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勘違いなさらないでっ! 【83話 前半】

すみません、前半になります。


「サイラス様、お時間が」

 エージュが頃合を見計らって声をかける。

「まあ、残念ですわ」

「……」

 頬に手を当て本当に残念そうなジェルマに対し、レイティアーノ姫は心なしかホッとしたように表情を緩ませる。

 ジェルマがレイティアーノ姫を急きたてるように話をさせていただけ、のように見えていたから、レイティアーノ姫が安堵するのも無理はない。

 とりあえず、このまま部屋からサイラスが出て行けば今日のところはお開きだわ。 

 今回の目的は、あくまでいままでとは違った接触をかけることだもの。サイラスまで出てきたら、これ以上はないんじゃないかしら。

 問題は、これ以上の刺激はしないこと。

 いろんな選択肢をとれる状態で、あの二人を帰すことが大事。


 なのに――。


「……」


 なぜわたくしを見るの、サイラス!!

 キラキラ王子オーラはなくなっているけど、素でそんなに穏かに見られたら自分とわたくしの間に(認めたくはないけど)つけいる隙はありませんよ、と言わんばかりではないの!


 まとめて追い出そうかしらね。


「シャーリー、おま……」

 愛称で呼ばないで、とばかりにわたくしはツンと顎を上げて早口にまくしたてる。

「まあまあ、ずいぶんお暇なのね。女性同士の昼食会に急にやってくるなんて、なんて配慮が足りないのかしら。しかもわたくしへの声掛けは最後ですのね」

「まあ! なんというものいいでしょう!」

 ジェルマが目をつり上げて怒るが、それをサイラスが苦笑しながら片手で制する。

「いつものことです。それに、わたしが彼女が戻ってからも声をかけていなかったのですから、しかたのないことです」

「ああ、なんてお優しい。我が国の大事な姫様のお相手には、ぜひサイラス王子のような優しい方になっていただきたいものですわ!」

 猫なで声で媚びる姿勢になったジェルマに、わたくしは冷笑を向ける。

「優しい、ですって? それだけでよければライルラドにもおりますわ。ぜひいらしてくださいませ。ご紹介させていただきます」

「失礼な! そもそもあなたのような方が紹介する方を姫様に会わせるなど、とんでもないことです。潔く身を引く尊さもなく、醜聞すら恥とせずこのような場所まで現れるなんて、正気を疑いますわ!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るジェルマに、わたくしはフフッと勝ち誇った笑みを見せる。

「自分の運命は自分で動いて切り開きますの。裏方で醜い争いをしたり、途中で横やり(・・・)を入れるよりよほど潔いと思っておりますわ」

「~~!」

 ギリッと、ジェルマが奥歯を噛みしめて口を閉じた。

 ここで止めなければもう一声二声出るわよ、と言うのが分かっていたのか、やんわりとサイラスが間に入って視界を遮る。

「言い過ぎだ、シャナリーゼ・ミラ・ジロンド」

「フン」

 ぷいっとそっぽを向くと、やれやれとサイラスが困ったように小さくため息をつき、黙って立ったままのレイティアーノ姫へ目を向ける。

「姫、大丈夫ですか?」

「あ、あの……」

 急に話しかけられて戸惑うレイティアーノ姫に、やや大げさにサイラスが顔を近づける。

「お顔の色が悪いように見受けられる。それに、そろそろお時間では?」

「まあ、大変! このような場所にいては、姫様の体調が悪くなる一方ですわ」

 これまた大げさにジェルマが騒ぎ立て、その原因がわたくしであるとばかりに睨むのも忘れない。

「玄関までお送りしよう」

「ぜひにお願いいたします」

 慌ただしくジェルマが帰り支度をする間に、サイラスが恨めし気に「これでいいか」とわたくしを見てきたので、にっこりと笑っておいた。

 挨拶などなしに、ジェルマが急き立ててレイティアーノ姫を部屋の外へと連れ出す。

「……」

「!」

 チラッとわずかな目線だったけど、確かにレイティアーノ姫はわたくしを見た。まるで「まだいたかった」と、言わんばかりの悲しげな目で。


 慌ただしく嵐が去った部屋に、エシャル様のクスクス笑う声が響く。

「押しつけましたわね、シャナリーゼ様」

「デザートくらい気兼ねなく食べたかっただけですわ」

「ふふふ」

 エシャル様が微笑むあいだに席につき、運ばれてきたデザートを見て一気に嫌な気分が吹き飛ぶ。

 白鳥の形をした薄いチョコレートを乗せたバニラアイスに、外はパリパリで中はしっとり、少し大きめに切って煮詰めたリンゴが、キラキラ光りながら顔をのぞかせるアップルパイ。

「こちらのアップルパイは、一度焼き上げてから寝かせてまた軽く焼いて出しますの。お好みで、カスタードクリームや生クリームを添えてお召し上がりくださいな」

「まあ。どっちも試したいですわ」


 平民の薄味に慣れていたわたくしだったけど、ここ最近は大分味覚が元に戻ったみたい。

 しかも、平民の食事って味は薄いか濃いかで、意外に脂っこい物も多いので、そのせいでわたくしの胃が驚いて参っていただけみたい。


 ちなみにこのおいしいアップルパイは、退席した姫の分までしっかり食べました。


 そんなわたくしを見て、エシャル様が「ライルラドの方は食が細いのかと思っていましたわ」と言った。

いえいえ、エシャル様。イズーリ国の方が結構食べる方が多いのですわ。エシャル様だって、パンもデザートもおかわりなさったじゃないですか。

ですから別にわたくしが大食いというわけでもなく、ただ今日のデザートはたまたま多めに食べただけですから勘違いなさらないように――フンッ!



☆☆☆





読んでいただきありがとうございます。


先週からなかなか執筆時間が取れません。

(本業忙しくなりまして……)

ついに先週更新できませんでしたら、ご心配のメッセージをいただき、今週もこんなに短いものしか納得できず……。

しかし、出そうと思いました。

また頑張ります。


よろしくお願いいたします。


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