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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
53/64

49 新たなる退魔のモノ

毎日投稿二十九日目。

穴モグラのように素数番街に籠っていた鬼川祐がついに外の世界へ!?


という訳で楽しんでください!!

 ──────暗転。


 未だ家に居ながらに遊びの予定を憂う事が在る。

 ついぞ二日前までは、楽しみで打ち震えるというのに途端気持ちが沈むかの現象。祐はそれになっていたのだ。

「なぁ時雨さん.....やっぱり打ち上げいかなくても良いよね」

博士の研究所のソファーに横たわりながらそう尋ねる。向かいの席で時雨は丁寧に白鞘の大太刀の手入れを施してた。

「そう言う訳には行かないと思いますよ。閉会式で祐は最優秀賞を二つも取得したんですから」

「だよなぁ.......」

端的な時雨の説明に祐は、濁音にまみれた声でそう頷いた。天井のライトが強く白光りし祐は上を向いた途端手で覆いを作る。

「まぁ顔を出すだけでも良いのではないか?名目上出席はしたという事にしておいて」

そんな祐を見かねてか博士は、研究机と向かい合いながら忠告を促す。

「いやぁそれはそれで何か気持ち悪くねぇか?」

「なら出席する他在るまい」

「だから唸ってんだよ.......」


はぁぁぁ.......


 人生と言う長い尺度で見れば、余りに矮小で何の足しにもならない悩みである。しかし溜息を吐かずには居られなかった。

 だが溜息であれ、祐の疑心を綻ばせる力は宿していない。在るのは少々の気持ちを和らげる、鎮痛剤程度であろう。

「やっぱり三枝さんに休む連絡入れとこ」

祐は日向を失った猫の様に気だるげに体を起こすと、相変わらずボロボロの画面を見つめていた。

 何かを悟ったように祐の顔はみるみる汗ばんでいく。

「.....どうかしましたか?」

余りの剣幕とした様相に時雨は手入れの手を止めた。

「今さぁ、連絡は言ってたんだけど.....」

「はい」

「俺が喋るコーナーがあるらしい」

「そうですか」

一大の発表だというのに時雨は眉一つ動かさず再び手入れに作業を戻した。

 元来祐の日常生活にさして興味のない博士は瞬間も止まることが無い。再び静かで面白みに欠けた研究室が出来あがる。滞りなくまるで既に決められたかのような音の変貌に祐もまた静まり返った。



「.......えっそれだけ?」

「えぇ。別に祐が出席しなければその一幕が無くなるだけですので」

時雨の解答は文字通り完璧であった。事実、祐が出席しなければそれが無くなり出席すればあるだけという端的な話である。

 単純に祐がそれを騒ぎ立てているだけであり、関係のない時雨にとってはと言った具合であった。

「もしそこに対して何かしらの罪悪感があるのでしたら出席したらどうですか?」

追随するように差し出された言葉は、時雨なりのフォローである。

 時間が止まったような祐は、可動域制限を掛けられたロボットの様にスマホに顔を向ける。

 忘年会の出し物程度の精度で操られるたかの如く指は画面をなぞった。







 午後四時半。祐は二月高等学院の宴会場に居た。

 黒髪が乱立するこの国に居るだけで目立つ祐である。しかしこの会場ではそれ以上の理由で視線が集約する。

「......やっぱり来るんじゃなかった」

スタンディングデスクに一人で麦茶を飲む祐は、軽率な判断であったと重たげに嘆く。

 日本一気品のある高校というのは、やはり異彩を仰々と放っている。それはこの会場に留まった話ではなく、校門から宴会場に来るまでの全てに通ずる話である。

「そもそも何で学校にこんなシャンデリアが在るんだよ。普通に考えて可笑しいだろ」

有象無象に溢れかえる異常にぶつくさと祐は文句を垂れる。

 だがそんな祐の疑問を明確に答える人間は居ない。いやそもそもこの祐に近付いてくる人間がいなかった。


 宴会場がこの二月校と分かった以上、やはり皆それなりの格好で足を踏み入れる。

 そんな中ボロボロのジャージ、白の無地ティー、そして謎の黒い羽織。


 やはり異質を極めていた。そんな人間に近付く者など風変りは愚か、変人の域に到達しているのだろうと祐は一人そう考えた。

「俺の糞ったれたコーナーが早めにあるといいんだけどなぁ─────あれ?荻野内じゃねぇか」

頬杖を突きステージの背景として垂れ下がった横断幕に見知った人間の姿が映る。

「あ、鬼川....あんた来てたんだね」

「まぁな」

普段男勝りな雰囲気を纏う荻野内であるが、今宵の宴会においては女子らしい装いであった。

「それにしてもあんた随分な格好ね。他に何か無かったわけ?」

そう口にする荻野内はゲテモノを見るような眼差しである。

「あのなぁ荻野内。この俺がファッションに通じてるとでも?」

外れの映画を引いたと初っ端で確信した人の様に祐は、口を尖らせる。

「確かにそうね.....」

荻野内は否定する気配もなく淡々と肯定した。

「けど髪ぐらい丁寧に結ってもばちは当たらないと思うけど?」

闘力により会場まで走った祐の髪の毛は、静電気を帯びたように枝毛が目立っていた。祐は後ろ髪を掴み見ると、何も言わず髪紐を解いた。

 鏡などで確認しなくとも手慣れている祐は荻野内の姿を舐めまわすように見つめる。特段気まずいなどは無いのだが、荻野内の心音は躍動する。

「な、何?.......さっきからずっと見てるけど」

「あぁすまん.....いやなに随分と綺麗だなと思っただけだ」

「えっ?......」

瞬間荻野内は、メデューサに睨まれたかのように固まった。だがそんな中でも首から上はみるみると紅潮する。

 乙女心を易々と射貫く鬼川祐であるが、当然のことながらに本人はありのままの感想を伝えただけであった。だからこそ祐は髪を結い終えると再び麦茶に手を伸ばした。

「あぁ居た居た。おぉぉい祐君!!」

祐の背中側からドレスアップした三枝が手を扇の様に振りながらそう一言祐を呼ぶ。

「んぁ?」

と何とも情けない声で以て振り返ると満面の笑みである。演じている訳でも女を振りまいているわけでも無く、そこには単なる三枝日和が立っていた。

「やっほー祐君は、何かイメージ通りだね」

「それはこの装いを見ての判断ですかい?」

「まぁね.......それにしても祐君この子は君のお知り合い?」

並々ならぬような神妙な面持ちで三枝はふと祐に問う。

 手の差伸ばされた方向を見つめると、石造と化した荻野内は呆然とそこに立ち尽くしていた。だが見ていながらに余りに不安定な立ち振る舞いでもある。

「知り合いだけど......どうしたんだ荻野内?」

「.............。」

祐は眉を顰めながらそう尋ねる。だが回答は無かった。

 所試しと祐は手を振るが、それでも反応は無い。


 だがどういう訳か、ゆっくりと彼女の顔が小さくなる。しかし祐は後ろに下がっていないし、荻野内が引いているわけでも無い。そして当然ジャミロクワイの様に部屋が動いているわけでも無い。


 単純な話、荻野内が倒れただけなのだ。直立不動で。







「中々根性のある子ね。受け身も取らずそのまま行くなんて.....ホントに心配しちゃった」

胸を撫でおろし三枝はそう口を開く。

「立ち眩みとかなのかな?...それとも身体が弱いとか?」

「いや荻野内に限ってそれはねぇ」

祐は三枝の問に対してそう即答する。

「そうなの?.....じゃあ祐君が何か酷いことでも言ったんじゃないの?」

怪訝そうな顔で三枝は祐を見つめる。溶けた氷により薄まった麦茶を喉に流し込むと祐は煌々と光る天井を見つめる。

「.........いや特にそう言う事は言ってねぇと思うけどなぁ」

「ホントに?....結構祐君ってノンデリ発言とかしそうだけどねぇ」

「の、のんでり?」

聞き覚えの無い横文字を祐は、首を傾げながら口にした。だがやけにその発音は狂っていた。

「........あっそうだ三枝さん。俺が喋るのっていつ頃なんだ?」

祐はこの宴会場に来た大元となる理由をふと尋ねる。

 オレンジを基調としたドレスコードの彼女はそれに合うようオレンジジュースを口にする。グラスをテーブルに乗せると妖艶に微笑む。

「無いよ。そんな一幕は」

「.......はっ?」

祐は目をぐっと見開くと、やや高圧的にそう問いただす。

「そんな祐君一人を喋らす項目なんて無いよ。けどこうでも言わないと君は絶対に来ないでしょ?」

「................ははっ。女ってこえぇ」

引き攣ったように笑う顔は餌に掛かった魚の様であった。

 そして祐は、今宵大人の階段を一つ昇る。









 翌日の事。祐は随分と早い時間帯に起きた。厳密に言えば、時計に起こされたのだ。相も変わらず何処ぞの芸術家の名言かのような寝癖を装備し、風呂場に向かう。雑多に湿り気の在るこの夏の早朝には、冷水が良く効いていた。

「だぁぁぁぁぁ.........」

禊にもなりはしない練度の低い滝行を終えると祐は、全裸のまま辺りをうろつく。

 箪笥から三日分の下着や服を唯一持っているバックにねじ込む。

「あっそうすると今日のパンツが無くなるのか......まっノーパンでいいや」

英断とは言い難い選択肢を取ると、祐は学校の冬ジャージを履く。上は当然白のティーに羽織である。


 夏休み初日。それは学生にとって最高潮に盛り上がる一日であり格別を極めていた一日でもある。

 そう。祐は原因不明の病を治すため、人生で初めてこの街を後にするのだ。

「何か緊張してきたな.....」

祐は家の鍵を手にし、荷物の詰まった鞄を肩に掛けた。

 ふうと一息吐くと三年もの間履き尽くしたスニーカーに足を入れる。毎日流れるように行っていた動作がどこかぎこちない。心臓の音が骨を通し、祐の聴覚を占領する。

「それじゃあ行ってきます」

今の今まで形骸化していた挨拶に気持ちを込めると、祐は家を出る。

 まだ白い靄が掛かるような五時の早朝。空気はほとほと澄み切っていた。いつもと大差がないこの空間には鳥の鳴き声だけが広がっていた。

 純粋な朝は、昨晩の疲れを北風の様に持っていく。

「さて街の際まで走るとしますかね」

祐は両頬をぴしゃりと叩くと、一気に南に向かい走り出した。

 刹那木に留まる鳥は群れを成して飛んだ。





街を長城は、外壁と同時街の住人を逃がさない檻の様である。

「博士の依頼で一回来たことあるけど相変わらずたけぇな.....えぇっと博士が話を通してあるからあの人に話しかければいいのかな」

こんな時間帯だというのにその人間は中々の装備である。

 迷彩柄の軍服に身を包み、平和な日本では点で見ないであろうAK47を構えていた。立ちどころに近付こうものなら撃ち殺すと、言わんばかりの存在感であった。

「おはようございます」

近付いた祐は開口一番に挨拶する。プログラムされた様に機械的にその軍人は祐に振り向く。

「おはようございます。ご用件は?」

「博士の名を借りて、今日から三日間この街の外に出ていく鬼川祐と言う人間です」

「鬼川祐様ですね....氏名検索に一件の知らせ──────確認が取れました。どうぞあの門をおくぐり下さい」

(そうかこのヒト、人じゃねぇのか.....気が付かなかった)

感知を無くした祐は、その人間離れした言動により漸く気が付いた。

 四十五度近く頭を下げた軍人の前を横切り、祐は指示された通り門を抜ける。幅にして大凡五メートル程度のそこを抜けた先は存外素数番街と大差がない。


「......思ってた以上に普通だな。えぇっと確か入り口を出たところに車がぁ.......ってあれか」

門を抜けた先、こんな早朝だというのに一台の車が存在感を放ち停車している。

 黒の車体は角を張っており、重厚感と高級感を両立していた。

「かっこいいな。あれって噂に聞くメルセデスベンツって奴か?」

神話上の生き物に在ったかのように祐は、恐る恐るとそれに近付いた。

 そこには確かに人が乗っていた。しかしながら黒の磨りガラスにより雑な輪郭しか祐には情報として入らない。



 ガチャ。


祐の接近に気が付いてか、唐突に車の扉が開かれた。

(こんな厳つい車に乗ってんだ.....多分おっさんみてねぇな類の人なんだろうなぁ)

そんな安直な妄想を突き立てた所為、祐は顎を外した。


「お前が、時雨ちゃんの相方の鬼川祐かい?」

「...................」

下車した人は、棘のある言葉でそう祐に尋ねる。だがしかし祐は答えない。いや答えられないのだ。

「おい聞いてるのか!?」

見上げながらにその人は声を荒げる。







「...........女児(こども)?」

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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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