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短編

獣拾ったよ

見切り発車/中途半端/ご都合主義/




クロノは、青く白く照らされた、湖をぼんやりと眺めていた。木々の隙間から差し込む月光の中、黒髪が、ゆらりと揺らいでいる。

クロノは町の外、国のはずれ、時間が休んでいるように季節、天候、時間の変化が少ない時休迷と呼ばれる森の中心に暮らしていた。そんな森で魔法薬師を生業としていた祖母と二人きり(、、、、)で。今は魔法薬見習いでも、いずれは祖母のようにクロノも魔法薬師として、のんびりとゆっくりと魔法薬師になっていくつもりだった。


ぽちゃん、と湖に住む生物が跳ね、湖の表面が揺れ、波紋が広がっていく。森は完璧な闇ではなく、月光がいい具合に混ざりあった薄暗い森。その色がクロノは好きだった。クロノの髪のように真黒でも闇でもなく、月の光のように青白くもなく、湖の色のように深い色でもなく、森の木のように緑でもなく、それら全てが綺麗に合わさった色。人は自分しかいない、森の静けさがクロノには心地よかった。水面は波紋を広く描いたまま。クロノは無邪気な笑みで、小さな波紋は広がり大きくなっていく変化を見ていた。

すると、かさかさと音がする。葉擦れの音。音は次第にクロノの元へ近づいてくる。距離を目測する。十メートルない。クロノはぼんやりとしていた目が、はっと見開いた。草をかきわけて、小さな獣が走ってくる―と思うこ間もなく、草原の隙間から、赤褐色の獣が走り出てきた。獣が驚いたようにクロノを見た。その緑の目には、恐怖と困惑したのが見てとれた。


「あ、大丈夫ですか?」


獣に言葉なんか通じるわけがないのに。どうして獣の状態が悪いものだとわかるのに確認をしてしまったんだろう。


魔法薬師見習いのクロノさえ見ていて辛くなるくらいに傷ついた獣。クロノが赤褐色に見えたのは全身の毛が赤く染まっていたからだ。獣は唸り、ヨロヨロとふらつかせながら全身に力を込め、クロノへと敵意をむき出しにした。力をいれる獣の傷口からは血が垂れていき、また全身を赤く染めていく。クロノはその痛みを想像し、口元をぎゅっとこらえる。獣の流れていく血が、彼の命をうばっていった。このまま放っておけば獣は死ぬ。クロノにはそれが嫌だった。


「傷の手当をしっ!?」


クロノが言いながら腕を伸ばし、獣に触れると腕に痛みが走った。獣は攻撃されると思ったのだろう。身を守ろうと獣がクロノの腕に噛み付いていた。小さな獣でも鋭い牙を持ち、肉を喰らうのがクロノに予想できた。このまま腕に全力で噛み付かれれば、クロノの肉が削がれ、腕は痛みを通り越し、熱く痺れるような感覚があった。クロノは痛みで泣き出すのを堪え、獣を抱き上げる。


「っ」


痛みよりも、クロノの腕を噛み付く力と共に、獣の身体は血が流れすぎためかとても冷たく全身が震えていた。その震えが寒さによるものか、クロノに触れられるものか、死を感じた恐怖なのか、それともべつのものか、クロノには理由はわからない。獣の体温の低さがクロノには恐かった。怯えた鳴き声がふと耳に届き、クロノは獣にまだ時間はたくさんあるということに安心を覚えた。獣の体温をできるだけ逃がさないよう、クロノ急いでは上着を脱ぎ獣に包めた。自分が薬師として通用するかどうかと、胸がわくわくしたのもある。しかしそれよりもとにかく薬師として怪我したものを何もしないで死なすのは嫌だった。自分の腕の痛みは無視する。薬師として、感情を切り捨て患者を救済するための措置。姿勢。


古びた小さい、小屋のクロノの家が見えてくる。家よりも庭が広く、薬草の箇所以外は、雑草が伸び放題で、木の一部が腐っている。クロノはそのまま一直線に小屋へといちもくさんに駆け出していた。邪魔な草をかきわけて、かきわけて、無我夢中で進む。獣を抱いているクロノに、小屋のドアを開けるのに手を使う暇は今のクロノにはなかった。足でドアを蹴り上げ、すぐさま中へ入っていった。クロノの意識から腕の痛みは、とっくに引いていた。



**

クロノはうだる暑さに辟易していた。室内の温度は薬剤の製造のせいで増していき、蒸し風呂のようだ。前髪がべったり額にへばりついて気持ち悪いが、薬草の入った鍋をずっとかきまぜなくてはいけないため、両手は塞がっているおかげで汗を拭うこともできない。棚の上にある砂時計をみれば煮込み始めてからまだ時間が経過していなのがわかる。


「あうあうあうあああああああ! あつい!! あつすぎるあつい!! 離れなさい! ウェイト! ストップー! ゴー! 」


クロノの叫びは、室内に反響した。クロノの足には銀色の毛皮が巻きついてあり、クロノの温度が余計に高くなっていく。クロノはつま先で毛皮を突くが、毛皮は我関せずと先端の毛をゆらゆらと揺らし、欠伸をした。


「暑いと製薬に集中できない! 毛皮は寒い日にしか役にたたないんだから! 離れる! 寒い日にはくっつくの大歓迎だから! 」


クロノの訴えは毛皮には通じず、欠伸をかえされるだけだ。


クロノが暑いのを我慢し鍋をぐつぐつと煮込ませかきまぜ続けているのは、無論、薬のためだ。両手をふさいでまで、こんな暑い中、薬を作ろうとしているのか。魔法薬師であるクロノは見習いではあるが、見習いでも薬は売れる。森でぽつんと暮らすクロノの生計は製薬だけなのだ。クロノの視線に気づいたのか足元の毛皮が甘えるようにすりすりと頬ずりした。



クロノには足に先端をゆららゆさえぐるぐるで巻きついている毛皮が、数ヶ月前は目をギラギラと常に威嚇し警戒状態の獣だと信じられない。


最初のころは、食事、怪我の手当てのために近づくだけで、クロノの全身に噛み傷、切傷が増えていくのは当たり前だった。そのまま戦闘になったこともあり、獣の怪我の治療の前にクロノが死にそうになることも何度もあった。


そのことを思い出すと、クロノのこめかみから冷や汗が流れ、ぶるると身震いした。半壊した小屋にとほほ、と涙がでそうになりかけ、わっと叫んだ。丸まっていた獣が立った。音もなく。クロノの両肩に獣の前脚が置かれ重くなる。


「重い! 暑い! 離れて! 鍋の中ちゃんとまぜられないから! 」


出会い始めは軽々と抱っこできるほど小さかったのに……


クロノは天井を見上げ、感慨ものがこみ上げてくるのか、少し歯を食い縛って獣の重さに耐える。



そしてそのままガッツリと爪を立てられた。


ここまで読んでくださりありがとうございました(:▽:)!

ペット飼っているのいいなあと憧れがあります(//▽//)。





以下は燃え……必要ないとカットしたものです。


見たままのものが理解できなかった。獣の上半身が影に溶けたのかと思えた。クロノはわずかに体を強張らせ、足に力をこめる。

探るまでもない、クロノへと殺気としかよべない気配が接近してくる。

「え」

意味がわからなかった。

クロノを倒し、嬲り、殺し、遊び、喰おうと遅い来る。逃げ出したくなるのを押さえ込み、子杖を胸の高さで止める。下を向く。牙を出し、食い千切らんとばかりに、真下から勢いよく飛び出した。

「爆雷っ!」

足元から、獣の真後ろから閃光が瞬時に爆ぜる。爆音。クロノの頬に獣の爪が掠った。熱が走り、開いた箇所が空気に触れる。火傷をしたときのように、空気は熱く、頬を熱すように血が流れる。

「雷華っ!」

クロノの背後で鞭のしなる音。獣の爪先が浅くマントを破り捨てた。雷華が獣を追い、掠め、腐っていた木がみしみし削れ抉られ、斜めに倒れていった。足元から舞い上がったマントだった布が、また落ちてゆく。爪に刻まれた四つの跡は、強引に引き裂かれたようだ。

クロノは子杖を握るしびれた手の力を強くし、口早に呪の詠唱を開始し。獣は。

「っ」

クロノの右から、さむけがした。右には銀色の光がいた。獣の形をなくし、光と銀が一緒に混ざったかのような姿があった。なにこれ、とクロノの思考の先をゆく感覚が。クロノを枯木へと飛ばしていた。吹っ飛ばされながら、獣は雷の鞭を避けた。けれどその動きが速すぎて、残像が獣の姿をぼかしてるのだ。



「っ!」

これで何度目かわからない、夜気を震わす風を切る音。その僅かな音に引き寄せられるように雷を

「爆雷っ!」

クロノが行使する。それを迎え撃ち、走る獣。うなり威嚇する獣は雷をことごとく避け続ける。そして、牙を出しクロノへと跳躍。

クロノは、誰がどう見ても追い詰められていた。獣が攻撃をはじめてから、まだ一度もはっきりとした獣の姿を見ることができていない。ただの、一度さえもだ。クロノには森の魔物、獣を通して戦闘経験はあった。それでも、どうしても獣の位置まではやさに追いつけず、一方的にクロノが傷を負うばかりだ。それはクロノが魔法薬師だからであるが、やはりそれ以上に経験の少なさが大きかった。



**

爆雷…きっと雷の攻撃魔法

雷華…きっと雷の攻撃魔法

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