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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
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54-3 真理への到達

毎日投稿三十六日目。

少々重ための話が連続しましたが、書いている身からすると莫迦楽しい。


では、楽しんでください!!

 常識と非常識とが組み込まれた無限であり矛盾を極める螺旋。

 それは鬼川祐と言う人間を席巻し、積み重なった思考の建造物を破壊し創造し直した。

「待てよ。それじゃあ魔陰は人のくせに人を殺すってのか?」

「そうだね。けどそれは特段可笑しなことではないと思うよ。だって人は人を殺すからね」

一般常識ではある。だが心のない空虚な事実であった。

「さっきも言ったが、僕はこの事実を知り得ているだけで解決方法やこの事実がどのような学術的理論で動いているのかも分からない。だからこれ以上の問は何も解決しえないよ」

(ついで)の問を読み切った魔術師は両手を組みその上に顎を乗せた。

 陽光に照らされた翠髪(すいはつ)は鈍く太く輝き映る。

「じゃあ答えられる問いを投げるが、構わねぇな」

「あぁ良いよ」

「どうしてあんたはそれを知ってる?俺の知り合いに魔陰の研究に命を掛けてる人間が居るが、そんな真理は影も形も捉えられていない」

ふと浮かび上がった研究者としての博士の顔。祐は声低くそう問う。

「........難しい問いだね。ただ一つ言えることは、ある日突然神の啓示のようにして降り注いだ訳では無いという事だよ。君は知らないと思うが千年前、東の国に聳える天山で三天と人間との戦争が起きたんだ。僕はそれを平安大決戦と呼んでいるんだけど、その時全てを見通すと言われた天嶽(てんがく)と一人で相対した。それで偶然に真理知った。と言うのがもしかしたら答えになるかもしれないね」

魔術師は嘗ての記憶を探り探りに言葉を紡いだ。理屈が通り、何も知らない祐に首を縦に振らせるほどの情報である。

「まぁ君の知り合いが知り得ないのは、単純に人間の尺度では捉えることのできない真実だからだ。人間は五感で認識できないモノに対して確たる定義を残せない。未だ幽霊や妖怪や宇宙人などと言うオカルトが世界で渦を巻いているのはそれが理由だよ」

手持無沙汰に成ってか魔術師は、新聞に意識が向いた店主にコーヒーのお代わりを頼んだ。

 

 時刻は十二時手前。早朝に腹に詰めた食事の消化が済み、胃が(から)となる時間帯。

 しかしながら食べ盛りな高校生である祐の腹は一向に食事を求めない。

「話の続きだけど、魔陰だって一種のオカルトだ。僕たちはそれを視認する方法を持ち得ているが、大多数の人間は感じる事さえ出来はしない。だから怪事件何て可笑しな名前で未だに呼ばれているんだ。それも神代の時代から何も進歩もしないで」

湧き上がる愚痴は、魔術師の舌を加速させる。

 祐は結露という霜が降りた硝子のコップを手に取り、カフェオレを喉に通す。想像しようも無い程の脳の酷使に糖分は慈雨と大差がない。

「.........人の信仰と言うのは、神の啓示以上の力を持つと僕は思うんだ」

「随分藪から棒だな」

祐はグラスを水滴が描いた丸印に合わせて置いた。

「イエス・キリストは、隣人愛を唱え自らを生贄とし人類の贖罪を晴らした。そして復活したとされ神にさえ上り詰めた異形のモノ。この世が平和で愛に満ちる事を望みそれを弟子に伝えた結果どうなったか君は知っているかい?

 中世の度重なる戦争の火種にして、争いの源へと変貌を遂げた──────可笑しくないかい?同じ神を信仰するモノ同士が、信仰の仕方に相違があるだけで人を殺すんだ。正論を言う人間を異端とし、命を軽んじ人を殺す。肌の色が違う人間を劣等種とし、宗教の布教を大義名分とし現地のモノの命を殺す」

気付けば魔術師の拳は堅く握られていた。ほんの少し力を付加すれば腕は震えだす、表面張力で耐えているグラスの様である。 

 千年という途方もない時間。

 十回の世紀末を体感する人間の心理。

 文字ではなく、眼で耳で肌で鼻で舌で捉えたオカルトではない記憶は生々しい。

「僕は千年生きて矛盾螺旋とでも言える真理と、つまらない人間の真理たる心理を得た」

魔術師はまるで何十年ぶりかに会った同級生に私生活を伝えるようであった。

 どうして、自身はこんなにも詰まらない言葉を人に聞かせているのか疑問に感じた魔術師はふと顔を上げる。

「.......すまないね。こんな面白くも無いような愚痴を聞かせて、普段はこういう事は口にしないんだけどねぇ。僕も年かな?」

そう口にすると魔術師は簡素に乾いた微笑みを浮かべる。

 解離性同一性障害。言わば二重人格やら多重人格とされる正式な精神病。魔術師はそれに似通っていた。

 ───人の死。

 ───命。

 ───殺人。

 どうしてか人類の命題とも呼べる言葉を口にすると錆び付いたレバーが、がゴンと音を立てて入る。

「つまりあんたは、魔陰も信仰によって人を殺すと?」

つい先ほどの会話の道筋通り。その突飛な内容を前提かと祐は問うと魔術師はご名答と顔に刻んだまま微笑み首を縦に振った。

「彼らには彼らなりの信仰が存在する。指標となる神が居て、排除すべき忌敵(いてき)が明確化している。だから彼らは僕たち人を殺す。そして僕たち人もあれを殺す」

「言い得て妙だな........信仰ねぇ」

祐は木製の椅子に背を預けると、天井を見上げた。

 決して明るいとは言い難い電球が埋め込まれ、天井に付けられたサーキュレーターの羽がちらちらと視界を占領する。

 カフェの店主は、二杯目のコーヒーを運ぶと会釈もせずに定位置に去っていった。

「世間話のつもりが随分道が逸れてしまったね........けど、僕らにはこれくらいの会話が身丈に合っていると思わないかい?」

「────そうかもしれないな。アニメの話なんてきっとむず痒くて出来そうにない」

二人は揃って自嘲するような笑みを浮かべた。

 祐はグラスと、魔術師はカップを手にすると同時に呑み同時に下ろし同時に目を向ける。

「君はどうして退魔の衆に入ったんだい?」

「成り行きだよ。別に自分から希望したわけじゃない。ただ頭を下げられて頼まれたから首を縦に振った。それだけだよ」

祐はそれを、日常の一幕のように語った。

 本当に心の底から何とも思っていないような口振りに魔術師はふと嗤い、そして睨み付けた。

「──────イカレているね。要するに君は他人の為に素性も知らない組織に足を突っ込んだという事になるけど?」

「構わねぇよ......そもそも俺が魔陰を殺すようになったのもある人からお願いされたからだし」

呼吸。心拍。行動。声。祐は体から発せられる情報の全てを一定にしたまま言い切って見せた。

 二杯目のコーヒーに再び愉悦とした笑みが転写される。

「人の為。という精神性か......流石は非魔術師という所かな?」

だがその笑みは自嘲であった。

 ペースを速めた魔術師は、湯気の立つコーヒーをがんがんと喉に通していった。

 気が付けば二杯目のコーヒーは既に消えている。

「僕から祐へ最後の質問をさせてもらうよ。



 ──────僕が君の最も愛する人を殺したとしよう。

 ──────僕が抵抗することを止め、君は簡単に僕を殺せる。

 ──────殺し方は何だって良い。殴殺、焼殺、射殺、斬殺。

 ──────その時君はどうやって僕を殺す?」

 それは意地の悪さを煮詰めた問題であった。

 男はまるで祐に死に方を選ばせているようである。

「流石は魔術師だな......考え方が限定的過ぎて話にならねぇぜ。──────俺はあんたを殺さ無いよ」

祐は意趣返しに言葉を紡ぎ、そしてカフェオレを胃に流し込んだ。

「ふふっ。お人好し、何て生易しい言葉じゃ言い表せない異常だね。いやこの世の異端と言ってもいい。もしかして裁かれる事を恐れているのかな?じゃあ法的外とし、」

「二度言わせんなよ。俺は人殺しじゃないし、これから先も人殺しになるつもりはない。それがどんな状況に巡り合ったとしてもだ」


 それは妄言と定義出来る台詞であった。

 復讐に命を燃やす者の鼓膜を揺らせば、それだけで殺せるほどの威力を孕んでいる。

 そんな事は出来る筈のない妄想だと魔術師は否定できた。だが出来なかった。


(何て.......何て.......目を向けるんだい──────君は)

 魔術師の前に座る白髪の少年が、余りに純粋な輝きを翠眼(すいがん)に宿していたからだった。

「────なるほど。やっぱり君ら退魔の衆とは反りが合わないね。千年前負けておいて良かったよ」

吐き捨てるように言葉を紡ぐと、魔術師は右手に握っていた千円札三枚を机に置いた。

「楽しかったよ。鬼川祐.....いずれきっとどこかで会うだろうね」

立ち上がりざまハイネックの隙間から猛獣に襲われたような切り傷が垣間見えた。余りに痛ましく祐は問う事を止める。

「それと君の魔力と感知はもとに戻しておいたよ。それが無いと君は仕事にすらならないだろうからね」

「えっ?.........」

からりと魔術師は去り際に伝えると、出入り口にまで歩いて行った。思い出したように魔力を回すと魔術師の言葉通り祐の生命線は復活を遂げている。

「いつ!!何時治したんだ!?触れてすらないのに!!.......」

木製の椅子を後ろに倒し、勢いよく立ち上がると祐は口を大にした。

「常識に縛られない方が良いよ。特に僕が開いてであればね.......忘れたかい?僕は大陸最強の魔術師にして神秘を司る魔法使いって事をね」

「───それじゃあ何時でも俺を殺せたって事か?」

呆気にとられた祐は苦し紛れの確認を取る。

「いやそれは無理だ。僕は君を殺せない」

扉に着いた鈴が軽快な音を鳴らす。魔術師はその音に溶け居るように姿も魔力も消した。

 祐の感知すら届かぬ遥か先へと。



 感知が回復したというのに、祐の辺りは静かであった。

 まるで未だに感知が戻っていないかのように。気が付けば十二時十分、祐の腹が思い出したように減る。

「........魔術師。いや魔法使いか。名前聞いておけば良かったな──────なぁおじさんここってランチとかあるのか?」

「ナポリタンか、オムライスか選べ」

店主は面倒くさそうに新聞紙を折りたたむと、二択を告げた。

「んじゃナポリタン」

「──────そこで座ってろ。五、六分ありゃ持って行ってやるよ」





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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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