31 剣の境地
毎日投稿九日目。
遂に相対した二人の異能の勝負の行方は!?
では、楽しんでください!!
相対した二人の異能の者は、共に動くことは無かった。相手の一挙手全てに意識を置き、出方を見定める。
(一番厄介な相手と対面とは、私もついてないわねぇ......さて、どうやって逃げようかしら)
(ここで確実に捕らえる........)
西部劇のガンマンの早撃ちでも始まりそうな緊迫した空気は、肺に取り込めば咽返りそうになる程であった。
合図は無かった。
ただ一瞬早く行動の段取りを終わらせた傀儡師が先に動く。
『死に至らしめる魔術』
黒色の霧は、直線的で時雨に突き刺さるような形であり矢ほどの速さで襲い掛かる。
『睦月の舞:閂祓い』
しかしどれ程見てくれや性質を変えようが、中身が同等である以上時雨には目くらまし程度にしかならない無駄の一手となる。横一文字に魔術を斬り伏せると再び空中分解を果たした。
勢いそのままに一歩で間合いを詰め、左逆袈裟斬りに刃を振るう。
ただ手応えは無かった。
(空か.....)
たかが目くらましの一手であるが、それが狙いであった。地上かつ近距離を得意とする剣客との対偶とも呼べる魔術師にとって浮遊することは命題と言える。
(このまま逃げても良いけど、多分すぐに追いかけてくるし.....まずは足枷を付けなきゃね)
上空二十メートル辺り、メタフォアは杖を斜め下に定めると詠唱も無しに魔力の弾を射出する。
ただその弾は大いに外れていた。まるで明後日の方角に撃ちこんだかのような魔弾は時雨の頭上を越えた。
(飛来して斬り堕とす.....)
誤射にも思える魔弾に目もくれず時雨は、飛来の魔術を回す瞬間。耳も空気をも切り裂く金切り声が叫ばれた。
時雨の真後ろであり、その魔弾の被爆する中心地でもある一点。
「ッ!!」
そこには腰を抜かし、一歩も動けずにいる荻野内雅が居ることを時雨は思い出すのと同時そこに駆け寄った。
剣を無造作に振り切り、魔弾を寸での所で弾き飛ばす。勢いと統率を失ったその魔力の塊は放物線を描き学校の塀に被爆した。
塀は砕け残骸となったものが、間隔を開けずに地面に転がる。
「間に合わせたか.....けど、今の音は相当だしそろそろ誰かしら来るで──────
油断。いや慢心に近い心の隙間に時雨は瞬時に飛来して詰寄る。
(噓でしょこの女!?)
殺気じみた視線と、刀身を鈍く光らせる。
基礎九つの斬撃の中最速の斬撃であり、最小の予備動作から繰り出せる突きをメタフォアの左胸に向けて押し付けた。
魔術による防御ではなく、魔力による防御は荒くそして脆い。ある程度の威力であればその魔力を以てして捻じ伏せることは容易いのであるが、相手が剣聖の一太刀ともなれば話は変わる。
パリンッ
何かが砕け散る手ごたえが音と共に時雨の両腕に響く。
しかし若干軌道がずれその突きは、僧帽筋を穿ちそして裂いて見せた。
(このまま腕を落とす!!)
自由落下の勢いと腕を振り落とす動作との合わせ技で、鎖骨と刃とが触れ合った刹那。メタフォアは右手に持っていた杖の先を時雨の眼前に寄せる。
魔力が一点に集中し、そして魔術が稼働する
『死に至らしめる魔術』
腕を斬らせてでも敵をこの場で留める、傀儡師の覚悟の一手は時雨を襲った。
鎖骨の中心部まで切り進めていた刀身を引き抜いた。咄嗟防御の剣技を振るい、神速を謳われた時雨は直撃を何とかして避ける。
しかしながら上半身をのけ反らせ無理な体制をした所為で時雨は背中から地面に激突する。
「あの距離で直撃は避けるとわね......けど、眼は貰ったわよ」
上空から地面に落下した時雨を見下ろすと、メタフォアはそこで初めて顔を顰める。斬られた部分は血が溢れ返り、骨が浮き彫りとしていた。
落下直後、時雨の辺り一片から光が失われていた。それは月も街灯も無い丑三つ時の畦道を歩いているかのような暗さすらをも超える。
「.....眼をやられましたか」
ただ着地が出来なかった理由は、何も体制だけではなかった。人間の情報源の内八割強にも及ぶ視覚が塞がれるという、それ以上の理由が時雨を地に落したのだ。
咄嗟倒れ込みながらに時雨は、右手に握られている刀の柄を地面に軽くぶつける。当然の如く木材の音が彼女の鼓膜を揺らす。
(聴覚、触覚、嗅覚も味覚も問題は無い......)
一つ一つの動作を確認しながらに時雨は、立ち上がると未だ上空に漂う傀儡師を見つめる。
無論視界にかの魔術師の姿が映っているわけではない。ただ二十メートルであれば時雨の感知であれ範囲内の距離間ではある。
「感知かしら......けど、眼で見た時と同じように判断できると思わない方が良いわよ。剣聖ちゃん」
何も出来ず地を這う、死にぞこないの虫を見るような視線と共に嘲笑の一編を見せた。
再び傀儡師は杖を構え、荻野内雅目掛けて弾を射出する。
自身に向いた鉾を捌ける者に、魔力を扱う必要はもはや傀儡師には無かった。時雨の動きを止めるためにただ一人の犠牲者が生まれればそれでよかったのだ。残忍かつ、冷酷な選択
(私じゃない.....またあの子だ。間違いは許されない、軌道を読め。音を感じろ。そして今度は確実に斬り伏せろ)
自身への暗示を済ませると時雨は、荻野内に向かって一直線で駆け、そして斬り伏せる。
それは殆ど目の在る者の動きであった。
「チッ.....随分とお人好しなのね!!さっきも今もそんな一般人を見捨てなかったせいで私の事を二度も殺し損ねたというのに!!.........」
正義の精神とでも言えるような時雨の行動に、嫌気がさしながら傀儡師は大声を張る。
「それはそうでしょう。何せ私は貴女のような大陸の魔術師とは違い、人殺しではないので」
「..............。」
光りを失ったはずの時雨の眼が、傀儡師の神経を逆撫でる。
「退魔の衆.......文字通り我々は魔をこの国から退ける為だけの組織ですので」
その言葉は、傀儡師に向けられた言葉であった。しかし荻野内はどこか自分に言い聞かせるようにも聞こえたのだ。
「.........千年前、この国に降り立った全ての魔術師を払いのけ、その結果この国に魔術というモノは反映しなかった」
何を思ってか突如歴史を口にする。
「それが、私が歴史で習った事であってそれこそが全てだと思っていた.......けど、今この瞬間分かったわ。そんなのは些細な事に過ぎないって......」
「では、何が本質であると?......」
やけに煽り口調に時雨は問いただす。
「目的を捨ててまでも、他人の事を優先するようなそんな甘ったれた感性があんたらに根付いてるからだよッ!!」
自身をより高みへと昇華させる為であれば、他人の命をも利用する大陸の魔術師としての倫理観。
それが全てであり、それが身体を動かす原動力となる大陸の魔術師にとって、時雨の行動は腹の虫を沸かせる良い材料であった。
勝つ負ける以前の話、逃げることを選択していた傀儡師に火が付く。
「あんたの命はどうでもよかったけど、この際後ろの子と一緒に死んでもらうわ!!」
肩の傷など眼中に無い様相で杖を両の手で構える。
「そうですか.......荻野内さんでしたか?そのまま動かないでいてください。下手に動くとあなたも斬ってしまう可能性があるので」
「えっ?.......」
振り返らず時雨は、荻野内に忠告を言い渡す。
深い呼吸、身体の中から無駄となる全てを清め祓い捨てる。頭の先から爪先まで全てが透き通り、その細部に至るまでの全ての主導権を得るかのような体感。
それは身体に留まらない。地を這い空を穿ち、人や物、にまで領域が到達する。
他者の心音、血の流れ、呼吸の音や間隔。建物の質や大きさの細部までもが今の時雨には容易に及ぶ。
『果ての舞:無刃』
足を牙の様に斜めに広げ腰を下ろす。そして切っ先を天に掲げ、袈裟の筋に沿い刀身を一気に振り下ろしてみせる。
「その場で素振りして何になるのかしら!?──────『雷を呼ぶ魔........
詠唱の最中、傀儡師の身体と杖に太刀筋が刻まれた。
「そ、そん......な........」
杖は見事に両断されはしたが、血しぶきこそ上がるが身体は繋がったままであった。
制御を失った浮遊の魔術は、傀儡師を支えることは出来ず何の抵抗も引っ掛かることも無く地面に堕ちていった。
どうやら制御を失ったのは、浮遊だけでなく時雨の視界を奪っていたモノも同様である。
「あっ、眼が見えるようになりましたね.......」
それだと言うのに時雨は、相も変わらず冷静のままであった。
(昔、世嗣さんにさせられた目隠し鍛錬がこんなところで役に立つとは.....有難うございます)
「.....はっくしぃッ!!!」
「うわっ!!汚ねぇなぁ.....手ぐらい抑えろよ」
遠く離れた世嗣は、その噂を聞いてか呪い通り特大のくしゃみを解き放つ。
「.........貴女、名前は何ですか?」
近くまで歩み、時雨は見下ろしながらにそう問う。
「..............。」
しかし傀儡師は生気が失われたかのよう、虚ろな目で空をじっと見つめる。
「喋れる程度の元気が残るよう、斬ったので喋ってもらえませんか?」
「..............ふっ。目的が如何こうとかあんたらの事とやかく言ってたけど、私も教団の命に背いて我を通す何て。良い笑いもんね」
見繕っていた化粧も魔術師としての装いも全てを捨て去り、一人の人間として傀儡師はそう呟く。
「始め、逃げるつもりでしたね?」
「....無論ね。真っ向からやり合えばこうなるって分かってたし。けど、止められなかった」
「そうですか.....では、貴女の名前を教えてください」
慈悲の心を捨て置き、時雨は真っ当に責務をこなす。
「それは言えないわ。──────けど、代わりに私の目的なら教えてあげる。それは.......
「天穿の核。いわば第三魔法を求めている......ですよね」
傀儡師はちらりと時雨の顔に視線を動かすと、自嘲の笑みをふと浮かべる。
「そう。知ってたのね.....ならこれでお話は終わり。好きなようにしてくれて構わないわ.......」
「随分諦めが良いんですね。抵抗しようなど思わないんですか?」
「私はあんたらみたいな武士道精神は重んじてないの。相手も道ずれにするなんて事も考えないし、普通に目的もべらべら話すしね」
その言葉に嘘偽りはなかった。
相手を欺くため、相手に油断をさせる為、相手を闇討ちする為。そのどの選択肢にも当てはまらないと時雨は直観で感じ取っていた。
大の字に寝ころび、身体から血が溢れかえる姿からも魔力を魔術に回していない事も。そしてその顔は、疲れ切った大人が子供冗談に気力だけで返すかのような微笑みに溢れていたことも。
「けど──────」
「ん?」
「私はまだ第三魔法を諦めてないわよ........取る気でいるから」
「させるとでも?」
時雨は高圧的に声を出し、睨み付ける。
「違うわ、剣聖さん。させるとかじゃなくて、貴女はせざるを得ないのよ」
「何が言いたいんですか?」
何か。重要な何かを含んだような傀儡師の発言に時雨は顔を顰める。
「私の名前は言えないけど、私しか持ち得ないオンリーワンの魔術だったら教えてあげる........『傀儡の魔術』言わば操り人形に出来る魔術ね」
「洗脳系統でしたら既に存在してるハズですが?」
「ふふっ確かにそうね。けどそれは人に留まる話でしょ?私のは違う......人や動物の生命は勿論の事、無生命にさえ範囲が及ぶの──────
──────それは、こと魔陰にさえも」
死に体でありながらに、彼女は魔術師の命とも呼べる魔術の詳細を明らかにする。
ただその情報は、決して役に立つものではなかった。端的にそして単純に時雨、そして祐と世嗣をも不利にする究極の一声とでも言える。
──────暗転。
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