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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
38/64

37 引き裂かれるは天の静寂

毎日投稿十五日目。

評価とコメントとフォローお願いします。もしよければ第零話から読んでもらえると助かります。


楽しんでください!!

 どれ程の技術を持ち得ていた所で、それを発揮する体力や気力が無ければ意味を成さない。

 それは学業、運動、趣味などでは留まらず魔術と言う非日常の一片においても言える事であった。


 ただしかしその逆は、と問われれば中々に答えにくいモノである。

 技術は何一つとして持ち得ていないモノの、圧倒的な体力と気力でそれを補うという事はやはり考えにくい要素であるからだ。それほどまでの力を有しているのであれば無論技術は知らぬうちに発達するからだ。

 

 那須世嗣は、五十年余りの人生を経てこの感性を絶対としていた。今の今まで出会った全ての人間や魔術師、将又巫術師などもそれに該当してきていたからだ。

 そんな中、異端中の異端。いや例外中の例外と言える存在が平然として眼前に立っていたのだ。大気の中に酸素が組み込まれている事を不思議と思わぬよう、退魔の衆の中にいる一般的な人間であるようこの白髪の少年に違和感を覚えていなかったのだ。


 だがそれもつい数秒前の話ではあった。

「坊主......ちょっともう一度手を貸してくれねぇか?」

世嗣はこの異常な塊を知りたいと思う知的探求心が働いてか再び祐の魔力に触れたくなった。

 そこに当然他意は無いのだが、少々祐としては気味が悪いモノである。

「何だよ.....もう出来たんだから良いだろ」

「少々試したいことがある。これで終わりにするからちょっと貸してくれ」

その表情や声色に悪戯な思惑を感じなかった祐は渋々右手を世嗣の掌に乗せた。

(俺の感知術式にこいつの魔力を入れたらどうなるんだ?...........)

物は試しと言わんばかりに世嗣は、固唾を呑み術式を回すと「魔力を流せ。全開で....」とやや震える声でそう伝える。

 世嗣がどのような意図を以て祐の魔力を使用したいのかは、不明であったが祐は先程と同等の魔力を全開に流し込んだ。




 

 ──────仮の話をするとしよう。本来は感じることの無い筈のモノが突発的に頭にねじ込まれた人間はどうなるか。

 ──────想像力が豊かな人であればある程度の想像は効くのであろう。ではそうではない人に現実味を帯びた問を投げかけよう。



 『通常の四百倍もの情報が一気に頭に流れ込んできた場合人間はどうなるか』



瞬間世嗣の鼻の穴から止め処のない量の血が噴き出る。それだけには留まらず、口からもまた鮮血が返る。

「ガッハ!!ガッハ!!.........」

脳の処理限界を超えた感知情報により世嗣は、片膝を突き口に手を当てた。

「おい!!おっさん大丈夫かよ!!」

尋常ではない様相の世嗣の背に回り込むや否や祐は、何度も世嗣の背を摩る。むせ返る咳の中には、やや黒い血が混ざり込んでおり足元に転がる銃弾に満遍と付着する。

(何だ今の魔力は!?........街中に張り巡らされていたぞ。それに純度が薄いのか?やけに気持ちが悪い)

祐の魔力を以て回した感知は、無論祐と同じ領域まで広がるわけである。本来は味わうことの無い筈の魔電気にまでもが脳内に組み込まれる痛みは想像を絶していた。

「坊主.....お前いつもこんな量の魔力を処理してたのか?」

「どういうことだよ────もしかしておっさん俺も魔力で感知したってのか!?」

世嗣は口周りに着いた血を拭うと小さくうなずいて見せる。


 はぁぁぁ......


「あのなぁおっさん....いきなり俺が感じてる量の魔力を頭に入れ込んだらそりゃそうなる!!俺だって、全開で感知を回してたらすぐに鼻血が止まらんくなるんだからな」

「悪いなぁ.....まさかこれ程までとは思わなった」

珍しく自身の非を素直に認めると世嗣は、コートの裾で鼻血を拭う。疎らな鬚の先が水気を帯び太陽の光を受け赤黒く光っていた。

 

 荒れていた呼吸のリズムを整え終えると世嗣はゆっくりと立ち上がり、真新しい煙草を吸い始めた。

(一介の魔術師の家系ですらねぇような、坊主がどうしてこれ程の魔力を有しているんだ?まさか他の四神力も同じとかぬかすんじゃねぇだろうな.......)

世嗣は煙草を吸いながらに、祐に視線を落とす。床に散らばった弾丸を一つ一つ手にしてはそれを落とすという不可思議な行動を繰り返していた。

「なぁおっさん....この魔力で出来た銃弾ってずっとここに留まるのか?」

「いやそれはない。銃弾を構成する魔力が少しずつ発散して行って、何時かは形を留められずに消えていく。この魔力密度だったらあと数分もすれば消えるだろうな」

「そうなのか。いやもしずっとここに在り続けるんなら一つずつ中和しないといけねぇのかと思ってよ」

「ッ!!?............」

世嗣の嫌な予感とも取れる考えは、全く持って杞憂ではなかった。

(あの嬢ちゃんしかり.....この街の人間はどうなってやがるんだ?)





──────暗転。


 傀儡師(メタフォア)の体調は如何せんに最悪と言えた。痛みや血は完全に止まったものの、やはり血を流し過ぎたせいであろう。足を進めているごとに目の前がぐにゃりと歪み、その都度壁に身体を支える。

「はぁあ.....同調感知でこっちの方ていうのは分かるけど、やっぱり精度が低いわね。大司祭(コーヘーン・ガドール)様の聖なる供物カドシュ・ダヴァールって言っても大したものじゃないのね」

ポケットに入れていた、十字架付きの麻紐ネックレスを取り出してじっと見つめる。

 魔術が組み込まれており一応は聖具というスケールに組み込まれているはいるのだが特段光ったりはしない。洗練された術式ではないためにその精度たるや、中々に悲惨なモノでもある。とは言えども現状の彼女には夜も日も更けないモノではあった。


 天童高校から外に出た彼女は、時雨の追跡などを視野に入れていないかのように見晴らしの良い道を選択する。

 ある程度の方角を頼り、後は彼女自身の感知で細かな場所を探索するのは中々に骨の折れる作業である。ただ特定した道筋を振り返ればそこまで入り組んでおらず、随分と直線的と言えた。

「結構匂いがキツイわね」

聖具の指し示した方向通りに進んだ傀儡師(メタフォア)は下水道の入り口で立ち止まる。

 腐敗臭とは違うが、何処となく生臭い悪臭が彼女の鼻腔を突く。徐に口呼吸に切り替え、意を決してその先に突き進んでいく。

 しかし入ってみるや思ってた以上に暗くは無かった。いや寧ろ明るいとまで言えた空間であった。数メートル間隔に壁に打ち込まれている小さなLEDが弱弱しくはあるが青白く光っている。

「こんな所にも光が在るなんて......随分進んだわねこの街は」

ついぞ三十年前の素数番街を知る彼女は、感嘆の声を吐露する。

 感覚で言えば十個目のライトを横断するより前、鉄製の扉が訝しげに壁に備え付けられていた。

「.........ここね」

傀儡師(メタフォア)第三魔法(完全なる掌握)が眠っていると確信した。それは聖具の反応、彼女自身の魔術以前の第六感がそう叫んでいたからだ。

 三十年前はその神秘の前触れにすら辿り着くことの無かった彼女の顔には、無意識に笑みが零れていた。まるで誕生日の子供が、膨らんだプレゼント袋を目にした瞬間の高揚顔であった。

 脳内から溢れ出るドーパミンの数々が、彼女の両手の操作を奪う。最早彼女の意志ではなく身体がそれを欲するよう扉のドアノブに手が伸びた。


 ひんやりとした取っ手を掴み、それを時計回りに回す。

「.........う、動かない?」

しかしそれは反対側から逆方向に回されているかのようにピクリとも動くことは無かった。興奮状態の思考は原始的でありそれでもなお彼女は力任せにドアノブを思い切り捻る。

「ック!!........動きなさい!!」

無論動くことはない。魔術と言う利便性の高いモノを普段から濫用している人間の非力な腕力では、博士の仕込んだ結界に傷を付けることは叶わない。何の腹いせか傀儡師(メタフォア)は鉄製の扉を思い切り拳で殴りつける。

 ビンッ!と並々ならない音を立てながらに、彼女の拳頭は赤く腫れる。手首を思い切り掴まれたようなあの血管の躍動と圧迫感が走る。

「何で動かないのッ!?..........結界?」

痛みを以て思考の線路が切り替えられたのか、彼女は魔術師としての思考に走る。未だ痺れる右手を広げドアにべたりと引っ付ける。

 やはり冷静になれば簡単な問題であり、ドアノブのみに簡易的な結界が張られていた。

「けど魔術じゃないわ.....巫術によるもの。しかも物理的な力だけを分散するような体形が組み込まれてる....相当な使い手ね」

感心しながらも彼女は結界の解析を行う。ただ解析が進めば進むほどにその巫術の緻密さに舌を巻いた。

「系統は日本式。体形は物体への干渉を基にした防御結界...................こんなもんかしら」

調整を終えた魔力を巫術結界に流し込むと固まっていた鍵が開く感触が手に走った。

「これで........行けるわね」

今まで全力を持っても反応を示さなかったドアノブが、まるで赤子の手かのように簡単に回る。

 鉄製のドアを引くと、中はこの下水トンネルとは対照的に光の存在を確認できないよう黒かった。

「煙草臭い。それになんか埃っぽいわね.......」

博士の研究所は時雨が住まっていたおかげで一時の清潔を保っていた。しかし時雨の退去もあり速攻でゴミ屋敷と舞い戻り、二番街への招集令もあり埃まみれというオプションも加わっていた。

 壁伝いに電気のスイッチを探し、三つに連なる突起物の一番上を押す。


パチンと音が鳴るより恐らく早くに研究室が明るく照らされる。相も変わらず、潰れた缶コーヒーがそこら中に散らばっており七十五リットルゴミ袋の山が部家の角に積み込まれている。ガラス製の机には、大量の吸殻が灰皿に芸術的に積み上げられていた。

「結界も張ってたし、電気もついてないからここの住人は今は居ないようね」

認識は無論当たっているのだが、それでも足音を殺すようゆっくりと歩きながらに研究所を回った。一見すると科学者の住まう研究施設とは考えにくい一室だが、メインデスクには理論が書き記された大量の紙束が雑多に放られていた。

 『魔電気の解析理論』

 『人体魔陰化理論』

などなどその種類は様々ではある。

 ただ傀儡師(メタフォア)からすればそんな高度な論理などはどうだってよかった。そんな小手先の理論を盗んだところで、何一つとして世界を変えることは出来ない。彼女はひたすらに研究室を散策する。



 そして水晶体を見つける。無論それはただの水晶玉などではなく、核と呼ばれる物体であった。しかもそれは雑多に溢れかえる等級伍や肆程度のモノではない。十数年単位は愚か、千年前に存在したとされる第三魔法が組み込まれた天穿の核。つまるところ傀儡師(メタフォア)の所属する《《法王の籠》》が求めた代物なのである。

「これが......第三魔法」

命令で動いていたとは言え探し求めたモノが余りに適当な扱いを受けていた事に彼女は、疑心を覚える。しかし聖具はこの水晶玉こそが第三魔法だと信じて疑わない。

「まさかこんなにあっさりと手に入るなんて。随分と拍子抜けね......」

たった一つで世界の均衡を崩しかねない正に至高の宝玉であるそれを彼女は、ぞんざいに上に放ってはキャッチを繰り返す。見た目の割に中身が詰まっており手首を固定していないと持っていかれそうな勢いを作る。

 


「........まぁけど、ダンジョンのお宝はゲットしてからが本番って言うわよね。剣聖ちゃん」

傀儡師は、核を手にしながらに居る筈のない誰かに声を掛ける。

 ──────刹那、何者かが飛来する。


 わざわざ人気の無い研究所に飛んでくる人間など、考えられる中で二人しかない。一人はこの研究所に住まう住居人。そしてもう一人はかの剣聖の神子であり傀儡師を追う退魔の衆の人間しかない。

「やはりここに居ましたか......」

ただ傀儡師の読み通り飛来してきた人間は、霧太刀時雨であった。二十四ではあるが学校指定のジャージを羽織りそして左手には納刀している白鞘の大太刀を握りしめている。あれ程までに戦意を失ったはずの眼には殺伐とした雰囲気が醸し出していた。

「心が折れてもう追ってこれないと思ってたけど、流石ね」

「素晴らしいクラスメイト、素晴らしい担任、素晴らしい師、そして素晴らしい相方のお陰です。傀儡師(メタフォア)あなたを此処で止める」

そして白鞘から刀身を引き抜いた。決して狭い空間ではないこの研究所ではあるが、その太刀を縦横無尽と振り回せば何処かしらにぶつかりそうなものではある。

「あれ私の名前を知ってるの?......まぁ大方あの男から聞いたんでしょ。なに?仇討ちでも頼まれたのかしら」

「いえ........自身の行動を卑下する暇があるなら止めろと言われただけです」

「あらそう。けどそんなことしたら大量の人が死んじゃうけど良いのかしら?」

傀儡師(メタフォア)は再び時雨を追い詰めるよう言葉責めを始めるが。

「どうぞご自由になさってください」

時雨は、まるで人格が切り替わったかのように吹っ切れていた。

「何ですって?」

「聞こえませんでしたか?........やれるもんならやってみろ。と言っただけです」

可笑しくなったわけには見えなかった。そして虚言を口にしている素振りにも見えなかった。本気で操っている魔陰を操作してみろ、と脅しているのだ。

「へぇ....甘さを捨てて任務を優先するようになったの。あなた、そんな退魔の衆なんかよりよっぽど私たちの組織に入った方が有益よ」

「──────ふっ。力では勝てないからと弁論で勝負しようと?大陸の魔術師は随分と口喧嘩がお好きなようですね」

随分な切れ味を持った煽りで時雨は傀儡師に切りかかる。

 確実に魔術師としての逆鱗に触れたようで彼女は、殺気じみた眼で時雨を睨み付ける。

「甘さを捨てた代わりに、随分と馬鹿になったのね.......それじゃあ言われた通り殺してやるわよ。この街の住民をねッ!!」





 そして傀儡師は力の限りを尽くして、傀儡の魔術(レタンレム)を発動する。魔陰の行く先は彼女から比較的近場に在った第三競技場、距離にして大凡二キロ程度の距離感。下水道の中にいるとは言えど、その余りある力を持って破壊に勤しめばここまで容易に爆音は届く。


 しかし時雨は、呆然とただ傀儡師を見つめる。抜き身になった刀身を向けることも、構える事さえもしない。



 ──────バンッ!!

遠くの方で何か破裂音のような何かが鳴る。それは残響を残しこの街の空気を切り裂いていた。

 それは崩落の音ではない。何故なら警報音が一つとして鳴らないからである。


「..................莫迦な.........傀儡の反応が.......消、え、た?」





 手ごたえのない彼女の眼には絶望が刻まれていた。

 だが時雨はそんな彼女に対して慈悲は見せない。抜いた刀身を神速の如く一閃に振り斬った。空中に飛散するは、一つの水晶玉と、一つの腕。

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あの本当にお願いしますね。

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