27 大陸の魔術師
毎日投稿五日目。
寝不足による頭痛でしたので、長いこと寝ていたら解消しました!!
宴の最中うごめくのは二つの存在。
その広大さ故に拾九番街の競技場を一望することは叶わないのだが、氷山の一角程度であれば近場の学生寮の屋上から眺めることが出来る。
しかしながら競技ではなく建物そのものに興味を持つ人間など居るはずはなく、当然の事無人の間なはずがそこに一筋の煙が立つ。とは言えそれは火事の狼煙ではなく、煙草の煙によるモノだった。
「.......なんつ人の数だ。これじゃあの野郎のいい的になる」
むさくるしいコートを相変わらず羽織りながらに、蟻程の大きさにまで成っている人の頭を双眼鏡で見つめる。
「ん?あの頭.....坊主か?横に居るのは、間違いねぇお嬢だ。にしても何で赤く染めてんだあいつは?」
見まがうはずのない白髪の上にじんわりとしみ込んだ赤が何とも言えずケチャップにすら見える。
「あいつこんな時だからってお嬢とデートでもしてんのか!?..........その頭の傷広げてやろうかあんちきしょうが」
殺気じみた様子で、持っている双眼鏡を握りしめる。顔が見えない以上楽しんでいるのかは不明だが、愛弟子と横並びで歩く祐の姿は問答無用と言わんばかりに不快に映った。
「ん?」
その遠からずの殺気を本能的に捉えたのか祐はその場で立ち止まり、ちらりと後ろを振り返る。同時、自身の頭頂部に蓋をするよう手をあてがう。
「どうかしましたか」
「いやぁ.....何と言うか悪寒?」
感じ取ったものが一体何なのか分からずに祐は包括的な言葉を口にする。
「あの魔陰ですかね?」
「なら魔力を感じ取れると思うんだけどな......何だったんだ?」
首を傾げ手を退ける。血は完全に固まり瘡蓋も湿気を殆ど部汲んでいなかった。
「それはそうと、女子たちって何の競技に出るんだ?たしか去年は障害物競走か借り物競争のどっちかだった気がするんだけど」
「そうですね.......私個人では借り物競走に、団体としては騎馬戦には」
思い出しながらに時雨は、競技を一つ二つと上げていく。
「三日も開催するというのに、出場競技はそこまで多くないんですね。少々驚きましたよ」
「まぁ人数が多いから長いだけで、一応体育祭なわけだし一人に幾つもさせるのはちょっとしんどいからでしょ。現に選抜競技に出る人も多くて三つか四つだしね」
「なるほど.....あっそろそろ借り物競争なので私はここで」
第八競技場の入り口で時雨は左を指さして、小走りに去っていった。制服と仕事着以外での時雨の姿もまた一興であり、周りに居た人々は一様にして時雨を目で追った。
「......次の試合までまだ時間あるし、頭洗ってこよ」
眠気覚ましとの両立を兼ねて祐は会場のトイレに向かった。
見たい競技に迎えたのか、通路の人数は祐と時雨と二人で行動していた時よりかなり減っていた。人との間隔が数メートル単位に変わっている。だからこそか更に祐への視線が集中する。
(早くトイレ行こ。これじゃあいい見世物だ......)
頭頂部を手で隠しながら、足早にトイレに入る。向かい側の女子トイレは、行列の絶えない店にでも並んでいるかのような人だかりであった。
「おっ。やっぱ男子トイレは人少ねぇな...助かるラスカルっとぉ.....」
自動式の蛇口に頭を突っ込み水を被るのだが、運動後だからそれが中々に気持ちが良った。
髪の毛を揉み込み、瘡蓋や固形化した血が付着している部分を指でつまんでは引っ張りを繰り返す。完全には塞がっていないせいで行動を繰り返す度に祐の頭部に染みこむ痛みが走る。
「いてて....これくらいでもう十分かな?」
中腰の姿勢のまま首だけをそっと上に持ち上げると、頭部は問題が無かったのだが。
祐の真後ろに人が立っていた。
「うおっ!!」
ただそこに居た人間は、どうやら日本人には祐には映らなかった。こと鬼川祐が言えた身では無いのだが、髪が深紅のようでありそして堀の深い顔に通った鼻筋はやはり日本の血を引く者とは考え難かった。
「オォーソリーね。アナタの髪色随分不思議だからツイ見てしまったヨ」
にこやかに微笑みながらその赤髮の外人は片言な日本語で口にしながら幾度も頭を下げる。
「あぁそうですか.....外国の方ですか?」
しどろもどろにそう聞くと外人は意気揚々と祐に近付き、そして手を握ってきた。握力が強いのか祐の皮膚に深い皺が入る。
「ソウソウ。私、スコットランドから来たノ!!日本良い国と聞いてましたけど、やっぱり凄いですネ!!」
やけに興奮気味にそう答えると、握る手の力がますます強くなる。痛みに強い祐でさえ顔が歪み始める。
「ちょっと強.........
「日本人皆良い人ネ!!それに食べ物モ美味しい、景色ハビューティフル、もう全部パーフェクトね!!」
新手の嫌がらせかと思わせるように、外人は祐の言葉を遮り更に力を増していく。もうそれは通常の人間としての力を越えているようにすら感じる程のモノだった。
(コイツ!!力が強ぇ.....覇力で保護してるってのにそれすら貫いてきやがる!!何モンだ!?)
満面の笑みを絶やさず手骨をへし折ろとするこの外人に祐は襲いながらに違和感を抱き始めていた。
(いやそもそも、コイツの爪.........へっ、まさかな....)
「おいあんた」
「ん?どうかしましたカ?凄く怖い顔してますヨー」
「ここは男子トイレだぜ。女子便は向かいだ」
こめかみに青筋を立て、睨み付けるように祐は微笑む。途端強烈な力で掴んでいた手がするりと解ける。祐の手は血流が滞っていたせいで指先は真っ赤で掌のあたりは妙に黄色かった。
「.........あぁそうなんですネ!!いやぁアナタの髪の毛が女性のようでしたから間違えてしまいましたヨ!!」
不意に真顔なった彼女と思えば、再び陽気な笑みを浮かべ後頭部に手を回しながらにそう口にする。
「そうかい。けど気を付けな、もしこれが男女逆転してたらあんた今頃警備システムに連行されてたところだぜ」
「教えていただきサンキュです!」
ひらりと手を振りながら、その女は出口からそそくさと去っていく。祐は握られた手を見ると微かにだが震えていた。
「あの女.........間違いねぇ魔術師だ」
借り物競争の計三百四十五レースの内第十三レースのピストルが空中に撃たれた。無論実弾ではなく、競技用のスターターピストルではあった。
第四レーンを走る時雨は周りの面々よりかは若干速い程度に抑えながらにお題箱が置かれた机に向かう。乱雑に置かれた紙を一枚とり、谷折りになったそれを開ける。
『お題:刀状のモノ。(模造刀、キーホルダーなどなんでも構わない)』
こんな発展した街だというのに非効率極まりない手書きで書かれたお題は、相当難度の高いモノであった。
それが一般人であればの話ではある.....
「刀ですか....」
紙を元の折られ方通りに折りこむと時雨は辺りを数回見渡した。
しかしそれは誰かにその刀状のモノを借りる為ではなく、視線が集中していないかどうかの確認であった。手を下に伸ばすと時雨は、虚空から白鞘の大太刀を取り出しそしてゴールに向かって走り出す。
周りの者は一様に紙を以て競技場に置かれたパイプ椅子性の観客席に声を掛けて回る。
「おいおい時雨さん.....ありゃ本物だぞ」
先程の赤髪の魔術師を探していた祐は、時雨の様子を上から眺めそう呟いた。
無論一番乗りでゴールにたどり着くとそれがお題にそった物であるかの審査が行われる。
「お題は何でしたか?」
八田と同じ白地に赤文字という目が痛くなる配色のハチマキを巻いた運営委員が時雨の持っていたお題紙を貰いそっと開く。
「刀状のモノですか。その手に持ってるモノが借り物という事で間違いありませんか?」
「はい。こちらでお願いしまし」
右手で持っていた時雨の愛刀を審査員の机にそっと置く。
「鋭く、斬れますので確認の際は十分に気を付けて下さい」
「え?そ、そうですか......」(これ刀なのかな?ちょっと長い気がする)
皆が想像する刀。とは少々異なる装飾の無い一振りは、やはり一般人の眼には異質に映る。さらに通常の日本刀より二回りは大きな大太刀ともなれば目にすること自体が初めてであろう。
鞘と柄に手を掛け刀身を引き抜くと、美しい刃文が太陽に照らされ煌々と光輝く。一切の妥協無く手入れが施されたそれを確認すると、内に湧き出る恐怖に耐えかねてか審査員の生徒はすぐさま刀身を鞘に納めた。
「ま、間違いなくお題に沿ったものですのでゴールが認められます。あちらの順位表の第十三レースの一位欄にお名前の入力をお願いします」
「分かりました」
机に置かれた大太刀を手にすると時雨は、速い足取りで順位表の前に立った。
しかしそこに名前を書くものは無く記入方法が分からない状態だったが、試しに指示通りの欄に指を触れさせるとスマホの入力画面の様にキーボードが下から現れる。
(随分とハイテクですね......えぇっと霧太刀時雨っと)
腕全体を使ってのキーボード入力を終えると時雨は流れで退場口に向かった。道中右手に握られた白鞘の大太刀は何事も無かったかのよう再び虚空に飛ばして見せる。
退場口に行くと、やはりその美貌からか視線が集まるのだがその中にやけに見覚えのある姿があった。
見間違うことの無い白髪の少年。ついぞ先程まで頭頂部から出血していた症状も十数分の別れの最中既に治っている。
「鬼川さん、見ていたんですか?」
「まぁね.....さっきの刀本物だよね?」
「はい。お題が刀状のモノでしたから問題は無いかと」
高校生の体育祭の最中に銃刀法違反を犯して言うというのに彼女は、法ではなくルールの心配をする。天然という訳では無いのだがやはり抜けているところがあるのだろうかと祐は首を傾げる。
「あぁいやそうじゃなくて──────普通に犯罪じゃねって話」
「そういう事でしたか。今更ですよ......それに借り物という前提で通っているので、私に非は無いかと」
時雨は勝ち誇ったように目を細め、片側の口角を微小に吊り上げる。
「あっ、そうだ時雨さんに言おうと思ってたことがあるんだけど。競技場周辺で 赤髪の 人見なかった?肩より少し長いのを こう二つに結んでるタイプの」
一つに結ばれた紙束を二つに分割しながらに祐はそう訊く。
無尽蔵に溢れかえる人の中から、たった一人を聞き出すというのは土台無理な話と分かっていながらに訊くせいもあり祐の声は質の悪いスピーカー音声の様になっていた。
「見てませんね。その人がどうか」
「えぇっと....(あんまし大きな声じゃあ言えないけど、魔術師なんだその女。しかも外人の)」
時雨の耳元に口を寄せ、ぼそりとそう呟く。
確信たる証拠も無い妄想に近しい情報と分かっていながらも祐は、まるでそれを確定させたかのような発言を取る。
当然の反応として時雨は、呆気にとられたよう眼を見開く。分け目もくれずとはまさにこのことかのように時雨は流れるように祐の手を取り会場の外に引っ張り出した。
「ちょっ!!」
祐の抵抗虚しく引きずられる様は、玩具売り場から遠ざけられる子供のようにすら映った。
「.............あっ世嗣さんですか?少し話がありますのでそちらに飛びます。では」
相手の有無を言わせぬ一方的な報告を終えると、時雨は電話を切り人気の無い場所を目指した。
「時雨さん!?時雨さん!!?」
引きずられながらも彼女の名を幾度となく強く呼ぶが反応がない。意識的に無視をしているわけでは無いのだろう。ただ祐から受けた大陸の魔術師という単語が彼女の聴覚を一時的に奪っているのだ。思考に乱れが生じぬよう外部からの情報を遮断するために。
第七競技場は位置合いの都合人の数が中々多く、人気の無い場所が如何せん少ない。嫌気なのか苛立ちなのか祐を引っ張る手の力が時間と比例するよう上昇する。
(今日は、何でまたこんなに腕にダメージがぁ?)
掌の次は火傷跡の絶えない前腕部と、中々の不幸振りであった。
はぁぁぁぁ........
最早時雨を静止される方法が思いつかない祐は、せめてもの抵抗として時雨と同じ歩幅で歩くことを心掛けた。
小道路の脇道に逸れた裏路地に足を踏み込むとやはり人の気配は一つとして無く。外から見られぬ位置に立った時雨と祐は一気に学生寮の屋上に移動した。
「さっきの電話はなんだおじょ.........どうしたんだ血相変えて?」
「世嗣さん。単刀直入に申し上げると、今この街に大陸の魔術師が居ます」
バケツリレーのように祐から時雨へそして世嗣へと、確証の無い情報が伝達される。祐としては単なる情報でしかないのだが、この二人にすれば特急案件とでも呼べるような顔立ちへ変貌する。
(あれ?空気変わったか)
飛来の魔陰が関わっていない状態の世嗣は、一度にして目の色が変わった。
光が失われ、加えていた煙草がくるりと下を向く。
「確かな情報なのか?」
「鬼川さんの見立てではその様です」
三人いるはずの空間なのだが、祐だけを置いてけぼりにするよう二人は短な会話を繋ぎ合わせる。
「.....坊主、何処で見た?」
余裕の無い切羽詰まった声色と雰囲気は祐にも伝播し、ぐっと息を吞む。
「トイレで見かけたけど魔術師として確定しているかどうかって聞かれたらまぁ...けど、あの魔力は単純に持ってるだけの人間のものとは違った。おっさんや時雨さんみたく制限が施された薄く揺らいだ魔力であることは確かだ」
感知の次元としては、この中で圧倒的なモノを持つ祐の言葉は二人を確証へと繋げる綱になった。
「大陸の魔術師が何故このタイミングで日本に.....それもこの街に?」
口に手を当てると時雨は自身の頭の中で思考を巡らす。それは世嗣もまた同じことであった。
「お嬢と坊主は、前の任務で零を殺ったんだろ?」
「えぇ」
世嗣を見ることなく短く相槌を打つ。
「しかもそれは天穿と来たんだよな?」
二度目の問。世嗣は、自分自身の論理の最終確認をするように的確に意を着いたモノを投げる。
「はい」又しても端的な返事。
「恐らく.......核が狙いだ」
結論づいた世嗣は、火の気のない煙草をドロップ缶の中にぽいと捨てる。
「なるほど.....それでしたら道理が立ちますね」
すると時雨もまたその結論を容易く受け入れ、巡らせていた思考を停止させる。そんな中ただ一人、端から端まで理解するには至れない祐は文字通り蚊帳の外と言った具合だった。
「な、なぁ.....俺にも分かるように説明してくれねぇか。出来れば一から......」
切実な願いかのよう祐は下から顔をひょこっと覗かせた。この白髪の男を忘れていた、と言わんばかりに話が完結した二人は顔を見合わせる。
「すみません切羽詰まった状況でしたので。では、私から説明させていただきますね」
軽い咳ばらいを終えると、時雨は口を開いた。
「私たちが焦っていたのは、何も魔術師という単語そのものに対してではなく。大陸の魔術師という存在が居るかもしれないという事実に対してです」
「?」
祐の頼み通り一からの説明を受けた祐の顔には、相も変わらずのはてなマークが浮かぶ。
──────暗転。
拾九番街競技場、赤髪の女は不敵に携帯を耳に当てる。
「あぁもしもし?私よ、傀儡師。やっぱりあんたの言った通りここでビンゴだったわ」
片言の日本語は何処ぞと言わんばかりに、流暢に日本語を紡ぐ。
『そうですか....それで退魔の衆との交戦はありませんよね?』
電話先の声は海外電話だからか妙に掠れているが、何処かそのその女に釘を刺すような言い回しと口調であった。
「当然よ。けど、らしき人間との接触はあったわ。とんでもない四神力量を身に纏た化け物みたいな少年とはね.....」
『化け物ですか....』
「単純な総量で言えば、恐らくリリスフェールと為を張るんじゃない?」
『なるほど。確かに良く合った二つ名ですね.....第三魔法の所在はどうですか?』
「それは全然.....おぉ棒倒しって中々の迫力ね」
右手に構えたプラスチックカップに入ったビールを喉に押し通すと、気持ちの良いどこか艶やかな感嘆の声を吐露する。
『では、引き続き退魔の衆との交戦を避け第三魔法の習得に心がけるよう』
「はいはい。分かってまぁーす──────それじゃあまずは、核の所在を確かめなきゃね」
魔術師は泡の無いビールを一気に飲み干して、観覧席から立ち上がった。
傀儡師それは、何を操るのか.......
評価とコメントとフォローお願いします。




