20 刹那の衝突
毎日投稿9日目。頭がおかしいのか普通に日数数え間違えてました。今回は祐の初めての対人戦、その結果は如何に!?という事で今回も戦闘シーンが多めですので、楽しんでいってください!!
必中するように軌道が変動する模倣弾は、確実に中和を間に合わせる祐には決定打にはならなかった。それどころか打てば打つほど魔力を消費する只の徒労の一手でしかない。
「何て野郎だあの小僧。闘力で動体視力が上がってるとしても、音速以上の弾をドンピシャで中和させるたぁ......これ以上は千日手になるか」
世嗣はスコープを取り外したライフルをケースに雑に放り込み、虚空に投げ捨てた。
「小僧に居場所がばれている以上、ここに長いすれば確実に詰めてくる。出来れば近接戦は避けたいんだがな」
煙草を一本取り出しそれを口に咥え、ライターを用いずに火を点ける。電灯の無い屋上で世嗣の顔が暗闇から浮き出るように照らされる。
「魔力が弱まった....銃声の影響もあるし、そう何発も撃てるもんじゃないはずだし。そろそろ移動するか?」
感知の範囲を現状の倍近くまで祐は広げる。そこには那須世嗣の魔力とその真後ろ百メートルの場所に点とする霧太刀時雨の魔力があった。
「良かった。時雨さんは何とか着いたみたいだ.....あのなすび野郎は狙撃手。ならさっきの一発が外れたことは恐らく致命傷、近接戦で一気に肩を付ける」
「何処まであの小僧の感知範囲があるのか分からない以上、下手には飛び回れねぇな......まずは、小僧の粗探しから始めるとするか」
世嗣の背景は、瞬く間に明るみにまみれたモノへと変わった。
飛来した位置は祐の左斜め前二キロほどにある寮の屋上であった。
(飛んだ!やっぱりあいつは時雨さんと同じ飛来の術式持ちか)
祐は未だ狙撃の可能性を捨てきらず、次の死角へと移動する。
「移動したか...この距離も感知の範囲か。さっきに比べ二倍以上距離を離したんだが、やはり大陸の魔術師の域か」
取り外しておいたスコープから祐の一挙手一投足を観察し終えると、世嗣は再び違う場所に飛来する。
しかし世嗣の場所は先程より遥かに近づいており、距離にして五百メートル。唯一違う点を挙げるとすれば、魔力の残穢や魔力探知を悟られぬよう限界まで魔力を消費せずに飛んだこと。角度は祐の右斜め前。
(また飛んだ..........次は右か。何が目的だ?)
またしても祐は死角を探しそこに移動するという鼬ごっこに疑問を抱きつつも慎重かつ丁寧に行動する。
「探すのに手間がどっていた...これに気付く時点で精度もイカれてるが、距離と比べれば甘いか。なら最後の調べだ」
(消えた?いや距離を離したのか、ならとことん付きやってやる!!)
祐は自身の感知に絶対的な自身があった。それは距離だけでなく精度もまた人並外れた次元に到達していたからであり、確たる証明が存在しているからだった。
感知の範囲を一気に前回まで広げる。脳の処理が追い付かず長時間使用すれば鼻血が垂れ出てくる、ある種の諸刃の剣なのだが祐はお構いなしにそれを使用した。
(何処だ?何処に行った....仮に時雨さんと同じくらい飛来できたとしても、狙撃可能な距離があるはずだ。十キロの狙撃はまず弾が持たない.....なら確実に俺の感知の範囲内には居る。何処だ!?)
感知範囲の終端まで意識を配り、那須世嗣の魔力を探す。切れた血管から漏れた血が鼻の右穴から唇を伝り顎の下で水滴状に留まっているが
祐はそれに気づいていなかった。
それでも一心に姿も魔力も消した那須世嗣を探そうと奮起している。眼は血走り、白目のしたから充血が始まる。
ドンッ!
無慈悲な拳銃の咆哮が、祐の背後から夜の静寂を切り裂くように重たく鳴った。
その銃声には躊躇した痕跡が何処にも見当たらない、確実に獲物を殺す為に引き金に指を掛け確実に狙いを定めそして引ききられた音だった。
だからこそ白いシャツに穴が開き、血が滲み、滴り、吐血し、膝から砕け落ちている事に気付くことが出来なかった。
「初めて俺と会った時お前は、俺が異能の者であることに気付けていなかった。感知を切っているからだと最初は考えたさ、けど違った。お前は常に感知を回し続けている、と言うか切ることが出来ねぇんだ」
世嗣は右手に持った鈍色に輝くデザートイーグルの銃口から噴き出る煙にふうと息を吹きかける。
祐は両膝を着き俯き倒れていた。
心臓を撃たれた訳ではないが臓器の何処からしらを確実に貫かれたのは出血量を見て明らかだった。
「二回の飛来で分かったが、お前の感知は凄まじい次元のモノだ、大陸の魔術師でもそうは居ないレベルでな。ただお前はそれに頼り過ぎている節がある、恐らくお前は三度目に俺の魔力が消えた時どこか遠くに飛来した。と考えただろ」
淡々とした説明を生きているかも分からない祐に世嗣はし続けるが、一切手を貸そうともせず一定の距離を保ち続けている。
「それが災いしたな。素晴らしいモノを持ってるからこそそれを絶対とした。感知はカメラじゃない、あくまで魔力を広げそこに乗った魔力の場所を特定してるに過ぎないってことをお前は知らなかった。だからお前は今そこで眠ってる.....とまぁここまで長々と説明したわけだが聞いちゃあ居ねぇか」
右手に持った殺人の凶器をコートの内側に仕込んであるホルスターに入れると、祐の横を通るように歩いて行った。
霧太刀時雨の師匠。
それは橋爪のような圧倒的な物量による強さとはかけ離れている別種の強さがあった。相手の行動パターンや癖、特性その他ありとあらゆる要素からの先読み行動。
剛の者とのみ戦闘経験を積んできた祐には異次元の強さと言っても差支えが無かった。
「まぁ浩二と比べれば中々やる才能だが、俺には.......」
瞬間、那須世嗣の姿は祐の隣から消えた。
飛来したの訳ではない。ただ忽然と姿を消したのだ。ただそれは己が力の行使の結末じゃない、誰かからの力を受けての消失と言えた。
「おい。おっさん......喧嘩の最中だろうが....何処行こうとしてんだ?」
腰も膝も使わない只の腕の曲げ伸ばし。そこに闘力は籠っておらず只の鬼川祐としての一発だが、油断した相手には中々の有効打と成り得た。
二、三メートルは吹っ飛んだ世嗣は左頬が赤く腫れあがっている。
「プッ.......おいおい!魔力が籠って無いとはいえ、生身に弾丸喰らってんだぞ?何で普通に立てるんだてめぇ」
吐き捨てた血は唾液が混じっており、べちゃりと広がる血の際には数個の泡が立っている。
「お生憎様、俺の得意は感知だけじゃなくてねぇ.....ッ!!頑丈さも売りにしてるんだよ」
「そうかい。まぁ何にしても小僧、過剰に得意を信じると命取りになるってさっき教えただろう」
不意を突かれたというのにこの那須世嗣と言う男は、随分と冷静に内側に忍ばせた一丁の拳銃を取り出す。同時右手に持っていた白銀の拳銃を内側にしまい込む。
それは随分とくたびれていた。
本体の殆どが金属加工された拳銃だが、一般的な拳銃とは少々パーツが足りない軍用回転式拳銃。
(あれに入ってる弾は全部魔力が篭められてるつまり、必中が施されてる可能性が高い)
腹部を撃ち抜かれたことなど露知らずと言わんばかりに祐は一瞬で世嗣との距離を詰める。
低く屈みそこから一気にタックルする距離の詰め方は、世嗣の視界から姿を軽々と消して見せる。
それでも世嗣は冷静に祐の後方凡そ一メートルに飛来し、標準を合わせる事をせずに引き金に指を掛ける。
(腹を撃っても、ここまで動くって事はもう少し度合いの高い急所にぶち込むしか他無いか)
左手に装備されたナガンM1895の銃口から七ミリ口径の弾丸が初速330毎秒メートルの速度で射出される。銃口の向きはテキトウであり右に逸れて突き進むのだが、それは祐の左背中に向かってぐにゃりと軌道が変化させる。
(避ける択は無い。叩き落とすにしても、そこから必中に走られたら只の無駄骨.....)
「ふっ」
祐はその場から動くこともせず、嘲笑するように鼻で笑う。弾丸は祐の心臓部目掛けて突き進むが、服に振れる寸での所で音を立てて虚空に溶ける。
魔力で構成された模倣弾。姿形、そして性質こそ違えども魔弾と変わりなければ祐の中和技術でも対処が可能だった。
そして世嗣はその最も大切な事を蚊帳の外に置いた為に魔力を一発分無駄に消費した結果となる。
(この距離間ですら、中和を間に合わせられるのか!?感知に頑丈さに中和の技術もあるたぁ..やっぱり景千代以来の才能だ)
右足で前に進む慣性を打ち消し、更にはその反動で振り向きざまに世嗣の胸元の目掛けて拳を放つ。
もはや未だに自分の拳が砕けている事を忘れたかのように振り抜いた一閃は、見事世嗣に命中する
踏ん張りを聞かせていた世嗣の身体が等速直線運動の様に後ろに移り、引きずった靴の後が摩擦となって地面に残る。
滲み出るように血が地面に垂れ流れる。かなりの出血量に間違いはない。
「........クッソ、たれが....」
祐は撃ち切った右拳をちらりと見ると、骨が剥き出しの状態になっていた。
祐の一撃は、零程の魔力で膜を張らねば致命症を負いかねない凶器。それは覇力で身を包んだ世嗣ではあるものの、身体的防御をされることなく当たった。しかし、直撃では無かったのだ。世嗣の胸に入っているもう一丁のデザートイーグルによって衝撃が先んじて掻き消されたのだ。
「へへっ。今日はついてやがるな。昨日散々パチンコで負けたからか?とはいってもかなり高額なデザートイーグルが一本逝かれちまったがな」
(だが、こいつを胸に仕舞って無ければ今頃砕けていたのは俺の胸骨の方だったかもな)
ロングコートの内側を見せるように開くと、ボロボロに砕け散ったオールシルバーの一部が鉄屑となり地面に落ちる。
腹部への一発による多量の出血、そして拳の完全な破壊による二度目の出血により祐の顔は青白く染まっていた。視界はぐにゃりと拉げ、酩酊状態のような千鳥足を踏んでいる始末だった。
(あの出血量を以てもまだ立っていやがる......頑丈何て騒ぎじゃねぇぞこの小僧。ふっ面白い)
「止めだ止めだ」
世嗣は笑いながらそう口にした。左手に持っていたナガンを右胸のホルスターに仕舞うと世嗣は気絶一歩手前の祐に歩いて近づいていく。
今にも倒れそうな状態だと言うのに祐は構えを取って世嗣を睨み付ける。
「そう血気盛んになるな。死ぬぞ小僧......それにもう俺はお前と戦う意思はねぇよ」
「ど、どういう事だ?......」
「俺のナガンM1895はなぁ対魔術師、及び魔陰に使う為にある。お前みたいな野郎を処理するためにはあの砕けたデザートイーグルが必須なんだよ」
くいッと親指で世嗣の後ろに広がる鉄屑を指さす。
「それが無い以上、お前を撃つ弾は魔力だけになる。けどお前はあれを中和することが出来るんでねぇ、要するに千日手になるんだよ」
「そ....そう、か」
世嗣の長々しい停戦文章を聞き、魂の籠っていない相槌を口にする。
「おい!!」
祐の意識を繋いでいた唯一の線が切れ、そのまま背中側に祐は倒れたが世嗣が頭を打たぬように祐を抱える。
顔を綻ばせ、安心しきったように眠る祐の顔に世嗣は瞬間腹を立てる。
「まっ、俺が勝手に仕掛けた勝負だしな。治すくらいの事をしねぇとババアに殺されちまう」
コートの袖を捲り世嗣は絶えず血が溢れ出る腹部の銃痕に手を翳す。アニメや漫画の世界のような黄緑の発光こそ無いが祐の体からその痕は消えていった。
──────暗転。
夜中二十三時、祐の意識は回復した。実に三時間近く眠り続けていたのだが、どうやらここは冥界の園ではなかった。目の前に広がる道路や建物の形状には見覚えしかなかったのだ。
「おっ、起きたか坊主」
「........なすび野郎。俺は寝てたのか?」
建物に背を齎せた状態の祐の上には布団代わりの一枚の黒のコートが掛けられていた。
「まぁな。一応傷口は全部治しておいたぞ....あと拳もな」
ナガンM1895の手入れをしながら、世嗣は背中越しに雑な口調でそう答える。コートを退かし、血まみれの服を捲ると固まった血こそ付着しているが完全に塞がっており、右手の状態に至っては戦闘前よりも傷の具合が良くなっていた。
手を開いても閉じても痛みは走らず、祐の意志通りに完璧に動く。
「ありがと.....」
「別に感謝される事じゃねぇよ。勝負を仕掛けたのは俺なわけだし、まぁ当然のことだ....」
「あんた、何で時雨さんの周りにいる人間に殺そうとしてるんだよ?大切なのは分かるけど、浩二って人の事半殺しにしたんだろ?」
祐の言葉を耳に入れ、手入れをしている右手をピタリと止める。首を捻り祐をじとりと見つめながら口を開く。
「お嬢から聞いたのか......ちょっかいを掛ける理由?んなのお嬢と苦楽を共にする野郎が貧弱だったらお嬢に迷惑が掛かる。だから俺が選定してやってるんだよ。それになッ!!浩二の事を半殺しにはしたが、坊主同様ちゃんと治した。そこ忘れんな」
「一般人やったときもか?」
「あったりめぇだろ!!何だ?俺を人殺し野郎とでも思ってたのか、坊主は?」
「.........いや、そうなのかもしれん」
顎に手を当て時雨の発言を思い返す。ただそこに人を殺した何て言葉は影も形も無く事実無根ではあった。恐らく、時雨の動揺具合や発言の内容が余りに震撼させる内容だったこともあり祐の中で搔い摘まれた記憶が虚構な事実を生み出してしまったのだ。
「何にしてもだ、今小僧の体から傷が無いのが良い証拠だろうが」
「た、確かに.....何かすまねぇ」
「分かればいい....坊主、名は何だ?」
祐に向けていた背をくるりと反転させながら世嗣はそう尋ねる。
「名前か?鬼川祐」
「おにかわゆう、漢字でどう書く?」
「赤鬼青鬼の鬼に水の川。んでゆうは、カタカナのネに左右の右で祐」
「......................。知らねぇ苗字だなぁ、けど良い名だ」
世嗣は片側の口角を上げ、祐の方に手を伸ばした。
「起きたんなら俺のコート返せ。そろそろ仕事しねぇといけねぇからな」
「あぁ色々面倒見てくれてありが.......いやそもそもおっさんが俺に手を出さなければこうならなかったわけか。んじゃあ礼は言わねぇ....ほらよっ」
「生意気な口ききやがる。よっこらせっと....祐とか言ったな。そうすってぇと坊主がお嬢の今の相方か?」
「まぁな」
「.............そうか」
何か感傷に浸るような弱弱しい声で世嗣は言葉を口にする。その背には哀愁が漂い先程までの那須世嗣とは何かが違っていた。「おっさん?」と祐が声を掛けてみるも世嗣は反応を示さない。
コートを羽織ると、世嗣は祐を見下ろしながら口を開く。
「それじゃあな坊主。俺は暫く仕事の都合上この街に留まるが、お嬢の事を任せてやってもいい」
そう言葉を口にする世嗣の顔は再び、退魔の衆としてのモノに変わっていた。
「余計なお世話でい」
世嗣は笑いながら祐の目の前から何処かへと飛来した。祐が感知を広げれば何処に居るか分かるのだろうが、祐はそんな事せずに立ち上がり桜通りの先に佇む鬼川荘目掛けて歩き出した。
二人の学生寮通りでの戦い痕は、後の日怪事件の残骸として学生たちの中で広まっていくのは、また別の話。
評価とコメントとフォローお願いします。
それだけが作者の生き甲斐で、養分ですので。あぁ後いろんな人に勧めてね




