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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
30/64

29 第三魔法の在りか

毎日投稿七日目。


楽しんでください!!

「それでおっさんは、何か情報掴んだのか?」

「いや。からっきしだな」

屋上を転々と移動する祐と世嗣は、並んで会話を交わす。

「何だよそれ甲斐ねぇな....」

「仕方がねぇだろ。何せ後を掴んだところで何処か遠くへ移動するんだから....」

確かにそうだと祐は、辺りを見渡しながらにそう感じた。

 飛来の魔術がどのようにして稼働しているのかは、当然祐は知らない。断片的な情報の連続ではあるが、祐の知り得る情報と言えば大凡十キロ以上の範囲を好きに飛ぶことが出来る利便性の高い魔術(モノ)であるという事のみである。

「それに、人間とは違ってあの野郎は連発して移動が可能だ。背中が見えたとしてもそれを掴むには一手届かない」

「........八方塞がりじゃねぇかよ」

呆れかえるよう祐は、溜息交じりにそう云った。

(橋爪みたいに、戦闘意欲があるタイプだったら良かったんだけどなぁ....)

 初めての交戦時、抵抗する雰囲気も見せず逃げていった魔陰の姿が祐の中で短く周期する。


「なぁ坊主。崩落事件の情報を提供してくれた知人って一体何モンだ?」

世嗣は煙草を口に咥えながら、ぽつりと呟く。

「あぁ言って無かったか?俺の担任だよ」

「担任だぁ?ありゃ一介の教師が出来る芸当じゃねぇぞ!」

驚くのは無理もない話であった。単にニュースとして挙げられている情報のみならず、全ての情報を一瞬にして纏め上げるなどやはり正気の沙汰とは考えにくい。ましてやそれが只の高校教諭ともなれば、土台無理な話に聞こえる。

「教師に成るまで大学院でプログラムとかハッキングとか、そういう事専門にしてたらしいぜ。詳しい事はまぁ知らねぇけど」

「.......にしてもだな。やっぱ退魔の衆(うち)に欲しいわ」

「直接言ってやれよ。多分喜ぶぜ.....まぁ中年好きかは置いとくとして─────やっぱここも、あれの痕跡は無い」

喋りながらに柵や貯水タンクと、崩落の魔陰が手に付けそうな物体を感知していた祐であったがこの場に痕跡らしいものは無かった。

「それじゃあ次だな.........坊主だったら、何処を襲う?」

何かを思い出したように世嗣は、祐に質問を振る。やけに断片出来であり、祐は真意を掴むのにやや時間を要した。

「何処って.......まぁ直接手を出さないんだとしたら。やっぱ競技場じゃねぇか。あそこは人も多いし崩せるものも五万とある」

「なら次の目的地は、競技場だ─────ふっ」

世嗣はそう言うと小さく鼻で笑った。恐らく彼自身も祐と同じ思考回路の持ち主だったのだろう、その笑みは嘲るモノに祐は感じなかった。

「じゃあ第三競技場にしないか?」

ワンテンポ置いた祐は、そう世嗣に提案する。

「人が一番集まるのか?」

「いや、そろそろ俺競技だし」

仕事としての理由ではなく、学生としての理由に世嗣は明らか肩を落として愕然とする。

「お前なぁ、仕事と競技どっちが大切なんだ?」

「そりゃあ仕事だけど、俺はまだ学生だ。楽しみたいのもあるけどやっぱ周りに迷惑を掛けるのは良くない」

曇りなき眼を身に着け祐は、淡々と世嗣に弁論を立てる。

 かつての時雨と祐の姿を重ねたのか世嗣は、何処か対応に苦慮する様相を見せる。瞬間短く唸っては空を見上げ、そして腕を組み俯く。


「はぁぁぁ.....分かったよ。それじゃあ坊主の競技が終わったら、競技場周りを散策しよう。その間は俺が見ておく」

短い髪をかき上げると、世嗣は祐の腕を取り第三競技場の近場まで飛来した。


「個人種目だから多分すぐ終わるし、そこらへんで待っててくれればすぐ戻るけど」

酒の印が印字された屋台を指さし、祐はそう提案する。

「あのなぁ坊主...今は仕事中なんだ、流石に俺とて酒は飲まん。ほらさっさと行け」

邪魔者を払いのけるかのように世嗣は手を払う。

「んじゃ後でなぁおっさん!!」

と去り際に祐は大声を上げる。言葉尻に向かうごとに世嗣の鼓膜を揺らす力は乏しくなっていった。

 白く束ねられた後ろ髪は縦に横にと無尽に揺れ動いている。

「........俺も年季が回ったか?そろそろ煙草も底を尽きる頃合いかぁ。コンビニに売ってればいんだがな」

特段痒いわけではない、ただ掻かずにはいられなかった世嗣は後頭部を貪るように掻き毟り散策紛いにコンビニを探した。




 第三競技場は、他の競技場の中で言えば陸上競技を専らとする場所であった。

 単純なメートル走から投擲や跳躍に至るまでありとあらゆる競技に対応しており、陸上競技選手であれば言わば夢のような場所とも取れる。

「えぇっと....確か俺は二百メートル走だから、あぁあっちか」

名目上プログラムこそ存在しているが、特段入場も退場も自由な乱雑とした空間を右往左往と祐は移動する。

 男子二百メートルの文字が空中に浮かぶ異質な空間には、見たところ百人ほどの高校生が立ち往生していた。

「あっ!おい、見ろよ。あれが噂の白神様じゃねぇか?」

「うわっホントだ....マジで髪の毛真っ白じゃん。染めてんのかな?」

「アルビノ系にしては、肌の色ちょっと濃いし.....やっぱ染めてんじゃねぇの?」


 囁くような小言の応酬は、当然の事本人である白神こと鬼川祐に痛い程届いていた。

(やっぱり言われてるかぁ.....まぁ慣れっこなんだけど)

最早抵抗することもせず祐はその現実を受け入れた。耳の前から垂れ下がる髪の毛を指でくるくると引っ掛ける。

『そろそろ第三ブロックが終了しますので、第四ブロックの方は掲示板通りの列にお並びください』

運営委員の一人が拡声器を以て指示を出すと皆祐の事を一度忘れ、掲示板の前に歩いていく。祐もまたその後続に付いていった。

「俺は第一レースかよ」「最後かぁ...ちょっと暇なんだよなぁ」

順番を嘆く人が一人二人と増えて行き、そして後続の人間の為へと脇に逸れていく。祐は最後列から首を伸ばし、時には飛び跳ね書き連ねられる走順表を何とか目にする。


 鬼川祐の文字は、上から四番目に並んでいた。

「第四レースか.....ちょっと先だな」

同時スターターピストルが撃ち鳴った。



 第三ブロックのレース終わり祐たち第四ブロック参加者は、走順通りに八人が横に並び縦に十三の列から成る長方形を作り上げる。

「ゲッ!!白神様と同じかよ.....終わった」

「あぁぁ.....何かすまん」

金髪に染めた明らか陽気な男が祐の姿を見るや否や諦めの表情と共に上を見上げる。

『それでは第四ブロック第一走の方は前に移動してください!!次いでの走順の方々は立ってもらい、それ以外の方は座っておいてください!!」

またしても先程の運営委員の学生が、拡声器で指示を出す。

 無論指示通りに動く人間が多数なのだが、やはり思春期かそれとも反抗期かはさておき斜に構える者も少なからずいた。

 例を挙げるとするならば、祐の隣の金髪野郎がそれに該当する。

(あぁこいつ座らないタイプ?ダッセーなぁ。ってか髪の毛染めるなよ)

自分自身が染めた記憶がない事を棚に上げ祐は、旧時代の人間さながらの価値観をぶつける。


 

 そこから五分程度の時間が過ぎた。ようやくこの鬼川祐の走順が回ってくる。

(まぁこれくらいならおっさんも、とやかく言ってこないだろ......さっさと終わらせるとするか)

スタートの姿勢は皆ばらけていた。祐は直立不動から一歩だけ足を引き体を半身に切る。クラウチングスタートの姿勢が大半だったが祐と、金髪だけはこの格好であった。

『それでは位置について....よーい.....


 順当な間を開けてからピストルが鳴る。刹那、祐は引き足を踏み込んだ。


リレー時のような風とは行かずともそれなりの速さで走った。いや突き進んだという方が適切だろう。フォームは格好の良いモノとは決して言い切れはしないが、それでもこの競技は速ければ問題は無かった。

 ゴールテープをいち早く切ったのは、無論白髪の少年であった。記録は十六秒七五。

 少し遅い百メートル走のタイムを祐はその倍の距離で易々と出した。

「ふぅぅ......よしっんじゃ順位表に記入すっか」

世界記録は撃ち破られる事言われた、ウサイン・ボルトの十九秒十九を超えたというのに当のホ人は如何せん気にも留めていない。

 祐と共に走っていた者は当然として運営委員、観客、他の競技中の者に至るまですべてが一様に祐を見つめた。

 髪の毛を見られる事に違和感のある祐だが、このような視線に関しては気にも留めずにいる。

「えぇっと.......第四ブロック第四レース一位ッと。─────ん?第三ブロック欠場選手、八田弘明(やだひろあき)....何やってんだあいつ」

順位表の脇に欠場選手が書き込まれているのだが、そこにやけに見覚えのある名前が一つだけ存在していた。

 同姓同名の人間とも考えられるが、それでも祐の中に浮かび上がる人間の顔立ちはあの男のモノだけである。

「土屋ならまだしも八田がねぇ......腹でも下したか?」

疑心に感じながらも祐は、世嗣との再会を果たすため競技場を後にする。

 

「ありゃ、鬼ちゃんじゃん。もしかして競技終わり?」

「土屋じゃねぇか。今さっき二百メートルの競技で終えたとこだ。ってか、もう体調は大丈夫なのか?」

八田に連れていかれている時は、抜け殻状態だった土屋に祐は案じるようそう声を掛ける。途端土屋は遠い眼をする。

「まぁね.....目覚めた途端にあんな美人に心配されたら、どんな疲れも吹っ飛ぶってもんやね。はぁぁ、今思い出しても素晴らしい一コマやった....愛しの宇都宮風華先生」

いつでも飛び込んできてくださいと言わんばかりに土屋は両腕を広げ、そして虚空を抱きしめる。

「何言ってんだお前、気持ち悪ぃ.....心配した俺が馬鹿だったぜ」

「はぁぁああ....」

蔑むような祐の目線も言葉も、空想の中の宇都宮風華と抱き合っているこの男には届いていなかった。


「あっ!なぁ土屋、八田知らねぇか?」

思い出したように祐は土屋に八田の所在を問う。何せ八田との時間的接点が最も短いのはこの土屋という男なのだ。

「風華、俺と一緒に来い......そして俺のモノにな──────


 鞭のような平手が、膨らんだ辺鄙な妄想を叩き割る。爽快な音と共に土屋は現実に引き戻される。

「痛ったいなぁ....!!何すんだよ鬼ちゃん」

ぶたれた頬を(さす)りながら土屋は祐を見つめる。

「八田知らねぇかって聞いてんの?それで、知ってるか」

「いや知らないけど......何、八田ちゃんどうかしたの?」

「あいつ二百メートルの競技に出てないんだ。───こう言う催しに対して斜に構える様な奴じゃないから....ちょっと心配でな」

祐は一瞬視線を落とした。

「へぇ....八田ちゃんが失踪。それは心配やねぇ、うん。俺の方でも探してみるよ」

「悪いな。じゃあ頼む」

祐は片手をひょいと上げると、その場から小走りに去っていった。




 大通り、人はごった返す中、世嗣を探すことは容易であった。それは白紙の上に掛かれた黒点を探すに等しい程、瞬殺であり楽勝であった。

「あっいたいた。おっさーーーん!!」

傍から見れば親戚の叔父との再会とでも見て取れる光景だが、事実はそうではない。

 初対面から二度目で、ボルトアクションライフであるレミントンM700をぶっ放してくる厄介者との再会であった。しかし祐の前に佇む那須世嗣は何処か不足しているように祐には映る。

「あれ、煙草は?」

答えはすぐに分かった。この男、一分とて吸わない時間の無い煙草を口に咥えていなかったのだ。

「在庫切れだ........クソが、この街にはタバコ屋の一つもねぇってのか。あぁぁあイライラするわ」

やはりヤニカスになどなるモノではない。祐は強く再認識する。

「そりゃ学生の住まう街だぜ?ある訳ねぇだろ......あぁけど、商業区だったら普通に売ってると思う」

「何!?なら買いに行くぞ!!」

まさに鬼の形相とでもいえようか、世嗣は祐のジャージを思い切りに引っ張った。伸縮性の高い学校してのジャージがこれでもかと伸び、あわや引き千切れる寸前までである。

「ちょ、ちょっと!?競技場の調査は!?」

「んなもん後だ後!!まずは、俺のガソリンを探しに行く!!」


 やはりヤニカスになどなるモノではない。


──────暗転。







「うぅぅん.....今んとこ、当たり無いわねぇ」

操り人形からの情報伝達を受け、メタフォアはスマホにメモしてある学校名にその都度チェックマークを押していく。

 総数のうち計四十八校に未だ掠る様子すら見られない。

「全く大司祭(コーヘーン・ガドール)様も随分面倒な事私に押し付けてくれたわねぇ。けど、第三魔法《完全なる掌握》さえ手に入れば大陸は愚かこの世界の全てを牛耳ることも可能になる.......流石は五代魔法ってところかしら」

 競技場の倉庫に居るメタフォアはそんな事を口にしながらに缶ビールを飲んでいた。

 屋台で買える入れたてとは、味の風味は一段階下がるものの然程気になるモノではなかった。


「ん?魔力反応........ここは、えぇっと天童高校。かなりの魔力残穢ざんえね。向かってみる価値はありそう」

埃にまみれ高く積まれたマットから、飛び降りると彼女は微笑み飛来の魔術を展開する。






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