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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
24/24

23 犬猿の協力

普通に体調崩して毎日投稿が途切れてしまいました。

今日からまた頑張っていこうかなと思います。


今回も楽しんでください!!

 新種の怪事件の調査は、まだ手付かずの状態ではあるが難攻するのは目に見えていた。

 純粋に魔陰が犯人なのか、それとも邪な気持ちに身を任せた人間の凶悪犯なのか。そもそもその検討すらつかない様子だった。


二月高等学院正門前、最後の通しという事で計三十名が走順やらの最終確認を行う。

「それじゃあ最後に初めの様に通しを行ってみて、今日はお開きとしようか」

選抜リレーの担当教師である松原は皆にそう告げる。

 第七学区の走順は相も変わらずで、三枝が第一走でありそこから繋いで九走の一ノ瀬そして白神様こと鬼川祐に繋がる形ではあった。


 結果は一度目と何一つ変わりが無かった。ただ祐が居ぬ間に練習を積んでいたのだろう、一度目よりかは闘力(ちから)を使わずに済んだ祐ではあった。


「今年も優勝間違いなしだな!!」

帰り道一人のメンバーがそう高らかに声を上げる。周りもそうだなとそれに頷きながら高々と笑う。

 慢心は争いごとに置いて最大の敵とまで言われているにもかかわらず、随分な様子だなと祐はそう感じた。

「皆!!選抜リレーは最終日かつ最終種目何だから、疲労が溜まったり緊張したりで今まで通りに行くと思わないでねッ!!」

「ホント、少しはリーダーを見習って欲しいもんだよ」

天狗にならぬように放たれた三枝の言葉に対し、斜に構えつつも一ノ瀬はそれに倣う。

「でも一ノ瀬よ。最下位連発だった第七学区に白神様とお前が居るんだぜ?どう考えたって負けよう無いだろ」

「そうだ!そうだ!!」

しかし祐ら三人を除いた面々は如何せん天狗状態を維持し続けている。


「ホントにもうッ!!.......まぁ一旦話は置いておくとして、良い時間だし何処かみんなで食べに行かない?」


 部活後ほどの時間帯でもなく、六限終わりの放課後程の時間でもない空腹がするりと姿を現す時間帯での提案としては完璧と言わざるを得なかった。

 一切のラグも無く選抜された面々は首を縦に振る。

「あぁ悪い俺ちょっと用事が在るから、今日は無理だ」

「右に同じ」

このチームを最速に導いている、二大要因が揃ってその誘いを断る。

「そっか....じゃあ最終日後の時に一緒に行こうね二人とも!!」

 三枝は少々の寂寥感(せきりょうかん)に苛まれつつも、残りの面々を纏め始めた。


 


 一ノ瀬どうかは負名ではあるが、祐には深刻な用事。もとい仕事が存在するのである。

「んん.....ただどう調べるかだよなぁ。頼みの綱の博士もいねぇし、ってかそもそも何処であったかすら知らないんだよな」

 崩落の怪事件の調査に手を掛け始めた祐ではあるのだが、初っ端も初っ端に五里霧中な状態であった。

 祐が知っている情報は、ここ最近素数番街全域で崩落事件が多発している事。そしてそれは高所や屋上からの落下であり、魔力を用いた一件である事。

「前は時雨さんのお陰で第七学区ってだけで探せたけど.....流石に街全域となると」

不可能に近い領域である。

 素数番街は都道府県的な視点で見るとすれば、西東京と西神奈川そして東側の山梨で構成された巨大研究街。そこから一つ一つと探って行ったら幾ら祐が神速で動けると言っても途方もない時間が必須となる。

「まずは、何処で起きたかを知る必要があるんだけど........ニュースで取り上げられてないモノもあるだろうし──────」

祐はエンジン音かのような唸り声をあげる。

 怪事件の全てがニュースとして扱われるかと言えば、当然違う。清廉の一件や昼頃の荻野内の様に死人が出なければ殆どの場合それは無かったことにされる。故にピンからキリまで収集するのは至難を極めるのだが、

「あっ!!虎丸なら行けるか」

祐の担任でありセキュリティ関連を大学時代先行し続けて来た彼女であれば話は変わる。

「時雨さんは選抜競技出てないから、もう虎丸の家に帰ってるし多分繋がるだろ」


 三度目のコールにして時雨は祐の電話に出た。

『どうかしましたか?』

「あぁ時雨さん?ちょっと頼みたいことがあってさ」

『何でしょうか』

「素数番街全域で起こった崩落事件全てを、まとめて欲しいんだ」

 無理な質問と聞いた時雨自身、良く理解しているのか電話で繋いだ遠くの彼女は黙然としてしまった。

「とはいっても、別に時雨さんにじゃなくて虎丸にやって欲しいんだよ」

『えっ、彼女にですか?』

「そうそう。今の通りに虎丸に伝言してくれるだけで十分なんだけど良いかな?」

『まぁそれだけでしたら』

偉く困惑した声色で時雨はそう答える。

「それじゃあよろしく」

依頼を受ける当の本人の許可を一切取らず祐は時雨との電話を切った。

「よしっ。んじゃ時雨さんからの連絡が来るまで家でゴロゴロしてよ。まだ見てないドラマがあるわけだし」

未だ画面がボロボロなスマホをポケットに入れると祐は鼻歌交じりに桜通りに向かっていった。




 天童高校裏のとあるマンションの一室、号室は三〇七。高校教諭にして鬼川祐の担任でもある虎丸涼の家にて時雨は祐からの連絡を受けた。

「はぁぁ.....」

「あれ霧太刀ちゃんどうしたの、鬼川みたいに溜息何か吐いて?」

廊下から戻ってきた時雨の溜息を見るや否やたちどころに虎丸は、そう尋ねる。

「その鬼川さんから連絡がありまして」

「ふぅぅん.....ってか鬼川っていつの間にか携帯買ってたよね。びっくりしたよー」

ソファーに寝そべりながらパソコンをいじる彼女は、祐からの連絡がまさか自分宛てだと知るはずもない。

「先生に用事があったようですよ鬼川さんは」

「えぇ?またルームメイト増やせ的な。流石に三人目はちょっとねぇー」

「そうではなく、ここ最近起きた崩落事件全てを調べ上げて欲しいとのことです」


 時雨の無理を承知で、と言葉の前に置いて口にした内容に彼女はタイピングする手をピタリと止める。途端、時雨の方に向くことも無く虎丸はパソコンの画面を切り替え何かの(おもむろ)に作業を始めた。

「情報の先生とは言え幾ら何でも難しいお話だと思うのですが.........」

諦めている時雨を他所に虎丸は、普段の授業では見せぬほどの集中でパソコンを睨み付ける。

「あの....先生?厳しいようでしたら厳しで構いませんので──────」


 タン。と強めにエンターキーを叩く。それと同時か少し遅れてか時雨のスマホが一度細やかに震える。

「弐番街の警備システムは流石に私でも入れないから、全部かと言われれば不定だけどー....まっそれ以外の番街のは全部纏めておいたよ」

「はい?」

祐からの伝達を口にしてから凡そ二十秒足らずと言ったところで彼女は事も無げにそう口にする。

 スマホに入った通知の一番上には虎丸涼からのPDFが四枚ほど纏められており事細かく住所が書きこまれている。

「これって.....」

「ん?崩落事件を纏めて欲しいって言ったのは霧太刀ちゃんでしょ。あぁもしかして地図の方が良かった?」

「そういう話ではなく、あの一瞬で?」

珍しく時雨は祐以外の前で表情を崩しそう虎丸に聞き返す。

「別にそんな難しい事じゃないよー。まっ私にして見ればだけどねぇ.....鬼川に送ってやったらそれ」

退屈そうに虎丸はそう言い、再び元の作業に戻る。

「あ、有難うございます」

動揺しながらも時雨はその情報を祐に転送した。




 桜通りの中間あたりでか祐のスマホは震える。

「速ッ!!分かってたけど、流石に速すぎだろ.....俺より虎丸の方が神の称号がふさわしいだろ」

送られてきた内容を見るのだが、祐としれ見れば困った事態となった。

「............これじゃあ何処か分からん。検索機能ってのは良くわからんし──────ん何だこれ?」


 三枚目のPDFの最後に明らか住所ではない一文が刻まれていた。

『住所タップしろ』

短い命令文だった。恐らくは祐宛ての説明書か何かなのだろう。

 物は試しと祐はその文章の一つ上の住所に指の腹を乗せると、突然画面が切り替わり地図のページに飛ばされる仕組みが内蔵されている。

「いや、神か?」

電話から一分足らずで、このクオリティを容易に送る彼女に祐は最上級の誉め言葉を吐露すると同時にドン引く。

「ここから歩いて四十分か。まぁ二、三分で着けるかな」


同じく学生街である拾七番街にある目的地に祐は音よりも早く駆け出す。

 

 素数番街の際には万里の長城を思わせるような防壁が存在する。角度の問題でその近場まで寄ると本来の日没よりも早く夜という空間を堪能できるある種の秘境が誕生している。最も新しい崩落事件が発生した場所はその際の部分であった。

「それにしてもこっちは海浜が近いからか潮っぽいな........えぇっと。あぁあれか」

拾七番街第三学区の学生寮の辺り、工事作業を行う機会の姿が点在としている。

 人件費。何て言葉は文明の発展と共に捨て置いたこの街ならでは景色を見ながらも祐はその建物の屋上まで昇る。

(気を付けねぇと、警備システムにとっ捕まるからな。慎重に慎重に)

物音を立てぬよう、そして視認されぬよう祐は階段を駆け上り。時には階段の踊り場を跳ね昇りながらも十一階までたどり着く。

 人らしきモノが作業をしてはいるが、動力源が魔力から生み出された魔電気だからではある為に祐には気味の悪い人造人間にしか映らない。

「(あれは.......貯水タンクか?斜めに斬り落とされてそのまま崩落したのか?)」

祐は屋上の出入口の裏面から様子を(うかが)

 屋上に設置された貯水タンクは、中規模タンクのパネル式であり内容量は十二トン程。年に一度のメンテナンスを行えば、仮に穴漏れこそあったとしても崩れるの落ち方はしない筈だろう。

(ここは確実に人為的被害で見ていいな。えぇっと次はっと)

スマホを取り出し、次の目的地を探していると不意に祐のスマホに着信が入る。木琴を軽快に鳴らす初期設定のままのそれは、作業音に溶け居ることなく屋上全域に広がる。

『侵入者のリスクが発生しました』

 人間らしい顔立ち、人間らしい動作、人間らしい声を持っているその人工生命体は突如余りに機械らしい抑揚のない声付きに変貌する

(やっべ!!)

バツマークを咄嗟に押すと同時、祐は隣の寮棟に一気に飛び跳ね無人の屋上で身を屈める。

 人工生命体は祐が居たあたりをぐるりと模索するが、その片手には明らか対人兵器にも取れるテーザーガンがしっかりと握り締められている。

(あれ、ちょっとだけ痛いから嫌いなんだよなぁ......)


 三十二年に完成した神領域への侵犯はこの街の全ての根源であるのだが、この街の研究者はその事実をひた隠しにしている。当然の事突如として文明が数十年単位で発展したこの街を他国が見過ごすはずもなく幾度となくスパイ行為が乱立したお陰かそれとも所為(せい)なのかこの街の警備システムは中々に恐ろしいモノだ。


『解析結果。情報の著しい過小の為、侵入者としての可能性を捨てます.....上記1128635の解析結果をバンクに転送。対応を待ちます』

そしてその恐ろしさは、全ての人工生命体に往々にして搭載されており雑多な一体ですらあの始末であった。

『1128635の解析結果を基にした、バンクの判断により追跡を遮断します──────同時に再び元の業務にリソースを回します』


「ふぅぅぅ......あぶねぇ。ったくこんな時に誰だよ、昔あれぶっ壊して懲役刑に成りかけたっつうの」

愚痴をこぼしながらもスマホを見れば、時雨からの着信であった。

「どうしよ。電話しても良いけど音煩いしなぁ──────メッセージでいっか」

購入当初と比べれば格段に速度の上がったフリック入力でメッセージを送る。

『今電話に出れないところにいるから文でくれると助かる』

『了解しました。先程のPDFについてですが、世嗣さんにも転送したので二人で協力して調査していただけると助かります』

既読が付いてから三十秒程度で返事が祐のスマホに届く。

「えぇぇ....おっさんとかよ」

あの時雨の師であり、同時鬼川祐を初見で負かして見せた強さがある以上信頼に欠けているわけでは無いのだ。

 それでも祐が少々の嫌気と拒みを表すのは、余りに那須世嗣と言う人物を知らなすぎるせいでもあるのだろうか。


「悪かったな俺でよ」

飛来と同時世嗣は祐の背後から声を掛ける。驚かされ慣れていたこともあってか祐はゆったりと振り返った。

「別に悪いとは言ってねぇよ──────けどその前に....ふんっ!!」

後ろ回し蹴り。咄嗟に踵を世嗣のこめかみに振り抜くが、世嗣は見てからかそれとも読んでいたのか身体を後ろに逸らし最小限の動きでそれを躱して見せる

「危ねぇなぁ....もっと殺気を抑えれば当たると思うぞ」

「クッソ....まぁ一々いがんだら協力何て出来っこないし。昨日の晩のことをもう忘れるとするか」

ある種諦めとでも取れるように祐は、どっと溜息を吐き捨てる。

「何にしても、坊主の知り合いにはとんでもない人間が居るんだな。普通に情報網として退魔の衆に欲しい位だ」

この街に来てからこの一件を調べ続けていた世嗣を一手で上回る虎丸という影の存在に感嘆を示す。

「そう言えばおっさんはこの街に来てから何件くらい調べたんだ?」

「俺はざっと十三件だな。だが今日みたいな現行犯を見るのは初めてだ」

「同一犯で間違いはない感じなのか今のところ?」

「──────恐らくな」

祐の後方に在る切り崩れた貯水タンクにピントを合わせながら世嗣はぼそりと呟く。

「んじゃあ後は三十件見れば良いのか.......面倒だな」

「移動は俺の飛来で連れてってやるから安心しろ。坊主はただ現場の魔力の残穢(ざんえ)を感知してりゃあ良い。それじゃあ行くぞ」

煙草を一本取り出し世嗣は祐に背を向けた。



 絶好の機会。


祐は迷わず後ろ蹴りを世嗣の腰目掛けて一閃。

 殺気は篭めなかった。ただ蹴とばすという意思目的のみで動いたそれは美しい軌道と共に化け物の咆哮を生み出した。






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