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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
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47 葉加瀬と博士

毎日投稿二十六日目。

今日は朝から時間が在ったので少々長めです。

では楽しんでください!!

「まぁそれも在って、実は俺も博士の所には行こうとしてたんだ」

「......まぁよい。して祐よ、他の四神は如何様じゃ?」

「魔力以外は何とも無いと思う......」

「そうか」

博士は足元に転げ落ちた煙草に三秒ルールを適用させた。埃を払う事もせず、平然と煙草を咥えぷかぷかと吸い出した。

(魔力だけが削ぎ落ちるとは中々に不可解な事じゃのぉ)

「何か知っていたりしませんか葉加瀬?」

「んんんん........知らんなそんな不可解な現象は」

二人の頼みの綱である葉加瀬でさえ一言お手上げ状態である。

 

 はぁぁぁぁ.......


愕然と祐は溜息を吐いた。それ以外で一体何が気休めになるのかてんで祐は知らない始末である。

「まぁ祐の頭蓋を切り裂いて、脳の働きを検査すればある程度の原因は分かるとは思うが....や、」

「やらねぇよ!!」

今度は博士の猟奇的な言動を知り尽くした祐だからこその先読みであった。えらく剣幕とした表情で博士に喰ってかかる。数ミリ眉を上へと上げると博士は煙を吐いた。

「なら儂にはどうにもできん。生憎のことに儂は解析系統の魔術は持ち合わせておらんのでのぉ」

「じゃあどうすりゃ良いんだよ?」

そんな問いを口にする祐の眼を博士はまじまじと見つめた。翡翠の瞳の中に歪んだもう一人の自分が映る。

「.......そう言えば祐は何時頃から夏休みが始まるんじゃ?」

「あぁ?何だよ藪から棒に?....」

祐はそう疑心そうに口を開いた。

「良いから答えろ」

「───明後日からだけど」

「補習とかは無いな?」

「───まぁ今年は」

「なら。退魔の衆に行って診てもらってこい」

医師の診察かのように問いを重ねた博士は、そう結論付ける。

 中々に突飛であり、それがどのようにして祐の現状を打破する治療に至るのか祐には皆目見当のつかない。

「何でまた?」

「あそこには世界中の魔術を詰め込んだ奴がおるんじゃ。そいつなら一日程度でお主の症状を治せると思おてな」

博士は、不敵に微笑むと煙草の煙を祐の顔面に向けて細長く吐いた。

「ゲッホ!!ゲッホ!!........何すんだぁ!!!?」

紅くなった目を擦り祐は博士に喰いかかる様に怒号を上げる。だが怖がる素振りは見せず、淡々と祐の顔を見てけたけたと嘲笑うのだ。

「はっはっはっ。いやぁ笑わせてもらったわい.....今日は中々に嫌な思いをしたんでねぇ」

「はぁ?何言ってんだ博士は.....とうとう焼きが回った──────


 鉄拳炸裂。いや厳密に言えば、拳の中に仕込んだジッポライターの角を祐の頭頂部にぶつけたのだ。それも若干の闘力を用いた早業で

 鈍い割には並々ならない程痛快な音が奏でられた直後、祐は頭を抱えた。ガラスの机に額をゴンとぶつけ、そして悶える。

「ガッハッ!!..............」

いくら頑丈とは言え、鈍器の威力を底上げする仕掛けを施されればと言った具合であった。

「まだまだ儂は若い。余り辺鄙な口を利く出ないぞ祐よ」

博士はソファーにふんぞり返り脚を組むと、遥か高みから俗物を見下ろすような眼光で祐を睨み付けた。

「.........す、すみません」

顔と目を上げると

 

 ───博士の膝が見えた。やや骨ばっており膝の皿が浮き彫りとなっている。

 ───そこに連結するように太腿が見えるのだが、中々に良い肉付きをしている。だからと言って脂肪がたるんでいるわけでも無い。一体彼女が幾つであるのかはさておき旬からワンシーズン過ぎたリンゴの様である。

 ───そして臀部なのだが、随分と短いスカートを穿いているお陰で際どい部分までが良く映る。



「黒」

そうポツリと祐は呟いた。別に感想を吐露した訳でもそこに何か欲情を抱いたわけでも無い。言わば現状報告である。

「ハハッ。しかも結構どぎついやつを.......」

しかし此度は違う。現状報告ではなく、感想を抱いたのだ。

 刹那。まるでフレームごとに細切れになった世界を見ているかのように、博士の左脚は上へと持ち上がる。

 別にそれは祐の為に見せようと努力した結果ではない。どちらかと言えば二度と見せないよう奮闘した結論である。


(あっ。やっぱり黒だったわ)


 随分と不思議な事ではあるがふと気が付いた時に、鬼川祐は自身の床の上であった。



しかしながら今この現状を書かないわけにはいかない。

 端的な話鬼川祐は、葉加瀬の踵落としによって意識が美しく分断されたのだ。

「こんのクソガキッ!!レディの下着を視るとは何事じゃ!!!」

恥ずかし気にスカートの裾の部分を抑えると、彼女は荒げた声でそう口にした。

 ガラスの机にはめり込んだ祐の頭を中心に枝状にひび割れが広がっていく。灰皿の上に詰みあがってた煙草はぼとりぼとりと机に落ち、そして地面に堕ちた。灰らしい何かが机の一角を占領する。

「はぁぁぁ......激情する気持ちは分からなくもないですが、流石にやり過ぎですよ。祐でなければ死んでいますよ」

「あぁ!?ちゃんと人は選ぶわい!!........クッソ珍しく箪笥の奥に眠ってたのを穿いたのが間違いじゃったわ」

頬を紅く染め頭を掻きむしりながらに葉加瀬は悪態を吐く。

「それはそうと......葉加瀬。貴女先程嫌な思いをしたと言っていましたがそれはどういう?」

言葉尻が締り、遥かに鋭さを増した声でそう言葉を紡いだ。

 流石は葉加瀬と言うべきか、荒げていた精神も身体も瞬く間に平然と戻して見せる。

「.........まぁ丁度祐は寝ておるし、主には話しても構わんな」



──────




「そうでしたか........嫌な思い出を掘り返すような真似して申し訳ありません」

時雨はそう頭を下げた。高めに結んでいた髪の束が顔の横に簾のように枝垂れる。

「別に謝る事じゃない。嘗ての儂の過ちじゃよ......もうあれから二十五年以上が経つ。まだ生まれておらんかった主からすれば言わば伝説と言うやつかのう?」

彼女は淡々と言葉を口にした。少々綻んだように目を細めると何故か憂いさが際立つ。雑多に微笑んだそれは恐らく自嘲なのだろう。


「それでは私たちは、明日も催しがあるのでここらへんで失礼します」

時雨は立ち上がりざまに未だ後頭部から煙を吹き上げているような祐を引っ張り出す。白目を向いて泡を吹いているが、肝心の額部分は既に血が止まっていた。

(やはり頑丈過ぎる......)

そんな魂のない傀儡のような祐をおぶると時雨は、もう一度礼をする。

「宴が終わり次第、私は貴女の守護に回ります。祐の方は退魔の衆のモノに連れて行ってもらうようお願いしますので。では.....」

時雨が葉加瀬に背を向けると彼女は殆ど乗っていない灰皿に煙草を押し付ける。

「なぁ時雨ちゃん。ね.........清玄は元気かい?」

「─────はい。お元気ですよ」

足を止めた時雨は、振り返りざまにそう口にする。

「なら安心した。もう帰っていい」

彼女はそう口ずさむと微かにだが、笑みを浮かべた。

 

 此度も似通っていた。憂いに満ちて、何処か淋し気で、何処か悲し気で。

 だが何処か喜悦としていた。






 鬼川荘の一室。日毎の早朝を告げるよう、デジタル時計が泣き叫ぶ。

「ああぁぁぁぁ.........う、うるさい」

二日酔いのかの様に嗄れ声で、無機物に説教を垂れる。しかし相手は当然ながらに言う事を聞かない。最新の機械は人の言葉を以て操作が可能なのだろう。

 だが生憎祐が使っているのは、九十年代に鬼川登代子が購入した旧型のデジタル時計である。つまりそんな願いなどを受け入れてくれるわけもない。ひたすらに爆発した頭髪を携えた少年に朝を告げる。

「頼むから寝かせてくれよぉぉぉぉぉぉ..........」

しかし音は止まない。それどころか意識が鮮明になればなる程にその音は大きさを増しているかのように感じる。

「あぁぁ!!うるせぇぇぇぇぇ!!!!!!!ふんッ!!」

雑多な掛け声とともに祐はその泣き叫ぶ無機物の頭頂部を押し込む。

 ようやく願いは叶った。






 宴三日目。ほとんどが選抜競技であり、残りは団体競技の決勝戦。つまり祐は今日、中々に忙しいスパンで動かねばならないのだ。

「っしゃぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!ぜってぇぇぇ勝つぞぉぉぉおおおおお!!!!!!!」

天童高校三年、随分と筋骨隆々であり殆どゴリラのような姿をした団長が怒号のような咆哮を腹から鳴らす。

 まだ朝の十時手前だというのに、その元気ぶりに祐は驚かされる。

 しかし元気なのは団長だけではない。やはりスポーツ校、皆一様であった。

「なぁんでこのグループに俺が居ないといけんのよ?」

完全に場違いであろう、インドア派の土屋は祐の横で嘆くようにそう呟く。

「そりゃ俺も疑問に思ったよ」


 はぁぁぁぁ......


祐は少しだけ痛む額に手を当てながらに溜息を吐く。

(今頃第二競技場じゃ、時雨さんが騎馬戦に勤しんでるところかな?)

第一競技場に居る祐は時雨の事を考える。




「それじゃあ霧太刀さん。今日もよろしくね」

「はい。任せてください」

一方時雨の三日目は、適度な歓声に包まれて始まった。特段黄色い声援が在るわけでも無いが、野郎の怒号が溢れる競技場と比べれば理想郷と言えよう。


『えぇそれでは位置に着いたところで、騎馬戦決勝戦を行いたいと思います』

『では、棒倒し決勝戦を行います』


『『位置に付いて──────よーい......』』


同時刻、ピストルが二発鳴る。

 ついぞ先程まで対照的な両方であったが、戦が始まるとなれば話は変わる。

 

 ライバル校に負けるわけにはいかない野郎の執念。

 何が何でも最優秀賞を得たいと思う女の汚い欲念。


共々喧騒を極めるわけである。



 棒倒しという大義の付いた力比べが始まった。土屋は棒の下でそれを支え、頭を下げて蹲る。だがそこに祐の姿は無い。

 ──────それは試合前の事。

「なぁお前が白神様か?」

「はぁ.....そうですけど」

団長らしいその男が、祐を見つけてそう一言問う。普段なら即刻否定する祐だが、少々どうでもよくなった祐は雑に肯定した。

「いつもは何処配置なんだ?」

「棒の下ですけど.......」

「そうか。なら次は猿を落とす役割に回ってもらう」

大胆な転勤だった。言わば土台が天守閣を張るようなモノである。

「......それはどうして?」

「決勝は三本やって先に二本取った方が勝利になる。つまり如何に体力を使わずに相手を落とせるかが勝負どころなんだ。だから白神様にはその一番槍を任せたい」

恐らくこの男は祐の身体的能力を知った上での抜擢なのだ。そうでなければこんな弱弱しい男にこれほどの大役を任せるはずがない。

「まぁ良いですよ。俺も頭を蹴られるのは好きじゃないんで」

祐は不敵に笑い差し出された団長の手を強く握り返す。



 

 現在祐は走っていた。それも疾風迅雷と。束ねた太い髪の束は風に靡いた。

「はっやぁ.........」

後ろで見ていた天童高校の人間は、その人間離れした速度に顎を外す。

 立ちどころ鬼川祐としてではなく、白神様としての無双が始まると皆がそう考えている。

「ふっ。やはりあの化け物を先方として繰り出してきたか....総員配置に着け!!」

学生の競技だというのに、なんら軍隊と変わりのない号令と共に兵はわらわらと動く。それほどの脅威を無視しして普段通りの作戦を汲むほど無論在り得ない。

(あれに対して各個人が群がって行けば当然隙間を突かれる。なら初めから人壁を作っておけばいいモノ)

祐と言う名の獣を捕らえる為、相手校は隙間を無くした壁を棒を囲むよう四方に展開する。

「クッソあれじゃあ速さを活かした速攻が意味を成さねぇじゃねぇか!!」

「ふんッ!!これで終いよ」


双方団長祐の結末を断定した様に、憂い喜ぶ。


 しかし祐は止まらない。そんな人壁が見えていないかのように突っ込み。

 ──────そして跳んだ。


 距離は走り幅跳びでありながら、その高さは高跳びのようである。オリンピックであれば余裕綽々と二冠を手にするような跳躍は辺りの歓声や選手の怒号を静まらせた。放物線のような軌道を描いた祐はそのままの勢いで敵陣の棒にしがみ付く。

「よしっ......それじゃあお猿さん。引きずりおろさせてもらおうか?」

棒の頂上で悠々と構えていた棒の守護者に祐はそう語り掛ける。


 決勝一本目。天童高校の勝利であった。


「ふぅ.....疲れた疲れた。んぁ?」

欠伸混じりに頭を掻きむしった祐は、自陣に戻ると随分と冷淡な眼で見つめられた。いやそれどころではない敵陣、将又観客席の全方位からの視線が痛い

(........あれやり過ぎたか?あれくらいなら大丈夫な範疇に収まると思うけどなぁ)

「あ、あのぉ?な、何か?」

恐る恐ると口にすると、途端冷めきっていた空気が灼熱の様に燃え上がる。

「おい何なんだよ今のは!!」

「やっぱり白組に勝利を齎す神ってのは、ちげぇなぁ!!」

むさくるしい野郎の中心に居るというのは、中々に気分を害するモノであることを祐は知った。

(いや汗臭)

謙遜ながらにそう思う祐であった。


 一方の事騎馬戦では、時雨が騎馬役を務める荻野内雅は前回同様八面六臂の活躍ぶりである。

 団体戦を終え、残りは五本戦と大将戦で決着が付く。


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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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