お礼小話4 ~勘違いさせるなっ! ~
お気に入りが5000件どころか5600件超してました…。
オロオロしましたが、嬉しくて泣きそうです。
で、感想にもいただきましたが、あの夜のサイラス視点をお礼として投下致します。合言葉は「ヘタれ」。 どーぞ!
これを女にするのは初めてだった。
軍に放り込まれ、というか志願していろんな訓練に参加した。
そのうち兵士の間で行われる、疲れを癒すという指圧なるマッサージを自然と覚えた。
王子、という身分はあったが訓練はただの平兵士として受けた。だから先輩や上官にマッサージをする機会もあった。もちろん他の平兵士より少なかったとはいえ、硬く分厚い男の筋肉をほぐすのは一苦労で、指先にも嫌でも力がつく。親指がぐっとかなり反り返るようになるのに、そう時間はかからなかった。
寝台に下ろしたシャーリーを片手で反転させると、彼女は驚いて声を上げたが、背骨より指2本分横の腰の部分を押してやると、なんだか妙に切ない声を出した。
その時はこっているな、とだけ思った。
少しマッサージしてやるという軽い気持ちで始めたのだが、まさかあんな目にあうなんて思いも寄らなかった。
シャーリーは近くにあったクッションを手繰り寄せると、そのまま顔の下に抱き込んだ。
「はぁっ」と短く息を吐く声がした。きっと息苦しかったんだろう。
しかし、まぁ見た目は柔らかそうな体だったが、触ってみるとあちこち締まっていている。
柔らかそうな頬や胸に騙されていたと気づいた。
女の筋肉は男と違う。普通の令嬢がここまで鍛えたのは驚きだが、やはり厚みがないしなやかな筋肉だ。
コルセットなど必要ないだろう、引き締まった腰と、やや大きめの胸を支えるための胸筋と背筋、まだ触っていないが騎士を蹴り飛ばしたという足も見事なものだろう。
今は背中の中腹を刺激している。
肺の後ろを刺激されているせいか、何度も短く息が漏れる。
その声がしんと静まった部屋に小さく、何度も吐き出される。
ついでに言えば白いシーツの上に波打つように広がった金髪と、その間から少し見えるうなじに、どうにも妙な雰囲気が漂う。
「おい」
たまらず声をかける。
「な、に、んっ」
「……いつもの憎まれ口はどうした」
「えっ、……あっ」
吐息のような声がして、俺はなんだかイライラした。多分、自分にだ。
これ以上手を出すことはできない。すれば間違いなくシャーリーの信用を失う。
もとより築けていないかもしれないが、本能に従ったが最後、俺はかつてのシャーリーの婚約者と同類にされてしまうだろう。
……だが、少しくらいイタズラしたっていいだろう。
「これならどうだ」
そう思って軽い気持ちで腰の上に跨った。
もちろん膝をついて腰を挟んでいるだけだ。
別に驚きもしないので、俺はシャーリーのわきの下に手を入れて、ぐいっと背中を反らせた。
これで怒って怒鳴るに違いない。
「やぁああん!」
「!?」
予想外のことが起こった。
おもわず手を離した。
シャーリーはクッションの上に力なく落ちた。
さっきの声の自覚があるのかないのか、シャーリーはこっちを見ようともせず、クッションに顔を埋めたままくぐもった声で言った。
「いきなり痛いじゃない。するならゆっくりしてよ」
していいのか!?
……いや、そういう意味じゃないのは良く分かっている。
「あぁ、わかった」
無防備な背中からちょっと目線をそらしつつ、俺は指圧を再会した。
そして、すぐ気がついた。
ちょっと、待て。さっきは止めるいいタイミングだったんじゃないか、と。
最初は伯爵家の警備やらが気になってウロウロしていたんだが、シャーリーがバルコニーにいたのでおもしろ半分に驚かせただけだった。
きっと驚くだろう。そして顔を真っ赤にして怒鳴る。
なんたってシャーリーはガウンすら羽織っていなかった。薄い夜着を見られて、きっと怒るに違いないと思った。
ところが、シャーリーは驚きすぎて腰を抜かした。
足元にぺたんと座り込んだ彼女は、化粧をしてないせいかいつもより小さく見えた。
叩き落されるかも、と抱き上げたが大した抵抗もせず難なく寝台に運べた。
それをいいことにちょっとした出来心というか、いつものクセというのだろうか、ちょっとだけだからとからかうことにした。
……そして俺はお預けをくらっている。
こちとら健全な男だ。
求婚している相手が無防備に寝台に転がっていて、その背中に馬乗りしている……。
しかも腰や背中ならどこをさわ……押しても抵抗はされない。
これは指圧だ。
軍人が軍人にしている、指圧だ。
そうだ、これは指圧なのだ。
しかし下からは、確かに女の切ないような小さな声で「あっ」とか「うっ」とかが断続的に聞こえており、視界に入るのは長い金髪を寝台に散らしたシャーリーであり……。
目を閉じ、俺は訓練を思い出した。
今は指揮官としていることが多く、ここ数年は受けることはあってもするようなことはなかった。
……そしてそれは突然頭に浮かんだ。
……ティナリア嬢が愛読しているというジャンルの、とある場面が、だ。
「!?」
俺は目を見開き、頭をこれでもかっと振った。
決して願望とかそういうものではない。
俺に抱かれたいといってきた男は確かにいた。だが、それだけだ。アイツ……らがどうなったのかは知らん。毎回、側近達が顔色を変えずに引きずっていったからな。
「……シャーリー、なぁ……。おい」
とりあえずその妙な吐息のような声を止めろ、と言うつもりだった。
だが、彼女は少し身じろぎし「ぅー……」と、小さくうめいただけ。
「おい、シャーリー」
手を止め肩を叩いてみるが、何の反応もない。
顔にかかっている髪をどけてみると、少しだけ口を開けてぐっすり眠っていた。
……寝るか?この状況で。
いや、それはいい方向に考えれば信用しているということだろう。きっとそうだ。
ただ眠かったとかじゃないだろう。
……そうでなければいますぐたたき起こす。
まぁ、今までで1番密着し、触れたんだ。今夜はこれで良しとしよう。
はぁっと深いため息をつき、俺は両手を寝台につきゆっくりと腰を上げた。
「んっ」
腰を挟んでいた膝が浮いたせいか、シャーリーがごろんと寝返りを打った。
もちろんまだ彼女は俺の脚の間にいたので、右の内股を押すように寝返りをされたためそのままバランスを崩し、どうにか肘をつくくらいですんだ。
そして気がついた。目の前にシャーリーの寝顔があることに。
今の俺は仰向けになったシャーリーに、低い体勢で覆いかぶさっている。前髪は一部彼女に触れているかもしれない。そのくらい近かった。
すぐ離れるということは考えられなかった。
ただこの状況に驚いている自分がいて、少し笑えた。
「……シャーリー」
小さく呼んでみても、彼女は起きない。
だから、というわけではないが、まぁ殴られても仕方ないと覚悟はして、そっと頬に触れるかどうかのキスをした。
短いキスを終え、俺は今度こそと起き上がろうとした。
が、急にシャーリーの両腕が動いた。
がばっと囲い込むように俺の背中に腕が回され、力はないものの少しだけ抱き寄せられた。
「んふっ、プッチィ……クロヨン……、サイラス……」
寝言だった。
だがそこに自分の名前が出てきたことに、かなり動揺した。
もれなく固まってしまった俺に、少し笑みを浮かべていた口がまた動いた。
「を、かめっ!」
……ウィコットに俺をかませる夢を見ているようだ。
少しでも期待した俺が馬鹿だったようだ。
命令が終わると、シャーリーの腕は力なく寝台に落ちた。
再度ゆっくりと起き上がった。きっと俺はものすごい形相でシャーリーを睨み下ろしていただろう。
期待していなかったとは言わないが、散々あおられ、我慢させられて気を反らそうと耐えてきた俺にこの仕打ち。
……このままでは気がすまない。
しかし暴力的なことはする気はない。
もちろんここへ来る前に母親に「もう、浚ってきたら?」と言われたことも実行する気はないし、兄から「先に作っちゃえば?」と義姉の腰を抱き寄せながら言っていたことも、する気はない……こともないが、今すれば間違いなく過去の変態どもと同類扱いが決定。一生覆ることはないだろう。
さて、どうしたもんか。
そして目にとまったのが、机の上にあった羽ペンの横に並んでいた筆。
俺は月の光を受けながら、にたぁと笑った。
書いて顔を見れば興奮もおさまるだろうと思った。
だが、いくら書いてもイライラするだけで気が落ち着くことはなかった。
「くそっ!」
そうしてラクガキをしたまま窓を施錠し、廊下を歩いてあてがわれている部屋へ戻った。
そして近いうちにシャーリーとお茶でもして、その時に振舞おうと思っていたプリーモの限定チョコレートの箱を開けると、そのままロクに眺めもせずに鷲掴みで食べた。
美味しいはずなのに、俺の心のイライラは少しも治まらない。
甘い物がダメなら、と俺はエージュを呼んだ。
続き間の向こうの控え室にいたエージュは、すぐ寝室に来たが、俺の様子をみて驚いたあとに何かを察したように深いため息をついた。
「……シャナリーゼ様と何かございましたか?」
「ない」
「ないわけないでしょう。それにその箱のチョコレートは、そのように召し上がるものではありません。プリーモのオーナーが泣きますよ」
「言うなよ。2度と売ってくれんかもしれんからな」
さすがにそれは困るから、と俺はとりあえず鷲掴みを止めた。
「イライラする。相手しろ」
「こんな夜中にですか?庭の奥へ行かないといけませんね」
やれやれ、とエージュは準備を始めた。
こんなイライラする時は、誰かを相手に(だいたいエージュ)剣を振るうのに限る。
「……”黒狼”の指揮官と言われる旦那様も、やはり弱点があるんですねぇ」
「何か言ったか」
「いいえ」
飄々としている姿のエージュだが、こう見えてかなり剣の腕がたつ。
本人は経験はほとんどない、子どものときにチャンパラを少しと言っていたが嘘だろうと思っている。 俺と打ち合いするたびにどんどん強くなっている。
その夜、伯爵家の広い庭の奥で長いこと打ち合いをしていた。
さすがのエージュも「明日は寝坊させてください」と言っていた。
だが、翌朝俺達はシャーリーの大絶叫で起こされ、俺はエージュから白い目で見られることになった。
……俺は悪くない。
「ヘタれぇ!」
はい、こんなんでした。もっと濃厚なの書きたい?書きたい!けどこうだよね。えぇ、ここでもティナ……わたし両足つっこんじゃおうかな!?
読んでいただきありがとうございます。
また、誤字等お知らせお待ちしております。




