50 外と内
毎日投稿三十日目。
楽しんでください!!
虎の威を借る狐という事があるが、どうやらそれは彼女を指す事なのだろう。祐は直観的にこの女児を見てそう感じた。
多めに見積もっても身長百四十程度であり大人の車を運転できるとは少々考えにくかった。
「......何だ?俺の顔に何か付いてるか?」
つでこの女児どういう訳か、俺っ娘である。余りあるその情報量に祐は雑多に目を瞑る。
「いや何か付いている訳では無いけど......あんたが俺を迎えに来た人なんだよな?」
「何を当たり前のことを言ってるんだお前!?それ以外に何の目的で俺がここに居ると?」
愚問と言わんばかりにその女児は眉を顰めた。
開いたドアの隙間から、車内を祐は見渡す。しかしそれ以外に人は無い。
(いやもしかしたら透明人間が運転してたとかだよな?....うんそうに決まってる)
半ば強引に祐は自己完結を終えると、強めに頷いた。
「なぁ嬢ちゃん名前は?」
祐は両手を膝に着け目線を合わせる。得意とは言い切れない作り笑いを浮かべた。
「はぁ?」
その声は地雷を踏み抜いた瞬間の起爆音の様であった。
しかしそれに祐が気が付いた時、余りに遅すぎたのだ。
──────短い手足を精一杯に伸ばした一撃。
それは寸光に見紛う程速く。巨岩の勘違いする程重く。神業の如く流麗であった。
「ゴッフ!!!.........」
祐の体は鳩尾を支点にくの字に折れ曲がった。遠くに吹っ飛ばされることは無いが、祐はその余りある衝撃に息が止まる。
「何がお嬢ちゃんじゃクソガキが。俺は今年で二十九になる大人のお姉さんだ!!」
腹を抱え蹲った祐を見下ろすようにそう宣言する。
──────撤回しよう。虎の威を借る狐ではなく、あの車は虎を封じていた檻であると。
(何たって退魔の衆の人間はこうも人間性に欠けてるんだよ.......)
詰まった気道をこじ開けるよう祐は強めに咳ばらいをする。
「す、すみませんでした。それで麗しいお姉さんお名前は?」
祐は見上げながらに弱弱しくそう尋ねた。まるで分かればよろしいと顔に刻まれたかのようにその女性は、ぐっと胸を張る。しかし残念なことに時雨同様そこに山も谷も出来ていなかった。
「俺の名前は藤原景千代。東日本を主に関東地方を担当してる者よ!!」
「そうですか.....えぇっと景千代さん?その黒い車は貴女様が運転してきたんですか?」
祐は胡乱にそう尋ねると再び景千代は顔を歪める。
「あぁいや別に疑ってるわけじゃないですよ!!そこだけはご勘弁で!!」
王を持ち上げる臣下の様に祐はすぐさまに訂正文を吐く。神頼みかのように両手を合わせると祐は、目を瞑った。
「ふんッ!!こんなだらしのない男が時雨ちゃんの新しい相方なんてな。浩二の方がよっぽど根性在ったように見えたけど」
「いやぁ面目ないです」
祐は後頭部を抑えながら愛想笑いを浮かべ、そのまますっと立ち上がる。
「えっ立った!?」
「はい?」
そんな様子を見て景千代は、眼を見開き声を荒げた。
(闘力は大して入れなかったけど、殴り方は本気だった。何でこいつはもう普通に立ってられるの?いやそもそも覇力で覆ってないのにどうして意識が飛ばないの!?
──────こいつ何者なんだ?
アマゾンの奥深くに居た新種の虫を見るように景千代は、祐を訝し気に見つめる。
「何か立ったらいけなかったのか?」
しかし祐は慣れっこのように景千代を見つめ返し疑心にそう尋ねた。
既にこの男に先程の痛みは無い。いやそもそも殴られた事さえも忘れているようであった。
「べ、別に何でもない!!さっさと後部座席に乗れ!!」
小さな鬼が暴れるように景千代は地団駄を踏んだ。祐はそれを父親の様に宥めると言われた通りいそいそと後部座席に乗った。
ドアを開けると、踏切に足を乗せ勢いを付けながら乗車する。
(そう言えばあの子が、運転するんだよな?ペダルとかって届くのか?)
運転席の対角に座った祐は、初めてのお使いを見守る大人の様に憂慮な面持ちで景千代の姿を見つめる。
特に不安げな要素は無しに彼女は運転席に座る。
右肩の背後に設置されたシートベルトに左手を伸ばすが、届いていない。それも紙一枚程度とかではなく、十センチは足りていなかった。
「ふふっ」
決した子馬鹿に冷笑した訳ではな。ただその愛くるしい瞬間に祐はぽつりと微笑んだ。
「あぁ!?」
だが景千代は、鬼の形相で後ろを振り返った。そして大げさに何かを口にするのだが、そこには音が無い。
──────お。お。う。お。
口の形はこの形状を模る。何かしらの暗号文に他ならない口の動きであり、五十音の組み合わせに準ずれば三万八千四百十六通り存在する。
しかしながら祐の中では、たった一つの候補が他を押しのけ浮き彫りとなる。
──────こ。ろ。す。ぞ。
と。
祐は目を細め愛想よく微笑むが、恐らくもう一発の罰が今この瞬間確定した。
そして車は荒いエンジン音を立て、朝霧を割き進む。
非常識以前の問題外として扱われるのだろうが、祐は外の街で一番に感動したことが在った。
「なぁ景千代。あれが噂の電柱って奴か!?」
「景千代さんなぁ!!........電柱相手に何言ってんだお前?」
電気を日本中に運ぶためだけの支点に祐は、眼を輝かせる。それはただの赤と白の鉄塔を東京タワーと勘違いする子供の用であった。
「もしかして景千代は、素数番街に行った事ない感じか?あの街には電柱が無いんだよ」
「だから景千代さんだって言ってんだろ!?........待てよ。それじゃあどうやって電気を流すんだ?」
バックミラー越しに景千代は祐にそう問う。
県境に一つ一つ地元のルールが在る様に、やはりあの適当に付けたような名の街の中と外とでは常識が違った。
電気とされるものは、元来血を這うように走ると教わる街の人間。そして電線を通して電気は走ると教わる外の世界の人間。それはあの巨大な壁がその二つの距離を測っているようであった。
「..........まぁあの街は電気が地を這うんだよ」
「そうか」
二分の三程度の道路から、二車線の道路へと格式が上がた。主要な路線に入ったのか、まだまだ六時にすらならない時間帯だというのに車の数が格段に増えた。
景千代は徹夜を決め込み三時に突入した時のような顔をした。唾液に濡れた唇とぴちゃぴちゃと開いては閉じると、大袈裟に欠伸をする。
「眠いのか景千代さん?」
「まぁね。昨日は結構遅くまで仕事が在ったからな」
その言葉を確証させるように景千代は再び欠伸をする。大きな口であった。
「別に眠いなら、どっかで休憩しても良いんだぜ?」
「いや別に構わない。逆にここで寝たら俺は暫く起きないだろうし」
「そうか.......」
電柱振り、二十分ぶりの会話であったがそれは数度の繰り言で幕を閉じる。
祐は窓ガラスが収納される際に肘を乗せ、そのまま掌底で顎を支えた。宝石箱の様にすら見えたその街の風景は、ついぞあの街の平凡と化していた。
(いやそもそも、同じ日本なんだしそんなに大差はねぇか)
はぁぁぁ......
祐は溜息を吐いた。それは広い範囲に飛散し、窓ガラスを曇らせる。瞬間的な結露は一瞬にして無に帰る。
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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。




