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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
31/64

30 相対するは剣聖の神子

毎日投稿8日目。

大陸の魔術師に狙われたのは......


てなわけで楽しんでください!!

 八田弘明が天童高校に着いて数分後の事、傀儡(くぐつ)となった別者と時雨が交錯した。

 ほんの一瞬の出来事であった。瞬きの間の出来事とも呼べる交わりに時雨は当然に違和感を覚える。


──────あれは、魔力ではなく魔術である。と


その事実が時雨の中で断固としている以上、その者の後ろを追わずにはいられなかった。

 四神力(ししんりょく)は極限まで削り仮に臨戦態勢になろうものなら即座にやられてしまう悪手を時雨は選択する。だがそれは、一般人との同化の為に必要不可欠な要素であることの方が彼女の中で大きかった。

(一介の魔術師程度では辿り着くことの無い、高度な魔術が編み込まれている......)


競技場に向かう足取りが多い中、傀儡と時雨は流れに逆らう鯉のように動く。大通りを抜け、脇道に逸れ挙句名称もついていないような狭く配管が目立つ裏路地に入った。

 歪でおかしな路線、一体どこに向かっているのか判断の付かない曖昧な選択肢。


 途端傀儡はピタリと脚を止める。それは目的地に着いたカーナビが自動音声を止めるような雰囲気が何処ぞにある様相。ただ路地の終端、そこには何もなかった。

(道を間違えた?...........)

向かいには信仰停止を余儀なくさせる、高さ十メートル近い壁が(そび)える。鬼川祐や霧太刀時雨であればこの壁を飛び越えること程度は然したることではない。しかし一般人がこれを上るには相当の気苦労を強いられるわけであり、その選択を取ることはやはり異常であった。


「.....いや、完璧な選択でしたか。これは一本取られましたね」

その場で佇んでいた傀儡はくるりと時雨に振り向き、虚ろな目で彼女を見つめる。

 前触れは無い。一切の躊躇もなく傀儡はメタフォアからの殺せの勅令を受け時雨に突進する。

 時雨目線、それは特段速いわけでもなかった。

「人の動き.....とは言い難いですね。徒手空拳は苦手ですが、流石に得物を使う訳にも行かないので」

之と言った型は無い獣のような拳の振りを時雨は、左腕で上段受けの様に捌く。肘を支点に傀儡の腕を弾き飛ばし、右拳を水月に叩きこんだ。

 取り憑いていた悪霊が身体から去ったように、傀儡は人へ帰る。ただ時雨の一発を受けぐたりと気絶していた。



「やられた?.......強めに暗示を掛けたはずだし、あの白髪の少年からは逃げるようにしてるからやっぱり二人目かしら?」

競技場からの下りの道で傀儡師(メタフォア)はパスの切断に気が付く。

大司祭(コーヘーン・ガドール)の情報だと確か二人一組で動いているんだっけ。まっ、ここがバレなきゃ良いわ....それに逆探知できないように術式組んでるし」

勝ち誇った表情を浮かべ彼女は、天童高校に足を進める。直接飛来するという手が在ったのだが、人に見られる事を避けるためにも近場に飛ぶことに切り替えてたのだ。




「逆探知防止が施されている.....抜かりが無いですね大陸の魔術師と言うのは」

気絶した学生の額に手を乗せ、魔力の流れを読み取るが細部に至るまで証拠が隠滅されていた。

「鬼川さんであれば少しは残穢(ざんえ)を汲み取れたのでしょうか.......それはそうと、一体何が目的で一般人を操っていたのか。ですね」

祐の言っていた姿も分からぬ、赤髪の魔術師がこの街に存在している事が時雨の中で隠していた。

 しかし同時不可解な疑問も浮かぶ。仮に退魔の衆の対策として人間を操っているのだとすれば、余りに適切とは言い難い意図であった。

「ここで長考していても埒が明かないですね」

考え癖を自ら律すると時雨は、気絶した人をおぶり再び大通りに戻る。


 大通りに入った瞬間、見知った人間が辺鄙な格好をした時雨を見つめる。

(あの方は.....確か鬼川さんと良く一緒にいる)

「あれ、霧太刀ちゃんやない。どしたのそのおぶってる人?」

「......あっ、裏路地で倒れていたので休憩所にでも連れて行こうかなと思いまして」

(誰でしたっけ?)

土屋の顔は判別が着くのだが、その苗字が時雨の中で渦を巻き彼女の反応を遅らせる。

「へぇそう。熱中症ちゃうか?俺先導するわ」

「有難うございます......」

(土..........出てきませんね?)


頭の中に地図が埋め込まれているかのような正確な土屋の先導もあり一分もかからずに休憩所に名も知らない人を時雨は預けた。

 素数番街は壁に囲まれているせいもあり如何せん風の無い蒸すような暑さが皆を襲っていた。

「随分な人やったねぇ。今日もそうやけど、明日明後日もこれに並ぶぐらいには暑いしなぁ.....」

「そうですね......」

(土谷?いや何か語感が悪いような.....三文字か?)

のどに刺さった魚の骨化の様に、時雨の中でその疑問は居続ける。

「なぁ霧太刀ちゃん、時間が在ったらでええけど俺と一緒に八田ちゃんを探してくれないかい?」

「えっ。......居ないんですか?」

女好きな土屋の提案にしては一切の下心の無いモノだとは知らず、時雨は八田の身を案じる。

(まさか...彼も魔術で操られているのか)

「そうそう。鬼ちゃんが居ないって言っとってねぇ....電話してみたり運営委員に聞いてみたりしたんやけど、消息が不明でねぇ。もしかしたら熱中症で倒れてるかもと思うと心配で」

友の身を案じた土屋の顔は、何処か淋し気でそして儚かった。

「それに、霧太刀ちゃんみたいな美人と一緒に居れたら生涯の酒の話になるしねぇ」

無理に笑っている程では無いが、土屋の笑顔は何処か歪で必要以上に笑っているように時雨には映った。

「........あっ。思い出しました」

「何が?」

そんな流れをぶった切るよう時雨は、見当違いな事を思い出す。

(土屋さんだ)

「いえ。こちらの事ですのでお気になさらず。では、八田さんの所在を探しましょうか『土屋』さん」

思い出せた喜びから時雨はやけに彼の苗字を強調して読んだ。





 一方その頃、商業区まで飛来した世嗣と祐は煙草を欲しさにコンビニに駆けていた。

「あったぁぁ!!......すまん嬢ちゃん、三十三番十箱くれ!!」

昼休み中の会社員が、右往左往とするこのコンビニの中で世嗣はお気に入りの煙草を見つけ飛び跳ねるようにそれを頼んだ。

 冷たい視線、というよりかは一体何事かと驚きと疑心にまみれた視線が世嗣とその横に居る祐に突き刺さる。

「お、お会計.....三千円です」

眼を血走らせる世嗣を見て、完全に畏怖した女性店員の声は可哀そうになる程震えていた。

 ポケットから四つ折りになった千円札三枚をカルトンの上に乱雑に乗せる。

「げ、現金で大丈夫でし....

「構わんから、俺に煙草をくれ!!」

「は、はい!!」

確認の最中、ヤニの禁断症状が溢れ返り迷惑客と成り下がった世嗣は見るに絶えない状態であった。まるで赤兎馬が駆けるかの如く店員は弓のマークが付いた煙草をかき集めている。

(はぁぁぁ....外で待ってりゃ良かったぜ)

安易に付いてきた自身の行動を祐は呪った。



 コンビニの外、いわば白昼堂々の真っただ中に世嗣は路上喫煙を決め込んだ。

「あぁぁぁぁぁ.....やっぱこれがなきゃやってらんねぇぜ」

濁点のまみれた叫びを世嗣は気持ち良さそうに上げる。周りの目線は当然二人に向くわけだがそんな事を気にしている素振りは依然として見せない。

「なぁおっさん....」

そんな姿を横目にしながら祐は呆れたように世嗣を呼ぶ。

「ん?なんだ坊主....俺の顔に何か付いてるか」

祐の気も知らず世嗣は的外れな質問を返す。


 ─────煙草ってそんなに美味いのか?


何て疑問を投げかけようと思った自分を嘲笑うように、祐は黙り込み溜息を吐き捨てた。

「何でもねぇよ。煙草の補充が済んだんならさっさと競技場に戻ろうぜ」

「......そうだな」

世嗣は煙草を指で挟み取ると、空に向かって煙を吐き捨てた。



 競技場に戻った二人であったが、崩落の気配は未だ垣間見える事は無かった。ただ平穏と宴のプログラムが一つずつ消化されていき満足げに親はその様子を見続けている。




──────暗転。


「ここが天童高校ね。なるほど....確かに魔力反応があるわ。しかも膨大な量の......解析に時間が掛かるわねぇ」

重い腰を上げるようにメタフォアは、校庭の周りを一周徘徊する。

(魔力だけじゃない、これは闘力、巫力────覇力も疎らにちらついてるわ。当たりがあれば良いなんて思ってたけど、これは大当たりものね)

一周二百メートルのトラックを回り終えると、徐にメタフォアは地面に手を付ける。

 地面がどれ程まで熱いのか、何て事を調べているわけでは当然ない。

解析の魔術(ニトゥアッハ)

中身の入っていない缶ビールを地面に捨て置き、岩石は愚か金属すらも貫くように集中力を研ぎ澄ませる。

(........系統は神代の魔術。結界術を主とした、究極の神秘.......姿の無い結界.......)

「ふぅぅ.....高度何てモノじゃないわね。術式の編み込まれ方の次元が段違い過ぎて、まともな性質解析じゃあ歯が立たない」

立ち上がりざまにメタフォアはぐっと伸びをする。細いくびれとやや縦に伸びたへそが露わとなる。

「けど、魔力の波長は分かったから。同調感知を使えば容易く見つけ─────


「あのぉ....何してるんですか?」

無人だと考えていた校庭で、彼女は何者かに話しかけられる。

「ッ!?」

尋常ではない反応速度を以てメタフォアは後ろに振り返る。赤い髪が塊のまま揺れ動いた。

 そこに立っていたのは体育着を身に纏った少女であったが、瞬時に性別の判断が魔術師は出来なかった。

 何せ身体の起伏が激しくなく、髪が短いのがそうさせた。

「一応、宴の期間は学校の領地は立ち入り禁止なんですけど」

「.......おっおぉ!!そうなのですね、ワタシ、少し道に迷っていてついつい入ってしまいました!!」

標準的な発音と片言の発音が入り混じり、関東圏の人間が口にする関西弁くらいには耳障りが最悪であった。

(解析の魔術中は、頭のリソースが全て使われるから気づかなかったわ)

「そうですか。でしたら、目的地まで案内しましょうか?」

「オォーセンキューです!!」

(けど、魔力や他の四神力の反応は無い。退魔の衆ではないのか、いや完全に消すことが可能なのだとしたら.........殺す。か)

満面の笑みの中、紙一枚分瞼を開け殺意に満ちた視線を送る。

「じゃあ案内するので、後ろから付いて来てください」

体育着姿の少女は、メタフォアが大陸の魔術師何て事は知る由もなく容易に背を見せる。


 ──────絶好の機会。

 ──────ここで先手を打てば、殺せる。


魔術師は、魔力を右手に集中させるとそのまま心臓目掛けて鋭く指を尖らせる。

 そして一閃。





 パシッ!!





鳴るはずのない効果音が、突然二人の中間で発生する。血は噴き出ない、誰も倒れない。ただ平然が広がっている。


「やっぱり、貴女只の外国人じゃないですね」

魔術師は不幸であった。それは気が付かれたことにではなく、このパッと見て少女か少年か判別が付きにくい少女に手を出したことに対しだ。

 無論少女は退魔の衆の人間では無い。そして四神力を扱えるわけでもない。ただこの少女、単純な徒手空拳においては日本最強とまで言われた少女なのだ。

 距離を置いて戦う事を前提とする魔術師にとって、近接戦を勝負を仕掛けた事もまたメタフォアの不幸の要因であった。

「まずっ!!.......」

荻野内雅は彼女の手首を握りしめ、自身の懐に寄せる。同時相手の身体の勢い、そして自身の拳速とが速度を合算しその一撃は必殺にまで上り詰める。


 荻野内の右拳は、見事水月を下から突き上げるような形でメタフォアに突き刺さりそして彼女の細身の体躯を浮かせるに至る。


「ふぅぅ....一般人に手を出すのは気が引けますが。このまま警備システムに連行します」

崩れ落ちる魔術師の身体を立ち起こそうと顔を一歩踏み込んだ刹那、悍ましい殺気が荻野内を覆う。

 湧き上がる鳥肌、そして冷たく粘性の高い汗が背中に垂れる。握っていた手首を咄嗟離し、荻野内は数歩分後ろに飛び下がる。

(何?今の......)

構えを取る彼女の腕は、小刻みに震えていた。

「危ない、危ない....魔力で防御取るのが後一手遅れてたら今頃どうなってた事か分からないわね........」

(そ、そんな!?踏み込みも拳速も腰の入れ方も全部完璧だった!!何で意識があるの?)

鍛錬に鍛錬を重ねた自身の一撃に、相当数の信頼を持っていたからこそ荻野内は効かなかった事に対し疑心を抱かずにはいられなかった。

(それに魔力?防御?.....本当に何者なの)

「流石は私の傀儡を瞬殺する程の技量を持つ退魔の衆のモノね。あれからまだ時間も経ってないというのにもう私のとこまで辿り着くなんて.....ぞくぞくするわね」

妖艶、艶麗とでも言えるような表情を浮かべるとメタフォアは何処ぞから杖を取り出した。

 しかしその杖とは、転ばぬ先のモノではない。アニメや漫画の世界で魔法使いが手にしているような長くそして仰々しい道具であった。

 しっかりと中身が詰まった気であるのか、構える時内側から反響の音が聞こえない。

死に至らしめる魔術(レミタ)


 魔術詠唱が行われると、魔術師の杖の先から黒煙が広がった。範囲は広く、横にも縦にも下にも逃げることは出来はしない。そして速度もまた早く瞬きの合間に一度で距離を詰められる。


(まぁ私は、交戦しちゃいけないんで....五感全てを封印させてもらうわね)


 触れてはいけないモノと荻野内は瞬時に判断が付いた。しかしそこから逃げるとなれば距離も時間も余りに短く少なかった。

 そして目の前から飛んでくる、『死』を具現化したような物体に足が竦んだ。

「た、助け......て」

涙にくれる間も与えず黒煙は荻野内を包んだ。


『鳴神月の舞:堕割り(おとしわり)


黒鉛の範囲の上から何かが、落ちて来た。

 ピンと張った紙を上からカッターで素早く切り裂くように黒鉛は見事に両断される。統率を失ったその魔術はその場で見事に分解する。

(これは中和!!まさか、あの女がやったのか!?......いや違う、別の生体反応)

「誰!?」

杖を構え直しメタフォアは、薄れていく黒鉛の先を睨み付ける。



「荻野内...雅さんでしたか?──────」

「.........?」

立ち竦んでいた荻野内の前に現れたのは、刀を持った一人の女性であった。

 美麗、純美の言葉が良く似合うその女性は振り返ることはせず荻野内の名を呼んだ。長く腰まで伸びる黒の髪がまるでもう一つの生命かのように動く。

「どうかこのことはご内密に」

日本刀より二回りは大きな大太刀を身体の前で構えると、剣豪はすっと先を睨み付ける。



 黒煙は見事に晴れた。


高校の校庭の一幕に居るのは、仰々しい杖を持った大陸の魔術師と白鞘の大太刀を構える剣聖の名を持つ者。


「そうか.....あの白髪の少年の相方は、貴女なのね。二代目剣聖──────霧太刀時雨」



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