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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
25/64

24 飛来の魔術

毎日投稿二日目。はい頑張っていきます。

そう言えばカクヨムというサイトでも同じの投稿してるのでそっちでも見てね


では楽しんでね

 学生寮の屋上で一人の中年男性が四つん這いで居るが、別にそれは雑巾がけをしているわけではない。

 その丁度真後ろで一人の白髪の少年がその男を見つめているが、別にそれは心配でしているわけではない。仮に心配ならばこのような満足げな笑みを顔に浮かべるはずが無いからだ。

「へっ!協力はするさ。けどそれは昨日の一発を返してからってもんだろうが」

「あっ............!!おい坊主、手を貸してくれ。痛くて起き上がれん.....」

腰を抑え世嗣らしからぬ弱弱しい声で祐に助けを呼ぶ。


 蹴りの感触的に完璧とは言えないが、及第点は容易に超える一発だったと祐自身感じていた。当たった瞬間世嗣が吹っ飛んだのが良い証拠とでもとれるのだろうか。

「ったくしょうがねぇな.....」

相方では無いとはいえ、今の祐にとってみれば時雨替わりに当たる人物であり移動手段としてこの上なく便利な男を放っておくわけには行かない事実は存在する。

 世嗣の腰辺りに寄り痛みが走らないようそっと、上半身を起こす。

「これで大丈夫──────


 ゴンッ!!


鈍く重たい音が反響と言う文字を捨て途端鳴る。第三者がこの場に現れて音ではなかった。そうであれば祐と世嗣の近くでこのような音が鳴るはずがない。

 声を失い咄嗟祐は自身の脳天を抑え、歯をグッと食いしばる。

「へっ!馬鹿が。容易く近づきやがって.....マガジンの底を生身で喰らった感想はどうだぁ?」

仕返しだ。と書かれた顔を祐に見せつけながら、世嗣は腰を抑えながらゆったりと立ち上がる。

 入れ替わるようお次は祐がその場で(うずくま)った。

「っ──────!!」

声にならない痛みを吐き出しながら大粒の涙が祐の眼球から漏れ出す寸前まで来ていたが、祐は黒の羽織でそれを拭う。

「ほらさっさと行くぞ。どこでまた新たな崩落事件が起こるか分からないんだからな」

昨晩破壊したのは、違う新品のデザートイーグルを左胸に仕舞うと世嗣は祐の後頭部を軽く叩いた。

「この野郎.......」

祐は怒りを嚙み締めながらにゆっくりと立ち上がり世嗣の裾を掴んだ。

 

 次の目的地は二三番街。またしても学生街の一角だった。




「どうだ坊主、何か分かったか?」

「もう殆ど修復してるから、事細かには分かんねぇけど。同じ魔力だよさっきの場所と、あと俺の高校の屋上ともな」

この街の事後処理は、恐らくどの国にも劣らことの無い圧倒的な効率と完成度を誇っている。

 虎丸の情報通りの場所に着いたはいいものの、その惨状の様は全て修繕が完了しており祐程の感知精度を持っていなければ気付くことさえ出来ない仕上がりでもある。

「魔力的にここは天童高校みたいに柵が持ってかれてる。丁度この辺りだな」

木製の柵の大凡三メートル幅を指で示す。

「ここら辺ねぇ.....魔力なんかあんのか?」

近場に寄った世嗣はそれでも理解できず、眼を細め煙草の煙を吐き捨てる

「魔力は本当に小さくなってるけど、範囲はこの辺りで確定して良い。紙の上にマスキングテープ張って鉛筆かなんかで擦った後にベロってはがすと不自然にそこだけ真っ新になるだろ?そんな感じだ」

出来るだけ想像が付きやすいように砕いた説明のお陰か世嗣の眉は少しだけ上がる。

「なるほどな.....それじゃあ次行くぞ」

ばさりとコートの音を立てながら世嗣は振り返る。

「もういいのかよ」

「同じ奴が犯人って分かったんならそれ以上の事は調べる必要はねぇ。それにまだまだ調べなきゃいけない場所が残ってるんださっさと行くぞ」

「..........分かった」

祐は感知を縮め後ろから世嗣の肩に手を乗せる。


 瞬間再び二人は飛来する。




飛来しては祐は感知係として魔力の残穢(ざんえ)を嗅ぎ分け、それが同じ種類だと判断を下す。それの繰り返しだった。

 効率的かつ無駄のない調査の方法。そして那須世嗣の飛来の術式により気付いたころには残り三件程度となっていた。

「やっぱりここも同じだな」

「それじゃあ次だな。次は.......三番街第拾七研究所」

祐の立ち上がりざま世嗣は次の目的地を口ずさむと祐は明らか嫌な顔を浮かべる。

「えっ。マジかよ....」

「あぁどうした?何か嫌な思い出でもあんのか」

「そうじゃねぇよ。おっさんあの街は今までの番街とは比べ物にならないくらい面倒だぜ」

祐は右手で頭を掻き毟りながらにどっと溜息を吐く。

「何だ、罠でも仕掛けられてんのか?」

「それならこんな顔はしねぇよ。──────おっさんは二番街と三番街がどういう街か知ってるか?」

「さぁな。俺はこの街が研究街ってことしか知らん」

煙草を口から取り世嗣はドロップ缶に入れると、また新たな煙草を取り出した。

「元々素数番街は二番街しか存在してなかったんだよ。その後広さが足りねぇっつって三番街が新設されたんだ。つまり今から行く場所は研究街って事なんだよ」

「はぁ?それの何処が面倒なんだ」

祐の言葉足らずな説明に対し世嗣は怪訝な顔をしながら魔術で煙草に火を点ける。

「素数番街の研究内容は他国は愚か自国にさえ広まらないよう警備システムが通常の数倍は働いてる。だから今みたいに屋上でくっちゃべってたら一瞬でシステムが作動するって事だ」

「.............別に俺が飛来して、坊主が一瞬で感知し終えれば何の問題も無いように聞こえるが?」

「それならいいんだけどね。けど、そんな上手くは絶対に行かない」

珍しく真剣な顔を浮かべ祐は世嗣にそう断言する。例え確定した証明が存在していようがこの世には絶対など在り得ない。

 しかしそれでもなお祐は『絶対』という言葉を口にした。

「理由は?」

「まずは警備システムの厄介さ。そして研究街の怪事件の事後処理は今までとは比べようがない、だから俺の感知を以ても一分は掛かる。そうすればおじゃんだ」

理にかなった説明だった。ツッコミどころが存在せず、答案用紙に記入すれば確実に満点を取れるようなモノである。



「ハハッ。ハハハハハハ.....坊主。お前勉強出来ねぇだろ」


ただ世嗣はそれを嘲笑った。同時祐のちんけな脳ミソをコケ下ろすような発言さえして見せる。

「ど、どこが可笑しいんだよ!?それに勉強の良し悪しは関係ねぇだろ!!」

祐はその世嗣の言葉に物凄い剣幕で喰ってかかる。拳を握りしめ今にも殴らんと脚を踏み込む素振りさえして見せる。

「坊主の論理は間違っちゃいねぇよ。ただそれはあくまで正攻法として動けばの話だ」

「あ、ああぁ?」

振りかざした拳を下げ、祐は何とも言えない阿呆らしい顔を見せる。

 正攻法とは一体何のことなのか。そんな短な疑問が祐を巡った。

「坊主、お前の感知の距離は幾らだ?」

「えぇ?」

「だからどん位の距離が届くかって聞いてんだよ」

突如として那須世嗣による質問コーナーが五番街第拾弌商業区のビルの屋上で開催された。

「大体十キロ」

「んじゃ精度は」

「かなり良い。端に行っても変化なし」

「だろ。ならその三番街の外から感知すれば良いだけの話じゃねぇか。やっぱり馬鹿だな坊主わ」

矢継ぎ早に繰り出された二問を答えると、それを総括して世嗣は正攻法の反対。裏攻略法とでも呼べる調査方法を口にした。

 何故それを今の今まで考えることが出来なかったのか不思議になる程に簡単なモノであった。

「確かに........」

目から鱗が落ちるように祐は感嘆の声を吐露し、何度も瞼を閉じては開くを繰り返す。

「それじゃあ三番街のギリギリまで飛ぶから掴まれ」

「お、おぉ」

言われるがまま祐は世嗣の肩を掴み、そして一瞬にして背景が入れ替わったような錯覚を感じる。




 三番街の寸での場所は、フェンスが張り巡らされていた。ただそのフェンスと言うのは落下防止のために施されているのでは当然ない。

 一切の色が塗られていない、言わば塗り絵前の線画とでも取れる鉄色のフェンスはまず恐ろしい程に高かった。祐より若干高い世嗣と二人で肩車をしたところでその天辺にはやはり辿り着かない。

「随分高いんだな.......十メートル近くあるぞ」

「まぁ機密性を高めるためだからしょうがねぇんだけどな」

そしてその聳えるフェンスの一辺一辺に有刺鉄線が絡みつている。

「にしては登れそうな高さだな。痛いの承知で手を掛ければ余裕で侵入できそうだ」

「はぁぁ....んな訳ねぇだろ。あれ見ろあれ」

淡々としている世嗣に現実を教えるため祐はフェンスの端部分に表示されている虚構画像を指さす。


『この鉄線には電流が絶ず流れているので決して触らないでください』


とだけ書かれていた。そこに流れている電流がどれ程のモノなのかは一切触れられていないが、そのあたりに転がっているネズミの焼死体を見れば明らかだろう。

「やべぇな.....けど俺たちは別にあそこに乗り込むわけじゃあねぇんだ。ほら坊主さっさと感知しろ。あの一時の方向の建物だろ」

欠伸混じりに世嗣は祐にそう言う。

(はぁぁ....感知を広げるのは良いんだけど。魔電気が大量に流れてる場所であんまし広げたくないんだよなぁ)

「──────しゃあねぇ」

頭を掻き祐は意識的に感知の範囲を拡大する。

 目の前に立ち塞がるフェンスを越えたあたりで途端大量の魔力が祐の頭の中にノイズとして取り込まれる。それでも祐は止めるわけには行かなかった。

──────微小だけど純度の高い魔力だ。同じものか......


 やはりと言うべきか案の定とでも言うべきか、何事も無かったように立ち尽くしている研究所には今まで感知し続けて来た魔力と同等のモノが姿を残していた。

「やっぱりあそこも同じだよ──────後はどっちだっけ?」

「次は十一時の方向に三キロだ」

指示通り祐は感知の円を広げていく。研究所を越えていくたびに祐の中に飛び込む魔力の情報量は増え続けていき、いつの間にか鼻血がぽたぽたとたれで始めていた。


──────これか?いやこれか。ずいぶん時間が経ってるせいで全然分からなかった....


「同じ。次はどっち?」

「正面に八キロ」

「はぁぁぁ..........」

冷徹に世嗣は次の方向と距離を祐に告げる。世嗣の眼に祐の鼻血姿は映っているというのに、それを心配する素振りを見せることは無い。


──────やっぱり同じだ。あぁぁ、頭痛い感知縮めよ。


無論同じ魔力を感じた祐は感知の範囲を急激に縮めようとした刹那。六時の方向辺りで途轍もない速度で魔力が横切っていった。


 新手の魔陰であるのだが、それを祐は無視することが出来なかった。

 いやしてはいけないと直感的に、判別が着いた。




──────同じだ!!


「おっさん!!六時の方向のずっと遠くに魔陰がいる!!」

「それがどうした。そんなに慌てる事か?」

祐の焦り様を見ても世嗣はのうのうと煙草を吹かしていた。

 咄嗟祐は世嗣の胸ぐらを激しくつかみ顔を寄せる。

「俺らが追ってる魔力が通ったんだよ!!」

祐は感情に身を委ね大きな声を張り上げた。途中で裏返った声との混合した声が不器用に二人の耳に届く。

 

 ポトリ。と世嗣の口から煙草が落ちた。


「飛ぶぞ」

いつになく真剣な声色を世嗣は口にする。その顔は、まるで忌敵いみがたきを睨み付けるように鋭く弱弱しいモノであればそれだけで斬捨てる事が可能にさえ見える。

 世嗣は胸ぐらを掴まれたまま祐の指示した方角に飛んだ。




 何時の間にかこの街は随分と暗くなっていた。満月の半欠片の下弦の月は細々しく祐と世嗣、そしてフェンスを切り裂く魔陰の爪を照らす。


凄まじく疾く、凄まじく正確に世嗣は祐を払いのけ胸元からデザートイーグルを引き抜き狙いを定める。

躊躇いなんて言葉は、年齢と共に捨て置いたとでも言いたげに世嗣は左目の先に居る魔陰目掛けて弾丸を射出する。

無論その弾丸は鉄製のモノではない。世嗣の魔力によってのみ構成された模倣弾であり、弾速上昇の魔術(バフ)が施されている。


 殺気(おもい)(魔術)も全てを乗せた一発は直線的な軌道を追い見事命中する。


「──────ッ!!」

相も変わらず振り上げていた腕を撃ち落とされ金切声を高らかに上げると、その魔陰は二人に襲い掛かるわけでもなく何処か遠くを見つめていた。

 感知を広げていた祐は瞬間的にその行動の真意を見抜いていた。

(飛来の術式ッ!!)

 何十も近場で見続けた飛来の術式が目の前の魔陰の中で今この瞬間にも飛ばんとうごめく。

 考える暇もなく祐はその魔陰に飛び込んでいった。同時拳を硬く握りしめ無傷な核を貫かんとする。


ブンッ。と空気を切り裂く拳の音が鳴った。


 一般的な指標としての神速は、異能的な指標としての神速には何手も後れを取った。

「!!──────」

避けられたことに対しての悔しさを思う前に祐は限界すれすれまで酷使していた感知を更にこき下ろしに使う。ただそこにはもう犯人たる魔陰は掛からなかった。

「............逃げられたか」

追跡を諦め祐は立ち上がろうとするが、突然の立ち眩みによって地面にぐちゃりと座り込んだ。

「おい坊主!!あれ、あれは何処に行った!!」

労いの言葉何か無しに世嗣は座り込んだ祐に詰寄り黒の羽織を掴み上げる。血相を変えるなどと言う騒ぎでは無い程に世嗣は慌てふためき、白目には血液が走る。

 本気で殺されるのではないかと祐に思わせるほどの剣幕に祐は息をのむ。

「俺の感知の範囲から逃れた。どこにいるかは分からねぇ.....」

「なら、なら方向はどっちだ!?」

「それも分からねぇ......」


 祐の言葉を受けた世嗣の手は力を失った。祐の体は下に沈み、世嗣は立ったまま真下を見つめる。

 生まれたての小鹿と評せる程に脚は制御を失ったように震えている。



そこに居る世嗣は、如何せん祐にはおかしく見えた。

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