46 久々の依頼
毎日投稿二十五日目。
弐番街から帰宅した博士。そんな彼女は祐を呼び寄せるのだが.....
では楽しんでください!!
桜通りの入り口に差し掛かった瞬間祐のスマホが音を立てた。
「あっ電話だ......ちょっとごめん時雨さん」
祐の見送りを担っていた時雨は、小さく頭を下げる。
「.....はいもしもし?」
『祐か?儂じゃ』
新手のオレオレ詐欺かと思わせるような入りに祐は、眉を顰める。
「博士で良いんだよな?」
『当たり前であろう.....まぁ体育祭で疲れておるだろうから手短に話すが、今から儂の研究室に来れるか?』
「あぁ別に構わないけど........ってか帰ってきてたんだな」
『つい先ほどな。それじゃあすぐに来い』
宣言通り無駄を省いたように葉加瀬は通話を切った。一定の間隔で鳴るツーと言う音が何ともスマホの寝息の様である。
「葉加瀬でしたか?」
祐がポケットにスマホを入れると時雨はふとそう尋ねる。
「うん。研究室に来い。と一言だけ置いていったよ.......時雨さんも行かないか?」
「鬼川さ......ではなく、祐が良いのでしたら同行いたします」
慣れない名前の呼び捨てを内心忸怩たる表情で完遂する。
口元に拳を寄せると、小刻みな咳ばらいで茶を濁した。
「それじゃ、反対方向だけど行こうか......次は気を付けてね時雨さん」
祐は珍しい様相の時雨を意地悪く微笑む。
「あまりからかわないで下さい鬼か......祐」
「ハハッ!!それじゃあ気を付けるとするかな」
糸のように目を細めると祐は時雨の腰を軽く叩いた。
表面上は取り繕った空間に祐と時雨は足を踏み入れる。特段汚いと断言するほどでは無いが、やはり何処となく乱雑としていた。机の上の紙束、ソファー前に置かれた山積みの吸殻がその原因の多くを担っているのだろう。
「おや時雨ちゃんも来るとは、想定外じゃったよ」
「でしたら、私は外で待っていましょうか?」
煙草を口に咥えた葉加瀬は、淡々とする時雨に近所のおばさんのような手つきで呼び止める。
「なに、別にそこまでは言っとらん。それに主には聞きたいこともあったから、丁度良い」
「それで俺を読んだ用事って何だよ?もしかして久しぶりの依頼だったりする?」
祐は二人の会話に横槍を入れるように、博士に声を掛ける。
「........祐の割には中々察しが良いではないか。まぁちと二人ともそこに座れ」
デスクに腰を掛けた葉加瀬は、顎でソファーに座るよう促した。
相変わらずクッション性に掛けた革製のソファーに腰を下ろすと、鉄骨部分がもろに臀部と触れ合う。葉加瀬は灰色の天井を見つめ重たげに煙を吐いた。
「まぁ今回は祐が主体となって働いてもらうつもりじゃっが、時雨ちゃんも居るわけだし一緒に頼もうかね」
「それで頼みたい事とは?」
逸早く時雨が単刀直入に訊く。
「回りくどい話は避けるとして、二人にはこれから弐番街の雇うであろう魔術師から儂と核を守ってもらいたい」
「「はい??」」
えらく気の合ったように二人は同時に声を出した。何故そのような依頼が必要であるのか、将又どうしてそれを二人に頼むか。回りくどい話を省き過ぎた支障が悉く垣間見えるわけであった。
「弐番街が魔術師雇う?何でそんな事するんだよ」
「儂の命、そして天穿の核を奪うためじゃよ」
「何でだよ!?」
「この街に更なる変革と発展を齎す為じゃな」
「それってどういう!?」
──────「この世界を再創生する為と言うのが最も優れた返答じゃな」
矢継ぎ早に繰り出された祐の問は、この答えを以て幕を閉じた。
それは、何かしらの問を模索していた時雨も同様であった。
しかしながらそれを口にした当の本人は、知らん顔で煙草を吹かしている。
「..........再創生?何のために?」
喉に乗った落し蓋を吐き出すように時雨は言葉を捻り出す。
「さぁのぉ......大方この世界から怪事件を無くすためと言うのが、大義名分じゃと思う」
「大義名分?......つまり本心ではないと」
「そりゃそうじゃ」
時雨の問に四苦八苦するように天井を見上げた葉加瀬だったが、その問いだけは簡潔に即答した。随分と自身があるのだろう。その眼に一点の曇りも無かった。
「まぁ儂を越えたという名声が欲しいのじゃろうな。───はぁぁぁぁ....何とも阿呆らしい欲望じゃよ」
頭を抱えながらに葉加瀬はけたけたと笑う。
そんな中祐はこの世の謎を解明する研究者の様に張り詰めていた。そして何かを思いついたように顔を上げ、口を大にする。
「待てよ博士。その再創生ってやつは、要するに世界を一から作り直そう。ってことか?」
「祐よ。お主は一体今の今まで何を聞いておったんじゃ?その話はもう既に終わっておる。まさかとは思うが、再創生の意が分からんかったと?」
一人だけ流行を知らない学生のように、祐は恥ずかし気に下を向く。肯定でも否定でもない行動だが、その真意は十中八九肯定であろう。
「相変わらず馬鹿な子供よなぁ......じゃがまぁ聞かぬは一生のなんであるとも言う。一つ成長したと胸を張れ」
そして葉加瀬は気持ち良く煙草を肺に取り込む。
「けどそんな事が可能なのか?要するに今の世界の全てを上書きするって、ゲームじゃねぇんだから。そんなのか、」
「神様にしか出来ない。か?」
祐の次の手など彼女程の知性であれば悠々と読めるのであろう。それが神領域への侵犯で無かったとしても。
「じゃが、祐よ。お主はそんな神しか出来ぬ領域に足を踏み入れた技術を知っておるだろう」
「えっ.............神領域への侵犯」
「ご名答」
博士はすたすたと脚を進めると、祐と時雨の対角に深々と腰を下ろした。中々の高さから臀部を下ろしたというのに、痛がる素振りは見せない。
「魔法。それは魔術を極めた先に待つ神秘を指す言葉。──────魔術師の中では計六つの魔法が存在し、その中で確認された魔法は第一から第五まで。第六魔法は魔術を極めた神でさえも辿り着けぬとされた究極の神秘とまで言われておる」
数多の吸殻が覆い隠したガラス製の灰皿に吸い終えた煙草を乗せる。
ポケットから新たな煙草を一本口に咥えると、ジッポライターで火を点ける。
「その中で最も汎用性に優れた魔法が第三魔法。それを完璧に使いこなせば無論この地球に新たなルールを施せるという訳じゃな」
尋常では無い程に内容が濃いというのに、それを口にする人間があんまりに簡素としているせいで祐と時雨は風邪を引きそうになる。
「......少々話は逸れたが、そんな糞ったれた欲望を果たさせぬためにもお主等二人の力を借りたいという訳じゃ」
「──────それは構わないのですが私に聞きたいことが在ったと言っていましたが?」
時雨はそんな中でも冷静に葉加瀬との会話に事を繋ぐ。
「あぁ聞きたかったことは、此度あの核を狙った人間の素性についてじゃよ。何処出身で誰の命令で儂の所にやってきたのかという簡易的なのぉ」
「その事ですが、今退魔の衆本部で世嗣さんが尋問を施しています」
「ほぉ....必中の坊やがか。では、いずれ聞いておいてもうらかのぉ」
葉加瀬は煙草を吹かすと、ゆっくりと目を閉じた。
「それで祐よ。儂の依頼を受ける気になったか?」
「あぁその事なんだけどよぉ.......相手は魔術師なんだろ?」
「無論な」
「それじゃあ今の俺は役立たずだぜ」
少々恥ずかしそうに祐は後頭部に手を当てる。
「それはどういう事じゃ?お主の感知は、魔術師相手には八面六臂の活躍だと思うのじゃが」
「........実はさぁ。俺今魔力が使えないんだよ」
「──────はぁ!?」
甘酸っぱくもなんともないような赤裸々な告白に博士は、咄嗟口が開いた。新品の煙草はぽとりと地面に堕ちる。幸いにカーペット何て洒落た家具を置いていないお陰で火事の原因になりはしなかった。
「だから俺の得意の感知も使えない始末でよ.........」
「はぁぁぁぁ......」
そんな特大の溜息は、かの葉加瀬から飛び出た。
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