第三幕:氷の視線
やあ、君。彼女がきたぜ。誰かって? ボク風に言えば、スニィフラゥ。これじゃあ、味気ない? じゃあ、雪女さ。これでいい。第二幕では、小屋の扉を押し開けた雪女が、巳之吉たちを見つめたとこまで話した。彼女は、約二畳ばかりの小屋を眺めている。異物がいることが許せないようだった。ゆっくりと、床を滑るようにして進むのは、まるで魂だけの存在しかないよつに見えた。歩く必要がないんだ。巳之吉は、食い入るように彼女を見つめた。彼の無意識は股間へと手を伸ばしていた。ああ、巳之吉は欲情してた。彼女を見た時、すでに彼は彼女の中を見ていた。
やあ、君。彼女がきたぜ。誰かって?
ボク風に言えば、スニィフラゥ。
これじゃあ、味気ない?
じゃあ、雪女さ。これでいい。
第二幕では、小屋の扉を押し開けた雪女が、巳之吉たちを見つめたとこまで話した。
彼女は、約二畳ばかりの小屋を眺めている。異物がいることが許せないようだった。
ゆっくりと、床を滑るようにして進むのは、まるで魂だけの存在しかないよつに見えた。歩く必要がないんだ。
巳之吉は、食い入るように彼女を見つめた。彼の無意識は股間へと手を伸ばしていた。
ああ、巳之吉は欲情してた。
彼女を見た時、すでに彼は彼女の中を見ていた。
女は茂吉を見下ろすと、かがみ込む。
彼女の黒髪がサラッと音を立てたかのように、毛先が下へと流れる。
そのまま彼の顔にかかる。黒いヴェールのように。
隙間から漏れでる風のような音が彼女から漏れた。ヒュオーォと音が高くなり、静まる頃には茂吉は完全に凍っていた。半目になって霜がところどころ棘みたいになっていた。薄く開かれた唇が少し大きめに開かれた。
ああ、彼の何かが虚空へと向かっていく。だけど、女の髪は見えないはずのものにまとわりつき、ゆっくりと取り込むんだ。
一通りの食事を終えた彼女は、床を踏んだ。それから、足音を立てて、彼に近づく。さっきよりも、生々しく色っぽくなっていた。頬には血の気がもどっているように見えた。白い肌も、何か血の通ったものになっている。
彼女は巳之吉へと歩く。
「なんて、美しい子だ」と、初めて彼女から声が聞こえた。
「美しい子だ。死なせてしまうには惜しい」と巳之吉を頭から足先まで舐めるように見つめる。瞳のない氷が、見つめてくるんだ。
ボクは君を引っ張って、後ろに下がらせる。
「ああ、死なせてしまうには若すぎる」
再び、女からの言葉。嘲るようにして、巳之吉の高まった反応に手をやる。
「ああ、ああ、なんという男だろうね。わたしを見ている。その奥まで覗こうとしている。お前に知られてしまうようでーー」
唄うように、巳之吉の反応を楽しむ。
巳之吉は目を細めた。
「怖いのか、化け物めーー」
雪女の頬がぴくついた。
「ああ、ああ、怖いとも。その目はなんだ?」と彼女は手を巧みに動かして、巳之吉を観察し返す。
巳之吉は下唇を噛むと、彼女の胸へと片手を伸ばして掴んだ。
彼らは互いに観察しあった。
見つめ合う、そこには興味しかなかった。
彼らは話すのをやめた。
(こうして、雪女の帯と共に第三の幕は閉じる)
女は茂吉を見下ろすと、かがみ込む。彼女の黒髪がサラッと音を立てたかのように、毛先が下へと流れる。そのまま彼の顔にかかる。黒いヴェールのように。隙間から漏れでる風のような音が彼女から漏れた。ヒュオーォと音が高くなり、静まる頃には茂吉は完全に凍っていた。半目になって霜がところどころ棘みたいになっていた。薄く開かれた唇が少し大きめに開かれた。ああ、彼の何かが虚空へと向かっていく。だけど、女の髪は見えないはずのものにまとわりつき、ゆっくりと取り込むんだ。一通りの食事を終えた彼女は、床を踏んだ。それから、足音を立てて、彼に近づく。さっきよりも、生々しく色っぽくなっていた。頬には血の気がもどっているように見えた。白い肌も、何か血の通ったものになっている。彼女は巳之吉へと歩く。「なんて、美しい子だ」と、初めて彼女から声が聞こえた。「美しい子だ。死なせてしまうには惜しい」と巳之吉を頭から足先まで舐めるように見つめる。瞳のない氷が、見つめてくるんだ。ボクは君を引っ張って、後ろに下がらせる。「ああ、死なせてしまうには若すぎる」再び、女からの言葉。嘲るようにして、巳之吉の高まった反応に手をやる。「ああ、ああ、なんという男だろうね。わたしを見ている。その奥まで覗こうとしている。お前に知られてしまうようでーー」唄うように、巳之吉の反応を楽しむ。巳之吉は目を細めた。「怖いのか、化け物めーー」雪女の頬がぴくついた。「ああ、ああ、怖いとも。その目はなんだ?」と彼女は手を巧みに動かして、巳之吉を観察し返す。巳之吉は下唇を噛むと、彼女の胸へと片手を伸ばして掴んだ。彼らは互いに観察しあった。見つめ合う、そこには興味しかなかった。彼らは話すのをやめた。(こうして、雪女の帯と共に第三の幕は閉じる)




