55-2 二つの闘気
毎日投稿一日目。
はい。昨日は疲労困憊の末書けませんでした......今日からまた毎日投稿頑張ろうかなと思います。
では楽しんでください!!
「いやぁ.....聞き返すと結構称せる言葉に塗れてんだなあいつ」
祐はけたりと笑った。
蝶を追い辿り着いた先が、山の頂であった子供のような笑みに周囲は目を曇らせる。
「ふふっ.....あれとお茶を共にするとは、祐殿は将来大物になるね」
清玄はその素っ頓狂な祐を見つめて温暖と微笑む。
「笑い事じゃねぇだろババア!!相手はあのヨハンだぞ!?」
「別に良いんじゃないかい世嗣。現に祐殿の身体に異常はない。それどころかヨハンは祐殿の異常を治してくれた.....私たちは借りを作ったという訳に成るね」
端的に言葉を述べると、清玄は祐を見つめる。
棘が無く、何時まで見ていても一切の傷を負わない様な視線。
清玄は余りに陽光の様であった。
「祐殿。ヨハンは何用で日本に来ていたかご存じかな?」
「えっ.......確か観光とか言ってた気がします。紙袋一個持ってたし」
頬を掻きながら祐は天井を見つめる。
「そうかい。なら、特段今年も問題は無いと見えるね......じゃあ本題に移ろうか。─────四季。怪事件の発生件数を頼むよ」
『承諾:畏まりました。情報処理:六月から現時点からの怪事件元を北から申し上げていきます。
北海道二十四件。東北十一件。関東百十三件。中部北陸二十一件。関西五十七件。中国九件。四国同じく九件。九州三件。沖縄零件。となっております。前年度と比べまして、大凡三パーセントほど件数が上昇しております』
祐の隣に座る四季は、全てを記憶しているように口を開いた。
人の手を介さない川の流れのように澱みが無い。
(感知が無かったから分からなかったけど.......このヒト)
だからこそ四季には違和感があった。それは五感を通じたモノに留まらない。
この世のモノとは考えられない異能のそれも対象として扱われるのだ。
「関東圏は相変わらずだね───世嗣、そして祐殿頼むよ。」
「はい」「へぇいへい」
返事は下手に違った。合わせる気など毛頭ない二人だが、そもそもの作法がまるで違った。
真意に首を傾げる祐とは対照的に世嗣は、気の抜けた炭酸水のようなモノである。
「その他の地区も同じく、皆一様に頑張ってくれると助かるな。それじゃあ何か要件がある者はいるかい?」
清玄の言葉の終わり際、世嗣が煙を上へと吐き捨てる。
「ちょっと良いかババア?.....坊主。傀儡師の一件だが、野郎たちは今後も核を狙い続けるとのことだ。どうやって第三魔法を保管してるかは知らねぇが、何が何でも死守しろ。無論俺も協力する」
「──────分かってるよ。一応おっさんにも伝えておくけど、魔術師を雇ってるのは弐番街の研究者らしい」
途端の豪語。それは重く鈍く触れる面積が異様に巨大であった。
「ほぉぉ......それは面白い発言だね。これじゃ三十年前と同じと言ったところだね世嗣」
しかしながら、その祐の言葉に今一番に反応したのは清玄であった。
珍しく邪な雰囲気を顔に含ませる。
赫怒であり、歪である。
年を取らぬとはいえ、そこには何十年と生きて来た人間の妖艶さがあった。
言うなれば魔女であった。
「嫌な気はしてたが......んじゃぁ第三魔法を守ってるのはお嬢ってところか?」
「あぁ。時雨さんに張り込みで頼んでるよ。魔力も感知も治ったし、俺も明日に帰ろうかなって思ってる」
「分かった──────んじゃ今夜あたり俺も飛ぶとするよ」
二本目の煙草はまだ吸えたであろう。
人差し指の二本分のそれを世嗣は灰皿に突き込むと徐に立ち上がった。
「戦争か......」
世嗣は襖を開けると音と同時にふとそう呟いた。
しかしその言の葉は余りに重たく、低俗な襖の開閉音では隠せることなど問題外の話であった。
那須世嗣という男の存在感は凄まじいと言わざるを得ない。
あの人間が一人部屋から居なくなった刹那、一室の広大さをこれでもかと祐に感じさせた。
「今回の会議はこれにてお開きかな。四季。他の者にも報告を頼むよ」
『返答:畏まりました』
「そうだ。祐殿と景千代殿は少し居残りになるけど良いかな?」
平然と陽の雰囲気を纏った清玄は、立ち上がる祐と景千代を呼び止めた。一手早く景千代は、腰を下ろす。
「四季はもう休んでくれて構わないよ」
無言と四季は頭を下げると、祐の後方から音もなく去っていく。
並々ならない面々はやはり歪であった。
「居残りって何かあるんですか?」
「勿論だよ。景千代殿には以前から言っていたけど、明日から祐殿には景千代殿と暫く鍛錬を行ってもらうよ」
散々と既知の言葉を耳にしてきた祐には、会心の一撃と言わざるを得ない一言である。
──────誰と
──────誰が
祐の中で迂闊にも思考が混雑し、口がぽかりと開いた。
問ですらない清玄の言葉。
完結に、端的に述べられた説明。
しかしそれでも二つ返事で理解を表すのには時間が必要であった。
「時雨殿から祐殿の戦闘方法を聞いていてね。それが景千代殿と酷似しているモノだから、祐殿の成長も兼ねてと思ったけど。────どうかな?」
「.......えぇっと。要するに俺と景千代さんとでトレーニングと?」
言い換える必要のないそれを祐は口にした。
清玄は目を細め、口角を微小に吊り上げると無言で頷いた。
否定の要素は無い。詰まる所二人っきりが再現されるという事。
吐き気が祐を襲ったのは、恐らくその要素のせいなのだろう。
「────まぁあんたに拒否権なんか無いからね。明日朝五時半、中庭集合で」
二人の会話に横差しに言葉を乗せると景千代は、えらく不敵に嗤った。
はぁぁぁ......
煙草なんて吸っていない。
肺に煙なんか溜まっていない。それでも祐は溜まった何かを吐き捨てた。
──────暗転。
翌日の早朝。
清玄の浴衣を薄めたような色が、空を一面と覆った。雲は無く、遠くの先で宵の明星が薄っすらと祐を見下ろす。
「暑いなぁ.....ってかもう五時半すぎてる気がするんだけどなぁ」
祐はまだ水気の残った髪を犬のように振るった。
ぴしゃりぴしゃりと小石に付着し、羽化する以前の蛹のような地味さを纏う水玉が完成する。
スマホの電源を付けると、眠気眼に痛々しい光の矢を突き刺す。そこには五時三十五分の表示。当然のことながらずれは無い。
「初日から遅刻て.....流石に温厚な俺もぶち切れですよ。景千代さん」
はぁぁぁ.....
冬に似通る空色でも大気は夏のそれ。無論水蒸気と化した吐息など見えるはずも無かった。
一体何と表せばよいのか祐には分からなかったが、縁側と土間との空間に轟々とした音がどもり鳴る。
焦燥の足音でも言えるのだろうかと祐はふとそう考えた。
こんな早朝に目を覚ます人間がどれ程居るのかは知らない。ただ清玄でない事は確かなのだ。
「はぁぁ....はぁぁ.....良しっ!!遅刻してないな!!」
立つ鳥でさえ跡を濁し飛ぶような声量に祐は顔を顰めた。
「五分遅れっすよ.....」
「えっマジ....ふんッ!!師匠は弟子の後に来るもんだ。それにお前、早く来たんだったら準備運動の一つでもしておけ!!」
「はぁあ.....すいませんでした」
謝意など含めるわけもなく祐は、小さく頭を下げた。
景千代の容姿は昨晩と変わりが無かった。仮に寝坊していたのであれば、顔や腕に多少なりともの浮腫みが生まれるはずだがそれがない。
では、何故遅れたのか。それは言うまでもなかった。
(ぜってぇ迷っただろこの人)
準備運動のがてら祐は横目で息を整える景千代を見つめた。
「それじゃあ本格的に鍛錬を始める。────けど、まずそもそもあんたの実力を知りたいから俺と一戦勝負しろ」
「えぇぇえ、」
「えぇじゃない!!さっさと構えないと本気で俺はお前を殺しに行くからな!!」
猛禽の類と差支えが無い鋭い眼光。
景千代は腰を低くし、左手を前に突き出し右手を鳩尾の辺りに置く。
攻守の両立を図ろうとはしない攻め一点の構え。余りに景千代らしいと言えた。
殺しに行く。そこに嘘は無い。
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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。




