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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
34/65

33 世界最強の侵入者

毎日投稿十一日目。


楽しんでください!!

 瓦礫の山から姿を見せた世嗣の顔は澱んでいた。

 生気を失ったように倒れた少年が口にしていた、二人の学生の姿はそこには無い。いやそんなモノがあるとすれば、砕かれた血肉と骨粉程度であろう。


「やっぱりダメなのか、おっさん....」

「生きていりゃ最悪延命が効いたが、あれはもう人の形をしていない」

世嗣は死体を見たというのに、嗚咽する様子も見せず良い意味で淡々としていた。

 慣れという二文字に収束する現象なのだろうが、祐から見れば恐ろしさの塊である。

「犠牲者は二人らしい.....運が良い事に昼休憩を延長してたからだそうだ」

「そうか。─────それはこの競技場に限っての話か?」

「恐らくな......」

以前周りは叫ぶ声、逃走の騒音、警報の音が有象無象にごった返していた。

「救助隊が、派遣されるだろうし俺たちは一旦外に移動したほうが良さそうだな」

世嗣は煙草の煙を吐きながらに提案すると、祐の腕を持ち上げる。

「........なぁおっさん。その前に会いたい人間が居るんだが良いか?」

「別に構わんが、それは事件と関係性があるのか?」

「無論」

悩みも一片も見せず祐は、食い気味に即答する。


 ──────不健康であり、隈がひどく、女の教師。


やはり何度思い出しても断片的な人間像であるが、祐にはこの人間がとった行動がどうしても気になったのだ。

 だからこそ魔陰の追跡以上にそれを優先させたのだ。



 二人は、走りながらに競技場の辺りを散策する。

 今日この日、一体彼女がどのような装いをしているのかは未だ祐は知らない。しかしこの競技場周辺にはいると祐はどことなく確信していた。


「......はぁ、はぁ、はぁ。やっと見つけた」

「どれだ?」

数分の後祐は、溢れかえる人の中に指で唯一人を指し示した。

 検索エンジンに入れた条件通りの女性とも言える人間が、真剣な表情で虚像映像を見つめていた。

「おーーい!!虎丸!!!」

手を振りながらに祐が近づくと、彼女は手は止めずとの視線をちらりと祐に向ける。

「鬼川!?どうしてあんたがここに?」

「えぇっと......まぁこの騒ぎが在ったもんで見に来たんだよ」

「そうなのねー.....それで後ろのイケ叔父は、鬼川の父親か何か?」

疲弊した眼を幾度か瞬きさせながらに、虎丸は世嗣の顔を見つめる。

「まぁそんなもんだと思えば良い。──────それにしても坊主、何だってこの嬢ちゃんに会いたかったんだ?」

「あぁそうだった。なぁ虎丸....もしかして虎丸はこの事態を読んでたんじゃないか?」


 その言葉は短な静寂を三人の間に広める。

 祐は真剣に、眼を光らせた。翡翠の瞳は煌々と煌き、直視するだけで目が焼かれそうになるほどであった。


「おい待て坊主。この嬢ちゃんがあの事態を読んでただと?そんな事がたかが一般人にできるわけが──────

「流石に私の事を分かってるね鬼川はー。───うん。読んでた......だからこそ休憩時間を伸ばしたんだ」

世嗣の言葉の道中、虎丸涼は平然と未来視をしていたと口にする。

「やっぱりか......なぁ虎丸、次は何処が被害に遭うか分かるか?」

「それを今、演算させてるところだよ.....いくらこの街の人工知能と言っても流石にこれくらいの大きさともなると、演算処理に時間が掛かかるからねー」

普段、あれ程までに体たらくな彼女とは思えない程の圧倒的な指の動きを見せる。口調こそ教師としての虎丸であるが、その節々は一人のハッカーとしての虎丸涼であった。

「出来るだけ急いでくれ!!細かな時間とかは良いから、せめて場所だけでも」

普段着の白衣ではなく、一応として羽織っている彼女のジャージの袖をぐっと引っ張る。

 ピタリと手を止めた虎丸は、一度祐の顔を見上げる。

「.......どうして鬼川がそんな事を気にしてるのなんかは、問うつもりは毛頭ないけどー。任せなさい」

「虎丸......ありがと!!」


これ程までに頼りがいのある言葉は祐にとって一つとして無かった。そしてこれ以上に確信のある発言を彼女は知らなかった。

 ただしかしそんな中、唯一蚊帳の外に居る世嗣は死んだ魚のような眼をこじ開けと虎丸を見つめる。


「なぁ嬢ちゃん......忙しいくて答えたくねぇかもしれねぇが一つ良いか?」

世嗣は年下だという女性相手に随分と丁寧な問いかけ方をする。

「何か?」

「何故嬢ちゃんは未来を見ることが出来るんだ?その手元の仰々しい機会のお陰か.......」

「当然それもありますが、まぁ私だから出来ると言った方が適切かと思いますねー」

「何だって!?」

手を動かしながらに虎丸は、平然と途轍もない言葉を口にした。

神領域への侵犯ゴッドバイオレーションが他の人工知能と一線を画しているのは、未来を見通す程の演算機構を備えているからなんですが。そんなモノが全ての機械に百パーセント入っているわけではないんです」

情報応用の授業かのように虎丸は、この街の常識を世嗣に叩きこんでいく。

「未来を見通す演算機構。アティッドの本領が組み込まれているのは弐番街のコンピュータだけなんです。つまり今私が動かしてる虚像ぷ....まぁ機械にはその本領の一万分の一程度の力しか入っていないんです」

しかしその授業内容は、世嗣の問の答えとしてはかけ離れていた。

「んじゃあ何で嬢ちゃんはそれが出来るんだ?」

「それは私がこの世界で最も優れたハッカーだからですね」

そして再び虎丸は平然と尋常ではない事実を口にする。

「なーるほど?........」

今までの前提条件は何だったのかと問いただしたくなるほどに、最後の台詞の破壊力に世嗣の脳は処理の限界を迎える。

「それで今私がしてるのは、未来視の演算じゃなくて周りにあるスマホに搭載された一万分の一スケールのアッティドを強制的に私の所有物に変えて弐番街程の演算能力に底上げしてるって訳ですね」

この街の常識を知らない世嗣は完全に理解することを放棄した。

 そしてこの人間の授業を二年間も聞き続けて来た祐はと言うと、世嗣とまた同様であった。

「......ん?けど、待てよ虎丸。そう言うハッキングは神領域への侵犯ゴッドバイオレーションじゃあ出来ないように工夫が施されてるんだろ?」

「おっ。鬼川の割には随分と良い所に視点が向いたねー。──────だけど不正解かな」

そう口にする虎丸の顔はどことなく笑みが零れていた。

「えっ.....じゃあどうやって?」

「人力手作業。かな」

二度あることは三度あるとはこういう場面でも使うのだろう。虎丸涼は加えて人域を超越する発言を口にした。



 


 殺伐とした競技場周辺に、大凡百ほどの救助隊員が集結される。

 無論の事、人の様相はしているがあれは人ではない。

「残り五十......流石に疲れてきたー」

繰り返し指を動かし、他人の演算機構へのハッキングを繰り返す虎丸は連射入力が入っているかのように瞼を震わした。

 瞬きをしているのではない。常に画面を見続けた影響で瞼が痙攣をおこしているのだ。

 

 

「なるほどなぁ。あれほどの情報を纏めた人間の正体はあの嬢ちゃんだったってわけか....坊主は知ってたのか?」

「前々から凄い人間って事は知ってたけど、あれ程とは俺も知らなかったよ」

呆気にとられた二人は、集中力を切らせぬよう虎丸から二メートルほど離れた位置で見守っていた。

「........ただ、良い女だ。薄めの化粧に、ハーフアップ。んでもってオフィスカジュアルに仕上げたらら完璧だろうな」

だが厳密には違った。

 世嗣は彼女の様子を舐め繰り回すように視ていたのである。

 ──────気持ち悪ぃな。


端的に祐はそう感じた。ただ口にはせず、軽蔑するような眼差しも向けなかった。

(何でちょっとセンスだけは良いんだよこのおっさんは.......)

祐はなるがままに芋ジャージ姿の虎丸涼を見つめ、世嗣の脳内コーデを投影(トレース)する。

 結果、虎丸のさっぱりとした美との融合は、正に完璧と言えた。

「意外にエレガンスな黒のドレスとかでもあのタイプは行けるな......坊主はどう思う?」

「えぇ俺?......髪括って、男っぽい格好もありなんじゃねぇか?おっさんのロングコートとか」

服のセンス何てモノがからっきしな祐は、テレビで見た女優の格好を口にした。当然明確な根拠は無い。

「なるほどなぁ.....悪くない」

世嗣には無い選択肢だったのだろう、えらく真面目な視線で祐の口にした装いを彼女の身体に映し出す。


 祐の左隣に居る、那須世嗣という男は良い意味合いで余りに自然体と言えたのだ。自分自身の仇であり殺したくて仕方のない相手が近場にいるかもしれないというのに恐ろしく平然としているのが、やけに祐には気味悪く映る。

「なぁおっさん....どうしてそんなに普通にしてられるんだ?」

どのタイミングで聞こうか聞くまいか祐は迷っていたが、意を決して口にする。

「ん?───一つはなれだな。単純に人の死ってものを見過ぎて来た....だからかな」

世嗣の答えはどことなく、清々しい空の様であった。明瞭としており短過ぎず、かといって長すぎない完璧なモノであったのだ。

 しかしそれは、祐が知りたい答えではなかった。


「.........やっと終わった。後は頼んだわー」

計一万機のハッキングを人力手作業で終えた虎丸は、離れに居る二人を手招きした。その顔は普段の数段窶れているように祐は感じた。

「だ、大丈夫か虎丸?」

開口一番に祐は身を案じた言葉を掛けたことで、虎丸は今の自分の見てくれがひどいモノであるのだなと気が付いた。

「ちょっとキツイかなー。けど、この後救護班の所に寝に行くからまぁそこは気にしなくて良いよ」

「それで嬢ちゃん、次は何処が壊れるのか分かったのか?」

「いやそれはまだですねー。やっと連結が終わったところ何で、これから再演算に移行するってところです。まぁ後は完全自動なので時間さえあれば....」

顔を見られるのに少々の恥じらいを覚えているのか虎丸は、必死に世嗣に顔を見せぬよう手を日除けのように額に乗せる。

「そうか────本当に良く出来た嬢ちゃんだ」

世嗣は優しく微笑みながらにそう口にすると、乾ききった掌で虎丸の頭頂部を撫でる。

 何年も生きて来た世嗣の手は、何処か温かく彼女の疲弊しきった心を浮くような心地にさせた。

「あ、あの........私はもう二十三なので、別に頭を撫でてくれなくても──────」

「俺の半分も生きてねぇような人間は皆、子供だ」

随分と優しい価値観を持っているような発言を世嗣は口にする。ただそんなモノは相手が若く、美しく、幼気(いたいけ)な相手にしか口にしないことを祐は知っていた。だからこそ、その光景を見ていた祐は顔を歪ませる。

「あっ!...........」 

 疲れに加え、世嗣の圧倒的安心感による硬直していた身体が軟体とし虎丸は膝から崩れ落ちそうになる。

「おいおい大丈夫か嬢ちゃん───坊主、休憩所で一番近場って何処だ?」

近くにいた世嗣が、虎丸の身体を抱き抱えに祐に問う。

「一番近場なら、この大通りを東に行けばあると思う」

「ならそこで一度休憩しよう.......結果が出るまでの間、俺らも無駄に力を使うのはよした方が良いしな」

「だな......」

祐は首を縦に振る。

「そんじゃま─────よっこらせッと!」

おっさんくさい掛け声とともに、抱えていた虎丸を世嗣はお姫様抱っこのようにして持ち上げた。どれ程の体重なのかは祐の知る所ではないが、世嗣は素の力のみを使用している。

「キャッ!!」

虎丸涼らしからぬ、女々しい声でそう叫ぶ。

 咄嗟両手で虎丸は顔を隠した。やはり那須世嗣には見られたくないのだろう。ただ自分は相手の様子見たさに指の隙間からちらりと向こうを伺っていた。



 未だ未知数な那須世嗣と言う男は、女たらしの可能性が祐の中で浮上する。







 休憩所に着いて、ざっと五分程度が過ぎ去った。

 祐は近場の屋台で飲み物を人数分使い走りさせられている。第十一競技場の一件もありきか屋台に並ぶ人の数が、夏の暑さで溶けてしまったかのように減っていた。

「これ三本下さい」

氷水の中でギンギンに冷やされた缶のポカリスエットを屋台の店主に渡す。

「はいよー。全部で三百円ね」

後ろポケットの財布から五百円を取り出し、そして釣銭の二百円を仕舞っている最中に店主が口を開いた。

「なぁ兄ちゃん。さっきものすげー音が聞こえたんだけどよ、何かあっち側であったのか?」

「第十一競技場の天井の一部が崩落したんですよ。多分、野次馬精神で見に行ってるかと」

祐は財布を仕舞うと、少し気だるげにそう説明した。

「ホントかいッ!!?結構な数の死人がでたんじゃあ.....」

「さぁどうですかね」

そう言い残すと祐は軽い会釈をし二人のいる休憩所を目掛けて、足早に去っていった。

 

 

はぁぁぁ......

 重く、やり場のない不快感を紛らわす一心で祐は強く長く溜息を吐いた。



「ほらよ」

テントの下で休息している二人に祐は、手渡す。缶の中の冷気と外の温度との差で表面には滝のように結露が滴っている。

「おぉ悪いな。まぁ坊主も座れや」

「それで、演算結果は出たのか?」

虎丸を挟み込むよう座ると、祐は一番にそれを聞いた。

「うん今さっき出たところ......次に崩落する競技場は、第三競技場」



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