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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
33/64

32 因縁との邂逅

毎日投稿十日目。

辺りに注意を向けていた祐と世嗣。二人に襲い掛かる魔の手とは......


楽しんでください!!

 第四競技場の天井に祐と世嗣は、胡坐をかいていた。

 だからと言って酒を酌み交わすわけでも、笑い話に花を咲かせるわけでもない。別々の方角を向き世嗣は現代文明の利器を用いて見渡し、祐は異能の力を用いて競技場全域を感知する。

 

 収穫は無かった。在ったら在ったでそれは二人にとって面倒ごとではあるのだが、ここまで何も起らないのはそれはそれでと言う問題であった。

「なぁおっさん......」

「何だ?」

変わりもしない光景に飽き飽きとした祐は、話し相手欲しさに世嗣に話しかける。締り気のないだらりと溶けているような声とは対照的に世嗣の声は角を持っていた。

「何で退魔の衆に入ったんだ?」

「んな事聞いて何になる?」

「何にもならねぇよ.....単純な興味で聞いただけだ。答えたくないなら別に良いよ」

祐の想像通り世嗣は、馬鹿正直に問いを答えることは無かった。特段へそを曲げるわけでもなく、ただ祐は分かってた未来を受け入れる。

「......別に答えたくないとは言ってねぇぜ」

ライフルスコープを外しながら、世嗣はそう言う。更に気だるげに答えている素振りも見せなかった。

「え?......教えてくれんの」

振り向くと、世嗣は頭の上に煙が立っていた。無論世嗣の頭から登り立つ煙ではなく、煙草のモノではある。しかし遠近的な錯覚か祐にはそう見えた。

「別に隠す事でもねぇだろ.......」

「それもそうだな。で、何で入ったんだ?」

 祐は再び世嗣を問いただすと、一呼吸置いた世嗣は淡々と語り出した。

「まぁ学のねぇ坊主が知ってるかどうかは分からんが、かつて那須与一と言う日本一の弓兵が居てなぁ。────まぁ俺はその直系なんだわ」

下手は相槌を祐は撃つことは無かった。ひたすらに世嗣の話を背で受けながらに感知を回し続ける。

「その子孫なモンで、色んな鍛錬をガキの頃に仕込まれたんだ.......んなある日、魔陰が見えるようになってなぁ。それがどういう理由かは今も知らんが、そん時清玄のババアが俺の所に訪ねて来たからだな」

「断らなかったのか?」

「まだガキだったからな。自分が選ばれた人間だと思えば、それを断る道理はあっても理由は無い」

そう言い終えると、世嗣は再びスコープに目を通して辺りを見回す。

 いやに正直であった事に祐はどことなく違和感を覚える。


 ──────自分のことなど語るはずもない、この男がこんなことを口にするのだろうか?


「なぁおっさん......それ本当か?」

祐は振り返り世嗣の背にそう尋ねると、微かにだが震える。

「......本当かって、どういう意味だ?」

上ずらぬよう、意識して腹に力を込めているような声が世嗣から鳴る。

「実は、その清玄って人がとんでもない美人だったから付いていったんじゃあ?」

「...................。」

自分自身の恥ずかしい過去を突かれた大人の反応とでも言えようか。世嗣は沈黙を貫く。

 祐はくすぐりを覚えた子供のように、満面の笑みをもって世嗣に近付いた。

「なーんかおかしいと思ってたんだよなぁ.....おっさんが俺に自分の事をペラペラ喋るなんて」

「チッ.....」

世嗣は短く舌打ちをする。

「まぁまぁ、しょうがない事でしょ。俺も時雨さんが美人だったから退魔の衆に入った節はあるから恥じる事じゃねぇよ」

冷笑しながらに祐は、振り返ることの無い世嗣の肩を二度叩く。顔を顰めはするが、それでも世嗣は祐の方を振り向かない。

「言っとくがなぁ!!ババアの美しさは、今のお嬢よりずっと上だったからな!!」

「はいはい。分かってますよっと」

初めて祐は世嗣の上に立った嬉しさからか、世嗣の言葉が全て言訳に聞こえる半ば無敵状態であった。

「もう俺のガキの頃の選択何かはどうでもいいんだよ!!仕事に戻れ!!」

「分かってるよ......」


 はぁぁぁ......


祐は世嗣から離れ、再び反対の方角を見つめる。とは言っても視界に頼った詮索ではなく感知に頼ってはいた。

 それでも変わりはなかった。一糸乱れぬ街の景色や魔力の流動に祐は、嫌気がさしていたことに再び気付く。だからこそ溜息が溢れて来た。 



 そんな時、咄嗟世嗣の携帯が音を立てる。

「お嬢?.......どうかしたか?」

『世嗣さん!!そちらの様子は!?』

電話の先の時雨の声は剣幕に覆われていた。スピーカーにしていないというのに、祐の耳に届くほどの音量である。世嗣はスマホを耳から外す。

「うるっせ!!.....何だお嬢!?」

『世嗣さんそちらで何か問題は起きてませんか!?』

「いや...特にこれと言って起きてないが」

『起きてない!?なら急いでください恐らく──────



 

 甚大な被害だと一度で理解させられる、轟音が忽ち二人を包む。


「何だ!?」

世嗣は電話を切り、辺りをぐるりと見つめる。

 すると異様な光景が広がっていた。 


この街の競技場は、雨風を凌げるよう協議の最中は天井部が覆われているのだ。

 ただ今は違った。

 その天井の一角が根こそぎ持っていかれていたのだ。それはそこの一片が開いているという訳のモノではない。設計工学的な美しさも景観的な美しさも何もない歪んだ只の空洞部が世嗣と祐の眼に飛び込んでくる。

「バカなっ....おい坊主!!どうして気が付かなかった!?」

世嗣は立ち上がりざまに祐の胸ぐらを掴み上げる。その顔は焦りと怒りが疎らに混ぜ込まれたようなモノであった。

「んな事言ったって、いきなりの事なんだよ!!」

「何ッ!?どういうことだ!?」

「無論全部の競技場を覆うくらいには感知を広げてた!!おっさんと話してる最中もなぁ!!──────けど、爆音が鳴るまで反応はなかった」

「無かっただと.....」

その発言はおかしなことであると、祐自身分かっていた事であった。

 どれ程速い動作で感知内に入り込もうが、あれ程の風穴を開けるには無論時間が掛かるのだ。

 だが此度は違った。その絶対に掛かるはずのラグが存在しないと成れば


「まさか既に仕掛けられてた?──────んあぁぁああ!!!飛ぶぞ坊主!!」

「分かった!!」

掴んでいた胸ぐらを上へと引っ張り上げ、祐が立ち上がったと分かれば世嗣は即座に被害の在った競技場の天井部に飛んだ。


 空洞部は遠目から見た以上の大きさであった。だからこそ二人は迷うことも無く競技場に飛び降りる。


 予想通りであったが、競技場は阿鼻叫喚とし人数人を軽々と圧死させるに至る瓦礫が山積みとなってる。

「ひでぇ......」

捻り出そうにも、それ以外の言葉が祐の喉を通らなかった。

 範囲面積はざっと教室一つ分はあるだろう。これで一人として犠牲者が出ていないとは考えにくかったのだ。

「坊主、一度被害確認を済ませる.....お前は周りの人間に当時の状況を聞いて回れ」

「──────わ、分かった」

冷淡とした世嗣の言葉に祐は、兢々(きょうきょう)としながら相槌を打つ。

 二手に分かれるや否や世嗣は瓦礫の隙間に入り込み。祐は周りに居た学生たちに話を聞いて回った。


「ねぇ。ここで何が起こったか教えてくれないか?」

「...............」

崩落地から数メートル離れた場所であろうか、一人の男子生徒が尻もちを着いていた。事件性の高い耳障りな悲鳴を上げる一歩手前のような崩れ落ちる表情を纏っている。口は制御を失ったように不格好に開き、唇は微小ながらに揺れ動く。

「おい。大丈夫か?」

「...........ふ、二人」

殆どが吐息で構成された掠れ声で、小さくそう呟く。

「二人?あの下に居たのか?」

何も答えることなく、男は首を縦に振るう。

 

 ──────幸運であった。


などと思えばそれは、無論な事愚考であり許されるはずのない意見である。しかし、この面積から見ればそう思わずには居られなかった。

「何で落ちて来たか知ってるか?」

「.......わ、分からない。音もなく、と、突然落ちて来たんだ......」

(魔力だけじゃない.....現実的にも前触れが無かった。ならやっぱり.....)

既に何かしらが仕掛けられていた事が、祐の中で論理として組みあがる。

「立てるか?」

「こ、腰が抜けて......た、立てそうにない....」

当然の反応である。巻き込まれていたら死ぬかもしれないという恐怖、そして現に人が死んでいるという事実を以てもなお平然と動く祐こそが以上の塊なのだから。

「他の奴らはもう、逃げたのか?」

ふと周りを見渡すと、ほとんど人はこの競技場には居なかった。

「そ、それもそうだけど.......さっきまでは競技中じゃなかったんだ.....」

「無かった?──昼休憩の時間はとっくに過ぎてるだろ?」

「突然、先生たちからの通達で休憩時間が増えたんだよ。それで整備員に所属してる人は、ゴミ拾いって事で......」

どういう意図で伸ばしたのかなど、祐は知る由もない事であった。

 

「その先生って?」

「名前は分からないんですけど......凄い不健康そうで、眼の下の隈がひどくで.....女性の方でした」



 断片的な情報の連続。しかしながらに祐はその人間の顔も名前も知っていた気がした。

 いや、確実に知っている。



──────暗転。







 世嗣に電話を切られた時雨は、繰り返し電話を掛け直すが反応は無かった。

「まさか.......世嗣さん達も」

「今の電話越しの音は、私に操られた魔陰が仕事をこなしてくれた証拠ね。どう剣聖さん?私を見逃さずには居られないでしょ.........」

二人の身を案じながらに時雨は歯を噛み締める。

「何を言ってるんだ?猶更私は貴女を止めなきゃいけない!」

「つまり殺さないといけないわよ」

「ッ!?」

二者択一が迫られる。

 ────殺せばこれ以上の被害が無くなり、第三魔法が大陸に渡ることも無くなる。

 ────殺さなければ被害が拡大し、第三魔法も大陸に渡ることとなる。


 無論前者を選ばなければならい。しかし、殺すという行動は時雨にとって余りに比重の重いモノであった。だからこそ選ぶことが出来ない。


 刀を握る手は、震えている。

 殺すか殺さぬかの瀬戸際を命綱なしで歩かされている感覚が時雨を襲う。 

 

「クッソォ............」

時雨らしからぬ台詞を吐き捨てる。それが精一杯の自分自身への抵抗であったのだ。


「剣聖さん......私を殺した時の利点を教えてあげましょうか?」

生殺与奪の権を握られている側の発言とは考えにくい声色で傀儡師(メタフォア)は時雨に言葉を投げる。

「もしかしたら、被害が少なくなって第三魔法も無事な未来が待ってるとでも思ってそうだから言ってあげると........守れるのは第三魔法だけよ」

「はぁ?」


最早冷静沈着とした時雨とは思えない声色であった。

 それほどの言刃(ことば)を以て傀儡師(メタフォア)は時雨に切りかかったのだから。

「どういう事だ?」

「私が死のうがどうなろうが、一度仕込んだ魔術は回り続けるの。だからあの魔陰は残りの競技場全てを崩して人を殺すわ......解呪を終えるか、任務を終えるまではね」

「なん.....だと?......」

そもそも択は二つではなかった。ここで彼女を見逃さなければならないという未来は、戦う以前から決まっていたのだ。

「それに、私を殺せば元ある予定とは全く違うペースでモノを壊し始めるわよ」

やはり潰されていたのだ。


 ガラン。


校庭の地に時雨の刀が落ちる。今までは慣れぬよう力を込めていた手からするりと落ちる。

「ふふっ。やっぱり甘いわね.......あんたら退魔の衆っていうのは。命令、プライド、そんなモノより他者の命を最優先させる只の愚者の集まり」

時雨は気力を失ったようにそのまま膝から崩れ落ちる。

「もし私が貴方なら、迷わず殺してるってのに....ホントお人好しよね。三十年前に在ったあの魔術師紛いの男と同じ」

「ッ!!.........魔術師紛いの男?」

身に覚えのある単語が切れかけていた時雨の焔に風を送る。

「あんたなら知ってると思うわ。だってあの男の名前を呼んでたもの──────」


 予想は的中していた。


(おもむろ)傀儡師(メタフォア)は斬られたTシャツを(はだ)けさせる。比較的に小さく、きめ細かな胸が露出する。

 女性としてそんなモノを見たところで性的興奮は覚えないのだが、それ以上に右胸にある二つの傷跡に目が向いた。


「那須世嗣.......私の右肺に二つも風穴を開けた男の事を」





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