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お礼小話3  ~皇太子の嘆き~

 お気に入りが4100件超してました!

 あまりのことに驚き、9話を投下したあと約3時間で書き上げたライアン視点からの5900文字の小話です。よかったらどうぞ!!

 俺はライアン・エディ・ライルラド。ライルラド国の皇太子で、愛する妻リシャーヌが懐妊し、それはもう幸せいっぱいだったりする。

 不満といえば、鍛えてもなかなか身につかない筋肉か。だが金髪に母似の優しい目元が功を奏し、(ちまた)では王子様としてのイメージを映し出していると評判だ。

 そしてもう一つの不満は、同じ年の幼馴染である。

 サイラス・ホトス・イズーリ。

 闇のような黒髪に、猛禽類のような鋭い真っ青な目を持つイズーリ国の第3王子。身長もあれば、鍛えられた体はムキムキとは言わないが、締まりのある軍人のような体格を持つ。実際、彼は十代の頃から戦場に立っていたらしく、普段の顔と素の顔があまりに違いすぎて泣けてくる。

 そんな彼が縁談を持ってきた。

 正しくは自分で自分の縁談を持ってきたのだ。

 相手は我が国の有名人。最近は滅多に社交界へ出てこない伯爵令嬢。

 シャナリーゼ・ミラ・ジロンド。19才。

 彼女の話をしたのはずいぶん前だったと記憶しているが、何を思ったかもう1人の学友セイドの結婚式に参加してすぐこの話を持ってきた。学友の結婚に触発されたのか、と思ったが俺が結婚しても自分の兄が結婚しても、それはそれはしれっとしていたのに。

 まさかレイン殿の花嫁姿に惹かれたのか!?

 だが、その考えは打ち砕かれた。

 だって、相手がシャナリーゼ嬢だったからだ。

 ……純白の花嫁姿というより真っ黒な花嫁姿で登場しそうな女性。19才という年齢ながら、なぜか熟女のような艶やかさを醸し出す女性……。

 ゆるやかな長い金髪に相手を射抜くような黄色い瞳。大きな意思の強い瞳を持った美女であることは間違いないが、才女であるがゆえにすさまじい十代を過ごしている令嬢だ。

 だから、俺が幼馴染にかけた第一声はこれだった。

 

 「間違いじゃないか?」


 ですよねーっ!と、俺の横で控えている侍従もうなずいてる。

 だが、目の前でゆったりと座っているサイラスと、彼の侍従であるエージュは黙っている。

 「間違いはお前の笑顔だ。妻と寄ってくる女の両方に同じ笑顔を向けるな。区別しろ」

 「お前みたいに器用じゃないんだよ!」

 俺は半泣きで訴えた。

 横の侍従がまたも、ですよねーっ!とうなずいている。お前どっちの味方だ!!

 2日前からリシャーヌが口を聞いてくれない。

 正しくは微笑んでくれない。挨拶も義務的で、手を繋ごうとしたら爪を立てられた。

 俺とリシャーヌの間を取り持ってくれたシャナリーゼ嬢に相談しようとした矢先、ちょうどこいつがやってきたので相談した俺がバカだった。でもきっとシャナリーゼ嬢に相談してもボロボロに言われるだろう。

 「とにかく今回の夫婦喧嘩は取り持ってやる。だからお前全面協力しろ」

 「協力っていっても、陛下の許可が出ればそれですすむが、それが彼女にとっていいというわけでは……」

 残念だが、彼女は結婚願望が0だ。むしろマイナスだ。

 「いや、命令とかはいらない。ジロンド家に縁談を申し込む許可だけでいい。あとは自分でなんとかする」

 「なんとかって、どうするんだよ」

 俺はシャナリーゼ嬢を良く知っているし、その兄も知っている。だから聞いたんだ。

 だが、サイラスはあんまり見せないでくれ、と常々言っている黒い笑みを浮かべてこう言った。


 「絶対手に入れる」


 ……ごめんよ、シャナリーゼ嬢。

 君には散々お世話になったのに、俺は1つも力になってあげられないかもしれない。



 次の日、リシャーヌの機嫌が直った!

 ひゃっほーい!とご機嫌元気に浮かれていたら、サイラスとシャナリーゼの縁談の件がバレた。

 見事に冷戦になってしまった。

 何度俺は何もしてない、無実だと叫んでも、嫌がる女性を無理やり嫁がせるなんて最低です、ついでに誰これ構わず笑顔を振りまくのにも限界です!と蒸し返された。

 再びサイラスが訪問するまで、約1週間俺は泣いて暮らした。

 そしてサイラスがやってきて、あっという間にリシャーヌの機嫌を直してくれた。

 もう、マジ感謝!

 でも、そのせいで城内にリシャーヌとサイラスの嫌な噂が流れ出したが、そこは俺が全力で鎮火した。サイラスいわく、リシャーヌはシャナリーゼ嬢攻略に使えるとのことだ。あぁね、お前そんなやつだったもんね。

 でも思ったよりリシャーヌが賢かったせいか、サイラスは時々リシャーヌに諌められていた。すごいぞ、我が妻!!

 そして、いつの間にかリシャーヌはサイラスとシャナリーゼ嬢の婚姻に積極的になってしまった。

 「わたくしはあなたと結婚して、たしかに苦労もありますが嬉しい喜びもたくさんあるのです。ぜひシャーリーにも幸せになって欲しいのです」

 そう言われてとても嬉しくなった。おもわず抱きついた。

 「そうだな、彼女には散々世話になった。俺もぜひ幸せになって欲しい」

 それは心から本当に思ったことだった。

 例えリシャーヌがサイラスの口車に懐柔されてしまっていたとしても、俺達の結婚生活に支障がなければいい。シャナリーゼ嬢のことだって、あのサイラスならきっと周りから守ってくれるに違いない。

 

 だが、いつまで経っても「お受けしました」というジロンド家からの返事も、サイラスから「手に入れたぞ」という報告も来ない。

 皇太子補佐官の1人として出仕しているセイドも、最初はサイラスにやめるようくってかかっていたが、ある日を境にピタリと言うのをやめた。何でも奥方が泣いたらしい。

 あーね、あの子セイドに迫られたら言いそうだったもんな。隠し事できないタイプで、顔にすぐ出る。良い子なんだけど、やっぱりダメだったか。

 サイラスは独自の情報網を使って、やってくるごとに彼女の前に現れていたが、とにかく俺からすれば間違った距離の詰め方を展開してた。外堀どころか内堀を埋め始めた。あくまで彼女の意思を尊重と、一見謙虚と誠実さを全面に見せて両親を安心させているが、最近の話だと妹とも上手くいっているそうだ。

 そんなある日、難関である兄、ジェイコットが不穏な空気を漂わせて会いに来た。

 彼は騎士団に所属しているが、俺が王位を継いだ時には近衛隊に抜擢したいと騎士団に打診している人物だ。すでに何回も近衛予備員として何度か近衛と同じ仕事もさせている。

 シャナリーゼ嬢のことを何か言われるかな、と思っていたが違った。

 え?サイラスと試合したい?マジ?あいつ強いよ?あ、いや、お前が弱いって言っているわけじゃなくて……あぁ、もう、いいよ。あいつが受けたら試合して良いよ。怪我とかさせても大丈夫だよ、あいつそんなことでケチつけないし、むしろ強い奴と戦うの好きだし。あ!でもいくらサイラスにスカウトされてもお前うなずくなよ!!そこ絶対だからなっ!

 数日後やってきたサイラスにも念を押しといた。

 俺の未来の近衛をとるな、と。

 義兄を扱き使う気はないと言っていたが、なんだか心配だったのでこっそり見に行った。


 あぁもぉ、何黒い笑み全開で嬉しそうに試合受けてんだろ。

 結局引き分け、となった。ジェイコットは負けたと言っていたが、サイラスも勝ったとは認めなかった。お互い良い友人になったようだ。

 で、兄が懐柔されたシャナリーゼ嬢だが。

 ……驚いた。

 あんな綺麗に泣くんだ。

 サイラスは頬にかすり傷をおっていたが、なんだかもっと深い傷をおったようだ。俺と城へ帰るときもずっと何か考えていたし、しばらく部屋に閉じこもっていた。

 俺はリシャーヌに今日のことを話すと、彼女は今回はわたくしがアドバイスしますわと意気揚々と立ち上がった。2人でサイラスに会い、実はシャナリーゼ嬢は可愛いものが大好きだという。小さいふわふわの生き物なんてサイコーらしい。

 「……いるぞ、もっこもこのふわふわが」

 お前の口からもこもこだのふわふわだの聞けたのが驚きだ。

 微笑むリシャーヌも、サイラスに自分の言わんとしていたことが伝わって安心したようだ。

 すぐ帰国したサイラスは、後日手続きに手間取りながらイズーリ国の国指定の保護動物で、希少なウィコットを25匹も連れてやってきた。

 頑張りすぎだろ、お前。数匹でいいんじゃないか?

 その努力に感激したリシャーヌが、従兄弟のセイド夫婦を巻き込んでお膳立てをした。まさか彼女まで行くなんて聞いてなかった。

 当日いきなり言われてあわてた。だって彼女妊娠してるのに!つわりは軽いといいながらも、妊娠初期は穏やかに過ごせと医師に言われている。いつつわりがひどくなるか分からないのに外出なんて!

 「妊婦には気分転換も必要だ。あまり我慢させていると、そのうち不満が爆発して体調を崩すぞ。そうなってしまっては、もはやこの城では過ごせない。親元でゆっくり過ごさせるべきだという話になるぞ。それでもいいのか?」

 良くない。

 義父母には悪いが、俺はリシャーヌと離れたくないのだ。

 こうして4時間だけ、という約束で出かけていった茶会は大成功だったらしい。俺も我慢したかいがあったというものだ。

 ……でもさ、お前なんでそんなよっれよれでにやけて帰ってくるの?すっげぇ気持ち悪いんだけど。

 リシャーヌに聞いてもわからないらしい。

 何2人だけの秘密を作っているんだ、こいつ。そのにやけた顔捕虜の前でするなよ。すっげぇ怖いから。今から何されるんだろうって恐怖しかわかないから。

 そのまま来月の舞踏会の話をされた。

 シャナリーゼ嬢を名指しで招待して欲しいと。

 お前それ失礼だよ、と言いつつ仕方ないなと手配する。でもお前エスコート役決まってたよな?

 まさか忘れてるんじゃと思ったが、ちゃんと覚えていた。しかもその話をしに自分で招待状持って行くという。

 ……おぉう、お前修羅場しか見えないぞ。

 リシャーヌも複雑そうだ。

 だがサイラスは機嫌よく「大丈夫だ」と言っていた。

 こいつ絶対何か企んでいる。


 後日、ジェイコットを呼んでシャナリーゼ嬢の話を聞いてみた。

 毎日トレーニングルームに篭っている?

 食事を全て体に良いものだけにした?

 薬茶しか飲まない?

 何肉体改造してるんだ、シャナリーゼ嬢!

 

 ある日サイラスがうちの国の仕立て屋を紹介して欲しいと言ってきた。シャナリーゼ嬢に贈るようだが、今の状態で採寸させてくれないだろうと言えば、ドレスを手配したイズーリの仕立て屋が採寸しているから大丈夫だという。お前、仕立て屋から情報もらうつもりかっ。

 仕立て屋も可愛そうに、と思っていたらサイラスから「仕立て屋の件は忘れてくれ」と連絡があった。どうやらサイズ入手に失敗したらしい。

 すごいぞ仕立て屋!あのサイラス相手に顧客情報を死守したのだ。

 おかげでサイラスの仕立て屋への信頼はうなぎのぼりだ。

 婚礼衣装もそこで頼むと言っていた。お前冷戦中に気が早すぎるぞ。

 「お前、まさか嫉妬したシャナリーゼ嬢が見たかっただけだったりして」

 ある時笑いながら何気なくもらした一言だった。

 サイラスは表情こそ崩さなかったが、目線がそっと俺から外された。

 図星っ!?

 「何!?お前そんな理由で、リシャーヌの懐妊祝いに無理やりシャナリーゼ嬢を招待したのか!?」

 「いいじゃないか。幸せのお裾分けとやらをもらってやるんだ」

 「全然ありがたくないし!むしろ迷惑だっ!聞けばシャナリーゼ嬢は並々ならぬ努力をしているようだし、お前との間の冷戦が周囲に漏れ、やがて会場中を埋め尽くすことになれば……俺は泣くっ!」

 あぁっと頭を抱えると、サイラスは他人ごとのように言った。

 「そういう不測の事態を制してこそ皇太子というものだ」

 「んなわけあるかっ!限度があるっ!」

 怒った俺に、サイラスは真顔になった。

 「立派な皇太子としてアピールするか、お飾り皇太子かとゴミを見るような目で見られるかだ。頑張れ」

 ……何だろう。何かデジャヴ。

 立派な皇太子として認めて欲しいが、そもそもお前らの黒い冷戦に太刀打ちできたらすご過ぎだろう!?むしろスルーできただけで立派と言われそうだ。

 「あの、ほどほどにしてくれよ……。頼むよ?」

 「そうだな、お前の子の成長に良くないことはしない」

 そうだそうだっ!そこ一番大事だからなっ!!

 

 

 で、やってきた当日。

 胃が痛い……。

 数日前から食が細くなる俺に、リシャーヌが心配そうに何度も「大丈夫ですか?」と聞いてきた。

 ありがとう、リシャーヌ。妊娠中の君に心配かけてしまって本当に申し訳ない。だが、それも今日で終るなら、この舞踏会を乗り切ってみせる!


 ……そう思っていた俺、甘かった。


 壇上からもしっかり分かる不機嫌オーラの令嬢を発見した。

 俺は心の中で「ぎゃああああ!」と叫んだ。笑顔がひきつってないか心配だ。

 シャナリーゼ嬢は艶やかな黒のドレス姿で、壁際にひっそりと立っていたが、不穏な雰囲気に周りはエスコート役の叔父以外近寄れず、そこだけ人気がなく逆に目立っている。

 サイラスのことをとりあえずセイドに相談した。

 あ、セイドといえばお茶会に協力したせいで、レイン殿にあらぬ疑いをかけられていた。俺もこれはこいつの女装ですと言っておいたが、更に話が飛んで女装癖ということになり、生暖かく認められたそうだ。違うんだレイン殿!こいつはノーマルだ、と言っておいたが、当の本人であるセイドが石化していてその時説得することができなかった。その後どうにかうまくなったらしい。

 あぁ!そういえば俺のとこにも手紙がきてたな。

 言われてみれば女性が増えていたので、周りから排除した。侍女もいたが、若い侍女はリシャーヌへ回し、古株ばかりを残した。着替えも自分でできるようになった。

 ちなみにこれをサイラスに言ったら、思いっきり笑われた。

 お前は戦場行ってるから自分でできるだろうが、俺はその役目は侍女の大事な仕事ですと言われ、その仕事を取り上げようとするなんてと言われていたんだ。後から聞いたらリシャーヌも侍女に手伝わせるくらいならわたくしがします、とちょっとだけ妬いてくれた。おもいきって周りの侍女を排除して良かった!

 リシャーヌの不安を取り除きつつ頑張っている俺だが、手紙にあった御褒美はまだ受け取っていない。

 欲しいが強く言えない。だってあの雰囲気だ。

 ……しかたない、もう少し待とう。 

 

 話はズレたが、ちらりとサイラスを見ればそれはそれは楽しそうに、見えないところで黒い笑みを抑えきれずにちらちらと出していた。

 もう、いっそバレてしまえっ!

 シャナリーゼ嬢の性格については、今だ半信半疑のセイドだったが、サイラスの楽しそうな姿を見て段々と彼女に同情するようなことを言い出すことが増えた。いや、俺も段々その意見に賛成してきたけど、今更あとには退けない。

 

 もう、リシャーヌはさっさと退場させよう。母体にもお腹の子にも悪い。

 俺も一緒に退場しようとしたら、リシャーヌに止められた。

 え?あの2人の顛末を最後まで見届けろ?

 修羅場全開の未来を見たくないんですけど!?


 俺はとぼとぼと重い足取りで会場に戻った……。


 ほとんど裏話でしたね。

 ちょっとなさけない皇太子ですが、良い人ですww!

 すでに過去にシャナリーゼに足蹴にされてますから、まぁこのくらいかなっと書きました。ありがとうございました。


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