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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
35/64

34 魔を退ける小さな英雄

毎日投稿十二日目。

今日は一日中外で予定があったので、四千文字弱と短めです。


楽しんでください!!

 第三競技場。やや祐たちから離れた競技場であった。それと同時に最も厄介を極める競技場でもあった。

「あそこかぁ......」

「何か面倒な事でもあるのか?」

邪険に祐が俯くと世嗣は、疑心ながらに祐の顔を覗き込むように声を掛ける。

「あそこ人だかりが一番多いんだ」

それだけでどこが面倒なのかを祐は口にしない。しかし世嗣は、祐の本当に口にしたい意を偏にして受け取った。

 

 今一度思い出してみてもこの宴に乗じて現れた魔陰の厄介さを祐は思い出す。

 戦闘意欲は無く、建物を崩落させ人を殺すという異常な戦い方。通常連発の効かない筈の魔術を連発する未開な力。それに加えるよう、既に建物には何かしらの損害が施されているという現実。やはりどこをとっても厄介の二文字に収束してしまうのだ。

「何回崩落させるのかはさておきとして、今は競技中......途中で辞めさせることも叶わないか」

「仮に逃がすとしても、いつ崩落が起きるかは不明瞭......」


「「厄介だ」」


祐が考えている事は、やはり世嗣もまた考えている事でありピタリと裏合わせしたかのように呼吸も台詞も合う。

「なら早めに向かった方が良いね」

「だな.....」

犬猿の仲である鬼川祐と那須世嗣は意思疎通が図れていた。しかしそれは、暫くの間で築いた関係地ではなく呉越同舟によるモノだろう。

 祐と世嗣は、手元に在った缶のプルタブを開けると物凄い速度で中身を飲み切った。温まった体内が急激に冷やさせる事で頭と食堂がギンと痛む。

「そんじゃ、虎丸俺たちはもう行くから」

「本当に助かったよ嬢ちゃん。今度お礼をしてやらないとな」

伸びをしながらに立ち上がると世嗣は見下ろしながらにそう言った。ポケットから煙草を取りだし口に咥えると、相変わらずライターではなく魔術で火をつける。

 しかし魔術などと言う、オカルト的な現象を知らない虎丸にとっては半ば手品師と変わらない。眼を丸く開きただ茫然と口を不細工に開けている。

「どうやって、火をつけたんですか?」

「あぁぁ......そうだなぁ、俺は魔術師なんだ。それだけだ」

科学が進んだこの素数番街という街に置いて魔術師を口にするというのは、大層頭の可笑しい人と認定されるある種の自殺行為。

 しかし世嗣にはそれが本当の事であると納得させる、不思議な雰囲気を纏っていた。

 そんな自らを魔術師と口にする男は、何かを閃いたような顔をする。徐に仕舞おうとしていたボックスから一本煙草を取り出すとそれを虎丸の口に咥えさせた。


パチン。とやや演技じみたように世嗣は、指を鳴らすと同時煙草の火を点ける。

「今はこれしかやれるもんが無いんでね......坊主行くぞ」

そう言い残すと世嗣は背を向け祐と共に彼女から離れていった。

「あのっ!!!」

それは一体これほどの大声を張り出すのは、何時振りなのだろうかと虎丸自身が疑問に思う程の声であった。

 何故、那須世嗣と言う男を呼び止めたのか彼女は瞬時に分からなかった。それが自分の事であり、自分が起こした行動であるというのに。

 世嗣はピタリと脚を止めると右肩越しに振り返る。

「..........実は、第十一研究所が危ないと分かった時の死者の数は三百七十四人だったんです。何とかして減らそうとしても絶対に二人は犠牲になる結果が待ってて」

左手の指には火の点いたばかりの煙草が挟まれていた。チリチリと先端が燃え、見る見るうちに煙草が灰へと昇華する。

「だから.....もっと私が速くこの事態に気付いてたらその二人も死なずに済んだ.....だから礼を言われるようなことは何もしてないです」


 普段から疲弊しきっている虎丸涼の顔が、出会った時あそこまで窶れていた事に祐はふと気が付いた。

 本来であれば、あれに加えもう三百七十二人が死ぬはずの未来にこの女はたった一人で抗い続けてきたのだと。

 そこに至るまで一体どれ程の再演算をし続けたのか祐には到底理解の及ぶモノではなかった。


(また、またあの顔だ.......)

顧みた彼女の顔は、涙ぐみお世辞にも綺麗とは対照的なモノであった。

 残りの二を零に変えることのできなかった己の無力さを呪う、自責の念に駆られた顔。

「..................。」

彼女の覚悟を決めた言葉に祐は、返しが思い浮かばなかった。何が正解で何が不正解であるのかという以前の問題である。


 ──────俺なんかが何を言ってやれるのか。


「それは違うな嬢ちゃん.......現在過去未来、この世には五万と英雄が存在する。神を殺した何て言う仰々しい功績を持つものから、一つの村を救って見せた小さな功績の人間もまたしかりだ.......」

世嗣は淡々と言葉を連ねた。そこに考えている素振りはなく、まるで嘗ての言葉を投影しているようであった。

「だがそんな英雄の中で、万物の命を救った野郎なんか一人としていない......だから、嬢ちゃんは礼を言われる事をしたんだよ。悲愴的になることはねぇし....俯くこともねぇ.....見えざる魔の手から民を救た《《退魔の英雄》》だと、少々自惚れてればいい」


 そして世嗣は短く笑って見せた。


 ただどうしてだろうか、祐にはそれが自嘲に満ちた笑みに見えたのは。


「ガラでもなく、ペラペラと語っちまったな。行くぞ、坊主」

「お、おう」

世嗣の足は普段の二倍程の速度で回っていた。競技場に急ぐためよりかは逃げるようにすら見て取れる。

 人気の無い休憩所の傍ら、一人残された虎丸は情けなく椅子に座り込む。左手の指に挟んでいた煙草にふと視線を落とすと彼女はそれを口に咥えた。

 先端から一センチは灰になってしまったそれを、加減も知らずに強く吸い込む。

「ゲッホ!!ゲッホ!!........あぁぁ、やっぱり変な感じ」

大学時代一度だけ吸った記憶を基にそう彼女は口にした。当時は、意味も無く一呼吸だけ味わい捨てたその煙草。ただ今回はただ無心にそれを吸い込んだ。

「頑張って....鬼川、そしてイケてる叔父さん」



 大通りから脇道にそれている道中、世嗣の背を見つめながらに殺し方を暗中模索する。

「ここなら人も居ねぇな.....飛ぶぞ坊主」

そう言うと世嗣は左手を祐に伸ばしてきたのだが、祐はまごまごした様子でそれを拒んだ。

「なぁおっさん。第三競技場に飛ぶのはよした方が良いと思うんだ」

「何言ってんだお前は?──────来る場所が分かってるならそこで迎え撃つってのが定石だろう」

祐の発言に対し世嗣は至極真っ当な答えを返す。祐の理解に苦しむ発言を前にして世嗣は若干ながらに小さな怒りを覚えている素振りを見せる。

「確かにそうだけど.......もし第三競技場の天井部に着いた時崩落したどうするんだ?」

「崩落の可能性......なるほど、確かにそれは考えてなったな」

目から鱗が落ちるほどではないが、世嗣は眉を寄せ険しい顔立ちをする。

 宴の魔陰が第十一競技場の天井部を崩落させた時間は、文字通り光の速さと言えた。明確な理由も明確な方法も二人には未だ不明ではあるが、既に何かしらの準備が施されていたという点だけは明瞭と言えた。

 言わばそのトリガーが一体なんであるのか分からない以上は、やはり安易に近付くことは避けるべきであったのだ。

「もしかしたら飛来の魔術に対して発動する罠かもしれないし.....それに、恐らくあいつは俺とおっさんの四神力を覚えてる可能性があるじゃねぇか。飛来する先に俺らが居ると分かれば恐らく飛んでこなくなる」

そして一度交戦してしまったという事実は、より二人を苦しめた。小便の掛かっている電柱に寄り付かない犬のように、恐らくかの魔陰もまた二人を避けている可能性は十重に考えられた。

「証拠かどうかは分からねぇが、実際俺たちのいた第四競技場から直線距離で最も離れてる第十一競技場が狙われたってのも、やっぱ思考の片隅に置いておいた方が良いんじゃねぇのかなって」

「..............それは確かに言えてる話だな。つまり競技場の天井部はそもそも近寄らない方が良く、尚且つ第三競技場周辺にいることも避けた方がいいか.......」

長考の末に祐の発言を世嗣は、一切の否定をすることなく受け止める。

「──────ただ。そうなると、迎撃方法がもう無いに等しいぞ」

ただ結局の所、その条件を満たしながらに魔陰を殺す方法は土台無理な話であった。

 近接戦に富んだ祐は、そもそもの話使い物にならない。そして那須世嗣の射撃技術を以ても超遠距離に瞬きの間しか存在しないモノに一分の一で合わせるというのは余りに不可能と言えた。加えて宴の魔陰は一体いつ来るかすらも判明していと来た。


「いや──────方法はある」

「何?」

どの選択を取ったところで詰みと差支えのないこの状況を打開出来ると祐は豪語する。


 無論の事、巫山戯ている素振りは無い。それどころか自信に満ちているかのよう、その翡翠の瞳を輝かせていた。



「おっさんの必中の魔術を使えばいい」


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