42 知られざる恋心
毎日投稿十九日目。
第三魔法もこの街も守り、平和な日常が時雨と祐を癒す。そんな中ひょいと話題が立つ恋バナに夢中な時雨を含んだ女子会。そこにポツンといるのは荻野内雅であった。
では楽しんでください!!
屋台の離れ、言わば人気の無い路地裏にて一体の魔陰が塵と化した。これで幾らかの人間の命が救われた訳で一息つきたい所ではある。
ただそんな悠長な話は言ってられないのだ。
「それで......これも見えないと?」
「あぁ.....そうだね」
大太刀の切っ先で指し示した時雨の先には当然魔陰が居る。ただどういう訳か魔力を纏えなくなった祐には何も映らない。
「.........何となく、ぞわっとする感触は有るけど。視えはしないね」
「そうですか」
恋に右往左往と思い悩むかのように時雨は顔を俯かせた。事実、現状の祐は仕事の絶対条件を満たしていない只の一般人。
「他の力はどうですか?」
「魔力以外は問題ないかな.....襲われたとしても一応返り討ちには出来ると思う。まぁその前に一発で首もがれたら終いだけど」
仕事どうこう以前の話、自分の命が危機にさらされているというのに面目ないと言わんばかりに笑っていた。
「傀儡師に何か魔術を施されたとかですかね?」
「いやそれはないと思う。俺とおっさんで魔陰を殺した時まで普通に使えてたし。単純に俺自身の問題かな」
髪紐を解くと祐は、頭を掻いた。痒みと同時にポロリと答えが転がり落ちることも無いが如何せん痒かった。
「まぁ一難去ってまた一難って先人も言ってんだから、大丈夫でしょ。それに今は体育祭を楽しもうぜ!」
祐は時雨の腰辺りを二度叩いた。鍛え上げられた肉体美か、特段柔らかくは無い。パンパンとなる音も中々に高い。
慣れた手付きで髪を結うと祐は、競技場に向かった。
「......それもそうですね」
時雨の愛刀は虚空に舞う。
第八競技場。唯一競泳と陸上とが混合する施設なわけで、霧太刀時雨は四人一組で騎馬隊を組み上げている。
「それじゃあ霧太刀さん...よろしくね」
騎手を受け持つ荻野内雅は、弱弱しくそう言葉を掛ける。
「分かりました。全力を尽くさせていただきます」
騎馬の最前の時雨は半身振り返り頭を軽く下げた。
(結局昨日のあれって何だったんだろう?........夢でも無いし、幻でもない訳だし......)
創作の世界でしか見られぬ激闘を特等席で見ていた彼女は、あれから一日中考えていたわけだ。しかしながらに結論に辿り着くことは無かった。いや逆に何かしらの結果を得たのであれば彼女は最早一般人とは言えない。
『それでは天童高校と扇女子高等学校の騎馬戦を始めます.....よーい....』
そしてスターターピストルが鳴った。
男子の棒倒しと比べれば、当然覇気も怒号も少ない。軽快な足取りと共に時雨は前方から迫りくる相手に襲い掛かるわけだが。
(騎馬戦か......気を付けなねぇ)
不意に時雨の中で鬼川祐の軽々しい忠告が反響する。それがどういう理由か時雨はまだ知らない。
顔も知らぬ相手との対面なわけだが、当然荻野内雅がそうやすやすと負けることは無かった。瞬く間に彼女の右手には赤のハチマキが握られている。
(疾い......今の腕のこなし、闘力無しとは考えにくいですね)
時雨の頭上で行われた刹那の交錯は、尋常ならざるものと言えた。
「えぇっとじゃあ右側お願い」
こくりと頷くと時雨率いる騎馬隊は、戦火の中に踏み入る。
そして時雨は祐の答えを知る。
怒号ではない。気合でもない。形容し難い只の妬み嫉みの罵詈雑言が溢れ返っている。千差万別の髪を引っ張り合い、怨みに身を任せている。
「あぁあ....まぁた争ってるねぇ」
「ホント性懲りもねぇよなぁ......」
八田弘明の競泳試合を見る為に土屋と祐は二人歩いていたのだが、その悲惨な光景に淡々と言葉を吐露する。
「そんなに小鳥遊帝氏とのお喋り券が欲しいのかよ。アホらし」
「まぁ絶世の二枚目に変わりはないわけやし。しょうがないのかもねぇ......」
「にしてもだろ」
観覧席の柵に持たれながらに祐は、悪態を吐く。
騎馬戦の勝者側から最も活躍した選手に最優秀賞が送られるのだ。別にそんな事の為に女子が意気揚々と血肉を削っているのではない。
原因は、その賞を贈る人間が問題なのだ。
「まぁけど分からんくもないかなぁ俺は」
その光景を自己投影するように幾たびも首を傾げていた。
「なーんでまた」
「もし仮に挨拶しとるのが、霧太刀ちゃんやったらどないする?」
「いやどうもこうもねぇだろ.....」
はぁぁぁぁ........
何に反応したのかは祐は知らないが、土屋は祐の十八番を真似る。
「あのねぇ鬼ちゃん。最優秀賞を貰った相手と与える相手は毎回付き合うジンクスってモノがあるんよ。それを欲するってのは人間の性とは思わんかね?」
人生の命題らしく土屋は、新手の宗教勧誘の様につらつらと舌を回す。
「はぁ?.....ってか毎回じゃねぇだろ。前回荻野内だったけど、別に小鳥遊と付き合ってねぇじゃねぇ、」
「だからこそよ!!!」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに土屋は祐に顔を近づける。余りに勢いがあったもので祐の体は観覧席の柵を飛び越えるところであった。
「荻野内ちゃんは、小鳥遊帝氏を好いていない。詰まるところ、自分にはまだチャンスがあるという確たる事実な訳。──────do you understand?」
スパンッ。と祐は土屋の頭を縦に叩いた。驚かされたこともあったが、雑に発音の良い英語が若干癪にさわったからでもある。
「い、痛い.......」
小粒の涙を目じりに従え土屋は屈みこむ。
「はぁぁぁ.....やっぱ莫迦らしっ。ほら土屋さっさと八田の所に行こうぜ」
これが本場と言わんばかりに溜息をすると、祐は競泳場の観覧席に闊歩する。
「あぁぁちょっとまってや鬼ちゃん!!」
祐の後方、芯のないふにゃりとした声であった。
「それじゃあ霧太刀さん。結構蹴りとか、突きとか飛んでくるから気を付けてね!」
騎馬戦の傍ら荻野内は時雨にそう説明する。またしても時雨は喋らず淡々と頷く。身体に覇力を纏わせると時雨は女の戦場に足を踏み入れた。
荻野内の予見は大方どころか、殆ど全て合っていた。前回の王者である荻野内は無論格好の餌食なわけである。
「荻野内よッ!!」
「まずはあいつを倒せぇぇぇ!!!」
高音域を極限までドンシャリにしたような声。ドクターフィッシュの中に足を突っ込んだように荻野内に矛先が向く。
(まぁ八人も......凄いですね)
冷静に時雨は数を数えながらに、一対一の構図になるよう距離を確保する。
「全員返り討ちにしてやるっ!」
襲い掛かる手を上段受けやスウェーで捌き避けを繰り返す。そして大振りの腕の隙間を突いてハチマキを奪い取る。
(やっぱりこの方.....並みの鍛え方ではないですね)
高校一年ながらに全国最強の名を冠しただけはあった。襲い掛かったその敵々を宣言通り一網打尽にして見せる。
『終了ーーーー!!天童高校対扇女子高校の結果。天童高校の勝利と成りました。鉢巻を持っている方は、掲示板にその数を入力し回収係に渡してください』
荻野内雅はまさに八面六臂の大活躍であった。一人で敵方の半分を倒すまさに鬼神のそれであるが、当の本人はそれに驕ることも無い。
「お疲れ様ありがとね三人とも」
騎馬隊から降りた彼女は身体の前で十字を切ると、早々と掲示板に向かっていった。右手に握った数多の帯がひゅと揺れる。
(いやそもそも魔術師相手に大技を使わせるだけはありますね......単純な徒手空拳であれば私以上ですね)
感心しながらに時雨はその背を追う。
「......あの霧太刀さん」
「ん?どうかなさいましたか?」
不意に弱弱しく呼ばれた時雨の名前に彼女は、首を返して反応する。
「失礼かもしれないけど、霧太刀さんって鬼川君と付き合ってたりするの?」
「どうしてですか?」
突飛な問いに時雨は首を傾げる。
「どうしてって、だって霧太刀さんいつも鬼川君と一緒に居るよね!!?」
「あぁそれ私も思ってた!!二人って仲いいよね」
もう一人の騎馬隊もまたそう口にして時雨に顔を寄せる。
恋バナというある種女子高生の栄養剤に食らいつく勢いであった。
「別に一緒に居ること位、普通なのでは?」
「「普通じゃない!!」」
速攻の否定である。思春期真っ只中の本場の学生であればやはり恋に繋がるわけだが残念ながらに霧太刀時雨は二十四である。
「そうでしょうか.........ですが残念ながら彼とはそのような恋仲ではないので、ご期待には応えられませんね」
演技ではない微笑みを時雨は浮かべた。
「そうなんだよ。時雨ちゃんと鬼川君はそんな甘ちゃんな関係じゃないの!」
四人目の声である。この話題に入っていなかったというのにまるで全てを知っているかのような口ぶりであった。
「「えっ!?どういう事教えて」」
全く同時の喰い付きように時雨は、胡乱な眼をする。その声の主は坂城千尋であった。
「二人はね、好き合うなんてレベルじゃなくて、互いの命を預け合う仲なのよ!!」
坂城は満足げに腕を組み、二人は星が煌くように目を輝かせる。
(葉加瀬ですか........また変な事を口にして)
はぁぁ.....
時雨は頭を抱え小さく溜息を吐いた。すっと腕を伸ばし坂城の肩を突き、顔を寄せた。
「(坂城さん。あまり変な事を口にしないでください)」
「(えっ。別に嘘は言ってないでしょ?)」
坂城は唐変木に首を傾げる。確かに彼女の言葉通り嘘はついていない。だからこそやや問題が在るのだ。
「(そうなんですが、変に目立ちたくも無いのでお願いしますよ)」
「(えぇぇ....まぁ時雨ちゃんのお願いだし。良いよ!!)」
満面の笑みと共に彼女はピースサインを取る。
「..............そ、そうなんだ」
五人目の声。今まで嬉々とした表情を帯びていた声だったが、魂の抜け去った乾いた声であった。
四人は一斉にその先に視線を向ける。
そこに居たのは荻野内雅であった。普段からは考えようもない程、黒目が震えていた。語彙の少ない人間であれ彼女を見れば動揺の二文字が浮かび上がるというモノである。
(((あっしまった!!!!)))
「ん?」
大失態を犯したように陰った顔をする三人、そしてその横に一人状況を知らない時雨が居た。
「ま、まぁ.....い、いいいつも一緒に居るわけだしぃ?......べ、べべべ別に気にすることも無いんじゃない」
上ずった声に、呂律の回らぬ舌。幾ら鈍感な時雨でありその真の表面を舐めるには至った。
「わ、わ私これから部活対抗競技だから。じゃ、じゃあ......」
荻野内雅はそうして走り去っていった。振り返りざまに見せた横顔に涙が付いていたのは時雨の気の所為なのだろうか。
「........やっちゃったぁ」
時雨の隣にいた坂城は、去り行く荻野内を見て消沈とそうぼやく。他の二人は言葉こそ出しはしないが、同様に意気消沈としている。
「あの.....もしかして彼女、鬼川さんの事が好きだったりします?」
三人は同時に首を縦に振る。
「それを彼は知っているのですか?」
三人は同時に首を横に振った。──────とても強く
「はぁぁぁ......鬼川さんらしいですね」
余りの無神経さに時雨は眉間を指で小突く。
「どうして鬼川さんの事を?」
「.........実はね」
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