28 傀儡のモノ
毎日投稿六日目。
少し忙しかったので今回は、四千字とやや短めです。
楽しんでください!!
砕いた表現をさらに砕いては、を時雨は繰り返す。しかし、その都度に祐の中で足りない情報が現れ再び時雨を苦しめた。
「──────要するに、大陸の魔術師は魔陰と同等、もしくはそれ以上の危険性を以て扱うことになってるって事か?」
「あぁぁ.......まぁはい。そうです」
千里の道を要した時雨の説明は、随分と端的に集約された。彼女は半ば諦めるように祐の結論を受け入れた。
「お嬢の長い説明の上で辿り着く論理がそれか......やっぱ坊主は阿呆だな」
「なっ!!......悪かったなアホでよぉ」
新品の煙草に火を点けながらの世嗣の言葉に祐は、へそを曲げる。祐自身十数分に及ぶ時雨の説明を事細やかに理解出来れば良いと思っていたのだ。
ただ結果という二文字がそこに追い付けなかったという事実がその理想を裏切った。
「.....ババアが俺をここに寄越したのは、あの魔陰以外もまた二人の障害となると見越してか.....チッ」
世嗣はふつりと湧いた針ほどの憤りから小さく舌打ちをする。
単体そのもので厄介極まりない魔陰についで、二つ目の障壁。未だ全貌の見えない魔術師に三人は意気消沈とする。
「核の所在は、今何処にあるんだ?」
赤髪の魔術師の最大の狙いである天穿の核。それは橋爪一件の影の大役者である博士が手にしている。
「あぁ核なら今は、わっぷ!!.........」
祐の言葉の道中、時雨は血相を変え祐の口を人力に塞ぐ。声は愚か吐息一つ洩らさんと勢いよく両手で祐の口を覆ったせいで半ば馬乗りのような形になる。
無論性的なモノではない。ただ霧太刀時雨は祐に言葉を紡がせまいと全身全霊の行動をとったまでの事であった。
「(鬼川さん。世嗣さんの前では、葉加瀬の事は絶対に口にしないでください!!)」
ある種の殺気とも取れる時雨の脅し文句に、祐は微かに首を何度も縦に震わせる。
「何してんだ、お嬢?」
冷静沈着とした時雨とは思えない動転振りに世嗣は、冷然と言い放つ。
「いえ何も。ただ鬼川さんの口に、血が付いていたので拭い取ったまでのことです」
無理な言訳だった。ただそれ以外に真っ当な道理がない事もまた事実ではある。
「そ、そうか......ただお嬢。二人だけの空間でそう言う格好をするのは、まぁ構わねぇ。けど今は俺が居る.....あと早く手を退けてやった方が良いぜ」
見てはいけない姿を目にしたような、思春期の子供の部屋でエロ本を見つけた親のような何処か哀愁漂う声色を世嗣は浮かべる。
時雨からの馬乗りの姿勢。博士という単語を世嗣に聞かせないための工作。しかしながらに両手で抑えた面積がやたらと大きいせいか祐の呼吸器官は外部からの酸素を受け取れずにいた。鬼川祐は白目をむいて震えていた。
「あぁぁあ!!.....死ぬとこだったぜ」
息も絶え絶えに祐は喉を目一杯開き、不足している酸素を外気から取り入れる。
「すみません。少々度が過ぎました.....」
反省の色の顔には如何せん見えないが、時雨は頭を微小ながらに下に向けた。数度の咳払いをしながら祐は、時雨の顔を見つめる。
(そう言えば博士と時雨さんってなんかある雰囲気だったな.......もしかしておっさんとも)
研究室での会合。祐は一度目だと思い込んでいた時雨と博士の出会いは、やけに重たげであったことを思い出す。
「──────それで、天穿の核は今何処に」
「仮に鬼川さんとの接触時に、盗聴の魔術などが組み込まれている事もあるので今は伏せておいてもよろしいですか」
「分かった。まぁお嬢の事だ、そうやすやすと取られる程適当な場所に置いてる訳でもあるまい」
世嗣は深追いをしなかった。時雨の発言を全うとして捉えているのかは不明だが、納得しているならと祐は特段懐に立ち入ることは避けた。
「そんでさぁ、分担はどうするんだ?」
突飛とは言え今後の行動を最も左右する話題を祐は振る。
悩みどころであった。三人で二手に分かれると成れば当然一人になる人間が出てくるわけで。
「悪いが魔術師の方はそっちで何とかしてくれ。俺はあの魔陰を追ってるもんでな」
当然の如く世嗣は、恋人の敵でもある魔陰の住まう道を選択した。いやそれは分かっていた事だった。
「では、──────
「俺はおっさんに付いてくよ」
──────私達は.......」
時雨の提案の最中、祐は自ら相性の悪い方を選択した。
「俺は、嫌いなんじゃ無かったのか?....それに退魔の衆は前提として相方と行動を共にする」
真っ当な世嗣の説明に時雨もまた首を縦に振る。
「まっそうだな。───けど、恐らく俺が居たんじゃあ魔術師を見つけることは出来っこねぇよ」
祐はそう言い切った。「ほう...どうしてだ?」とややにやけるように世嗣は祐の説明を深堀する。
「俺は時雨さん達みたいに正確な四神力の調節が出来ないから、基本身に纏ってる状態だろ。相手が魔術師、しかも時雨さん達が気を張る大陸の奴ともなりゃあ俺が退魔の衆であることは一瞬で見破ってると思うぜ」
非の打ち所がない完璧な答えを祐は口にする。
「しかも俺こんな髪色してるし」
橋爪の一件で祐は、調べているのは自分だけではないという教訓を得ていた。赤髪の外人が仮に魔術師であるとすれば祐の仮説は、証明せずとも実証に至るだろう。
「確かに、それは言えていますね.....では、魔術師の方は私が担当しますのでお二人は魔陰を」
「了解」「オッケー」
ややずれたタイミングでの了承を祐と世嗣は済ませる。すると時雨はぐっと目に力を入れて二人を睨んだ。
「その間決して喧嘩などはしないように......特に世嗣さん。無暗矢鱈と射撃しないように」
冷酷かつ冷徹な注意喚起を済ませると時雨は、再び路地に戻って飛来した。
「何で俺が問題児扱いなんだぁ?」
頬を爪で掻きながらに世嗣は、子供のようにへそを曲げる。
「へっ。そりゃあ弟子可愛さに纏わりつく男に野郎なんか、問題児扱いして当然だろ」
嘲笑するような文言。それに世嗣が反応しない訳もなく祐を睨み付ける。
「いい度胸じゃねぇか。今ここでてめぇのド頭ぶち抜いても構わねぇんだぜ?」
「やれるもんならやってみろ」
負けじと祐も世嗣を睨む。
『決して喧嘩などはしないように』
刹那二人の中でつい先程の時雨の言葉が脳裏に反響する。
「まっ、お嬢の頼みだ。今回は見逃してやる」
「はぁそうですかい」
犬猿の協力は契りを交わした。しかしその交わりは随分と脆く綱渡り状態と言えた。
──────暗転。
「それはそうと。第三魔法は第七学区の高校の何処かでやられたのよね.....はぁあ、面倒くさいわ」
天然にうねり絡まった赤髪を梳かすようように五指を下へ下へと動かす。
カモフラージュとして身に着けた服は、それほど外人らしくは無かったが中々に露出の高いモノであった。
身体のサイズより一回り大きなTシャツ。それを適度にダメージが入ったジーンズに入れベルトでそれを固定している。靴は紐で編み上げられた黒のサンダルを履いていた。やはり、どこからどう見てもこれが魔術師などという大層なモノには映らないだろう。
「第七学区の学校の数は.....げっ!二百五十校もあるの!?────まぁそもそも一人で見つける気なんか無いけど、やっぱり面倒ね」
『傀儡の魔術』
メタフォアは歩きながらに、交差する学生の肩に故意的にぶつかった。
「オォースミマセン!!」
片言の日本語を咄嗟口にする。「あぁいえこちらこそ」と体育着姿の高校生は軽い会釈を返す。
「今の人外人かな?珍しい.....................」
咄嗟歩んでいた足を止める。とっさ異様な雰囲気を纏いながらに直立不動と化した。
『これは命令ね。今からこの学区の高校生、計五十名とぶつかりなさい』
「...............」
魂の抜けた骸の中では、メタフォアの言葉は良く響いた。瞬間、その高校生はまるで糸で吊るされた操り人形かのようにゆっくりと脚を進めた。
「さぁて、私の魔術が拡散するまでもう一杯ビールでも飲もうかしら」
妖艶な笑みを浮かべると魔術師は、屋台が建ち並ぶ大道路に進行方向を変えた。
「あとは、あの白髪の少年に見つからないようにしないと」
操り人形となった一人の少女は、意志も自由も無く只ひたすらと競技場に向かって歩んだ。
素数番街の外に人間とは磁力で反発を起こしているかのように、髪の毛一つ触れ合うことはない。しかし第七学区の体育着を身に纏う姿があれば迷わずぶつかりに行く。
一人、二人、そして三人と......約二十万近い第七学区の生徒からたった五十人とぶつかるという行動は、数字の見た目以上に楽な作業だった。そして映えるある五十人目。吉か凶かと問われれば、何とも言い難い人間と巡り合う。
「はぁあ、土屋も祐も居ねぇし。俺は運営委員つっても見回りがメインだし、やる事ねぇな」
白のハチマキを付けた八田弘明が彼女と交錯する。
ドン。とぶつかるとその体格差もありきで少女は後ろに吹っ飛んだ。
「あぁわりぃ、ちょっと前見てなかったわ。だいじょ.............
(あれ?何か目の前が歪んでる)
魔力適性を持たない者へ魔術を施すことなど、大陸の魔術師であれば容易である。
遠く離れた屋台の前で、ビール片手の魔術師に完了の情報が伝わる。
「おっ。五十人目ね......それじゃあ」
『今から皆には第七学区の校舎を見て回ってもらうわ。一人五校がノルマ、邪魔してくる人間がいるなら最悪殺して構わない。けど、白くて長い髪の毛をした学生が居たらすぐに姿を隠すように────あぁそれと伝播係さんはもう戻って良いわ』
二度目の命令、いやそれは皇帝から平民への勅令とも取れる絶対の一声を受けそれぞれが不気味に行動を移す。初めの少女は、ふと意識を戻すとそこは競技場であった。
「あれ?何で私ここに居るんだっけ......」
疑心に感じ首を傾げながらも少女は歩み始めた。
それと交差するよう八田は、普段の感覚に身を任せるよう真っ先に天童高校に向かって歩き出した。
評価とコメントとフォローお願いします。




