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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
37/64

36 創り上げろ 模倣弾

毎日投稿十四日目。

とうとう明日で三週間目に差し掛かります。恐らくあと三話くらいでこの編は終わると思うのでよろしくお願いします。


では楽しんでください!!

 ──────暗転。


 祐の提案は、自身の力を押し出す要素ではなかった。

 遠距離を確実に必中させる、この喫煙の狙撃手の力こそに信頼を置いたのだ。

「いや無理だと思うぜ」

しかし当の推薦者は、それをあっさりと否定する。無論そこには祐のような直観的な理由とは比べようもない緻密な理由が練り込まれているのだが。

「いや出来るね」

「いや無理だろ」

「それがどっこい。出来るんだなぁ」

「ところがどっこいな。─────んで無理だ」

鼬ごっこのように始まる、余りに幼稚な言い争い。そんなモノに対して高校生と、五十を過ぎた大の大人が言い争うはずも......


「出来るっつってんだろ!!!!!」

「だから、無理だって言ってんだろうが阿呆が!!!!!!」

在ったのだ。この犬猿の二人であればそんな、馬鹿げていて惨め競りも出来てしまうのだ。

 内容は簡素であり夏炉冬扇としていて、発展のはの字にも繋がらない無駄の極み。

「意味不明な軌道に乗って相手に確実に当たるんなら、あいつが何処に飛来しようが撃ち殺せんだろうがぁぁぁぁあ!!!!」

「馬鹿野郎がぁぁあ!!!相手が何処にいてもお構いなしにぶち込めるんなら当の昔にやってるわぁ!!」

ド正論であった。いやそもそも必中というモノが距離を関係なしに利用できる魔術なのであればそれは魔法の領域に足を踏み入れる所業となる。

 ただ、この那須世嗣と言う男に勝負を吹っ掛け負けたと成ればその先は地獄である。祐の(ことごと)くを否定する嘲笑じみた説教が始まるのだ。

 要するな話、鬼川祐(この男)は引くに引けないのだ。

「なら条件を教えてみろよ!!その必中の術式の発動条件?ってやつをよぉ!!」

「必中の術式の発動より前に、俺の構築した弾丸が当たってることだ!!」

「んじゃあ猶更出来るじゃねぇか!!」

その淡白かつ単純な発動条件により、このしょうもない弁論の天秤は祐側にがくりと傾く。

「莫迦かお前は!?坊主がさっき言った条件だとかなりの距離を離さないと行けなくなる!!そうなれば必中だろうが逃げられるし、そもそも魔力で創り込まれた弾丸だから超遠方だと魔力が焼き切れる!!!」

今度は、世嗣の方に天秤の比重が乗る。その勢いは凄まじく中身のない祐の搭乗物などを軽く天まで吹き飛ばせそうである。

 同時祐に勝機は無くなった。

「..........それじゃあ詰んでんじゃねぇか!!!」

「だから、どうするかって話をしてたんだろうが間抜け!!莫迦ッ!!阿呆!!」

随分と幼稚な罵倒を繰り返すと世嗣は、息も絶え絶えになりながら煙草を口から取る。

「......弾速を速めるとか、弾が焼き切れないよう強化施すとか...なんかこう無いのかよ!?」

「無理だな。そもそも魔術は並行稼働できる数は二つが限界だ。まぁ大陸の中でも七帝や五賢レベルの魔術だったら更に増やせるとは思うが俺は二つが限界だ」

「ってことは、弾速を速めれば飛距離は短くなって。飛距離を伸ばせば弾速は落ちるって事か.......」


 やはり詰んでいた。仮に祐程度の空っぽ頭脳で解決できる程度の相手なのであれば那須世嗣が追い込まれることなど在り得ないのだ。


「それに、飛んでくるタイミングは不定と来てる........」

「......いやそこは俺に任せてくれれば良い。第三競技場と分かってるなら、飛来の術式の速度だろうが感知は効く」

「ほう?それは頼もしいな....なら本当に後は俺の弾をどうやって当てるかが問題となるのか」

そしてその問題に帰結した。

 立ち並び長くそして深い思考が始まると、唐突に二人の弁論熱はそこに集中する。

 傍から見れば、ジャージ姿の学生が反社会的な男から恐喝を受けているようにしか見えない情景。しかしそれは、千単位の人間を救う知られもしない英雄の一幕。



──────唐突であった。何か前触れが在ったわけでもなく、世嗣のスマホが鳴った。

 思考を分断するノイズとも取れるその雑音に軽い舌打ちをすると、力に任せたような操作で電話を取る。

「はいもしもし!?........あぁお嬢か。さっきはいきなりぶっちしてすまなかったな」

『いえ。もう少し早く伝達出来ていれば、そちらで犠牲者を出さずに済んだというのに.....申し訳ありません』

電話の先に居る時雨の声はやけに萎れていた。何処かよそよそしく、氷のように冷静としている彼女とは考えにくい。

「ん?さっきもそうだが、どうしてこっちで被害が出ることを知ってたんだ?」

『..........実は、鬼川さんの言っていた魔術師と交戦しましてその時に知ったんです』

「何ィ!?それでお嬢は大丈夫なのか?」

魔術師云々以前に世嗣は、時雨の安否を声を張り上げて確認する。良い方法を考えながらの祐もまた、心配がてらに視線を世嗣に送る。

『私の方は何とも無いのですが........魔術師をみすみすと逃がしてしまい、結果恐らく競技場の内一つが被害に遭ったのかと思うと』

「そんな事か。まぁ確かに被害は出たが、二人に留まってる。だからそこは安心していい」

『間に合ったんですか!?』

「間に合っては無ぇな。ただ一人の英雄の手によって被害が最小限に減らされた......ホント坊主の担任はすげぇ嬢ちゃんだ」

煙草を口に咥えなおすと、思い切りそれを肺に吸い込む。チリチリと音を立てながら先端の火種は赤く燃える。

「だからそんなに気に病むことはねぇ。実際問題、あの魔陰を担当してたのは俺と坊主だ。気付けなかった俺らに責任がある」

『そう、ですか.......』

責任感の強い時雨からこそ、その利点が逆手となる。

「んで俺に連絡してきた本当の理由は何だ?」

 だがそれ以外にも時雨の気が、虚ろとなっているのには他の理由が在るような気が世嗣はしていた。それは人格形成の間長い事付き合ってた訳のない直観だろう。

『ッ!?.........やはり世嗣さんに隠し事は効きませんね。──────あの大陸の魔術師なんですが、三十年前に世嗣さんと戦った事があるそうです』

「.........傀儡師(メタフォア)のガキか。なるほど、崩落の魔陰が三十年ぶりに現れたわけだ」

『それで、その世嗣さんがどうして魔陰に執着するのかも聞いてしまって.........』

「知っちまったか。──────まぁしょうがねぇ....お嬢聞こえてっか?」

何を思ってか音のない、溜息の後に世嗣は不敵に笑みを浮かべる。

『はい』

「もし俺に対して何かしらの罪悪感を覚えてるんなら、そいつに好き勝手させねぇよう頼んだぞぉ。それじゃあな」

『えっ?どういう──────

満足げな顔をすると世嗣は、時雨の問いかけを切り捨てるように電話を閉じた。


「時雨さんからだよな?」

不意に祐はそう尋ねる。世嗣は煙草の煙を吐き捨てると小さく首を縦に振った。

「良かったのかよぶっちして」

「まぁな。俺とお嬢の関係値だし、そこに無礼もクソもねぇ。それより俺が電話してる間何かいい案は思いついたのか?」

その問いに答えることなく祐は、そっと地面を睨む。

「──────なぁおっさん。俺魔術の事良く分からないけどさぁその弾丸を形成する魔力って俺ので補完できるか?」

「どういう事だ?」

「その魔術を並行的に使うのって技術的な話もあるだろうけど、多分魔力消費が激しいから起きる現象なんじゃないかなって思うんだ。だからおっさんは必中と速度強化だけに魔力を使えば良いんじゃねぇかなって思ってさぁ」




 途端世嗣はピタリと黙り果てると、まじまじと祐を見つめる。それが魔術を知らぬ者を蔑む目であるのかそれとも感心の眼なのかは祐には分からなかった。

 だからこそその視線が祐には切傷のような痛みを与える。思考を巡らしている最中、唐突に世嗣の眼がギンと光った。

「それは.......ありだ。いやと言うかそれ以外方法がない.....ははっ、坊主のくせにいい案を思いつくじゃねぇか!!」

祐自身、愚考になり得る可能性があった意見は魔術師視点で見れば随分と画期的な考えだった。心底嬉しそうに世嗣は、眼を輝かせると祐の肩を強く何度も叩く。

「おい。痛ぇって.....」

単純に自分の意見が褒められた嬉しさからか、叩かれているというのに祐はドMかのように喜ぶ。

「善は急げって奴だ。飛ぶぞ坊主!!」


 そして二人は、人気の無い路地から一変。天山の(おろし)が吹き込む学生寮に飛んだ。

 第三競技場からはかなり離れに位置し、あれ程巨大な競技場の施設が白いゴマ粒ほどの大きさに祐には映った。

「大体三キロ位離れたし、恐らくあの野郎も気づくことは無いだろ」

二人を煽る風は、通常の弾丸であれば大いに影響を受ける最悪の環境と言えた。加えて、第三競技場の天井部はやや見上げる形である為に条件は上乗せで悪くなる。

 ただそれは一般人の話である。必中というある種の反則紛いの技を魔術と言う格式に乗せ使用できるこの男であれば見晴らしの良い絶好の射撃場と何ら変わりがない。

「その前にまずは、坊主の魔力を俺の術式に乗せるところからの練習だ。当然だが時間がねぇ、お前に掛かってるからな」

「任せろ」

自信があるか無いかで問われれば、二つ返事であると祐は答えられなかった。しかしそんな些細な泣き言はこの場面では言ってられない。己を鼓舞する為にも祐は強くそう返した。


 世嗣は何もない所から、ギターケースのような黒い縦長のバッグを虚空から引きずり出す。

「それってライフルケースだったんだな。初めて会った時、ギターかと思ったよ」

「まぁそういうカモフラージュの為にこのケースに入れてるんだがな......」

慣れた手付きで、ライフルを準備していくと世嗣は銃口を第三競技場に向けて構えた。

「よしっこんなもんだろ.....それじゃあ坊主、手ぇ出せ」

言われるがままに祐は手を出すのだが、その手前ジャージの袖を肘まで捲し上げる。

「今から銃弾を作る術式を俺の右腕に組み込む。俺が合図を送ったらそこに全力で魔力を送れ。──────良いな?」

祐はこくりと頷いた。

(まぁ三つか四つ出てくれば、この距離は幾らでも対応が効くな.......頼んだぜ坊主)

 世嗣は軽く集中をし始めると、手の甲の血管が浮き出始める。そしてものの数秒後

「流せ........」

その短い合図とともに祐は、一切の出し惜しみをせずに魔力を全開で垂れ流す。




 瞬間。まるで湯水の源泉かのように世嗣の掌から、数えきれないほどの銃弾が溢れかえる。

 掌のみで留めることが出来ず、ボロボロと手から零れ落ち足元に気味の悪いカーペットが出来上がった。

「うおっ!.....めちゃくちゃ出るじゃねぇか。気持ち悪ぃ......」

その異質すぎる光景に祐は、若干引きながらに魔力を流す手を止めた。足元を見てその余りある弾丸を一つ一つと観察する。

 ただ驚嘆の末に世嗣は声すら出す事が出来なかった。

(ふざけるなよ......たった一人の人間から創り出される弾丸の数じゃねぇぞ!!.......)

世嗣は恐れながらに、掌に溢れるライフル弾の一つを取り出す。

 

 それは一切の(むら)のない文字通り完璧な模倣弾であった。

(それに個体差が一つとしてねぇ....魔力が極限まで練り込まれている証拠だ........この坊主、本当に人間か?)

視線を送った先の白髪の少年は依然として、弾丸を摘まんではそれを前方から観察している。

「こんなに創っちまったけど要らねぇよな?」

「あっ、あぁ....そうだな」

ただそんな事は露知らずといった具合の祐は、世嗣が狼狽している理由がこれといって掴めなかった。

 しかしそんな事はどうでもよかったのだ。たった一度で協力技を成功させたのであれば、魔陰を仕留めるに至ると言う確証がとれたも同然であったからだ。






 ──────魔力量って言う一点においては大陸の魔術師は愚か。この坊主.....魔法使いの境地にすら踏み入れてやがる




途端、世嗣の身体全体に鳥肌が立ち込めた。それは高揚的な思いもあるが、その圧倒的な力を持った相手への畏怖でもあった。

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