルペタ上半身は裸で、下にはかろうじてシーツがかかっているだけだ。またもリンディ様は彼女の胸を描き忘れたらしい。

 さすがのわたくしも、ぼっと顔が赤くなりました。

 これは、その、アレですわよね。ちょっと無理やりが入った、男女のアレ……。

 わたくしはどきどきしながら、次の用紙を取ってみた。


 …………まぁっ!


 次は違うツルペタ少女だった。リンディ様の色が素敵で、まわりに花びらが散っている。そんな花びらに囲まれているが、少女は苦しげに顔を赤らめ「あぁっ!」と叫んでいた。なんだか辛そう。また上半身裸だけど熱でうなされているのね。でもなんでこんな辛い少女を描いたんでしょう。

 疑問に思いつつも、なぜか胸がどきどきしていた。

 そんな胸の高鳴りを自覚しつつ、どきどきしながら次の用紙を取った。


 …………あら、これはこれは……。

 次。

 …………きゃあっ、キス!

 次。

 …………あら?このツルペタ少女、ずいぶん筋張った足してますわね。

 次。

 …………やだっ!包帯だらけでベットに拘束されてらっしゃるわ。大怪我されたのね。

 ……。


 「……ティナ様……」

 ふいにリンディ様の声がした。

 どきーっ!として心臓が止まりそうだった。むしろ体が面白いくらい上下にはねた。

 さっきとは違う胸の高鳴りを感じつつ、そぉっと振り向いてみた。

 そこには無表情のままわたくしを見つめるリンディ様が立っていた。

 「あ、あの、これは……」

 「見てしまいましたのね」

 一瞬にして悲しげな表情になったリンディ様を見て、わたくしは悪いことをしてしまったと心から反省した。

 がばっと腰を折り、深々と頭を下げる。

 「ごめんなさい!つい夢中で見てしまいましたの!!」

 リンディ様は何も言わない。

 「ツルペタな少女でも、こんなかわいらしい表情ができるなら、わたくしだってできるはずだわと思って、つい一生懸命見てしまいました!本当にごめんなさい!」

 「……ツルペタ少女?」

 リンディ様が疑問の声を上げたので、わたくしはそっと顔をあげてうなずいた。

 「だって、今までお姉様みたいな体型でないといけない、みたいな考えがありましたの。でも、ツルペタも悪くありませんのね。ツルペタはツルペタにしかない、清楚で儚い魅力がありますのね。わたくしリンディ様の絵で初めて知りました!」

 それは素直なわたくしの感想だった。

 お姉様のような双球はないが、手のひらにおさまるくらいのささやかなものはある。白い肌は唯一姉より勝っている。青白いなんて言わせない。この絵の少女のようにバラ色の頬を手に入れたい。さぼらず毎夜マッサージして血行を促して寝よう。朝もマッサージして血行よく一日を過ごそう!

 よしっと気合を入れるわたくしに、リンディ様は困ったように笑いかけた。

 あらやだ、顔に出てたかしら。

 でも、答えは意外なものだった。


 「ティナ様、それ少女じゃありません。男性です」

 

 ……はい?

 わたくしの目が点になった。

 リンディ様はそっとわたくしに並び、棚から何かの画集を取ってわたくしに見せてくださった。

 キレイな男性と少女……いえ、少年が並び、親密そうにしているものだった。ただ公園と思われるところを並んで歩いているだけなのに、なんとも胸がきゅんとなってくる。

 そぉっとリンディ様を伺うと、彼女はぽつりと言った。

 「これ、わたくしが描いてますの。題して『輝きは僕の腕の中で』シリーズです」

 なんと!

 これはどう見ても製本だ。裏を良く見ると発行所まで書いてあるし、でも名前はポリーヌとある。

 「ポリーヌという偽名で描いております。先程の来客というのも、わたくしの担当者で、次回作の打ち合わせでした」

 まぁ!すごい。まるでお父様みたい!!

 「……がっかりなさいましたでしょ。こんな破廉恥なものを描くなんて」

 え?何がですか?この絵のことでしょうか?とっても綺麗ですよ。胸がきゅんっとなって、どきどきしますよ?

 「あの、ぜひこのことは内密に。御交流が途絶えてしまいますのはいたしかたありませんが、どうか!」

 「どうして途絶えますの!?」

 とっさにわたくしはリンディ様にすがりつきました。

 驚くリンディ様に、わたくしは急いでまくし立てました。

 「先程の絵を見たことですの!?ポリーヌ様がリンディ様だということを知ってしまったからですの!?勝手に見たことは謝りますから、どうか絶交だなんておっしゃらないでっ!」

 終いには泣いてしまいました。

 逆にあわてたリンディ様に慰められ、絶好はしない、今まで通りだと言われても何度も何度も確約を取りました。そしてようやく泣き終えたわたくしに、リンディ様はふふふっと笑われました。

 「ティナ様は本当に心の広い方ね。こんなわたくしを受け入れて下さるなんて」

 「そうですか?むしろ拒否するほうが考えられませんわ。こんなに綺麗な絵を描ける方なんて、そうそういらっしゃいませんわ」

 聞けば昨年デビューしたが、デビュー作は1ヶ月で初版が売り切れ、シリーズ構成で画集を出しているそうだ。ちなみに今日はいわゆるボーイズラブの入門と知識というコンセプトで、初級編、中級編、上級編を出すという話がきたそうだ。

 モデルはこの『輝きは僕の腕の中で』のキャラクター達らしい。

 「すばらしいわ!この胸の高鳴りはどう表現したらいいか分からないけど、本当に嬉しいわ!楽しみ」

 「その高鳴りは『萌え』っていうのよ」

 「もえ?……萌え」

 これが、萌え。熱い胸の高鳴りは動悸とは違う。

 胸がどきどきして、きゅんとして、まるで恋したみたいに……って、恋はしたことないからわからないけど、純愛小説には出てこない言葉だわ。一つ勉強になったわ。萌え!

 「リンディ様、わたくしボーイズラブを学びたいのです。どうしたらいいでしょう」

 「でしたら、来週先程話した入門の初級編ができますの。お貸ししますから、お読みになって」

 「はい!楽しみですわ」


 そんな約束をして、次の週にはしっかり初級編をお借りしてわたくしは部屋に篭った。

 それは純愛小説にも劣らないほどの世界が広がっていた。

 恥ずかしがる少年、青年。とにかく綺麗。

 ……現実世界が見えなくなりそう。

 お姉さまの男性不信とは違った原因で、わたくしも男性を見る目が厳しくなったのはここからだ。 

 そして初級編を満足、堪能したあと、わたくしは満を持して中級編と上級編を予約購入したのだ。


 まさかこの本が原因でお姉さまが絶叫し、わたくしが筋肉に目覚めるなんて思いも寄りませんでしたわ。



 本当にありがとうございました。

 またよろしくお願い致します。


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