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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
55/64

51 都入り

毎日投稿三十一日目。

疲労困憊状態で書いたので、誤字脱字があるかもしれません。


では楽しんでください!!

 会話と言う会話が広がらぬまま、二車線と二車線を合わせた四車線に格式がぐんと上がっていた。

「ここって信号無いんだな」

「高速道路って言うんだよ......」

祐の小さな疑問に対し景千代は、気だるげにそう答える。逐一ツッコミを入れている事にそろそろ嫌気がさしてきていた。

「へぇ....」

祐は乾いたスポンジかの様に、辺りの景観をそのまま吸収する。

 

 祐はみるみると人間に変貌する。

 

車は速度を落とし、広大な駐車場に入った。しかしながらそこに金銭は発生しない。俗に言うパーキングエリアとされるモノである。

「えぇっと....鬼川祐だっけ?トイレ行きたかったら行っていいぞ」

車をひた走らせる事、三時間余り。愛知県に突入し目的の京都まですぐそこという所であった。

「あのデカい施設の中に在るのか?」

「それ以外に何処にあるって言うんだ?」

景千代は当たり前を極める祐の問に呆れたようにそう返す。シートベルトを外すと景千代は背凭れを引く。ブロンズのボブがふわりと舞うと瞬間、花のような匂いが祐の鼻腔を通り抜けた。

「寝ないと言ったが、ここで少々眠る。十時手前には起こせ」

そう言い残すと景千代は目を瞑り、まるで死んでしまったかのように静かに眠った。

 瞳の下にはかの虎丸涼を思わせるような濃い隈がびっしりと影を残す。

(仕事遅くまでとか言ってたけど、多分一睡もしてなかっただろうな......)

「有難うな景千代さん」

祐はふと微笑むと、不健康な顔をした白雪姫のような景千代の頭をふわりと撫でる。

 瞬間、祐の右手を彼女の腕ががしりと掴む。秒針が角度を付けていく毎に握力は加速度的に上がっていった。

「痛い痛い痛い!!!」

祐は咄嗟その手を捻じり外した。心霊現象の方がまだ可愛げのある不可思議な現象に心底震え、荒げた息遣いで手首を見つめる。

 怨念かそれとも憎悪かは不明な祐であるが、確実に負の感情で働いた動作は確かに祐の手首に刻まれた。

 血流が手首により滞り祐の手は黄色く変色する。そして握りつぶされた部分は赤く血が滲む。

「.......寝てるんだよな?」

烈日に焼き尽くされたかのような痛みに蝕まれた手首を摩りつつ、祐は景千代の寝顔を見つめる。

 やはり藤原景千代は寝ていた。それは嘘寝ではなく意識が飛んでいる事は確実である。

「つまり本能って訳かい......」

心からのツッコミを言い残し、祐は車を飛び出た。

 


 都心から離れた山道(さんどう)の際は、如何せんに空気が澄んでいた。恐らく祐の思い込みによるプラシーボ効果なのだろう。しかしそれでもよかったのだ。

 自身を囲んだ鳥籠(ろうや)から飛び出した鳥がそこに喜びに舞うとの同様であるからだ

「.......けど、やっぱりこの髪色は目立つなぁ」

仕事の行きか帰りか。家族旅行の行きか帰りか。そこに何か大きな差が在るのかと問われれば確実に否定する事象ではある。

 だがそこに溢れかえる人間は皆全てが祐を訝し気に見つめる。

 今時髪を染める人間などこの日本にも五万と居る。それを差し引いてもなお祐の髪色は、異常と言える。


 白線の無いアスファルトの上に、己の道を見つけるように祐はトイレの入り口に向かう。

 青の逆三角形。淡いピンクの三角形の簡易的な性別のシルエット。当然祐は青の方に足を踏み入れた。それは祐の中で当然の事であり、世論的な判断でもまた同様だった。

「おいそこの娘。女子トイレは左手側だぞ!」


 「はっ?」


 遅れて踏み込んだ足を止めた。

「駄目だよ君。女子トイレは反対だよ」

振り返った先の人間は、皺がれたような声の主としては妥当な老父が立っていた。

 転ばぬ先の杖とは言わないが、その老父は杖の先が四肢に分かれた杖を突いている。

「もしかして俺の事言ってますか?」

祐は自分の顔に指を突き付けると、老父は愚問であるかのように強く二度頷く。一度確認を終えたというのに祐は辺りを見渡したが、あたりに長髪の男は居なかった。

「今のご時世的に、そう言う事を口にするのは少々心苦しいが.....それでも周りの為にも女子トイレに入ってくれんか?」

「えぇっと.....あのお爺さん?俺は男ですよ」

「いや心は男なのかもしれんが、やはり世の中の規律的に......」

祐の弁明が余計に心の苦しみを加速させた。

「だからぁ男ですって」

「いやだからそういう訳には」

「だーかーらー!!」

と。さながらの漫才の一コマは茹で釜に当てられたように熱量を増していく。

「じゃあ君が男だと言うなら、ちんこ見せてみろ!!」

冷静に字面をなぞれば、セクハラは愚か何かしらの性的犯罪に問われる言葉を老父は口にする。

「それじゃあ見してやろうじゃねぇか!!」

熱に当てられまともな思考回路のできなくなった祐は、人前だというのにジャージを下ろした。まだその下にはパンツが在るわけであり、男の証明には要素不足なのだ。

 だが老父は愚か、辺りに集まってきた人間の顔が恐ろしく青ざめた。


──────いや何かを忘れていないか?


 祐は辺りの反応を前にして、人生の命題であるように疑心を反芻する。

 目覚めてから自身がどのような軌道を描いていたのか。朝早く起きたという事実以外特段これと言った、異変は存在しない。しかし祐の心音はみるみると躍動を強めた。それは何か大切な事を忘れているぞと警告する信号機のようである。


 首に支柱を撃ち込まれた様に祐は首を下に傾ける。

 視界の先。そこには自身の陰茎。


(そうだ。今日の俺。ノーパンだ)

祐は全てを悟り、全てを受け入れた上で天を仰いだ。

 これが夢であってくれと。仮に現実であれば時間よ戻れと。だが時の神様はその御業をこの人間の為に行使することは無かった。

 唯一神が祐に与えた事は、横着はするべからず。という根本の教えだけであった。



 十時手前。祐は夢さえも見ない状態の景千代の肩をぐっと押し込む。起きないと宣言した割に彼女は軟弱な目覚まし一度で目を覚ました。

「あぁ?.......あぁ鬼川ね。もうそんな時間か」

小一時間程度の睡眠を終えた景千代の顔には一切のむくみが無い。だが濃い目の隈は未だ存在感を陰から支える。

 腹筋の力で身体を起こした彼女は、日向ぼっこを終えた猫の様に伸びをする。

「........どうしたお前?」

バックミラーを通し、景千代は欠伸混じりに問う。鏡に映った祐の顔は親にドギツイエロ本を発掘された子供の様に、消沈としている。

「いや何。試合に勝って、人生と言う勝負に対して大敗を期しただけだ」

「あっそう.....これから京都まで直行するけど、もう大丈夫だな」

背凭(せもた)れを戻し、右手でシートベルトを引き景千代は祐に確認を取る。最早答える事を忘れたように、祐は堅く頷いた。

 ──────暗転。

 

 滋賀の草津市を抜け、東海道本線に沿うようにメルセデスベンツは道を駆けた。

 魏呉蜀が争った三国の世。名を轟かせた将軍の名馬となった赤兎馬とあるが、この車はそれに該当するに至る。違う点は、その色の違いであろうか。

「そろそろ京都市に入るからな」

粗方の眠気が飛んだ景千代は、軽快にハンドルを捌いていた。

「退魔の衆の本部は京都市のどのあたりにあるんだ?」

露出したことなど露知らずと言わんばかりに、運転席と助手席の間から顔を出し祐はそう問いかける。

「五条の極東に位置してる。元々東の国から侵入してくる魔陰(まおん)を殺す為に設立された期間だしな」

歴史を踏まえた説明を簡素に終えた。

「へぇ五条なんだ......」

祐は顔を引っ込めふんぞり返りながらにそう口ずさむ。

「.......お前外の世界の常識知らないくせに、五条が何かは知ってるのか」

バックミラーに映った白髪の少年を視界に入れ込むと、眼を細めながらそう聞き返した。

「えっ?......確かに何で俺知ってんだろ」

目から鱗が落ちるとは言う。

 どうしてか祐は、それを旧知として扱っていた。そしてその事実に対し祐は今の今まで疑心を抱かなかったのだ。

 それは人間が歩くことに特別な意識を向けない事と似ていたのだ。


 知らぬはずの常識は、何時ぞや祐の体に刻まれた情報にすげ変わっていたようだった。

「自分で自分の疑問が答えられない時だってあるし。変に気にしなくても良いんじゃない」

いつの間にかフロントガラスの先を注視していた景千代は、五時間の付き合いで初めて祐を庇うような言葉を吐いた。

 だが不思議とそこに対して心が休まる事は無い。それどころか少々の気味悪さに、乗り物酔いが加速しそうな祐であった。




 

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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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