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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
27/64

26 厄介なモノ

毎日投稿四日目。

最近は頭痛がひどいので短めです。

楽しんでください。

 開会式の最後に撃ち放たれた花火の火薬が未だに祐の鼻腔で尾を引く。


 競技場の辺りは、オリンピックさながらの賑わいを見せどれ程の経済影響を与えるのか少々気になる所ではある。ただ祐は現在、男子高校生の足蹴にされていた。

「オラァァァァァァァ!!!!猿堕とせ猿をぉぉ!!!!!」

けたたましい怒号と共に自陣の棒を支える祐は、幾度となく頭頂部に踵が乗る。

 しかし乗るとは言えども、優しくなどでは当然なく上へ上へとのし上がる為の屍のような扱いに祐は涙腺崩壊の一歩手前まで来ている。


 開始のホイッスルから二分の間に敵陣の棒を三十度以上傾けた方が勝つこの競技。単純であり見ている側は胸のすくような爽快な戦いぶり。

(痛ッ!.....クッソ。俺も棒倒す側が良いのに)

汗と血の匂いが入り乱れる肉塊の隙間から、相手の自陣を見つめては祐は顔を下へと向ける。

 だがそんな激闘の裏舞台の生きる屍が死んだ眼をしている事を忘れてはならなかった。


 一回戦の相手は三番街の名も知らない学校であり、無論二十五年間無敗を記録してきた天童高校が負けるはずも無かった。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!」

 リーダーである筋骨隆々のゴリラ男が勝利の雄叫びを上げる。釣られて周りの天童高校生も声を張り上げるが、やはり屍の皆は意気消沈と地面にヘタレこむ。

 痛覚に慣れている祐は、蹴られた頭を撫で繰り回しながら視線を下げるとヤムチャのようにうつ伏せで倒れ込む土屋の姿が目に飛び込んできた。

「......おい土屋。生きてるか?」

「(な、何とか.........)」

そう言いながらに土屋は右手を数ミリ地面から浮かせた。


『棒倒し一回戦第四試合の結果を発表します。第七学区 天童高校が四十三秒で突破しました』

そのアナウンスは第八競技場の中で最も早いモノであった。

 鼻血が止まらない者や指にひびが入っている者もしばしばだが、満身創痍のその姿が何といえず格好が良かった。祐は三度目に蹴り込まれた踵が良い角度で入ったのか頭頂部がやや赤く染まっている。

「あれ祐お前頭から血出てんぞ。大丈夫か?」

と右鼻から血が噴き出ている八田が、自分のことなど露知らずと言わんばかりに祐の姿を懸念して見せる。

「いやお前もな......それより土屋を助けてやってくれ。こいつはもう限界だ」

「そうだな。けど俺たちはAグループだから順当に行けば次の試合は午後二時位だし問題ねぇだろ──────よっこらせっと」

萎れる土屋をまるで猫を扱うかのようにひょいと持ち上げると、三人は競技場から姿を消す。

 

 相も変わらず大量の怪我人を輩出するこの競技の為に通路には、救護班の人々がごまんと居る。その中にはあの天山病院の宇都宮風華の姿も見えて取れた。

「あれ少年じゃん.....頭大丈夫?」

「えっ?自然体で煽ってくる感じですかい?」

出会いがしらの彼女の発言に唖然としながらそう聞き返す。すると宇都宮は慌てて手を振った。

「あぁいやそうじゃなくてねその頭頂部の話をしてたの」

「そういうことね....まぁ俺は大丈夫だよ。けど──────」

未だ意識を取り戻さない土屋の後頭部を見下ろすと、彼女の視線もまたそこに集中する。

「この子は少年みたいに、頑丈じゃあないのね」

一般的な頑丈さと治癒力を持った人間を見た安堵から宇都宮は胸を撫でおろし、息を吐く。

「(なぁ祐、誰だこのお姉さんは?)」

二人の仲睦まじい様子を八田はきょとんとした目で見ながらに囁くように祐に問う。

「(俺の主治医みたいな人だな....この人いなかったら俺の命は無いとまで言い切れるくらいには恩人)」

裕もまた八田に顔を寄せ耳がこそばゆくなるような声でそれに答える。

「そう言えば少年、拳はもう大丈夫なの?包帯していないみたいだけど」

前腕部の包帯は未だに巻いている祐だが、それと同等には問題を抱えていた拳にはもうその痕跡が無く彼女は肝を冷やしたような声色を見せる。

「拳の方はもう何ともないな」(まぁおっさんの治癒魔術のお陰、なんて言えないけどね)

「はぁぁぁ....化け物ねホント」

異常性を見た人間がこれほどまでに陰鬱とした顔をするのかと、祐は初めて知る。

「まぁ何にしてもその子は私が見てあげるから。ちょっと君その子救護室まで連れて来てくれる?」

「俺ですか?」

「当たり前じゃない。貴方がその子を持ってるんだから」

途轍もない美人。とは言い切れないが、年上のお姉さんとしての風格を遺憾なく発揮している宇都宮に少々のたじろぎをしながら八田は彼女の後ろを追った。

 一人になり祐は頭頂部を二度触り、掌を確認すると血が固まった滓のようなものが付着している。流石の修復力とでも言えるのだろうか。


「鬼川さん。お久しぶりですね」

片手を挙げたままに時雨が横から祐に近付く。世嗣に襲撃されたあの日の晩から丁度三日程度は会っていなかったためか、祐の反応がワンテンポ遅れる。

 目を軽く開け祐は何も言わず時雨同様に片手をひょいと上げた。

「頭頂部大丈夫ですか?」

「うん。もう傷は塞がったから無問題(モウマンタイ)かな」

まるで他人事かのように祐は疲れ切った微笑みを浮かべ、挙げていた手でピースサインを作る。

「そうですか、なら良かったです。──────昨日の事は世嗣さんからある程度聞きましたが、あれはやっぱり飛来持ちなのでしょうか?」

「その事だけど。ちょっと場所を変えない?ここらへんじゃあうるさくて会話にならないよ」

雑多に溢れる、会話の応酬に嫌気が満ちに満ちた祐は競技場の出口を指さす。

 時雨はそうですねと言わんばかりに首を縦に振る。



 外に出たのは良かったのだが、その道中は実に疲弊した体に棘を刺すようなモノだった。

 人と人との隙間が最早数ミリ程度すらない間隔を縫う、新手のイライラ棒に二人は完全に身も心も疲れが回る。

「はぁ....はぁ.....宴の期間は毎年こんな具合何ですか?」

「まぁね。俺も初めて参加した時は死ぬかと思ったよ」

競技場から数百メートル離れた無人の路地は、遠くのガヤがうっすらと反響しており居るはずのない人を聴覚だけは認識できる空間だった。

「時雨さんは昨日の事どれくらいおっさんから聞いてるんだ?」

「大まかではありますが、一応始まりから終わりまでは」

曖昧な返答ではあった。飛来の術式を持っている事を認知しているからには、交戦した事は知らせたのだろう。

 

 ──────ただ、あの魔陰と世嗣との関係性を知るかどうかは祐にとっても蚊帳の外ではある。

(無用な言葉は、言わない方が美徳かな......その前に)

魔陰が人を襲うのは魔力補給の腹ごしらえであり、当然人がたかるた所に集まる。密集を襲う事も往々にしてあるのだが、密集から離れた人を襲う事の方が何十倍も多く当然

今の二人は格好な餌食な訳である。


 時雨は刀身を、そして祐は拳を構え横から襲い掛かる二体を同速に殺す。一人は核を叩き割り、もう一人核を斬り落とす。


「あれ、時雨さん刀またそれに戻したんだ?」

等級の低いそれには目もくれず祐は時雨の左手に握られた白鞘の大太刀を見て一言そう口にする。

「えぇやはりこちらの方が使い勝手が良いので....鬼川さんも拳もう大丈夫なんですね」

仕事中だというのに平常な声色は時雨もまた同様であった。

「おっさんが治してくれてね。──────それで魔陰の話だったね。時雨さんやおっさん同様に飛来の魔術式を持った奴で間違いないよ」

「........やはりですか」

同じ魔術(モノ)を持つある種の同士である以上、その厄介さを祐以上に身に染みて感じている。

「無論の事面倒な相手なのは変わりないんだけど.....恐らく連発が効く」

「っ!?」

驚愕して時雨は眼を大きく開き、言葉を詰まらせる。

「あの魔陰が一度目の飛来を終えてから次の飛来までの時間は殆ど十秒程度しかかかって無かったから、時雨さんやおっさんみたいなクールタイムは多分必要としてない」

「それは......厄介などと言う言葉では役不足になる程ですね」

納刀を終えた大太刀を彼女は虚空に飛ばした。

「今もおっさんは、辺りを散策して情報を集めてはくれてれるけど正直あいつを倒すには至らないと思う」

零の強さは直接的なモノであり、それを倒すためにはそれと同等の力を以てすれば対処が効いた。しかし此度はそうは行かないと、確定してしまったのだ。

「俺や時雨さんみたいな近接戦が得意だと、まず近づけないね。仮に時雨さんが飛来したとしても、先に逃げられるのが目に見えてるよ」

「対処の仕様が在りませんね。────しかも今は人がこぞって集まる最悪の期間。まずは被害を抑えることを第一に考えた方が良さそうですね」

「だね.....」

祐の相槌を最後に突如静寂が覆いかぶさった。同時いつの間にか消えていたはずのガヤが再び湧きだした。






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