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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
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40 魂の叫び

毎日投稿十七日目。

宴之魔陰編ついに終幕です。明日からは別個の話が始まるのでよかったら待っててください!!

では楽しんで!!

「へぇぇ......殺せたんだ」

研究所の傍ら、傀儡師(メタフォア)は渚智恵の二度目の死を確認する。

「結構手間暇かけて作った傀儡だったのに、あそこまでボロボロにするなんてね.....しかも走ってる魔術式を確実に断ち切るとは」

傀儡師は悟った様時雨を見上げる。時雨の眼と切っ先そして傀儡師の眼とが見事に一直線に並ぶ。最早抵抗する余地は魔術師には無かった。

「あの男は撃てないと思った。だからその隙をついて競技場を破壊しようと思ったんだけどね。ふふっ、もうお手上げ」

「では、第三魔法は?」

「諦めるわよ。こんなに目の前にあるけど私がここから逃げる方法は無いしね」

(うたぐ)る時雨は、傀儡師の全身をくまなく観察する。仮に天穿の核を手にし、飛来した所で時雨の方が比べようも無い程速く彼女を断ち斬る。

「そうですか........では魔術式を封印させていただきます」

時雨は突き付けていた切っ先を傀儡師の影に向けて刺し突く。

『影殺』

戦国の一幕であるかのように時雨の刀は地面に突き刺さったまま自立する。

「.......へぇ凄いわね。一切の魔術が断たれた」

身体に流れる魔力がピタリと止む感覚を傀儡師は誰よりも先に気が付く。

 未だ操られていた、四十八人の学生はその場で我に返った。


 ゴミ屋敷から縄を数本ばかり手繰り寄せると時雨は、両足をきつく縛り上げ残された左腕を研究机の脚とで括る。

「これから私は何処に行くのかしら?」

「........退魔の衆の詰所に連行します」

「そう........」

彼女は諦めた顔を見せると、瞼を閉じた。身動きもましてや魔術までもが封印された傀儡師はもはや魔術師とは形容しがたかった。

 地面に転がり落ちた天穿の核を拾い上げると徐に時雨はジャージのポケットにそれを仕舞う。

(どうしてこれを手にする時は、こんなにも血が流れるのですか?)

端的に時雨はそう感じた。


 核を掛けて勝負とでも言えるそれは、苦い思いと共に幕を斬る。



──────暗転。


 第十一競技場から三百メートル程離れた休憩所で祐は目を覚ました。

(あれなんか柔らけぇ.......)

瞼をゆっくりと開けると、随分眠っていたせいで視界が霞んでいる。

 視界は随分と晴れやかであった。テントの切れはしからの太陽光が祐の眼を傷める。

(今まで俺寝てたのか?......てか此処どこだ?)

祐は体を起こそうとするが、冬場の静電気が走ったように頭が痛んだ。

「ッ!!.......」

「あれ鬼川起きたのかー?」

左手で痛んだ頭部を摩ると、祐の顔の上から声が飛ぶ。授業中何度も聞いた声と台詞であった。

 ゆっくりと祐の視界に影が注ぐと、逆光に塗れた見知った顔が現れた。ジャージ姿ではあるが、それが時たまの運動であると分かる顔色の悪さ。

「虎丸!?な、何でここに?」

「何でってそりゃあのイケ叔父さんに預けられたのよ」

「おっさんが!?........あれ、身体が言うこと聞かねぇぞ」

運動不足の人間が勢い無しで起きられないよう、祐は上半身を起こせなかった。

(力が出ないってよりかは、体が麻痺してる)

頭に運んだ左腕を見ると、確かに見て取れる程震えている。

「そんなことよりおっさんは何処に行ったんだ!?」

頭痛が祐の頭にズンと走るが、お構いなしと言わんばかりに祐は大声を上げる。

「確か、黒い点?を追って第十競技場に走っていったかなー」

「黒い点?虎丸も見えたのか」

祐は顔を顰めながらにそう聞いた。

「いや私は見えなかった。けど、何か深刻そうな顔して走っていよ」

(虎丸には見えなくて、おっさんには見える黒点.....まさか魔陰だってのか!!)

普段の感覚で祐は感知を広げようと体に力みを利かせる。

(だぁぁぁ!!そう言えば俺、動けない以前に魔力切れじゃねぇか!!!)

伝わることの無いノリツッコみを終えると、気力だけで体を起こした。

「あんまり動かない方が良いと思うぞー。ここに来てからまだ十分も経ってない訳だし」

「何だって!?......ッ!!」

三度目の頭痛は、無理強いした影響か殆ど電撃と大差がない。祐は頭を抱え顔を下に向ける。

「おっさん一人で行かせたってのか?」

「そりゃ私が付いていこうにも追いつくわけなかったし。それに鬼川は気絶してたんだよー?」

それもそうである。祐は客観的な指摘を受けてふと我に返る。

(いや待てよ。仮に崩落が起きたんだったら周りがこんなに普通でいるわけがねぇ。って事は間に合ったのか?)

目覚めて間もない頭脳を働かせて、幸運な未来を導いた。しかしながらに特段自信が在ったわけではない。

「なぁ虎丸。おっさんが第十競技場に走ってから何か事件とか在ったりする!?」

「.......いや。特段そういう情報も無いし、警報もなってないからねー」

「そうか.......」


 はぁぁぁ......


安堵。ひたすらその思いから祐は溜息が勝手に吐き出る。

(ん?..........そう言えば)

「なぁ虎丸?」

「ん?どうした鬼川ー」

「さっきまで俺、虎丸の太腿の上で寝てた感じか?」

不意に思い出す柔らかな感触。そして同時にふんわりと包み込んでいた柔軟剤の香り。

「そうだぞー。私の膝枕を味わえたんだから少しは感謝するんだな」

自慢げに虎丸涼は胸を張った。だが、そこには清廉白日や博士のような峰はなかった。あの二つを仮に富士と北岳とすれば、そこいらの丘としか表現が効かない。

(なるほど、だから視界が晴れたって訳か)

祐は見ることの叶わなかった半分の光景に思いを馳せながら、ふと鼻で笑う。

「おい鬼川。今中々に失礼な事考えたな?」

冷徹な言葉が視線と共に祐の心に突き刺さる。

「いや。別に.......」

白々しいとは祐自身感じていた。だからと言ってどうすることもできないから祐はその姿勢を貫徹する。


(それにしても静かだな.....感知が効かないとこんなにこの街は静かなのか)

磨りガラス向こう側と大差のない世界に生きていた祐にふと笑みが零れる。

「これで、終わったのか......」

「何がー?」

ぼやりと呟いた祐の言葉に虎丸は、ふと眉を顰めた。

「別に.........あっおっさんだ!!」

遠くの景色をぼんやりと、ただ楽しむように眺めていた祐の世界に那須世嗣が点と現れた。

 近づこうにも膝から下に力が入らない祐は、世嗣の到来をただひたすらと待つ。

「おぉぉぉぉぉい!!おっさぁぁぁぁぁぁん!!!」

張れるだけの声で世嗣の名前を呼ぶ。

 しかし世嗣は手すら上げようとしない。それ以前に驚くほど廃れた顔になり果てていた。


 ──────尋常ではない。


直観祐はそれを感じた。頬が痩せこけ、眼には反射光の光すらない。白目の中に純度の高い黒目が撃ち込まれている。

(........どうしたんだ?新手の魔陰は討伐したってのに)

至高を回すがその答えには永遠と辿り付けそうになかった。

 その世嗣の異変は祐に留まった話ではない。殆ど初対面と変わりのない虎丸涼でさえも気が付いている。

「あの人あんなに荒んでたっけ?」

「いや」

祐は固唾を呑み、近付いてくる世嗣を黙々と見つめる。

 その距離が縮まる程に違和感は強まり、果てに世嗣は二人の前で立ち止まる。

(煙草吸ってねぇ)

「おっさん大丈夫か?」

「........あぁ」

声は姿に比例していた。相槌こそ世嗣は打っているが、どこから見ても大丈夫とは考えにくかった。

「嘘だな。何が在ったんだ?」

「.....ふっ。勘のいい坊主だなぁ。聞きてぇか?」

「あ、あぁ.....」

無理に笑顔を貼り付けた世嗣は、そう言うと空を仰いだ。

「ついさっき、人を殺した」

「........はぁ!?」

余りに世嗣が平然と口にした所為で祐は反応が数手も遅れた。いや恐らく平然としていなくとも反応は遅れていただろう。

「それも、かつての恋人を撃ち殺したよ。七発も撃ってな」

その言の葉を紡ぐ声は震えていた。しかしそれは罪悪感からではない。文字通り気がふれた笑みを浮かべている。

「ハハッ。ハハハハハハハハ........笑い話だなぁ坊主。こんな面白い話、探そうにも探せんぞ」

「ちょっと待てよおっさん!!確か恋人って死んだって」

「あぁ死んでた。傀儡師(メタフォア)とか言う屑野郎が継ぎ接ぎにして再利用してやがった」

笑みは次第と憎しみを帯びた笑みに変化していた。

 祐と虎丸はただ何もできずその姿を見つめる。

「あの野郎、この俺に天秤をチラつかせて来やがった。殺せるはずもない嘗て心から愛した人間と見捨てられるはずもない何百の命......どうすれば良かったんだよ!!......」

怒りに震える世嗣は見るに堪えられなかった。

「叔父さん......」



「らしくねぇなおっさん......それでも退魔の銘を背負う人間かよ!!」

瞬間世嗣の震えが止む。

 可哀想なのかもしれない。ただ祐は止めなかった。

「その女は姿形こそかつての恋人だったのかもしれねぇ。けど言わせてもらうが、そいつは死人だぜ」

そして祐の体は上へと持ち上がる。別に立ったわけでも宙に浮いたわけでもない。那須世嗣と言う男の逆鱗に触れたが故に胸ぐらを掴まれたのだ。

「てめぇに.....てめぇに俺の何が分かる。俺があの女をどれ程好いていたか。てめぇに分かるってのか!?」

殺気を帯びている何てモノが可愛らしく感じるほど世嗣の眼は血に飢えていた。

「だからだよ」

「何!?」

「てめぇの痛みを知る人間が、こんなこと言えるとでも思ってんのかてめぇはよぉ!!」

祐は未だ痺れる腕に力を込めて世嗣の頬をひっぱたいた。


 空気を切り裂くような破裂音。

「良いか?確かにそんなモノを撃ち殺したってのは、気持ちが悪い事なのかもしれねぇ!!おっさんがどれほどその傀儡となった女に恋をしていたのかも知らねぇ!!」

祐の声は言葉を紡ぐほどに怒号を強める。

「けどなぁ!!操り人形と化した女を救っても失った命に誰が感謝する!?それはてめぇか!?それともその女か!?」

これ程声を張り上げたのは、何時振りだろうかと祐は考える。中学三年の時土屋を虐めていた人間に吐いた時以来だろう。

 世嗣の眼は祐の棘を喰らい光を反射しだす。

「はぁ....はぁ.....良いかぁ!?てめぇはその女を殺したんじゃねぇ!!一人の命を天秤にかけたんじゃねぇ!!てめぇは、その女を救ったんだよ!!!莫迦がッ!!!!」

息も絶え絶えに祐は怒号を絞めた。いつの間にか祐と世嗣を動画に取る人が周りにごった返していた。

「......だから、そんな顔するんじゃねぇよ」

ひゅうと音を立てる程の風穴が空いたような、そんな悲愴な顔を祐は必死に浮かべた。

「ふふっ.....まさか。五十過ぎて、若造に説教されるとはな。何時ぞやのババア振りか?」

完全に戻っては無い。ただそれでも世嗣の顔は生気が満ち満ちていた。

(あれ.......何か視界が.......)

叫び過ぎた酸素不足か祐は世嗣にもたれかかるように気絶した。

 祐の名を呼ぶ声が二重になった気がしながらに祐は二度目の眠りに着く。


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もしよかったら第零話から読んでくれると助かります。

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