1、プロローグの0%
時は少しの未来、人類は異世界から侵略者【魔物】の脅威に震えていた。
しかし、ある日現れた魔法少女によって、人類は魔物と戦う手段を手に入れたのだった。
突然だけど、人生で1番焦った事って何ですか?
大抵の場合は、何か大きな失敗や大恥をかいた時と答えるだろう。
俺?俺は……
「お兄ちゃん、なの……?」
今、かな?
「お兄ちゃんが、大鎌の魔法少女だったの?」
目の前で驚愕の表情を浮かべながら、こちらへ疑問の声をかける妹を前に、先程までの戦闘で負った傷で動かない体を無理やり動かしながら、それでも妹と正面から向き合う。
な〜んでこんな事になったのかね?
そう独りごちながら、俺はあの全ての始まりになった2ヶ月前に思いを馳せる。
………………………………………………………………
あれはそう、3月も下旬に入り春休みに突入し後は高校の入学式を待つだけの最高に暇な時間がやってきて、何をして時間を使おうかとワクワクしていた頃の事だった。
俺、天道月夜はその日、マンガの新刊を買いに街に出掛けていた。
目当ての本を手に入れルンルンで家路に着いていた時だ、あの忌々しい音が鳴り響いた。
『付近で魔物が出現しました、直ちに近くのシェルターへ避難して下さい!』
けたたましいサイレンの音と無機質なガイド音声が鳴り響く、【魔物】が現れた証だ。
多くの命が奪われる、証だ。
「くそっ!運が悪い……」
悪態をつきながら、近くのシェルターの場所を思い出す。
思ったより遠いな……無事に辿り着けるか?
なんて悠長に考えてる場合じゃないな、急がないと
シェルターに向けて走り出そうと足を向けた瞬間、それは訪れた。
パリィィィン!!!!
ガラスが割れる様な音が頭上に響く、その音につられ上を見れば何が起きたのかすぐに分かった。
空が割れている、罅が入り、一部は砕け散って欠片が辺りに降り注いでいる。
そして晴天の青空に刻まれたどす黒い罅割れの奥から、そいつは身を乗り出していた。
それは蜘蛛だった、ただし普通の蜘蛛ではなく5mはあろうかという程の大きさをしており、地球上では確実に生息していないで巨大さの蜘蛛だった。
(嘘だろ、なんでよりにもよってこんな近くに湧くんだよ!!)
信じ難い事に、蜘蛛が出現したのは俺が居た場所からそれなりに近い場所だった。
俺は急いで、しかし出来るだけ静かに建物の陰に隠れる。
(頼む、見つかるなよ・・・・・・!!)
暫く動かずにじっとしていると、蜘蛛はシェルターとは反対の方へと向かって行き、やがて豆粒ほどの大きさになる程に遠くへ歩いていく。
ふう・・・・・・
助かった、あとはなるべく音を立てずにシェルターへ向かえば安全だ。
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「もうすぐ、シェルターか……」
暫く歩いて、漸くシェルターの近くまで来た。ここまでくる途中で後ろの方から破壊音が聞こえた時はかなり遠くからだと言うのにかなりの恐怖と、そして人が襲われているのでは、と言う少しの罪悪感を感じたが、しかし他人の心配をしている場合では無いと。きっと魔法少女が戦ってくれているのだと、そう自分に喝を入れ素早く、しかし静かに歩いたものだ。
それも漸く報われる、シェルターに入れば安全だ。
そう……思っていたんだ……
パリィィィン!!!
再び、世界が割れる音が鳴り響くまでは。
嘘だろ、2体目!?
500m程離れた場所に2体目の魔物が現れる。先程出現したのと似た、蜘蛛型の魔物は最初の魔物とは少し様子が違っていた。
「きゃ〜〜〜!!」
ウサギのぬいぐるみが魔物と共に落ちて来た。しかも喋ってる。
……いや妖精だアレ!?
一定以上の魔力と、それを扱う素質が無いと視認出来ないという、そして素質のある人間と契約し戦う為の力を与えるという、あの妖精だ。
妖精が魔物と一緒に空を砕きながら落ちている。魔物は目の前の妖精にしか興味が無いようで、こちらに気づく様子が無い。
「逃げるなら今のうちか?」
『また逃げるのか?』
燃え盛る街で、独り走る光景が脳裏を過ぎる。
(そもそも、こうして魔物が侵略してきたのも、全ては故郷を滅ぼされた妖精が地球に逃げてきたのを追いかけてきたからで。ここで見捨てた所で別に俺は悪くないのでは?)
『また自分だけ生き残るのか?』
俺を逃がそうとして、両親が目の前で魔物に喰われる光景が脳裏に過ぎる。
(俺には何故か見えているが、本来妖精は一般人は視認出来ない。つまり妖精が襲われていたと言わなければ、一般の俺一人逃げたとしても何も咎められない筈。)
『見捨てるのか』
逃げる途中で、足を挫いたらしい子供が、それを助けようとした大人諸共瓦礫に潰された光景が脳裏を過ぎる。
「きゅぅ~~~」
魔物に吹き飛ばされた妖精が俺の近くに落ちてくる。今すぐにでも飛び出せば助けられるかもしれない距離だ。
『どうする?』
銀色の毛並みが自身の血や泥で汚れ、ズタボロになった兎の妖精が全身の痛みに震えうずくまっている。
(逃げるべきだ。)
俺には戦うための力は無い。男だから、ここであの妖精と契約して魔法少女になる事も出来ない。
逃げろ……
「きゅ……」
逃げ出せ……!
(……そもそも、俺は誰に向けて逃げる為の言い訳を並べているんだ?)
『情けは人の為ならず。誰かにした良いことは、いつか自分に返ってくるって意味だ。』
『だから月夜も、出来るだけ人に優しくなりなさい』
父さんの言葉が、脳裏に過ぎる。
「誰か………助けて……」
『必ずしもそうする必要は無い。だけどそういう選択もあるって事は、覚えておいて欲しい。』
父さんの優しくも真剣な顔が、脳裏に過ぎる。
『いつかそんな時が、助けを必要としている誰かがいたら。』
『自分が正しいと感じた事に、自分の心に従いなさい』
『父さんはそうやって母さんと出会って、結婚したんだぞ〜』
そう言っておどけながら笑う、父さんの顔が脳裏を過ぎる。
「……っ!!」
「くそっ!」
気が付けば駆け出していた。
「何で!」
路上に蹲る妖精を抱えて、シェルターとは反対方向へ走っていた。
俺は何をしている!?
どうして俺は妖精を抱えている!?見ろ、魔物が此方に向かって走ってやがる!
「きゅ……誰?助けてくれるの?」
「通りすがりの一般人だ!そんな事より、仲間の妖精とか、魔法少女に連絡して助けを呼んだり出来ないか!?」
「テレパシーとか、念話とか、使えたりしないのか。」
「きゅ、ごめんなさい。まだそう言った魔法は上手く使えなくて……」
腕の中で気まずそうに顔を伏せるウサギ妖精。ちょっと罪悪感が……
「謝らなくていい、気にするな。」
救援を呼ぶのは難しいか、それなら。
「なら俺の潜在能力を引き出すのは?一応お前が見えてるわけだし、ある程度の素質はある筈だ。男だから契約は出来なくても、妖精に力を引き出されて活躍してるヒーローも居るらしいし」
もし出来るなら、魔物を倒せなくとも、最低限一緒に逃げるくらいは出来る筈。
「きゅ〜、それも難しいの。まだ契約の魔法は習ってなくて」
マジかよ絶望的だな。
「そ、そうか……、なら仕方ないな」
くそっ、やっぱり早まったか?だけど今更置いていくのもあと味が悪過ぎる。
何て事を考えながら走っている時、ウサギが恐る恐る呟く。
「一応、オトナの妖精からは禁止されてる奥の手はあるけど……」
「奥の手か、それは使えるのか?」
「使えはするけど、とっても危険だって習ったの……っ!危ない!!」
ウサギが叫ぶと同時に、背中を衝撃が襲う。
全身が痛い、何が起きた?
いや、分かっている、攻撃されたんだ。攻撃されて、吹き飛んで道路に投げ出されたんだ。
「ぐっ……くぁ、ウサギ……大丈夫か?」
「ぅきゅ~、何とか……」
すぐそばに転がっている妖精の無事を確認しつつ、魔物の方へと目を向ける。
魔物は口から煙を吐きながらゆったりとした歩調でこちらに歩いている。それはまるで、獲物が弱っているのを確認するかのような、獲物を嬲るのを楽しむような、必死に逃げ回るこちらを嘲笑うかのように、のっそりと、じわじわと近づいて来ている。
完全に遊ばれてるな、だけどおかげで少し猶予が出来た。
「なあ、奥の手の危険なことっていうのはどんな物何だ?」
「詳しくは知らないの、とにかく危険としか聞かされてないの」
(詳しくは分かって無いか、それなら)
「そっか、じゃあ分かる範囲で何か知ってる事は?」
「えっと、人間さんに掛かる負担がとにかく大きいって。……もしかして⁉」
不安げに答える妖精。何かに気付いた様に、バっと顔を上げこちらを見上げる。
「なるほど、危険なのは人間側だけなんだな?」
「頼む、その奥の手とやらを使ってくれ」
二人とも生き残るにはもう、これしかない。
「だ、ダメなの!危ないの!」
「危険なのは俺だけなんだろう?それなら問題ない、頼むよ」
「もうこれしかないんだ」
そう言って俺は妖精に頭を下げる。
妖精は数秒程考え込むと、やがて観念したように頷き、口を開いた。
「……分かったの」
「それじゃあ、私と一緒にこう唱えて欲しいの」
吸合
「それで奥の手が使えるの」
そう言ってこちらを真っ直ぐ見据える妖精。その目には不安と心配、そして期待と覚悟が宿っているのが見えた。
「吸合だな、わかった」
魔物が近づいてくる気配がする、急ごう。
覚悟を決めて、叫ぶ。
「いくぞ……!」
「きゅ!」
「「吸合!!!」」
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意識が溶け合っていく、俺と妖精が1つになっていく。
肉体が変わっていく、男のゴツゴツした身体から女性の丸みを帯びた柔らかい身体に変わる。
腰の辺りまで髪が伸び、夜空の様な色へと変わり前髪にひと房だけ月色のメッシュが入る。
頭の頂点からはウサギの耳がぴんと立ち、三日月をモチーフにした髪飾りが装着される。
服装は普段着のTシャツとパーカーにジャージのズボンから、夜色に三日月柄の着物に変化し、胸元に月を模した懐中時計の様なアイテムが現れる、そこには電子文字で0%と表示されてる。
手には黒い指ぬきグローブが嵌められ、足には具足を模したブーツを装着される。
最後に瞳が黒から黄金に変わり、それを隠すように額に三日月と兎の模様が描かれた銀色の仮面が現れる。
変身が終わり、俺はふわりと地面に降り立つ。
不思議な感覚だ、自分が自分じゃ無いような感覚。無限に力が湧いてくるような感覚。
魔物の方へ向き直ると、魔物はこちらを警戒するように歩を止め、身を低く屈めていた。
獲物が突然魔力を大きく吹き上げて姿を変えたんだ、無理も無い。
動かないなら好都合だ。
俺は軽く手を振って武器を取り出すイメージをする。
すると手元に身の丈程もあるメカニカルな槍が出現する。穂先は十文字になっており、刃の根元には何かを嵌め込めそうな丸い窪みが空いている。
「ふっ!」
軽く踏み込み、魔物へ向かって駆け出す。するととんでもない速度で身体は動き出し、一瞬で魔物に肉迫する。
「はぁっ!!」
槍を魔物目掛けて突き込む、突然の事に魔物は躱せないようでその顔面に槍が突き刺さる。
「!!!???」
魔物は声を上げずとも痛みに悶え、その場を離れようとする。
「シィ!」
俺は逃がすまいと槍の枝刃を魔物に引っ掛け、棒高跳びのようにして魔物の背中へと飛び移る。
俺が飛び乗った事で振り落とそうとする魔物へと槍を突き落とす。
「!!!!????」
魔物は大きく身を捩り暴れ回る。しかし黙ってやられるつもりは無いようで、その口から糸を吐き、近くのビルの屋上へと糸を貼り付け一気に巻き取り移動する。
俺は移動の衝撃で魔物の背中から振り落とそされてしまう。
「ひゃあっ!、く、蜘蛛ならお尻から糸をだしなさいよ!」
魔物はビルの屋上からこちらへ向かって睨みつけるように様子を伺っている。
「何を睨んでいるの?早く降りて来なさいな!」
「こっちはいい加減、お前を倒して帰りたいのよ!」
俺の文句が聞こえたのか、魔物は口を開いて糸の塊を吐き出してくる。変身前に吹き飛ばされたのはこの攻撃のせいか。俺はそれを槍で弾き、切り裂きながら呟く。
「ふっ、はっ!」
「そう、降りる気は無いのね、それなら」
槍の柄に付いているボタンを押す。
《サイスモード!!》
女性的な電子音声が鳴り響き、十文字槍の枝刃の片方が魔力の刃で覆われ鎌のように変わる。
そのまま胸にある懐中時計を外し、槍の窪みにセットする。
《クレセントムーン!サイス!》
再び電子音声が鳴り響き魔力が高まっていくのを感じる。
「こっちから近づいてあげる」
魔物目掛け跳躍すると、一気にビルの屋上よりも高く飛び上がった。ちょっと跳びすぎたかな。
魔物を眼下に狙いを定め、柄のボタンを押し魔力を解放する。
《クレセントムーン!!スラッシュ!!》
電子音声が鳴り響き魔力刃が巨大化する。
「やぁぁぁ!!!!」
大鎌となった槍を思い切り振り下ろす。魔物は糸を吐き迎撃するが魔力刃は糸こど魔物を真っ二つに両断した。
「????!!!!」
魔物はビルから落ちながら、粒子となって消えていく。倒したのだ。
「ふう、何とか勝てた……」
着地し、一息つく。安心したらどっと疲れが出てきた。
ふと魔物が消滅しながら落下した方向を見ると、キラリと日の光を反射する何かが落ちているのを見つけた。
何だろう?
近づいてよく見てみると、そこには半透明の黒い石が落ちていた。それは恐らく魔物が死んだ際にその魔力が凝固して出来るという魔石だろう。
「これが魔石かしら、一応拾っておこうかな?」
魔石を拾い、周りを見渡す。そこには戦闘の余波でボロボロになった町並みが広がっていた。
気づけば警報は止んでいて、遠くの方から救急車やパトカーのサイレンが聞こえて来る。戦闘が終わり、生き残ったのだと言う実感が湧いて来た。
時期に此処にも警察や救助隊、それに魔法少女や魔物事件の事後処理部隊がやって来るだろう。
「……帰ろう」
この変身は禁術を使っていると妖精が言っていたし、魔法少女協会に見つかるときっと面倒な事になる。そうなる前に家に帰ろうと歩き出そうとした時、それは訪れた。
銀色の光が俺の全身を包み込む、それが収まった時、俺とウサギは元の姿に戻っていた。変身が解除されたのだ。
「え〜っと……」
「きゅ〜……」
俺たちは暫く見つめ合っていたが、ぼうっとしていると魔法少女達に見つかってしまう。
「とりあえず……家、来る?」
「ふ、不束者ですが宜しくお願いしますの?」
……………………………………………………………
こうして俺の最悪な日は終わり、俺と妖精の衝撃的な出会いは成された。
これから俺たちに待ち受ける運命など知る由もないままに。
1話の文字数は5千文字くらいが丁度いいと思ってるマン。
1話目でとりあえず変身と初戦闘は絶対入れたいと思ったらほんのりオーバーしてちょっと焦ってる。
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