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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
19/23

18 那須世嗣

毎日投稿を続けて五日目になったんですけど、普通に楽しいですね。

負けず嫌いの本能か、それとも祐の意志で動いたのかはさておき鬼川祐は競争の結果選抜リレーのアンカーを受け持つことになった。同時白神様としての格式は文字通り神話的に上がったのだ。

「いやぁそれにしても祐君は、ホント足が速いんだね!!私も女子の中じゃあ全国レベルだけど、やっぱり敵わないな」

「はぁ、どうも」

「何か部活に入ってるとかじゃないんでしょ?何して生きてたらそんなに速くなるの?あれかな馬肉食べたら足が速くなるてきな?」

「いや、馬肉は食べた事ないな」

「そうなんだ!美味しいよ、私馬肉大好きでさこの街に一人で来る前は誕生日には必ず連れて行ってもらったなぁ」

「.......あの三枝さん?何で俺たちは今二人で歩いているんです?」

拾九番街の駅前の交差点を渡り、桜通りまで残り直進だけの一本道を残し二人は横並びで歩いていた。八雲高等学校は祐と同じ学区なのだが天童高校前駅から二つほどモノレールで移動する必要があり。普通に考えたとして、今祐と三枝日和が一緒に歩いているのはやはりおかしな状況だったのだ。

「何でって祐君は寮生じゃないんでしょ?普通だったらある程度集団的に帰れるけど、やっぱり一人は心細いでしょ?それに私は団長でありみんなのお姉さんだからね!」

「だから、俺を家まで送ると?」

「そういう事」

彼女は腰に手を当て満面の笑みで胸を張る。どうやら彼女は完璧を更に磨き上げる、お人好しの点もあった。

(なーんかこの人どっかで会ったような気がすると思ったら、あれだ坂城に良く似てるんだ。それによく喋るし......まっ悪い気はしないんだけどね)

口から生まれて来たのかと聞きたくなるほどに、とめどなく舌を回し続ける彼女の右横で祐はそっと微笑んだ。


 桜通り入口のバス停に一台のバスが音を立てて止まった。

(回送?いや誰か降りてくる)

素数番街にはバスという公共交通機関が存在してはいるものの、寮や学校の前ではないというのに人が降りてくることは非常に稀だった。

 ギターケースのようなバックを左肩に担いでおり、顔付近には疎らに生えた顎髭や祐とは違い加齢による白髪の混じった短髪が見て取れた。学生ではないとその要素だけでも判別が効くのだが、やはりそれ以上に口に咥えられた煙草が最良の判断材料と言えた。最早火の気が無いようにすら見える短く灰にまみれた煙草を口に咥えている。

「あの人サラリーマンとかなのかな?黒いズボンにワイシャツ、あと上着みたいなの手に持ってるし」

「.....そうかもね」

その男はシャツの第二ボタンまでを明け袖を随分と乱雑にまくっている。額や腕には噴き出た汗が日の光を反射している。

「まぁ明後日は宴だし、誰かのお父さんだったりするのかな?」

「.....そう、かもね」

下手な相槌こそ祐は打つが、対面から迫りくるその男が人親にはどうあがいても見えなかった。口にしていた煙草を空のドロップ缶の中に放り捨て二本目の煙草を手に掛けてあるロングコートから取り出す。煙草の銘柄など祐の知る所では無いが、博士の吸っていたそれと同じ銘柄だったことだけは一目で分かった。

 受動喫煙を一切気に留めずに路上でぷかぷかと煙草を吸っている事以外、これと言って何か罪に問われる事をしている訳でもないが祐は少しずつ距離を縮めるその男に目が離せなかった。すれ違いざま橋爪の時のように魔力を探知することもその他の四神力が感知に引っ掛かることも無く男は駅側に足を進めていた。

(思い違いか?あのコート一瞬時雨さんのにすげぇ似てると思ったけど.......気のせいか)

すれ違ってもなお意識と感知を男に向けていた祐が集中を切ったタイミングか、それより少しだけ後か


「小僧」

その男が突如として誰かを呼んだ。包括的な呼び名であり、横切った後に呼びかけられたこともあり祐は足を止めなかった。

「おい。小僧止まれ」

男は一度目の催促をする。少々棘を帯び、何やら自身に向けられている気もしたが祐はまたしても足を止めなかった。

「おい。聞こえないのか白髪の小僧。止まれと言っている!!」

二度目の催促はどことなく警告に近かった。止まらなければ撃つぞと言葉の後ろに隠れているような気がして祐は足を止めそっと振り返る。

「何か用かおっさん?」

「おっさんか....まぁ俺もお前の事を小僧と呼んだ具合、トントンってところか。その制服見たところ天童高校の制服だな?」

「それがどうした?」

「小僧、霧太刀時雨って女知ってるか?」

咄嗟祐は息が詰まった。翡翠の瞳が全て外に現れるほど眼を見開きその男をじっと見つめる。

(時雨さんを知ってる?親?いやなら余りに似ていない。退魔の衆のモノ?いやならさっきの距離で俺が四神力に気付けない筈がない?何なんだこの男は?)

とめどなく溢れてやまない疑問の雨が脳の吸収速度を超えて降り注ぐ。処理が追い付かない、完璧な返しが思い浮かばない思考だけがむやみやたらと動き続く。情報をいつまでも完結させまいと男はそこに立ち尽くす。

「あのぉ.....あなたはその霧太刀さんって言う人のお知り合い何ですか?」

「っ!?」

悩み、立ち止まる祐を見てか。それとも単純な疑問が彼女の中に在ったのか三枝は明らかに怪しげなその男に堂々と質問を振る。

「まぁ父親代わりみたいなもんだ。こっちに仕事で来たのは良いんだが何処に居るのか知ら無くてな。唯一知ってる情報がこの街の天童高校っつう高校に通っている事ってだけだ。だからそこの小僧に聞いただけだ。まっ安心しな、喰ってかかったりはしねぇよ」

煙草を人差し指と中指の間で挟み取り、祐と三枝を失笑する。

「......時雨さんは、俺と同じクラスだけど何処に居るのかは知らない。だからあんたの質問には答えられない」

「....そうか。なら呼び止めてすまなかったな」

粘られるのかと覚悟をある程度決めていた祐だったが、男はあっさりと祐から背を向け歩き出していった。

 振り返る刹那、男は白髪の少年を射殺すような視線をしたが祐はそれに気づくことは無かった。

「霧太刀さんの父親代わりにしては、随分強面だね」

「そうだ.......ん?三枝さん時雨さんの事知ってんの?ってかそういえばさっきも」

「私の弟が今年天童高校に入ってね。メールで教えて貰ったの、凄い美人さんが一個上に転校してきたって。写真も貰ったし...ほらっ!!」

そう言って彼女は隠し撮りのような角度で取られた霧太刀時雨を祐に見せつける。時雨の魔性に当てられた弟なのだろう。

「祐君はこの霧太刀さんと同じクラス?」

「一応まぁ」

歯切れの悪い答え方をし、祐は去っていく男の背中一点に視線を集中させた。



「今の小僧相当強いな......景千代に勝るとも劣らない総量ってところか。まっ何にしても後を付ければいずれお嬢にはたどり着けるか」

煙草の煙を空に向かい吐き捨て世嗣は駅方面に向かう素振りをする。



 鬼川荘に着くとバイトに出かける最中の東雲扇に祐たちは出会った。普段女っけが一切ない祐が、女子を家に連れてくるというその一大事な光景に東雲祐の袖を引き三枝の聞こえぬように喋りかけた。

「(えっ!?何少年って彼女いたの?)」

「(ちげぇよ。あの人は明後日の宴で俺と同じ競技に出る先輩。何か俺を家の前まで送りたいとか言って着いてきたんだ。)」

「へぇえ....そうか。そうか。少年にもついに女を知るときが来たか。ちゃんとゴムは買いなさいよ」

(この野郎一ミリたりとも俺の事しんじちゃいねぇ!!)

にんまりと笑う東雲を横目にし祐は青筋をピキリと立てる。少し外れの所で一人佇む三枝日和は二人の様子をじっと見続けていた。

「それじゃあ私バイトだから、報告待ってるよ!!」

去り際祐の肩を二度叩いて、彼女は走るように激安スーパーに消えていった。

「クッソふざけやがて」

強めの舌打ちを同時にしながら祐は明らかに怒号の表情を浮かべる。

「あの人って彼女さん?」

「はっ?」

全く同じ質問が、まさか三枝から来るとは思っておらず祐の顔に張り付いていた怒りの仮面はべろりと音を立てて剥がれ落ちる。

 何故こうも女という存在は、人と人との関係を想像せずにはいられないのか。祐はその安直な思考に溜息が出そうになった。

「いやあの人は俺の隣人で今大学四年生、それにあいつには彼氏が居るはずだからその予想は残念ながら零点です」

「それにしては随分仲良さげに見えたけど?」

「昔、俺の生活面の面倒とかいろいろ見てくれて。まぁそん時の絆がかなり深いってだけだよ」

乱雑に祐がそう説明すると彼女は何故か満足げな顔をした。

 すると彼女は視線を祐から鬼川荘にシフトチェンジしそれに見惚れたような顔をし始めた。

「ねぇこれが噂の鬼川荘?」

「噂の?.......何かの都市伝説でもあんのここって?」

怪訝な顔をした祐がそう尋ねると、三枝は祐の眼前まで一気に詰寄り眼を輝かせている。余りに急に寄られたこともあって祐は腰が引けそうになった。

「そう言うのじゃなくて、この未来都市の何処を探しても見つからない本来の日本としての建物!はぁぁ....ストリートビューで何度も見たけどやっぱり美しいなぁ」

「はい?」

「外付けの階段に所々見られる鉄錆び。建物の要所要所に生えているツタ。桜通りを抜けて一気に広がる突如としての和そのもの。こんな所に住めるなんて、羨ましいなぁ.....」

祐はこのアパートを当然ながら気に入っていた。デジタル慣れしていない祐からすればこのアナログ感の強い一件は当然嬉しい要素なのだが。彼女程このアパートを慈しみ感動に浸ったことも無いのは無論の事。眼を輝かせることも当然ない。

「正直って、鬼川君がここに住んでるって情報知って絶対に見てみたいって思ってさ!!」

「それじゃあ見送りって言うのはあくまで建前で?」

「うん。そう!!」

屈託のない笑顔と返事を祐に向けると、彼女は徐に鬼川荘を写真に収め始めた。真正面に上下左右ありとあらゆる角度からそれを収める。

(変わった趣味だなぁ......このボロ屋の何処に惹かれるんだか。やっぱり女って言うのはよくわからん)



 一通り取り終えると、彼女は満足げな顔を残して駅の方にスキップで去っていった。

「.........部屋に戻ってひと眠りでもしようかな」

甲高い金属音が鳴り響く外付けの階段を使わず祐は二階の柵まで飛び跳ねる。鍵を開けると、どういう訳か空回りした。

「あれっ?もしかして俺鍵かけ忘れたか....まぁこんな場所じゃあ泥棒の一人も入りはしねぇか」

玄関に入ると、短い廊下は暗いのだがその奥の洋室にはどういうわけか明かりが付いている。

「ん?」

ゆっくりと鍵をかけ、忍び足で洋室の扉を開けると祐はそこに居た人間の余りの衝撃性に鞄を肩から落とす。

「おかえりなさい鬼川さん。色々疑問はあると思いますが、少しの間匿かくまっていただけませんか?」

ちゃぶ台の前で正座をした時雨が驚愕としている祐に意味不明な提案を投げかける。その提案の内容もさることながら自分の家に居るという事実の方が祐の中では大きな存在であり、時雨の言葉は右から左にするりと流れていく。

「な、なななんで時雨さんがここに?」

「一応連絡したのですが、鬼川さんがスマホを家に忘れていたので。鍵の方は私が開鍵(かいけん)の儀で開けさせていただきました」

全くと言っていい程に答えになっていない説明を時雨は淡々と済ませる。

 あの男の存在、三枝の異様な趣味嗜好、そして何故か家に居る霧太刀時雨。この余りに巨大で不明瞭な謎は祐の頭をオーバーヒートさせるには十分であり、みるみると視界が黒く染まり出し鬼川祐はその場で知恵熱を出してかつてのように気絶した。




 あれから幾らか時間が経ち祐は寝床の上で目を覚ました。

(あれ、何で俺は天井を見上げてるんだ?確か時雨さんが家に居たような....それで頭おかしくなて気絶して.......いやなら目覚める場所は廊下の辺りなわけだし。これは夢か。まぁ何処からかは分からないけど.......)

「よいしょっと.................やっぱり居る!!!!!!!!!」

依然としてちゃぶ台の前で凛と正座をしていた。

「起きましたか。初めて会った日の事を思い出しますね」

「いや何にこやかにしてるんだよ。時雨さんは.....いや待て。俺がここで横になってるってことは。」

「はい私が運びました」

二度目の恥辱。いや精神的陵辱とでも取れるそれを祐はまたしても経験した。しかも同じ女性に二度も醜態を晒したこととなるそれは祐のメンタルにローキックで折にくる。

「はぁぁぁ....まぁいいやもう。それで何で俺の家居るんだっけ?たしか匿って欲しいって」

「その通りです。少しの間で構いませんのでお願いできますか?」

「それは良いんだけど。なんで俺の家なの?つい最近まで博士の所で寝泊まりしてたんだよね」

祐のその問いかけに時雨は頭を抱えて溜息をどっと吐く。

「昨日から弐番街の方で大事な会議があるとのことで、流石に一人で人の住処にはいられないので......」

「じゃあビジネスホテルとかでも良いんじゃない?一番近いホテルだと十三番街になるけど、時雨さんの飛来なら一瞬なんじゃねぇのか」

「そういう訳にも行かないんです。今回は私の移動痕跡が付くような行動は避けたいので.......」

時雨らしからぬ回りくどい発言に祐は首を傾げる。彼女の行動目的が一切掴めないこともあるがそれと同時に彼女をここまでにする要素に祐は気が回り始めていた。

「そうですね.....余り鬼川さんには関係のない事なのですが。やはり泊めてもらう身としてあやふやな発言は許される事ではないですね」

意を決したかのように時雨は、祐を見つめ口を開いた。

「今から話すのは、匿って欲しい原因の張本人でもある。『那須世嗣』という男についてです」

太陽が真西の方角に落ち始めカーテンの外がぐっと暗くなった所で那須世嗣という男の語りが始まったのだ。



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それが作者の生き甲斐で、栄養ですので。

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