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学園生活の始まり

 とうとう今日は、私がユスタリカ王立学園に入学する日。制服を身に纏って、花の冠のようにふわふわした髪型にしてもらった。側近を2人、側仕え1人と護衛騎士1人を連れられるということで、ナティアもノラサグリ家側近の正装をしている。


「ベル、気分はどう?」

「少し緊張しているの。でも、学園生活がとても楽しみ」

「そう」


 一番にお見送りに来たエルフィお姉様は、まだゆったりとした部屋着のままで、朝日に銀髪が照らされてとても美しかった。しばらく会えないと思い、少し寂しくなった私が俯くと、お姉様が私の手を取った。


「ベル、貴女にこれを渡しておくわ」

「……これは、ホスシュールの……!!」

「ふふっ。ベルが素敵な学園生活を送れますようにって、私が大切に魔力を込めたのよ」


 ホスシュールのアクセサリーは、希少性が高いだけでなく、持っているだけで幸運になれると言われている。ホスシュールを加工する際に込める魔力によって色が変化するのが特徴だ。

 光に当てて見ると、ホスシュールがエメラルドグリーンに輝いた。真ん中に星屑のような光が散っているのは、それだけ繊細な魔力操作によって魔力が込められた証だ。触れると、お姉様の木属性が強い魔力を、うっすらと感じる。大好きなお姉様からの世界一愛が込められたプレゼントに、涙が溢れそうになった。


「ありがとうございます、エルフィお姉様。大切にします」

「ええ、頑張って、ベルフィール」

 



 学園は王都の港から程近い島にあるため、転移陣で向かうことになっている。念のために魔力酔い止め薬を飲み、転移陣の上に立った。ナティアは護衛騎士としての役割もあるため、学園に行くのは2人だ。一緒に、沢山の荷物も積まれていく。

 

「それでは、行ってまいります」

「ベル、身体に気をつけて、何かあったらすぐ連絡するのですよ」

「くれぐれも無理だけはするな。やりたいことはやって、楽しんでこい」

「わかっております、お母様、お父様」


 心配性な両親に抱きしめられ、私はまたまた泣き出すのを堪えなければならなかった。2人が離れ、視界がぐにゃりと歪んだ瞬間、私は目を瞑った。次に目を開くと、目の前にルークファルお兄様が立っていた。


「ベルフィール、ようこそユスタリカ王立学園へ」

「お出迎えありがとうございます、ルークファルお兄様」

「少し見ない間にまた大人びたな、ベル」

「デビュタントのパーティーで会ったばかりでしょう?」


 ルークお兄様はにかっと歯を出して笑った。この笑顔が、年頃の女の子達にはたまらないらしい。私達の背後を通り、お兄様の側近達が荷物を運び出していった。


「お父様が、エルフィアナ姉様が使っていた部屋を確保したと言っていた。ブルージュレのコモンルームのテラスからは王都も見えるから、時間がある時に寄るといい」

「あら、私はブルージュレなのね」

「知らなかったのか!?俺達はブルージュレだから制服が青なんだぞ?第一、ここはブルージュレの転移陣なんだが……」


 ルークお兄様は揶揄うように私の肩を叩いた。

 ユスタリカ王立学園では、生徒は家柄や魔力に基づいて、アルストラルーシュ、ブルージュレ、ジョーヌベルト、ライトリアウェールズの4つの寮に分けられる。お兄様達もお姉様も青い制服だったから、てっきり学園の制服は青いものなのかと思っていたのだ。


「全くもう……!!最近とても忙しかったんですもの、どこかで聞き漏らしていたのね。……では私は自室に向かいます」

「それがいい。また後で会おう」


 北棟はなんだか我が家の雰囲気と似ている気がする。転移陣がある部屋を出るとそこはコモンルームだった。白い壁に青い装飾が映えている。カーテン、花、ソファ、モニュメントまで青と銀でまとめられていた。


「あの扉の先がテラスかしら」

「お嬢様、予定が詰まっておりますから、テラスは後ほど訪れましょう」

「そうね」


 コモンルームを出ると、左右にそれぞれ階段とアセンサーがあった。


「左が女性寮だそうです」

「……ナティ、アセンサーよ、初めて見るわ!!」

「私も実物を見るのは初めてですね。お嬢様のお部屋は最上階にありますので、使っていきましょうか」


 ナティアと一緒に小さな部屋のようになっているアセンサーに入ると、後ろの扉がばたんと閉まった。


「ここに魔力を込めるのよね……?」

「その前に、こちらのボタンを」


 10と書かれたボタンを押し、扉の魔石に魔力を込める。ぐっと身体が押し上げられる感覚がして、ナティアと顔を見合わせた。

 チーンと音がなって扉が開くと、目の前に廊下が続いていた。


「お嬢様のお部屋は端の、角部屋でございます。一番大きなお部屋なんだそうですよ」

「楽しみね。お姉様が使った後、誰か入っていたのかしら?」

「どうでしょう。かなりの費用がかかるお部屋ですから、なかなかいないと思われますが」


 部屋の扉はネームカードとリボンで飾られていた。中に入ると、思わず声が漏れる。


「ふわぁぁあ!!可愛すぎる!!」

「ベル様、落ち着いてくださいな。……それにしても本当に可愛らしいお部屋ですね」


 配色はコモンルームと同じだが、家具は木材で出来ていて温かみがある。幾重にも重ねられたベールの天蓋がついたベッドや天井まで届く大きな本棚、三面鏡を備えたドレッサーなど、どれも私好みのデザインだ。実家の寝室ほどの十分な広さがあり、何より大きなバルコニーがついていることが驚きだった。バルコニーに出ると、潮風が頬をくすぐり、向こうの大陸が見える。


「来て、ナティア。王城が見える」

「本当ですね。天気が良くて幸運でした」

「お父様もあそこにいるのかしら……」


 そんなことを考えると、なんだか少し寂しくなってきた。気を紛らわせるために部屋に戻ると、右に2つ、左に1つの扉に気がついた。


「まだスペースがあるの?」

「右の扉はバスルームとウォークインクローゼットで、左の扉は側近用の部屋だそうです」

「ナティはそこの部屋で過ごすのでしょう?見てみたいわ」

「あまり面白いものではありませんよ」

「それでも見たいの」


 ナティアが開けてくれた扉を覗き込むと、短い廊下が続いていた。正面の扉をさらに開けると、私の部屋の4分の1もないくらいの広さの部屋に、ベッドと机と小さな収納棚が置いてあった。


「……ナティ、貴女、私と一緒に寝ましょう」

「お嬢様は初めてご覧になったので驚かれたかもしれませんが、一般的な側近部屋はこのようなものですよ。ノラサグリ家では随分と良くしていただいているのです」

「そうなの……?残りの部屋もナティが使うの?」

「いいえ、残りの部屋は未来のお嬢様の側近のためです。2年生からはお嬢様も側近を増やすでしょうから。特に騎士は」


 私はうーんと唸った。ナティア以外にも今まで側仕えはいたが、確かに護衛騎士はついたことがなかったし、そこまで側仕え達と交流が深くなることはなかった。だから、ナティア以外の人が私の側近になることが想像できないのだ。


「私はずっと、ナティアだけでいいなぁ」

「それは嬉しいお言葉ですね。でも、それではベルフィールお嬢様の社交が上手くいきませんから」


 それはよくわかっている。誰を側近にするだとか、誰の側近になるだとかは、全て実家の評価に直結してくる。この学園は、未来をつくるユスタリカの子供達のために、とうたっているが、貴族社会の影響をそのまま受けているのも事実なのだ。特に上級貴族の子供達は、優秀な側近を従えることで自分の将来の選択肢を増やしている。私も幼い頃から何度も言われてきたことだ。

 難しいことを思い出してため息をついた私は、ナティアを見上げて尋ねた。


「それで、入学式までにすることは何が?」

「そうですね……これを」


 ナティアは机の上に置いてあった青い封筒を手に取り、私に差し出した。

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