ノラサグリ家の5兄妹
「ベル!お誕生日おめでとう!」
「メルヒールお兄様!」
視界にメルヒールお兄様を入れた私は、気がつけばふんわりと抱きかかえ上げられていた。
「来るのが遅くなってごめんな」
「本当に!!メルヒールお兄様は来られないのかと心配していましたのよ」
「ベルフィールのデビュタント姿を見ないわけにはいかないからな。それにそのドレス、本当に素敵だ。よく似合ってる」
「でしょう?」
褒められて上機嫌な私の頭を、お兄様がぽんぽんと撫でた。
「あ、そうだお兄様」
「ん?どうした」
私が口元に手を寄せると、部屋の端に移動しながらお兄様が顔を寄せる。
「今日王子様と初めてお会いしたのだけれど……」
「おぉ、そうか!それで?どうだった?」
「……すっごくすっごくかっこよくて、きらきらしていたのよ。それにとても優しかったの。また会えるかしら…?」
「おうおう、もちろん会えるさ。きっと学園でも一緒になれるぞ?よかったなぁ」
ふふふ、と私とお兄様は顔を見合わせて笑った。
「あら、メルヒール兄様ったら、私に隠れてベルと内緒話?」
「エルフィも素直に入りたいって言ったら入れてやるぞ?なぁ、ベル」
「ええもちろん!」
「言ったら入れてくれるの?」
エルフィお姉様はくすりと笑って、私達の手を引いてバルコニーへと飛び出した。そのまま後ろで扉を閉める。パーティーの喧騒が遠ざかり、鳥のさえずりが聞こえ始めた。
「デビュタントのお姫様と内緒話といきましょう」
お兄様が私をバルコニーの手すりに座らせた。その両隣で2人がバルコニーに肘をつく。
「それで?どんな話をしていたの?」
「今日、初めて王子様達と会ったのよ。私が挨拶をしたら、2人とも微笑んでくれて。その周りがきらきら光って見えて、とてもかっこよかったの」
「あら、ベルも恋するお年頃なのね」
「どっちの王子様が好きだったんだ?」
「う〜んと……」
頭の中で第一王子のユリオス様と第二王子のルクベルシア様を思い浮かべた。2人ともかっこよかったわ……でも、恋とは運命の1人にするものでしょう?これは……恋なのかしら?
「……まだそういうことはわからないわ」
「そうか」
「わからなくてもいいのよ。きっとわかる時がくるわ」
「エルフィアナに言われると説得力が増すな」
「そういうメルヒール兄様は早く素敵なご令嬢を見つけるべきよ。メルヒール兄様の隣に立ちたい女性はいくらでもいるでしょうに……」
エルフィお姉様は、17歳の時、留学に来ていたパルリティス王国のウィルレスト王子と恋に落ち、近々婚約する予定だ。政治的な問題で正式な婚約が先送りになっている中、2人はずっと手紙のやり取りを続けている。
メルヒールお兄様は、幼い頃は婚約者がいたものの、病で彼女を亡くした後は独り身のままだ。
「私も誰かと婚約することになるのよね。すごく不思議だわ」
「まだそんなこと言わなくていいのよ、ベルは」
「そうだよ、お父様がそんなことを聞いたらきっと卒倒するぞ?」
またくすくす笑って3人で顔を合わせる。ひとしきり笑った後、エルフィお姉様はふと寂しそうな顔になった。
「ベルフィールのデビュタントの準備を一緒にできて本当に良かったわ。自分のデビュタントの時以上に楽しみになっていたもの」
「エルフィお姉様がたくさん手伝ってくれて、本当に助かったわ。……お姉様はいつパルリティスに行ってしまうの?」
「そうね……少しずつ話は進んでいるようだから、もうすぐかもしれないわ」
「エルフィお姉様がパルリティスに行ったら、もう会えなくなってしまうのよね?」
「そんなことないわよ。式典や行事の時にはエトルリアに戻ってくる予定よ。それに魔法で一瞬で行き来できるのだし」
「そうだぞ?パルリティスには俺もこの間、任務で行ってきたんだが、行くのも帰るのも一瞬だった。エルフィが来れなくても俺達が行けばいいだろう」
「たしかに……私まだこの国から出たことがないのよ。いつかは私も他の国に行ったみたいわ」
今は家族がみんな一緒に暮らしているけど、この先ずっとこのままだとは限らない。そう思うと、寂しくなって、私はエルフィお姉様に抱きついた。
「あら、甘えん坊さんになっちゃって。デビュタントの女の子はどこへ行ってしまったのかしら」
「エルフィにだけか?ベル」
メルヒールお兄様もくっついてきて、少し暑苦しくなった。
扉が開いた音がして顔を上げると、エルお兄様とルークお兄様が出てくるところだった。
「俺達は入れてくれないのか?」
「お前達がいなかったのが悪い」
「もちろんエルお兄様もルークお兄様も入れて差し上げますわ」
「おっと、デビュタントのお姫様はお優しいのですね」
「もちろんですわよ」
5人で笑う。私達は、ユスタリカ王国で最も力を持っていると言われているノラサグリ公爵家の子供達。父は5大属性を操り王国騎士団の団長として活躍、その美貌でも知られているユーグレット・ノラサグリ。母は勉学、魔法共に長け、その美しさや優雅さ、知己に溢れた言動で評価されているルージュ・ノラサグリ。2人の学園での恋はシンデレラストーリーとして語り継がれるほど夫婦仲も素晴らしい。そしてその2人の子供である私達にも注目が集まっている。
久しぶりに5人揃った私達は、沢山のお話をした。私のデビュタントの準備の話、ルークお兄様の学園での話、エルフィお姉様のパルリティス王国での話。しばらく笑いながら話していると、中まで聞こえたのか側仕え達が扉を開けて出てきた。
「ここにいたのですね、それに皆さんお揃いで。随分と探し回ったのですよ」
「あなた達の目を盗んで抜け出すのは大変でしたわ」
エルフィお姉様がくすくすと笑う。他の4人も同じようなものだ。それぞれの側仕え達に軽く叱られながら、ホールに戻った。
「ベル。やっと見つけたぞ。どこに行っていたんだい?」
「お外でみんなでお話をしていたの」
「あら、とっても楽しそうね」
お母様とお父様が微笑みながら私の頭を撫でた。
「さあ、最後に挨拶をしたらそろそろお開きにしよう」
パーティーの終わり間際まで沢山の人にお祝いの言葉をもらい、うきうきでお部屋に戻った。すぐにナティが私をお風呂に入れ始める。
「たくさんの人と挨拶したのよ!とっても疲れたんだから。でも、すごく楽しかったの。……それに王子様ともお話できたのよ!お2人ともすごくかっこよくて……」
「はいはい、よくわかりましたよ。そろそろ前を向いてくださいな。シャンプーが目に入ってしまいますよ」
「……はーい」
ナティアに頭のてっぺんから爪先まで洗われ、ほかほかの状態でお風呂を出る。その頃には私は眠すぎて、目を閉じそうになるのを必死に耐えていた。
「今日はエルフィお姉様とお兄様達と一緒に寝るのよ、ナティ……」
ずっと前から、兄妹全員で約束していた。この日は、みんなで1つのベッドでお話をしながら寝よう、と。昔から何かイベントがあるたびに、みんなで寝るのが我が家の習慣になっている。そのために、びっくりするほど大きなベッドが1つあるのだ。
「ベルお嬢様、皆様もすぐにいらっしゃいますよ。お疲れでしょう?先にベッドに入っていましょう」
「いやよ。待っておくの……ぜったい……」
駄々をこねる私を、しまいにはナティがベッドに押し込んでしまった。その瞬間、私は眠りについていた。




