41 消えた魔術
毎日投稿十八日目。
本日から新章突入です!!序章って事もあって今日は短め。
では楽しんでください!!
ふと目を覚ました。それは他でもない白髪の少年こと鬼川祐な訳だが。見たところ見覚えのある天井であった。白地に格子状の模様が幾たびも重なるあの病棟のそれ。
(またか........)
特段それに違和感を覚えない祐。硬めのバランスボールをフルスイングされたような鈍痛が頭に走りながらも体を起こした。
これで何度着たかも分からない入院着に身を纏いつつも、右腕には点滴が打たれていた。
この病室は普段よりかは、格式が一段程上であると祐はふと考える。別に床の柔らかさとかで判断したのではなく、周りの設備の仰々しさからだろう。
六月二十九日。これと言って何か特別な記念日でもない日だが、十九番街最大の式典である宴の二日目である。
「.......まじか」
掠れた目を擦って祐は、机の上に綺麗に畳まれた体育着とジャージ。そしてその横に置かれているスマホに目をやった。
遠近的に届きそうな距離感に祐はぐっと腕を伸ばす。しかしギリギリの所で指が空回りする。恐らくベロを伸ばしたところで表面を撫でるのが限界であろう。
「と、届かん....これ以上動かすと点滴が取れるし、大人しくしてるかぁ」
はぁぁ.....
目の前の時計は、五時二十一分を指し示していた。詰まるところ祐は一日は完全に眠っていたわけで団体競技をすっ飛ばしたことになる。
(皆には謝っておこう.....けどまぁ、俺が居なくとも問題はねぇか)
何処となく満足げに祐は笑うと、頭の先のベッドフレームに腰を掛けた。
だがしかし、少々祐は気になることがあった。無論の事傀儡師や魔陰の事も頭の片隅には置いているが。
「時雨さんとおっさんはそう言えば大丈夫かなぁ?」
初日早々別れた相方の安否、祐の怒号を浴びに浴びた一応の上司。祐は鼻と唇でペンを挟むように口をすっとすぼめる。
三度のノックが鳴った。
間隔が随分と間延びしていて、その先の人間の本性を現しているようである。
「入るよー」
行動と言葉は通ずるところがあるのか、息を吹きかければ弛む柳の枝のようであった。
ドアが横に音を立ててスライドされる。居たのは宇都宮風華であったが、少々やつれているように祐には映った。
「まさかこの時間帯に起きるてくるとはねぇ.....その白髪はやっぱり年増によるモノなのかい?」
やつれているというのは、どうやら違うらしいと祐は感じた。恐らくこれが本来の女性としての姿なのだろう。
髪は纏めていないし、自我を持った枝毛が重力に逆らう。薄めのメイクは当然しておらず、血色が悪いのはそれが理由であった。
「ふはぁぁぁ....それで少年の体調は大丈夫なの?」
「まぁちょっと頭痛い位かな。ってか先生の方こそ大丈夫なのか?」
顔の周りをくるくると指で祐は囲む。ノーメイクであることは分かるのだが、やはりノンデリと言わざるを得ない。
「あのなぁ少年.....今は朝の五時半前。普通にお眠の時間なの」
そして特大の欠伸。普通の女性はここまで咆哮じみた欠伸をするものなのかと疑問を抱く祐だが、その以前の話。
「ちょっとまて。朝の五時?......夕方じゃなくて?」
まるで夜空を知らない人間のような阿呆じみた事を口にする。
パンチらを目撃した高校男児のように血走った眼を首と共に窓の外に向ける。
澄んだ空気、美しく晴れ渡る状況下の瑠璃色が空一面に染まっている。ふと宵のうちかのような空色と思いたくなる。
「いや、そもそも夏の夕方はもっと朱いな.....」
「まぁ掛け時計は、一目で午前か午後かを判断できないけど。それでも異常だね」
呆れたように宇都宮は顔を顰めると、手にしていた電子カルテで祐の症状を確認していた。
「血圧、体温、共に良好。脳の働きにも異常は見られない.....まぁ朝と夕を間違える始末ではあるけど」
「それは別に言わなくてもいいだろ.....恥ずかしい....」
ふんと祐は鼻を鳴らす。
「なら観察眼を身に着けるんだね.....一応検査したけど、爛れの痕も拳の傷ももう完全に問題ない。ホント気持ち悪いねぇ」
アマゾンで見たことの無い数の足を持つ虫を見たかのように彼女は祐を湿り気のある目で見つめた。
「なぁ宇都宮先生?俺って今日の競技もう出ても問題ない感じ?」
「出ても良いんじゃない。けどその頭痛ってのは気になるね。数値上は問題ないんだけど」
訝しげに彼女は祐の頭を撫でる。トリミングをしていない犬のような手触りに宇都宮の表情はぐにゃりと溶ける。
「あぁぁあ"あ"あ"......疲れが取れるわぁ」
女とは形容し難い濁音に塗れたそのだみ声。
十数秒撫で終えると、祐の髪は下敷きを擦ったの様乱れに乱れる。
「あぁぁすっきりした!!──────あぁさっきも言ったけど、頭痛がひどいならすぐに休みない。良いね?」
「わあったよ!......」
(ったく。俺の頭は撫でる為にあるんじゃねぇっての......)
「あっ!!そうだ宇都宮先生。誰が俺を運んだんだ?」
返ってくる答えはある程度分かっている祐だが、念押しと言わんばかりにそう問う。
「名前は知らないけど、少年より少しだけ大きい叔父さんが運んできたよ。短髪で白髪交じりの」
やはりそうであった。その男の名など当然ながらに知っているわけで、那須世嗣と言う。すると突然宇都宮は溜息を吐きだした。
「少年の周りにいる人間は、変人しかいないのかい?あの人病院だって言うのに普通に煙草を吹かしていたよ。ホント凄い人だ」
言葉の面を舐めれば、半ば褒めているようにも見える。だがこの顔が褒めているとは天変地異が起きようが思えないだろう。
「何かすまん」
子の問題に頭を下げる親のよう祐は頭を膝と膝の間に乗せる。
「別に少年の所為じゃいないだろ?.......あぁ後、少年の友達二人と長身の女性が見舞いに来ていたよ。──────それじゃあ私はもうひと眠りするからここでさよならね」
そう言い残すと宇都宮風華は開いた扉の向こう側に足早に去っていった。恐らく理想郷を求めているからであろう。
(時雨さんも大丈夫そうだな.....)
そして祐はふと笑みをこぼした。
宴二日目。事全てが無事に終わったおかげも在り、祐は純粋に青春を謳歌していた。
「へぇ...んで結局その傀儡の魔術師ってのは、もう京都に連行されたのか」
「はい。飛来の術式は使えぬよう私が術式中和の巫術を組み込んだので逃げたことも無いでしょう」
殆ど一日ぶりに見た時雨の顔は、今朝がた視た宇都宮同様に疲れが溜まっていた。無理もない話である。
「それでおっさんはどうしたんだ?」
「本部の報告ついでに傀儡師を運んだので、もうこの街にはいないでしょう」
「そっかぁ....」
別に親友でも仲がこれと言って良かった。とは祐自身逆立ちしても言えはしない。だが少々名残惜しさは感じていた。
「まぁまたふと現れると思いますよ」
「.......それもそうだな」
二日目の開会式を終え、大通りをパトロールする二人を見て傍はカップルとでも思うのだろう。
「大仕事も終わったわけで、残りの二日は大いに楽しみたい所ですが......魔陰です」
腰を折るように出現した一体のそれに時雨は柳眉を逆立てる。
しかし祐は、呆気にとられたよう目を点としていた。
「えっ何処?」
「何を言っているんですか?あそこにいるじゃありませんか。あの屋台の裏に」
胡乱な眼をした時雨はそう口にすると指を指し示す。
目を凝らし、何とか見ようとするがそこには虚空しかない。
──────いや待て。何でこんなに静かなんだ?
脳裏の狭間から一つの議題が祐の肩を叩く。魔力を使い切ったあの瞬間、確かに祐の感知は疑似的に死んだわけで。
「あのさぁ時雨さん.......俺、見ることは愚か感知すら出来ねぇわ.......」
「はい!?」
時雨の疑問の言葉は随分と遠くまで響いた。
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