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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
20/23

19 不可思議な狙撃手

飽きもせず毎日投稿六日目。

会ったあいつが、那須世嗣。異能を持つ者の闘いはやはり闇夜に始まる。

という訳で楽しんで行ってください!!

 「那須世嗣?なにその野菜みたいな名前の人は」

突如として時雨の口から現れた名前。当然祐は知るはずもなく目を点にしながら時雨の事を見つめる。

「一言で言えば、私の師匠のような人です」

「え?じゃあ時雨さんの剣とかはその那須なんちゃらって人に教わったモノなのかよ」

「いえ剣技は父からですが、魔術や巫術それに闘術や覇術といった四神の基礎戦術などは全て世嗣さんから」

時雨の強さを祐は良く知っていた。祐一人ではどうしようもなかったあの零を初見で殺すまでに至った天賦の才と実力、その基盤ともなるモノを授けという事実だけでその男を語るには十分な要素だった。

「待ってくれ。それじゃあ時雨さんは何でその人から逃げてるんだ?師匠なんだろ」

祐の発言はもっともであり、確実に的を射ていた。だからこそだろうか時雨は気難しい顔になり唸っている。

「.......少しだけ。いや少しじゃないですね。面倒な人なんですよ、那須世嗣という人は」

「面倒?────と言いますと」

ベッドから降りちゃぶ台前で時雨の顔をまじまじと祐は見つめる。

「私がまだ剣の修行を始めたころ、同時に四神力の扱いをと言うので世嗣さんが私の家に招待されたんです。ガキの面倒何かと悪態こそ付いていたんのですが、教えは恐ろしい程上手く二年も経たないうちに私は基礎の全てを身に付けました」

才能ありきで辿り付けた境地であることに間違いは無いのだが、そこに行き着くまでの地獄の様な鍛錬を思い出すかのように時雨は明後日の方向を呆然と眺めている。

「その後紆余曲折を経て、私は退魔に配属される事になったのですが.......手塩に掛けていたからなのでしょうが、かなり過保護な所がありまして」

「象徴的なエピソードとかある?」

「浩二と私が組むことになった日に、世嗣さんは腕試しという口実で彼を一度半殺しにしています」

「はっ!?」

過保護などと言う言葉でそれを一括りにして良いはずが無かった。自分の娘のような存在を大切に思うのは分かるが、男と言えどもその同僚を半殺しにするのは度が過ぎるなどの話ではない事は確かだった。

「それ以外にも、私が中学高校と今とは違い本当の学生としている時も私に好意を持った男子生徒を.....」

時雨は言葉尻を濁し皆までは云わなかった。いやそれを最後まで語る必要は無かったと言える、何せ四神の力を持たない人間に対して持つ人間が勝負を仕掛ければ無論無事では済まないことなど祐自身よくわかっている。

「それ、もう犯罪者じゃん」

「一応その件は退魔の衆で現在長を受け持っている清玄さんに勘当され、一般人には手を出さないと約束したのですが」

「けど、俺は一般人でも無いし男だし何より時雨さんの相方。狙われる対象として十分ってことか」

 はぁぁぁぁ......

浩二という人間がどれ程強かったのか面識のない祐は当然知らない訳だが、何せ自分を殺しの対象としている人間がいる以上溜息を吐き出さずにはいられなかった。

 しかし疑念に思っていた事が解決しているわけでは無かった。

「......ん?それじゃあ何で時雨さん俺の家に居るの?普通に俺の命が危なくない?」

那須世嗣という男の殺しの対象に掛かるには一般人ではないかつ、一緒にいる事が前提となる。つまるところ一緒に居るという行為自体何一つ解決の筋道に至っていなかったのだ。

「そうなんですが、世嗣さんがさらに面倒な事として。私が一人で生活しているとずっと付きまとってくるんです.......どちらかと言うとそちらの方が面倒でして」

「う、嘘だろ......束縛系とかの騒ぎじゃねぇぞその那須野郎」

「はい.....」

心底呆れたように時雨さんは肩をぐっと下ろす。

 人と要れば一緒に居る人が危険に晒され、一人で居ようものならそれはそれで霧太刀時雨という人間のストレスが限界を迎える。文字通り八方塞がり状態に二人は同時に溜息を吐いた。

「クラスメイトのことなど考えましたが学生寮で寝泊まりは禁止ですので。それに仮に良かったとしても私と要れば色々と誤解を招くことになりかねないですし」

一件愚策にしか取れない時雨の提案は、考えに考え尽くされた至高の選択だったのだと祐は漸くに腑に落ちる。

(一人でいるのもダメ。二人で居れる相手は俺か博士の二人だけ。んで、今博士は弐番街の会議に出席中..........誰か居ねぇかな)

祐は背中側に両腕をツッパリ棒のようにして体を支える。天井にあるLEDは弱まっていたというのにまだ寿命が切れる様子を見せない。

 特段祐は時雨を家に泊めることに対して乗り気ではなかった。それは己の身の可愛さからではなく、単純に男と女二人でこの狭い空間に居ることが貞操的に問題だと流石の祐の脳裏にもその思考はあったからだ。

(一般人であり男はダメ。んでもって寮生じゃなくて..........)

「あっ。居るわ一人だけ」

「えっ?」

条件を絞り込んでいった末に出て来た人間が、詰まり切った現状の打開策と成りゆる人間だと思い立ち祐はテレビの横に置いてある電話機子機に向かう。

「えぇっと....確かこの番号だったよな。流石にもう家に帰ってるだろ........」

「あの、鬼川さんその一人って?」

鼻歌交じりに一人乗り気な祐の背に時雨は、思案するように声を掛ける。

「ん?あぁ大丈夫、時雨さんの良く知る人だから.....あっ出た出たもしもし虎丸?」

『鬼川か....どうした?』

疲労困憊で今にも床に伏してしまいそうな、弱弱しい声がどことなく籠って聞こえる。

「何か反響してねぇか?」

『あぁ今、湯船に浸かっていてね......あぁぁああああ気持ちぃ。それで乙女のバスタイム中に電話してくるって事は相当な事案と見て取れ得るが』

「単刀直入に聞くんだけど。虎丸の家ってもう一人くらい住めるスペースあったりする?壱週間くらいで良いんだけど.......」

『.................有るけどー。それがどうした?』

「んじゃあ時雨さんを泊めてやってくれねぇか」

「ちょっと鬼川さん!」

一切の無駄を省き、不躾を極めた祐の提案に時雨は顔こそ変えはしないが血相が変わったような声で祐の肩を強くつかむ。

 まぁ良いから。と全てが書いてある横顔をちらりと見せる。

「それで虎丸、行けるか?.......」

『別に壱週間と言わずとも、好きな時に来てくれて構わないよー。霧太刀ちゃんは鬼川と違って礼儀正しいし....』

「へっ。一言余計だよ、けどあんがとな今からそっち向かうけど良いよな?」

『どうぞ。いつでも....』

「じゃあな──────よしっ!それじゃあ今から虎丸の家に行くから時雨さんはその大層な荷物はここでは開く必要ないからね」

「................。」

途轍もなく巨大な嵐は、一分かそこらでまるで幻だったかのようにこの部屋から去っていった。あっけらかんと時雨は口を開け祐を見つめる。

「何そこでぼっとしてんの時雨さん。早く行かねぇとその那須野郎がいつこの家に跳んでくるか分からんぞ」

そんな時雨の激しい心情の揺れ動きも知らず祐はそそくさと立ち上がり既に廊下の方まで歩ていた。

「は、はぁ.....」

(この人は、何というか......言葉では言い表せない凄さがありますね)

 時雨は制服や洗面具などが入った肩掛けバッグを持ち、玄関に向かう祐の背を追った。



 夜の素数番街といのは明るいモノのそれだけであり人は愚か、鳩一羽すら闊歩していない無人空間。天井が高いわけでもなないというのに足音だけがやたらと自分に帰ってくる。

「前から思っていたのですが、鬼川さんは彼女とかなり友好関係を築いていますよね。何か特別なつながりでも?」

「あぁ.....俺が目覚めた時今以上に勉強が出来なくてさぁ、何というか家庭教師みたいな事してくれてよ。まっ、そん時からの付き合いでね」

頬を指で掻きながら祐は何だか恥ずかしそうに、時雨からわざとらしく目線を外す。

「ですが、少しは私の意見も聞いてほしいものですよ。何も言わずいきなり一週間近くの滞在先を決定してしまうなんて」

「まぁそう怒んなって時雨さん。これが誰も傷つかない最高の選択だろ?」

「そうですが、そういう事では無くてですね!!」

結果良ければ全て良しという祐のスタンスに時雨は一喝を入れるも、祐の耳には届いておらず鬼川祐と言う人間のガサツさを時雨は改めて認知する。

「はぁぁ.....もういいです。彼女の家はどのあたりにあるんですか?」

「天童高校の真裏にある、アパートの一室。鬼川荘とは違って外装無茶苦茶綺麗で見たらすぐ分かるよ.....あっそうだ時雨さんに聞きそびれてたんだけど、那須野郎の写真とか無い?一応見た時に判断できるようにさ」

道路の中央で祐は不意に脚を止める。

 今現在と命が狙われている可能性のある祐としては事を要する情報であったにも関わらず、聞いていなかった情報だった。

「見せていませんでしたね........これです。この一番左の短髪の人です」

スマホの画面をのぞき込むと、何時何処で何のために撮ったのかはどうでもよい事として一枚の集合写真が映し出されていた。皆黒を基調とした装束を身に纏い、笑顔を浮かべる者も居れば目の奥が死んでいる者のいる。何とも協調性の無い一枚写真だったのだが......

 時雨の言った一番左の男は、その中でも一際目に生気を宿していなかった。黒のロングコートに黒いズボン、革靴も無論の事黒であり、肩に掛けている鞄のようなものも当然黒。唯一の別色は中に来ているワイシャツと肌の色、そして髪に紛れた白髪だけであった。

「あっ...........」

その男の顔を見た途端祐は、餅が喉に詰まったような吃驚(きっきょう)とする。手は震え、額にはやけに重たげな汗が湧き始める。

「どうかしましたか?」

「時雨さん。落ち着て聞いてほしんだけど......家に帰る前桜通りの前でこの男と俺は会ってるし、なんなら会話までした。『霧太刀時雨は何処にいる』って」

「えっ?う、嘘ですよね....」

血相を変え時雨らしからぬ言葉遣いで祐に問いかける。それに対し祐は何も言わず只首を縦にゆっくりと振り下ろす事しかしなかった。

(くっそ。何で気が付かなかった!!あの時すれ違いざまに俺が感知を漏らしたって言うのか!?....いや時雨さんの師匠ともなる人だったら魔力を極限まで零にすること位出来るのか。恐らく地下に流れている魔電気との区別がつかない程に.......なら恐らく見られてる。集中しろ、相手の位置を漏らすな)

震える手を何とか制し、乱れ切った意識を感知の一点に捧げた。円形状に広がる感知に純度の低い魔力が絶えず流れ込む。

「.........あれか」

どれ程の手練れであろうが、その魔力が本物である以上祐の感知から外れることは叶わなかった。

 祐の左前方、天童高校の屋上に祐は視線を向ける。視力は決して悪くない祐だがそこに居る人間の顔も姿も区別はつかないが、ただ祐の中の感知があれを那須世嗣だとそう強く告げる。


 天山高校屋上。ひし形上の網目で形成された緑のフェンスの隙間から、細長い銃口が飛び出していた。

「おぉ....こっちに気付きやがったか。あそこから一キロ近くは離れていやがるんだがなぁ.......これじゃあ大陸の魔術師並みの感知精度じゃねぇか」

スコープから右目を退かし世嗣は夜の学校屋上で不敵に微笑む。短くなった煙草を吐き捨てると、今度は左目でスコープを覗き込む。

 スコープの十字線は、相手の正確な位置の把握から正確な射撃の為に付けられた便利なものであるが世嗣のそれには付いていない。それは只の望遠鏡として大差がなく相当の腕が無ければ外してしまうのは必須の事である。

 しかしこの那須世嗣という男にはそれを必要としなくても良い決定的な術式(モノ)が存在していた。右手人差し指に掛かっているトリガーをゆっくりと引くと銃口から一発のライフル弾が飛ぶ。

(魔力が飛んでき.....

音速を越えたその弾丸は、祐の右腕上腕部を軽々と貫く。鮮血と共に遅れて発砲音が二人の耳に飛び込んでくる。貫通したその弾は祐の後方六メートル程で空中分解し証拠を残さず消えていった。 

 感知のみに意識を向けていた事が災いし祐は、気付いてからの判断が遅れた。撃ち抜かれた部分を止血するように力強く抑え時雨と共に世嗣の死角に身を顰める。

「鬼川さん。それっ!!」

「あぁ撃たれた。ちくしょう...気づいてたんだけど闘力が間に合わなかった」

血流は肘を伝い撒いてある包帯にみるみる滲み広がり、緋色に染まる。

(道路に銃痕が残ってねぇって事は、あの弾丸は恐らく魔力で構成された物。それにあの距離から確実に俺に当てて来たって事は下手に姿を晒せば次はド頭ぶち抜かれる可能性もある)

出血量を確認すると中々のものであり、太い血管が穿たれた可能性が祐の中で一抹に広がる。

「すぐに直します!!」バッグを下ろし時雨は祐の腕に治癒魔術を施す。痛みこそ取れないが血の流れはピタリと止む。

「天童高校の真裏。号室は三〇七。オートロック式だから下でピンポン鳴らさないと入れないからね」

切羽詰まった状況で祐は微塵も関係のない事を、口にする。ここに二人以外の人は居ない、ならばその行く先は当然の事時雨になるのだが祐はそれでも時雨の方を見ない。

「それじゃあ時雨さんは行った行った。ここから先は俺とあのなすび野郎との勝負だ」

「私も!!──────

「いいや。これは俺に売ってきた喧嘩だ。ここで逃げるのは男じゃねぇし、二人で勝負に挑むのは金玉の付いた野郎のすることじゃねぇ。負けるつもりはねぇし、仮に負けたとしても半殺しで済ませてくれるんだろ?時雨さんを撃つ気は無いみたいだし。ほらっ」

翠眼をギラつかせ祐は、背にした建物越し銃を構えている世嗣を睨み付ける。

 苦渋の決断ではあるが、時雨は祐の言う通りにした。

(迷惑を掛けまいとしたのに、結局こうなるとは.....)

「では、お願いします。世嗣さんに一発お見舞いしてくださいね」

傷口を完全に塞いだ時雨は、鞄を持ち上げ時雨は闇に溶け居るように走り去った。

「あれ?お嬢が走ってどっか行っちまったか。まぁあの白髪野郎を眠らせて追いかけるとするか......射撃主相手に身を隠す。それは定石だし取らねばならない行動。ただ、それは只の射撃主限定の話だ」

口から空気を吸い込み世嗣は右手にライフル弾を構築する。そこには今まで何も無かった筈のモノを取り寄せる時雨の術式とは違い、見て呉れを一時的に真似たある種の模倣(トレース)。ただそれは絵に描いた餅とは違い本当に世嗣の右手に収められた実弾。

 それを固定式弾倉に押し込みレシーバーを引く。

(死角に居る以上は、安心できるが。後はどう距離を詰めるかが問題......それにこの銃声の音って事はサイレンサーは付いてない。撃てて二、三発が限界。そこからか?)


──────バンッ!!

 

 一切の前触れもないその一発の銃声は祐の脳内で着実に組み上げられた打開策を嘲笑うように土台部を撃ち崩す。

 

 それは在り得ない事だった。この世の物理法則を完全に無視した学術的異常の全てが詰め込まれてたと言っても過言では無い光景だった。祐の視界の左上から斜め下方向に落ちていく弾丸は、意志を持ったようにぐるりと旋回し完全に無防備の祐の横腹に飛び込んできた。


 だが、急所とも言える部位に弾丸は撃ちこまれたというのに血は上がらない。それどころか祐の服すら掠めていなかった。

 那須世嗣はスコープから左目を外し小さく打ち震える。



「俺の弾丸を中和しやがった......!!」

「へへっ。舐めんなよなすび野郎が!!」


 一度の会合を経た二人の闘いの火蓋は、法螺貝の代わりに二度の銃声が斬り落とした。


 


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それだけが作者の生き甲斐で、養分ですので。それではまた!!

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