プロローグ
その日、人気VRMMORPG《バーチャル多人数同時参加型RPG》「ミラーランド」を運営するMコミュニケーションカンパニーでは、定期メンテナンス作業が行われていた。
ブーンとハードディスクを冷却するファンが回る音が聞こえる中、社員達は作業を進めている。
メンテナンス作業といえば、以前はゲームをログイン不可状態としていたが、現在ではそんな無粋な真似はしない。
稼働中の本サーバと完全に同期が取れているミラーサーバを用意し、メンテナンス時にはそれを切り離す。そしてミラーサーバに対してメンテナンスを行うのだ。
メンテナンスが終ったミラーサーバは、入念にテストされバグが無いかをチェックする。そして問題が無ければ再度本サーバと同期させ、今度は本サーバを切り離しメンテナンスをかけテストする、という手順をふむ。
この方法により、ログイン中のユーザがゲームを続けたまま、メンテナンスを行う事が出来るのだ。
この日のメンテナンスもその様にして作業は行われていた。
ミラーサーバのメンテナンスが終わり、本サーバへと繋げる。その時、グラリと建物が揺れた。一瞬室内の蛍光灯が瞬く。揺れもすぐに収まった。
「地震か? ちょっと揺れたな、システムには問題ないか?」
「ああ、大丈夫稼動しているよ。一瞬明かりが消えかかったから、停電かと思ってひやっとしたけどな」
「なに、例え停電になっても、サーバには無停電電源装置が付いているからデータが飛んだりはしないけどな」
社員達は気にした風も無く、普段どおりに作業を進めていった。