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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
39/64

38 二の矢

毎日投稿十六日目。

残り二話でこの話も幕切れかなと思います。

評価とコメントとフォローお願いします!!

では楽しんで。

 順序は決定していた。構築した弾丸を世嗣の愛機に手動装填し、第三競技場天井部に向ける。その間祐は、全開で感知を回し続け飛来する魔力の前触れを世嗣に知らせる。この知らせ方は何だって良かったのだが、最も確実で最も正確であり最も速く完遂できるよう世嗣の背中に触れる事にした。

 後は単純な作業であった。いや単純では無いのだが、祐からすれば世嗣頼みとなる一点である。必中の術式と速度強化の術式による弾丸への細工を施し後は当てるだけの簡単なお仕事なのだ。

「おい坊主.....しんどかったら少しくらいは感知範囲を落としても良いぞ」

現在進行形で味わい続けている祐の痛みを知った世嗣だからこその言葉であった。宴の魔陰を射殺する為のセッティングから凡そ五分間もの間祐は悍ましい量の魔力情報を頭に流し込まれている。無論鼻血は溢れ出ている訳なのだが、それを止める素振りは見せない。

「馬鹿野郎。そんな怠慢が許されるわけねぇだろう.....今位大したことねぇ」

「まぁ強がりを口するのは勝手だが、一人でに潰れるのだけは許さねぇからな.......」

優しい言葉を掛けた世嗣であったがその切り返しの言葉は随分と冷淡としていた。

「へいへい......」

とは言っても祐の仕事は感知だけではなかった。大凡三キロ近く離れている距離まで弾丸を届かせなければならないのだが、通常愛機であるレミントンM700の最大有効射程は八百メートル。無論届くはずもないモノを魔術を用いて届かせる最中、構築された弾丸はその衝撃に耐えかねて空中分解を果たす場合がある。

 射出後の祐の仕事はその硬度を維持し続ける為、一定数以上の魔力を流し続けるという責務があるのだ。

(感知を回し続けてっと、何時かは電池切れになる。頼むから早く来てくれ!!........)

世嗣の手前強がってみた祐だが、頭痛以前に魔力の消耗が激しかった。弾丸の硬度を維持するための魔力を込みとして考えても感知を回し続けていられるのはざっと三分が限界と言えた。

(お嬢が電話してからざっと十分は経ったな.....そろそろ傀儡師(メタフォア)のクソガキを見つけられる時間帯何だがな)

一見すれば銃を構えて合図が着たタイミングで引き金を引くだけなのだが、やはり圧倒的な緊張感と術式の操作性を求められている。

 煙草を肺に取り込むと、額から汗が一筋伝る。



 遠くの方では、競技場の騒ぎや屋台のガヤが地で響く。しかし上空では、張り詰めた静寂だけがただ広がる。

 西日が淡々とこの街を照らす。スコープが(しろがね)に輝き、地上に二つ目の衛星を創り出す。

 栓を占めた直後の蛇口のよう一定の間隔を以て祐の鼻血が屋上のゴム製の床に滴り落ちる。小さく赤い水溜まりが少しずつ円周を広げ、その度に小さな波紋が波打つ。



──────嵐の前の静さ。その瞬間確かに空気がぐっと重くそして乾いていた。


刹那、祐の感知の中に覚えのある魔力が入り込んだ。

 脊髄反射のよう祐は世嗣の背中を押し込んだと同時、世嗣は引き金を引ききった。

 発砲の反動が世嗣の背から祐の掌へと重たく伝わる。



 スターターピストルとは比べ物にならない、空気を切り裂く棘音きょくおん。それは数多の残響をこの学生寮の屋上に残し突き進む。天山の(おろし)の影響を受けず、放射状にもならず直線的に動く。


 第三競技場の天井部の一角。そこは何も無い筈の白地の曲面。だがそこには見えるはずのない存在が降り立つ場所。既に仕込まれていた切れ目に魔力を流し込む為だけの特効役が辿り着いたと全く同時。



 その水晶体は星屑のよう天に舞った。


「..................」

世嗣はスコープの先の光景を見てただひたすらと硬直する。

 砕かれた魔陰は動く事無く、そして第三競技場が砕かれることも無い。シナリオ通りの完璧な幕引き。

「やった..........やったぁぁぁぁあああ!!!」

魔力消失の反応が無くなった事を感じた祐は、年不相応に飛びは跳ねる。未だ固まる世嗣の両肩を力強く握りしめガンガンと揺らす。

「...............あぁ」

その相槌は存外小さく短くあった。ただそのたった一つの相槌に篭められたる思いはどれ程の言葉を用いようが表せない。

「ははっ!!というか本当に第三競技場に来やがったぜ!!..........」

「あぁ......本当にそうだな」

世嗣はスコープから眼を外し、その余りの高揚感からか自然と口角が吊り上がっていた。膝に手を突き立ち上がると掴まれていた祐の手がほろりと抜け落ちる。

 握り締められた右手は残像を残すよう震え続ける。

「やったなッ!!ぼう........ず?.......」

喜びを分かち合うよう振り返るとそこに白髪の少年の姿は無かった。

 当然かの少年は飛来の術式なんて高等な物は持ってない。仮にそれ以外の方法で移動した所で音が聞こえるのだが、そんな音は鳴っていない。


 数度の瞬きを終えると、世嗣は足元を見つめる。

「坊主?.......おい!!坊主!?」

足元に一人の人間がいた。日本人離れした白髪に男らしからぬ長髪を携えた少年であった。喚き過ぎた子供が突然眠りに着くよう祐はその場で座り込んでいた。

 髪の毛はふんわりと風に靡きはするが、依然として動く様子は無い。それどころか魔力の反応すらない。

「坊主!?......坊主!?」

祐の横に回り何度も背を擦るが、一向に反応は示さない。

(無理もねぇ!!って言うか、今の今まで普通に耐えてただけでおかしいだこの坊主はよッ!!)



 ぼんやりと崩れ落ちるような感覚が祐を包み込んでいた。ひたすらに底のない沼に落ち込んでいくような浮遊感。今下を向いているのか横を向いているのかすらも分からない迷走感。

(何だ.......この嫌な感覚は.......)

薄れゆく意識の中、祐は第六感で体に走る違和感を感じていた。







 研究所の一幕において決着は付いていた。それは物理的にも精神的にも同じことが言えた。

「う、腕が.......私の腕がッ!!........」

斬り堕とされた右腕の先を悲愴的に見つめては、狼狽とする。切断面が恐ろしく綺麗なお陰か湧き出るような鮮血は出ない。魔術を研鑽し怪我や死というモノに対し耐性を付けてあったとしても、やはり平然としては居られない。

「........莫迦なッ!!莫迦なバカなバカなバカなバカなバカなバカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

天井の狭い空間であれ彼女の喚き声は良く響いた。

「言ったでしょう。私には信頼に足る相方と師がいると......だからこそ私はここに舞い戻ってこれたと」

血溜まりに跪き、怒髪冠を衝く勢いで震えていた。

「近接でも遠方の攻撃であれ対応できるよう、準備を施していたというのに......何故だッ!?」

「さぁ....それは二人に完全に任せたので。ですがこれで終わりです、その核を諦めて即刻この国から立ち去ってください」

切っ先を眉間部の先に突き付ける。その光景は断頭台にいる首切り役人と死刑囚との一幕と言っても差支えのない。

 二人の中間部分に転がり落ちた第三魔法(完全なる掌握)に血をはじく。

「..........三十年前と何も変わらないわね」

「?....どういう意味ですか」

傀儡師(メタフォア)はまるで自嘲するように、そして何故か喜ぶように鼻で冷笑する。

「あの時、私は全く同じ陽動作戦で第五魔法を探し求めたの......けど、あの時は那須世嗣との交戦も敗走の理由だったわ。でもそれ以上にあの柳清玄(やなぎせいげん)とか言う化け物の所為と言った方が良いわね」

「清玄さんが?........」

「三十年前。貴女の役目を那須世嗣が、そして魔陰をあの化け物が担当してたの......あの女は素数番街全域に巫術結界を張り巡らし、全ての魔陰を殲滅したの」

彼女がかつての記憶を思い出すのに震えていたのも無理はなかった。

 結界と言うのは、大きさやその組み込む術式により無数の型が存在する。その中でも空間結界を発動するにはその大きさに比例するよう人頭の数もまた必要となっていくのだ。


 しかし柳清玄は違った。

 たった一人で四千平方キロメートルもの素数番街全域に結界を張り巡らせそして魔陰を全て殲滅して見せる圧倒的な実力。その状況を見た人間でさえ信じることのできない神秘の領域に踏み入れた文字通りの化け物である。

「..........それで私の伏兵諸共、全てを皆殺しにされた」

「だから失敗に終わったと?」

「えぇそうね」

傀儡師の眼は殆ど生気と言う光を失ているように時雨は感じた。だがそれでも時雨は油断をしていなかった。

 前回の交戦ではここから、敗北に至ったのだから。

「......ねぇ剣聖ちゃん。どうして人は歴史を学ぶのかしら?」

突飛な質問であった。それは歴史の担当教諭が生徒にモノを教えるような問いである。

「過去を知りそこから何かを活かすためですかね」

それに対し時雨は淡々と答えた。随分と優等生的な答えであり、それ以外の解答を時雨もそして傀儡師もまた知らなかった。だからこそ傀儡師はふと微笑む。

「私もそう思うわ......ならもう一つ質問」

言葉尻が微かに上ずる。ただ緊張の為ではなく、何処となく溢れた高揚感とでも言えようか。

「前回私が敗れた理由は?」

「..........陽動役を殺された事」

「半分正解ね。厳密には陽動役を一体にしていた事、が答え」


 ふと時雨の背筋に冷汗が流れる。妙にさらりとしていて、火照った身体には随分と良い清涼剤であった。

 同時、出所の分からない焦燥感が全身に立ち込める。瞳孔は軽く開き、唇は微細に揺れ動く。そして最悪であり災厄な考えが脳裏をよぎる。


「まさか..........」

「今度は大正解。そう二の矢が私には居るのよ」

左手の親指と中指を以て彼女は全てを終わらすよう指を鳴らす。






同刻、世嗣は未だ目覚める事を知らない祐に魔力を流し込んでいた。

「はぁ...はぁ...さっさと起きろクソ坊主。俺の魔力はお前と違って普通なんだからな!.....」

それでも鬼川祐は反応を示さない。呼吸は朦朧としていて陽炎のようであった。そしてそれは心音もまた同じである。

「全体に治癒は回したし、空になった魔力にもそれなりの量の魔力を入れたはずだぞ.....何で起きねぇ?」

不可思議な現象であった。単純に疲弊しきった上で寝ているのであれば、治癒によって目覚める筈である。そして魔力不足で寝込んでいるのであれば、流した今起きない筈が無いのだ。

「........はぁぁ。まずは病院に連れて行った方が良いなこりゃ...それにしても良く頑張ったな坊主」

白髪の頭を犬のように撫でまわすと世嗣は、祐を肩に担いだ。

「休憩所まで飛ぶとするか」

世嗣はレミントンM700とライフルケースを虚空に飛ばすと、空いた左腕で煙草を吸う。

 足元にあれだけ広がっていた模倣弾はいつの間にか魔力が飛散し、消えていた。

 そして飛来する。


 移動した先は、ここにくる以前に居た裏路地である。

 第十一競技場から人が分散したのか大通りに出ると、人気がそれなりに増えていた。

「.......そんじゃまさっさとこの死に体を運ぶとするか」

人の流れに逆らうよう世嗣は虎丸涼と別れた休憩所に足を運ぶ。こんな暑い中にロングコートを羽織っているだけで無論目立つのだが、そこに追随するよう路上喫煙を決め込みジャージ姿の白髪人間を抱えている。やはり目立たないという方が難しい話である。

「何で俺が回りの眼を気にしなきゃなんねぇんだ.......」

(いや俺自身の問題か....)

雑なノリツッコみを終えると世嗣の視界の中に見覚えのある女性の姿が映る。

「おや嬢ちゃんじゃないか。まだここに居たのか」

「あれイケてる叔父さん....それは鬼川ですか?」

白版の貞子かのようにだらんと垂れる髪を見て虎丸はそう問う。世嗣はまぁなと言わんばかりに首を縦に振る。

「色々あって寝てる。それはそうと人の数が随分増えてるみてぇだな」

「あぁ改修工事が始まって近場に寄れなくなったからですね」

「そうかい」

世嗣は肩に掛けていた祐をベンチの上に寝かせると煙を口から吐いた。

「ありがとうな嬢ちゃん。お陰で第三競技場の方は何とかなった」

「えっ!本当ですか?」

再び世嗣は首を縦に振る。自分には関係のない事だというのに虎丸は目を細めていた。

 横たわる祐の頭側に腰を据えると世嗣は空をテントの淵から見える空をぼんやりと眺める。雲が風に身を任せ左に流れていき、その一つ一つの形は千差万別としている。特段美しい何て表現するほどのモノでは無いが不意に目を向けると心安らぐそんな一枚。

(これで、俺の雪辱も無事に果たせたって訳か......少しは手向けになったか?)

足元を見て満足げに笑うと、世嗣は再び空を見つめた。



 ──────黒点?



青と白のみが映し出されることを許された聖域に在り得るはずの無い黒が雲の流れに逆らっていた。

 鳥ではない。当然隕石などでもない。どちらかと言えば人型に近いモノではあるが、少々黒すぎる。

「なぁ嬢ちゃん....あそこに黒点見たいなモノ見えるか?」

それが嘘であってほしいと、それが自分の見間違いであってほしいと思うよう世嗣は虎丸に尋ねる。

「黒点ですか?..............いやー見えないですけど」

世嗣は彼女が目で追えるようその先を指で指し示しているのだが、虎丸には映っていない。その間雲に隠れたりなどはしていない。見れば誰しもが違和感を覚える程度の大きさでその物体は動いている。

「そうかい......も一つ嬢ちゃん良いかい?俺達の向いてる方向には何がある?」

「この先ですとー、第拾競技場ですかね」


 世嗣は無心に立ち上がると、すぐさま正面に向かって走り出した。

 その背中は焦燥に満ちていた。一秒の遅れすらも許されない出産前の夫のように、とてつもない速さであった。

「嘘だと言ってくれ!!」


飛来を使い終えたばかりの世嗣の移動手段は、闘力による加速のみであった。しかし空を飛ぶかの魔陰にはそれでもなお追い付けない。

 

 その姿は羽化してなお飛ぶことの叶わない蚕が天に思いを馳せる程の虚しさであった。

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第零話から読んでもらえると作者は飛び跳ねるくらい喜びます!!

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