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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第2章】バケモノと呼ばれた少女
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帰り道の沈黙、不器用な体温

ー ツバキ視点 ー

「私の名前を、その汚い口で馴れ馴れしく呼ぶな。……バケモノ」

レオンハードから、明確な憎悪と敵意をぶつけられる。

(……なんでだ?)

アタシはただ、おっさんの教え通りに「皆を生きて帰そう」と奮闘しただけなのに。

「なんだよそれ……。アタシが斬らなきゃ、全員あの触手に巻き込まれて全滅してたぞ? それでよかったのかよ?」

「まだあのスライムの中には仲間がいたっ!! それを貴様は、まるでゴミを捨てるように斬り捨てた!!」

レオンハードが、血走った目でめちゃくちゃなを事を言ってくる。

あの赤いスライムに取り込まれていた人は、もうとっくに死体だった。意識のない肉塊が鳴かされていただけで、どう足掻いても助からない。ならば、早く人として眠れるようにしてあげた方がいいだろうに……。

「それならば、あそこで助からない仲間と一緒に、全員で全滅すればよかったっていうのか!?」

アタシの反論に、レオンハードは悔しげにギリッと唇を噛み、押し黙った。

そして、地の底から絞り出すようにアタシに告げたのだ。

「……『仲間』のいないお前には、一生分からない話だ」

ドクン、と。心臓の奥の、一番柔らかいところを刺された気がした。

アタシは無意識に、震えそうになる声帯に力を込め、精一杯の強がりを口にする。

「……ふんっ! 弱いやつの理屈なんて、アタシの知ったことか!」

別に、いつものことだ。気になんてしていない。

顔も名前も覚えた。パーティ行動のルールも守った。皆を生かして帰そうとした。

それでも、結果はいつもこうだ。

(……おっさんの、嘘つき)

ルールを守れば強い奴と一緒に戦えるって言ったじゃないか。

アタシがどんなに頑張っても、強い奴らだって、誰もアタシを仲間だと認めてくれないじゃないか。

ギルドまでの帰り道。目標のモンスターを討伐して全員無事に生還したというのに、アタシたちの間には、息が詰まるような重苦しい空気だけが漂っていた。


ー クロエ視点 ー

調査団が無事にギルドへ帰還してきたとの連絡が入った。

消息不明だったBランクパーティの人たちは、残念ながら全員亡くなっていたそうだが、調査団自体はあの変異種モンスターを討伐し、全員生存で帰還したらしい。

「レオンハードさん、お疲れさまです。ご無事で――」

ギルドに戻ってきた彼を出迎えた私は、その顔を見て言葉を失った。あの爽やかな水鏡の剣士が、まるで亡霊のように険しく、暗い顔をしていたのだ。

「クロエ殿……。今回は、東都市からのご協力、誠に感謝いたします」

レオンハードさんは、ひどく疲れた様子で深々と礼をした。

「……しかし、我ら西都市の冒険者は、あのツバキ殿を『仲間』とは到底思えません。即刻、このギルドから連れて帰っていただきたい」

顔を上げた彼の瞳は、昨日までの洗練された姿とは別人のように、冷たく淀んでいた。

「ツバキが、また何かご迷惑を……?」

私はてっきり、ツバキがまた言うことを聞かずに無茶苦茶な暴れ方をしたのだと思い、彼から経緯を聞き出した。

だが、その一部始終を聞き終えた私の胸に広がったのは、ツバキへの怒りではなく、ひどく複雑な思いだった。

たしかに、レオンハードさんの言い分や、仲間を失った悲しみも分かる。でも……ツバキは、戦場で自分の役割を正しくこなしただけではないのか? 誰もやりたがらない汚れ仕事を一手に引き受け、全員の命を救った彼女が、ここまで悪しざまに言われる必要があるの?

だが、ここで私が感情的になった彼と言い争っても仕方がない。抗議はあとでギデオンさんから正式に入れてもらうとしよう。

私は、ギデオンさんに報告石を通じて要点を報告し、ギルドの外の木陰で一人ポツンと背を預けていたツバキを連れて、帰りの馬車に乗り込んだ。

ガタゴトと車輪の音が響く。

帰りの馬車の中も、行きと変わらずお互い無言だった。

(なんて声をかけたらいいのよ……)

私が気まずく視線を泳がせていると、矢先、ツバキがおもむろにガタッと立ち上がった。

「……? どうしたの?」

「……歩いて帰る。お互い、その方がいいだろ」

顔を背け、暗く沈んだ声で言うツバキを見て、私はハッとした。

(この子……傷ついているんだ)

バケモノと言われて平気なわけがないんだ。そんな中、自分を嫌っている相手と二人きりになるこの馬車の空間が、彼女にとって追い打ちのように辛い時間なんだ。

いつものふんぞり返った態度はどこへやら、今にもどこかへ消えてしまいそうなほど小さく、弱々しく見えるその背中を見て――私は思わず、ツバキの体を後ろからギュッと抱きしめていた。

「な、なんだよ!!」

ビクッと肩を跳ねさせ、驚いたように振り返るツバキ。

「王都を迂回する帰り道なんて、あんた一人じゃ分からないでしょ。……いいから、黙って座ってなさい」

素直に「心配だ」と言えない自分の不器用さに呆れつつ、私は抱きしめた腕の力を少しだけ強めた。

行きの馬車の中と同じ、一言も喋らない無言の空間。

けれど、腕の中に伝わる彼女の体温のおかげか、今の沈黙は、不思議と少しだけ暖かかった。

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