25 宴 開催!!
毎日投稿三日目。
逃げられた飛来の魔術を持った魔陰に世嗣が哭く。
楽しんでください!!
飛来の魔術はこれ程までに利便的であり厄介であると祐はこの時まで知りもしなかった。
「クッソぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
震えていたエネルギーをそのまま叫びに当てたように世嗣は空に向かって口を大にする。
尋常ではない程長くそして強く叫んだせいか世嗣は気を失うようにその場に座り込んだ。ただその咆哮でも気が済まないのか世嗣はコンクリの地面に向かって何度も何度も拳を撃ち付ける。
拳頭の皮膚部分がみるみる剥がれ、血が床にゆったりと広がり滲んでいく。
冷静なはずの那須世嗣の尋常ならざるその姿を見て祐は、言葉を迷う。
(どうしたんだ?何て話しかけられる状態じゃねぇ.......それに拳の怪我を心配する前に自分の体を心配しなきゃな)
祐は垂れ流れる鼻血を羽織で四度ばかし拭うとピタリと血は止まるが未だ鼻に残る違和感は取れなずに居る。
辺りは相当に暗く、もう十時を軽く回っているのではないかとさえ見えた。
「..........な、なぁおっさん。大丈夫か?」
殴りつけていた拳を止めた世嗣に祐は恐る恐るそう尋ねる。
「....................。」
しかし返答は無い。それどころか呼吸が止まったかのように、小さな吐息すらも聞こえないのだ。商業区である以上絶えず雑音は鳴り続けているがやはり静かであることに変わりは無かった。
痛みが頭に走り、右目に力をぐっと込めながらに祐は立ち上がる。
足取りは直線的ではあるが、如何せんに遅い。項垂れる世嗣の横まで行き、祐はその場で腰を下ろした。五十代とは思えない綽々とした姿は今となってはすっかり衰えて祐には映る。
「なぁおっさん.....教えてくれ。あれは何なんだ?おっさんにとって何なんだ?」
「.....................。」
それでも世嗣は答えない。生気を失った屍のように世嗣は煙草を吸う事さえできずにいる。
「おっさんはそこいらに居る魔陰に対してはさして興味を覚えねぇのに、俺があの魔陰の魔力だと言った途端突然気が変わったように俺には見えた。頼む、教えてくれ」
目を瞑り祐は頭を深々と下げる。
世嗣は虚ろな眼差しでその姿をちらりと見ると、ゆっくりと頭を起こした。
「あれは.......」
突風であればそのまま虚空に投げ飛ばされてしまいそうに震えた声で世嗣は言葉を紡ぎ出した。
獣の様に叫んだのがよっぽど喉に悪かったのか、どこかガラ付いている。咄嗟祐は下げていた顔を上げる。
「あれは、俺の恋人をぶっ殺した野郎なんだよ.........若い頃から三十年間追い続けて来たいわば仇だ」
大した説明とは言い難くとも世嗣の言の葉は祐の中で見事に完結する。反す言葉などと語彙力の乏しい祐にはあるはずもなくただ狼狽え、下唇を噛むのが精一杯の同情だった。
「へっ...俺はつくづく甘いな。下に居る人間のことなど構わず核を撃ち抜けばそこで終いだったのによ」
自嘲するように鼻で笑う。
確かにそうであった。世嗣は初弾の照準を核ではなく、フェンスを斬り落とそうとする右手に向けたのだ。仇が目の前に居たというのに、この男は退魔の衆として被害を抑えることに尽力してみせた。
「ちげぇよ。おっさんは甘くなんかねぇよ........自分の殺意に満ちた欲望を他者の為に抑えこんでみせたんだ.......それは決して甘い人間のできる芸当じゃない」
祐は自分の事かのように言葉を口にした。自身の行いを悔やませるに至った己の一手の判断ミスに祐は憤慨する。
気付けば肩を震わせ、涙ぐんでいる。
「......そうか。ありがとな坊主、少し気が晴れた」
世嗣は柔らかな笑みを浮かべ、祐の頭に手を乗せる。皮が厚く、祐とは過ごしてきた年月の違いを一度で感じられるほどに硬かった。
「明日は、体育祭なんだってな。もう時間も遅いし送って行ってやるから、俺の肩にでもなんでも掴まってろ」
その言葉を最後にして犬猿の協力は幕を閉じた。家に着いた祐ではあったが、中々に寝付けず──────
──────気が付けば朝になっていた。
「あぁぁぁぁ.......ね、寝ればよかった」
虎丸にはまだまだ及びはしないが、中々の濃さの隈を貼り付け洗面台の前に立った。何度冷たい水で顔を洗おうが、眠気は一切晴れることは無い。
コンディションで言えば無論最悪の状態で宴の一日目を迎える事となった。
体育着とジャージを身に着けた祐はスマホと財布だけをポケットに入れ競技場に向った。道中、この街の外から来た生徒の親御が辺りを埋め尽くしている。
それだけではなく街の様子も一段と騒がしくなっていた。
「宴の期間は暑くなるからうちでポカリスエットでも買っていかない?自販機やコンビニよりかはやすいよ!!!」
や
「腹ごしらえには、たこ焼きもありますよ!!!」
などと出店の売り子の女性が、賑わう人々に押し売りを測る。顔立ちは美しいから可愛いまですべてが出揃い、スタイルもまたスレンダーからグラマラスまで千差万別。街の外から来た中年オヤジは鼻の下を長くし、吸い寄せられていく。
少々酷なことかもしれないが、その女性たちは無論人ではない。神領域への侵犯を搭載されたただの人工生命体なのだ。
はぁぁぁ......
祐は髪を紐で結ながら生徒の流れに付いていくのだが、辺りからの視線が祐に突き刺さり最早針鼠のようにすら感じられる。
「あれ鬼ちゃんやない!随分ひどい顔しとるけど、どしたの?」
「あぁ土屋か....考え事してて眠れなかった。ふはぁぁぁぁぁ.......流石に眠い」
しょぼくれた眼をジャージで擦る。
「へぇぇ鬼ちゃんも考え事とかするんやな。意外やわ」
「お前今から永遠に眠らせてやってもいいんだぜ」
死んだ魚の眼をギラつかせながらに祐は固めた拳を土屋に見せつける。「冗談よ冗談」と土屋はへらついて祐をなだめる。
「それにしても相変わらず、かなりの人やね.....ここだけで一万人くらいおるんかね?」
「拾九番街の生徒数って確か六十万人近いし、仮に二人親が来るってだけで百二十万人ここに集まるからまぁって感じだな」
そう言い残して祐は特大の欠伸を残す。
「もしかしたら鬼ちゃんのお父さんお母さんがおるかもしれんなぁ」
「そうだったら少しは俺も救われるってもんだよ.....土屋の両親は来てんのか?一応お前関西出身だろ」
「あぁぁ.....いや俺の家は絶対に来んよ」
土屋はそして乾いた笑みをこぼした。
拾九番街第七学区に建設されたドームの広さは、東京ドーム十二個分に相当する。
とはいってもその競技場を十三個に分割し、それぞれで競技が同時進行できるようになっている。技術が格段に進んだこの街でさえも開会式は立って聞くという原始的な方法を取り居ている。
最も広い第一競技場にはそれぞれの学区学校学年クラスごとにプラカードを持った体育委員が立っていた。当然祐のクラスの担当者は八田弘明なわけだ。
「遅いじゃねぇか祐と土屋!!サボってこないのかと思ったぜ」
「流石に来るに決まってんだろ.......それはそうとお前何だそのおかしなハチマキは?」
祐は八田の眼から数センチ上に視線を持っていくと真っ白のハチマキが巻かれていた。装飾は無いのだが、『十九番街第七学区担当』とまさかの赤文字で刻まれていた。
((せめて黒文字で書いた方が良いんじゃね?))
とそれを見た祐と土屋は心の中で全く同じ感想を浮かべる。
「体育委員は同時に運営委員としても働かないと行けないからやむなしで着けてるんだよ.....ダサくね?」
コクリ。
二人は八田の感想に揃って首を縦に振る。
大音量のマイクの電源を入れた瞬間のノイズが、ギインと競技場に広がる。
『学生の皆さんは、自分の所属する場所に着きましたら列などは自由でよいのでその場で座ってください』
マイク越しではあるが祐はこの声を知っていた。二月高等学院陸上部顧問に当たる松原と言う名の男のモノだった。
第一競技場に集められた十九番街全ての生徒は指示通りその場で座ると、正面部分に当たる所から超巨大なホログラムディスプレイが映写される。
そこには一人の男が映し出されていた。年齢で言えば祐とは恐らく変わりがなく離れていても一つ上程度で留まるような人相。
「きゃぁぁぁぁぁあ!!!!小鳥遊様よ!!!」
「帝氏さまぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
この男の顔立ちの説明を求められれば、一言色白のイケメンとだけ答えれば十分な程のモノを持っている。それも一目見ただけで女子が黄色い奇声を上げるほどの。
「あれって二月高の小鳥遊か?」祐は隣に座る土屋に問いを投げる。
「そうだろうね......やっぱり随分な人気な事」
呆れるように土屋は辺りを見渡す。本来持ち物は不要なはずのこの開会式にメガホンを手にした女子が台頭する始末。つい先ほどまで静まり返っていたはずの競技場はいつの間にかライブ会場に成りあがっている。
「まぁ日本一の頭脳を持って、日本一と言えるほどの顔立ちしてりゃあ当然だろ。腹立つけどなぁ........」
『第二十五回拾九番街体育祭の開会の挨拶を承った、二月高等学院三年小鳥遊帝氏です。』
面白くも、つまらなくもないテンプレートのような出だしだというのに会場は再びどっと沸く。
寝不足の祐にとっては、正直な話地獄以外の何物でもなかった。
『本日の天候は正午を回ると三十度を裕に超える真夏日となります。十分な休息と栄養そして水分補給を忘れず日ごろの成果を存分に発揮しましょう。今日から三日間で繰り広げられる三つの学区の闘いを是非楽しんでください。そしてこのような催しを開いて頂いた先生方には頭が上がりません......これを持って小鳥遊帝氏の挨拶とさせていただきます、ご清聴ありがとうございました』
画面の先の男はそう言い残すと長いこと頭を下げ、顔が上がったと思えばきざな微笑みを浮かべた。
三度目の湧きは最早、爆発音とも言え拍手などしたところですぐさま掻き消されてしまう程だった。
『続いては、拾九番街の理事長を務めます鬼灯勇様でございます』
騒音の中で細々と祐の耳に届くアナウンスの後に映し出されたのは、またしても男だった。だが先程の小鳥遊と比べれば天と地ほどのさがあるブ男である。
まずそもそもが太く、眼は細い。鼻は団子の様で口は下品に前に突き出ている。肩から上だけが見えているはずがその体形が手に取るように分かる。強いて良い点を挙げるとすれば髪がふさふさであることだけだろう。
あれほどまでに湧き出た会場は、一瞬で静寂に帰る。
『えぇ...理事長の鬼灯勇と申します。小鳥遊君が言っていたように本日はとても暑く、さらにそれが三日連続で続く酷な宴となっており熱中症には十分の注意を払ってください。昨年度は..........
予想通りいや、最早未来が見えていたようにこの男の話は長かった。下書きに数千文字と言うレベルで書き留めていなければ成せぬ程の長話を永遠と繰り返す。小鳥遊の話がやけに短かったのは、恐らくこの男の尺の為であろう。
阿鼻叫喚とまでは行かずとも、その場で座っている生徒や立っている教師そして観客席から見守る父兄の皆皆が退屈そうにそのブ男の話を耳に入れる。無論入れるだけですぐさま反対の耳からその内容は漏れ出す。
『.......えぇであるからして、本日から始まる宴十分に楽しんでくれればと思う次第であります。私からは以上です』
二十分は話しただろう鬼灯勇は、ようやくその役目を終え画面からはけていった。肩の荷が下りたように皆が溜息を吐き捨て半ば合唱のように変貌した。
おまけ程度に皆は空の拍手を数度ばかし鳴らす。
「あの狸じじい。いつまで喋れば気が済むんだよ」
眉間に皺をよせ八田は、後ろに手を突き体重を乗せる。
「老人は後先が短いから、話したい事が山ほどあるんやろ。まぁ知らんけど」
「宴で唯一嫌な所だぜ」
「いや八田ちげぇぞ。唯一じゃねぇ....閉会式もあるから唯二だ」
絶望の言葉を吐露しながら祐はVサインを二人に見せつける。
はぁぁぁぁぁぁ.........
小さな空間で二つ目の合唱が成立する。
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