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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
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48-2 宴終結!

毎日投稿二十八日目。

次の話から本格的に祐が外の世界に足を踏み入れますので


では楽しんでください!!

「だぁぁぁ....やぁっと解放されたぜ」

祐は乱れに乱れた髪の毛を丁寧に手櫛で梳かしながら第二競技場に足を向ける。

「まぁヒーローだったし、しょうがねぇだろ」

楽観として八田弘明は祐の隣を歩いていた。会場運営役ではない八田にとって最終日なと職無しと大して差が無い。

「そう言えば土屋はまた、診療所に運ばれたか?」

「まぁな。あいつらも躍起になって俺たちの棒を倒しに来てたし.....ダメージ的には一日目より上だと思うぜ」

「.......可哀想に」

管理職の人間が平社員になけなしの情を掛けるかのような声色で祐はそう呟いた。

 道中、人の数はめっきりと減っていた。選抜競技までの間の暇つぶしではあるが少々不気味に感じる具合である。

「おっ!歓声が聞こえて来たなぁ.....ちょっと走ろうぜ祐」

「はいよ」

手前に聳える競技場は、さながらロックバンドのライブ会場ノリであった。雑多な拍手や幅広い音程の間から発せられる声量の数々は、空気を見せるように揺らす。


 単純にむさ苦しくないという理由が大きいのだが、観客席の女子率がやはり異様に高い。

「おいおい。五本戦負けんてじゃねぇかよ!!」

掲示板には白丸と黒丸が天童高校側、縦に並ぶ。対戦校はその逆であり、オセロの開幕の様であった。

「.......荻野内が負けたのか?対戦校何処だよ」

「長門校かぁ。相手側の対象は戸塚だろうぜ.....こりゃ荻野内も結構苦戦強いられたんだろうな」

「とづか?誰そいつ」

阿呆らしく祐は首を傾げそう一言口にする。

「知らねぇのかよ」

八田は祐の両肩を掴むと、前後に激しく揺する。綺麗に結った祐の髪は風塵であった。

「えっそんなに有名人なんか?」

「そりゃそうだろ。何せ去年の極真空手の全国大会で荻野内に次いでの実力者だぞ」

「はぁそう」

熱っぽく説明をする八田との美しい対比かのように祐はある種冷めきった様子で相槌を打つ。

 祐は首だけを掲示板に向けるが、やはり結果は変わらない。

「まぁ一対一なんだろ?次の大将戦で全てが決まるんだから、待ってようぜ」

安楽と祐は欠伸をする。それは荻野内を信じ切っての行動なのかは八田の知るところではない。だが、諦めの行動ではないとだけ理解には及んだ。




 第二競技場某所。長門高校の控え席は随分な盛況ぶりであった。

「よくやってくれた」

そう口にする戸塚姫子は名に劣らぬ姿でパイプ椅子にふんぞり返っている。

「作戦通り、荻野内雅の利き手にダメージを与えることに成功しましたし。次の大将戦も案ずるに及びませんね」

騎馬隊の一人は見事に腰巾着としての役を全うする。

「ふん。去年は大敗を喫したけど.....次はあんたの番よ荻野内ちゃん」

玉座の正面に立ち尽くしたように戸塚は、対角の方面を嗤笑する。


「捻挫してますね.......動かせますか?」

負けるとはまさかも思っていなかった天童高校側は、やはり冷めきっていた。パイプ椅子に着いた荻野内の右手を取ると時雨は即決にそう診断する。

「ッ!!........ごめんね皆。しくじっちゃった」

(.....あの時か)

顔を歪めながらに中堅との戦いを思い出す。

 荻野内のハチマキには目もくれず、只ひたすらに右手首を狙い。掴んだ挙句曲がらぬ方向に力を加えた。荻野内の手首は青黒く腫れあがっている。

「クッソ......戸塚が相手じゃなければ勝てるのに」

苦汁を煮詰めた液体を飲まされたかのように荻野内の顔は怒りに歪む。

(敵方の大将、恐らく満足のいく身体であっても苦戦を強いられる相手でしょうね)

首だけを振り向かせ戸塚姫子の顔を見つめ、そう裁定を下す。

「霧太刀さん。ごめんなんだけど、右手固定してくれる?」

「......別に構いませんが、かなりの後遺症が残りますよ」

スポ根漫画でさえドクターストップさせるような怪我だというのに時雨はその提案を軽く飲んだ。

「駄目だよ荻野内さんも霧太刀さんも!!」

「そうよ!!こんな怪我してるんだから棄権するべきよ」

だがやはり常識的な周りはその行動を愚行として扱う。

「けどそれじゃあ負ける」

じわじわと蝕む鈍痛が走り、額には嫌な汗を流している。だがそれでも荻野内は平然とした顔でそう口答えする。

「負ける以前の話をしてるの!!」

だが周りも周りで引くわけがない。こうなれば終わりのない鼬ごっこと何一つとして変わりがなかった。



「......一時的で良いなら治しましょうか?」


ある種の千日手の途中、黄金比の均衡を崩す横槍を時雨は突き込んだ。

「そ、そんな事が出来るの霧太刀さん?」

「民間療法という奴です。一時的であれば痛みも後遺症も残さない方法があるんですよ」

時雨は口にしながら目を瞑ると荻野内の患部に手を乗せる。

 前提の話時雨は医者の娘ではない。そして整体師の娘でも年の功を身体に刻んだ女子(おなご)でもない。

 つまるところその民間療法と言うのは、神代の人であれば神の御業と有難る魔術である。




 時雨の身体から溢れ出す集中の二文字は、辺りの音を消す吸音材の様である。

「..........」

時雨は何も言わずふと立ち上がる。

「えっ?もう終わったの?......」

傍から見れば手首に手を乗せただけの奇行。

「はい。既に痛みは引いてるかと」

「...........い、痛くない」

言われるがまま荻野内は手首を返した。本来であれば悶え苦しむような痛烈な鈍痛が彼女を襲う。だがまるで魔法かと問いたくなるようにその痛みは四散していた。

「ほ、本当に言ってるの荻野内さん!?」

「だってさっきまで動かすことすら出来なかったのに!!」

夢でも見ているのではないかと感じるほどに周りの人は、声を荒げた。

 そんな中ただ一人だけが荻野内ではなく時雨の方に歩みを進める。

「(ねぇ霧太刀さん。あれってもしかして魔術ってやつ?)」

高めに位置する時雨に耳打ちするように坂城はそう囁く。

「(はい。他言はしないで下さいよ)」

「(分かってるよ)」

知る由も無い道理を知る坂城はお転婆に微笑んだ。



 大将戦。それは自陣に勝利を齎す最初にして最後の一騎打ち。マイクにより拡大されたアナウンスにより二つの騎馬が中央による。互いに互いを知り尽くした二人の殺伐とした睨み合いは、競技場に伝染する。

「......凄い緊張感だな」

逸れに呑まれた様に八田もまた固唾をぐっと喉に通す。

「そうか?.....別に試合なんてこんなもんだろ」

しかしながら死合いを幾度と経験したこの白髪の少年にとっては殺伐さが程々足りていない様子である。

『それでは天童高校対長門高校騎馬戦の部三本目。大将戦を行いたいと思います!!!』

溢れ出る熱量の所為かそれとも単にマイクの性能の所為であるかは不明だが、スピーカーの音がビンと割れる。

 だがそのアナウンスは、場内の静寂を斬る大剣であった。静まり返っていた嵐は再び活力を戻しその歓声は倍増する。

「相変わらずこの大会は盛り上がるなぁ!!」

「そうだな」

吊られ高揚した八田は、その場で小さく何度も跳ねた。姿は大柄の高校生であるが殆ど子供と変わりはない。



『大将戦──────開始ッ!!!!!!!!」



会場全域を包み込み、剰えその外にさえ轟くような合図により火蓋は切られる。同時歓声のボルテージも最大に持ち上がる。

 二つの騎馬は完全に間合いの範囲に入り込む。

 戸塚は左足に重心を掛けると、騎馬は荻野内を中心に左回りで円を描く。

(ふんッ。さぁ使えない右腕から落としてあげるわよ)

邪険に微笑むと戸塚は左腕で右腕に掴む。ガードを下ろすと言う目的とは違いその手首を思い切りに握りしめる。

(これで終わりよッ!!)

痛み苦しむ顔を真っ先に見ようと戸塚は、荻野内の眼を見つめる。



「──────残念でした」

「はぁ!?」



しかしその眼は生気を失うどころか、余りある活力と復讐の炎によって煌いていた。手首を返すようにして掴みを外すと、咄嗟荻野内は左手でハチマキに掴みかかる。油断した戸塚であるが、首を左に倒し右腕上段受けでそれをギリギリでいなしてみせた。

「右腕が治ってる!?......五本戦の時じゃ確実に使い物に成らなくなってたのに」

「やっぱり故意的だったの。けど私には優秀な医者がいるの」

胡乱にそう顔を歪めていると、すぐさま答えが提出された。

「優秀な医者?.....ふざけやがって。まぁ対面で勝てばいいだけの事よ!!」

二つの騎馬は再び互いの間合いに踏み込む。だが此度は共々ピタリと静止し相手の出所を探る。

(変に手出しをすれば、荻野内の速度でやられる。なら、あいつが出させればいい)

掴めるか掴めないかのギリギリを狙うように戸塚は腕を出しては引くを繰り返した。

 こんな安直な掛け合いに釣られるのは、一般人もしくは魚ぐらいなものであろう。それなりに対面の研鑽を積んだ人間であればまず近づかない見え透いた罠なのだが、事も在ろうか荻野内は右腕を容易に差し出す。

(莫迦かこいつは?)

無論罠にかかった魚を釣り上げるように右手首を掴むと今度は自身の方へと引き寄せた。荻野内の身体は前に寄り、ハチマキという名の獲物が戸塚に近付く。

 そして一切の躊躇いなく左腕でそのハチマキを掴みに掛かった。

 手触り悪い白のハチマキに指が掛かり後は引き上げるのみで戸塚は勝利に至る。

(勝った......)

勝利を確信した様に戸塚は片側の口角を上げるのだが、


 刹那


二度の銃声が試合の終了を告げる。

 すると盛り下がった歓声は再び活力を取り戻した。

「はっ?.........」

戸塚はその不可解を極めた現象に言葉を紡げずにただ疑心を辺りに問いかける。

『大将戦。勝者は天童高校荻野内雅選手!!!!』

彼女に降り注いだアナウンス。それはその問いの答えとしては余りに的を射ていなかった。

 勝者は己であり、敗者は目の前にいる荻野内雅であるという虚構な事実が彼女を過去に閉じ込める。

「........今年も私の勝ちね」

身体を引いた荻野内は状況の整理におぼつく戸塚にそう語り掛けると、右手に掴んだ青のハチマキを見せつける。競技場の熱気ににハチマキはふらりと揺れた。

「バカな.....どうしてあんたがそれを!?」

苦し紛れに自身の疑問を言語化する。荻野内は騎馬隊から降り終えると歯を噛み締める戸塚を見上げた。

「あんたは私があんなちんけな罠に引っ掛かったとでも?......あれはあんたが私の腕を引くことを読んでたから乗ってあげたんだ」

「ど、どういう事だ!?」

「私の腕を引いた時、あんたは私のハチマキに意識が向き過ぎた。そうして驕った結果自身の防御が疎かになり、取られそうになってた事にも思考が回らなかった」

淡々と荻野内は勝利の理由を紡ぎ続けた。そしてその度に戸塚の中で苦渋が煮詰まる。

「けど、あの体制で私のハチマキにどうして腕が届いたんだ!?」

「──────それはあんたが私のハチマキに手を掛けたからだよ。沈んだ相手に寄れば自然と頭は下がる、その瞬間私は手首を返して一瞬でハチマキを奪ったって訳」

手順の説明は簡潔で見事に再現性の高さを物語っていた。

 しかしそれは達人の域に入り込んだ人間のできる極意と言えよう。





「ゲッ!!ぜってぇー負けたと思ったよ」

そう口にする八田は祐の背中をばんばんと叩いた。相当緊張していたのかサラサラの祐の体育着がほんのりと湿り気を帯びる。

「......流石は荻野内雅って処だな。殆ど身体的能力に大差は無いんだろうけど、精神的な面とかも見ればあいつの方が格段と上だわ」

「だなぁ」

感嘆と八田は、相槌を吐露した。

 ふと祐は掲示板の上の時計に目を向けると十一時二十分程度であった。

(ここからなゆっくり歩いても三十分くらいかな)

「そろそろ良い時間帯みたいだし.....俺二月校に行ってくるわ」

「あぁ選抜リレーか。頑張れよ白神様」

八田は煽る様に祐を異名で呼ぶ。

「へっ!黙って見てろ」

祐は目を細め手をひらひらと返すと八田から背を向けた。





 ──────再び結論から先んじて言おう。

 ──────祐は勝利した。


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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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