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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
18/23

17 負けず嫌い達の競い

今回は、新たな登場人物が沢山出てきましたが、それぞれちゃんと焦点を当てていくのでご安心を。

それでは楽しんでください。

 東京都千代田区、丸の内や大手町を中心とした日本最大のオフィス街。労働を終え皆がスマホを見つめ駅に向かうそんな夜中の八時過ぎ頃、一際目立つ常盤橋タワーの上に一人の老兵が、二十五度を優に超える熱帯夜の中黒のロングコートを着用していた。紙は短髪にどことなく白髪が混じり、鬚は顎に乱雑に生えている。

 こんな時間にそこに居るだけでも変人なその男は見た目だけに留まらず、平和の日の本の国には何処ぞも似つかわしくない武器を手にしていた。

 時雨のような刀であれども、中々の恐怖を煽る得物をだがこの老兵の持っている武器はそれとは少しだけベクトルが違った。

「風は、西に三メートルってところか.....人気もありやがるし、二発が限度ってとこか」

煙草から揺れ動く煙を目印に男は標準を合わせる。

 この老兵が持ち合わせている武器は浅黒いレミントンM700。アメリカ合衆国で1962年に開発されたボルトアクション式ライフルであり最も世界で人気なライフの一つでもあるそれをこの男はビルの屋上から斜め下15度程度の角度でゆったりと構える。

「距離は八百......数四か」

M700の有効射程は二百から三百であり、最大射程は精々五百メートル。当然この距離から撃てば届かず地面に着弾するのが目に見えている。だがこの男は動くこともせずスコープの光景のみに全神経を扱う。

 構えはシッティングに片膝を立ててそこに肘とライフを乗せる形、本来は右目でスコープを覗き込むがこの男は左目で覗く。煙草の灰が重力に負けぽとりと地面に落ちた瞬間。

 

 ダンッ!!.....ダンッ!!


二度の銃声。それは上空二百メートル付近で雷鳴のようなに残響辺りに散らしながら狙いに向かって突き進む。その先に居るのは人ではない、仮にそれに輪郭線のみを(かたど)れば人の様に見えなくもないがそれは人間と呼べる存在ではない。人を何食わぬ顔で喰らい糧とする只の化物でありこの世界を狂乱を彩る魔陰(まおん)

 一発の弾丸は、文字通り一石二鳥かのように魔陰の核を同時に貫きたったの数秒で四体のそれを殺した。貫いたその弾丸は建物や地面、ましてや人に当たることなく溶けるように消えていく。射程外の射撃を可能にしたのは他でもなくこの男の技量もあったが、それ以上にこの老兵が魔術師であったことに起因する。

「.......よし。んじゃ帰り際にパチンコでもっ──────何だ?」

ライフルを肩に担ぎ仕事終わりの、興に思いを寄せているとロングコートの内ポケットの中に入れてある携帯電話に着信が入る。連絡先の部分には柳清玄(やなぎせいげん)の文字が表示されており、それを見ただけでこの男は苦虫を嚙み潰したよう顔をする。

「はぁぁ...ったく。──────はい、もしもし何だババア頼まれた仕事は今終わったところだぞ」

『そうか。報酬は明日にでも降り込んでおくよ。それより世嗣(よつぐ)、仕事終わりで何だが今から明日...いや今にでも行って欲しい場所があるんだが良いかい?』

「今度は、どんな偏狭な地に運ばれちまうのかねぇ。富士の山頂か?それとも樹海か?」

『そう悪態をつくでない。此度は中々に良い場所だぞ、何せこの世界で最も栄えた場所と言っても過言ではないからね』

「あぁそうかい。勿体ぶらずにさっさと教えたらどうだ?」

『ふふ。世嗣に行ってもらいたい場所と言うのは、そこから西の地にある素数番街と呼ばれる未来都市だ。私の未来を占う巫術で少々そこの風水が乱れてね。どうだい行ってくれるか?』

「................。」

男は柳清玄の言葉を受け、少々悩み考えた。それはあの街の侵入がどこの都市と比べても遥かに難しい事が原因だった。そこら中に仕掛けられた監視カメラによりあの街の住人でなければ警備システムが動員されそのまま刑事裁判として扱われてしまうから、やはり二つ返事で返すのは難しいと言えた。

『もしかして、黙っているのはあそこの侵入が難しいからかい?なら安心していい既に世嗣の入構手続きは済ませてある。何なら今日にでもあそこに行ったとしても警備システムが作動することは無いよ』

「てめぇ、ババア。俺の是非を言わせねぇ気だな」

『そうだね。君に選択の余地を与えるとすぐに何処かに消えてしまうから、少し手荒だが手段を取らせてもらったよ。それでどうするんだい世嗣?』

煙草を口から吐き捨て、革靴のそこで鎮火させる。

「分かったよ。明日にでも行く。その代わり面倒な仕事だったら金を貪ってやるから覚悟しとけ!!」

『ふふ。ありがとうね世嗣』

その言葉が耳に届くより前に世嗣は電話を切った。

「相変わらずあのババア俺の使い方が荒すぎるぜ。てめぇと違って俺はもう随分と年喰っちまってんだ。少しは加減を覚えやがれ!!」

文句を絶えず口にしながら、世嗣はM700をライフルケースに仕舞う。

「ん?そう言えばお嬢が二ヶ月近く前に、あの街に仕事で行ってたんじゃあ.......へへっ案外悪くない仕事だったりしてな」

ライフルケースを肩に担ぎ男は左ポケットから煙草を一本取り出した。口に咥え指パッチンをすると先端が点火する。

 この那須世嗣(なすよつぐ)という男は、煙草とギャンブルをこよなく愛する退魔の衆の数少ない一人であった。



 祐の通う天童高校は拾九番街の第七学区に位置する為、例年通り祐は赤白青の内白組に配属された。

「それにしても、今年は白神様が最初からリレー選抜に入っているのか。心強いな!」

「うわぁ。噂通りホント真っ白の髪!!ってか、何白神様って女?」

「バカ!ちげぇよよく見てみろ。普通に男の制服着てんだろ!!」

「マジじゃん!!あれで男とか....そっか神様って基本中性的に描かれるのはこれが理由なのか.....」

第七学区の中学、及び高校の話し合いの場となる第七公民館に祐は天童高校代表として出席していたが、既に帰宅意欲が溢れんばかりに分泌されていた。

(.......知らん顔ばっかだ。ホント誰だよこいつら?あぁ帰りたい。普通に家に帰って見たいアニメがあるんだよ)

死んだ魚の眼の様に真正面のホワイトボードを見続けていると、纏め役のような女生徒が大声を出す。

「えぇ!!これから親睦を深めるお喋り会を開くんで、みんな一旦席に着こうかぁ!!」

彼女の体形は、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいると。百点に近いプロポーションであり、ここに居る以上運動部なのか腕や足に全くと言っていい程に無駄な脂肪がついていない。更に特出する点としては、随分と髪の毛が金に近い茶髪だという事だ。

 彼女の一令を聞き、有象無象に祐を見ていた面々は一度自由に席に着いた。

「うんうん!!やはり第七学区は毎年の事だけど、みんな統率性があってバッチグだね!!それじゃあ一応私の自己紹介しておくね。私は三枝日和、八雲高等学校三年。去年は白組の副団長だったけど今年は団長やらせてもらってます!!よろしくね」

体育会系特有の明るさと元気溌剌としたオーラをまき散らし彼女は自己紹介を終える。

 祐の直感で彼女はモテる女なのだと瞬時に判別がついた。愛想を完全に無意識に振りまき、容姿が良く運動もできる。そして八雲高校は祐の通う天童高校とは根っからが違う進学校。と、条件が揃い過ぎていた。

「んじゃ、最初は簡単に自己紹介してもらおうかな。その場で立って学校、名前、学年、出る選抜競技。まぁ後は趣味とか!!──────それじゃあ名前順で稲城高校からお願いします」


 自己紹介と言っても特段大層な行事ごとでもなく三枝の言った項目をなぞり、そして終えたら拍手をして次の人。と流れ作業に近いそれは凡そ五分程度で祐の番まで巡回してきた。

 疎らな拍手がすっと止み、祐が席から立ち上がるとそこに六十人は居るはずの一室が見事に静寂に包まれる。眼を閉じればそこが無人の空間だと誤認してしまう程に物音が一つとして立たなかった。だが、白髪の少年である白神様を見つめる視線だけは嫌と言う程祐は五月蠅く感じた。

「えぇ....天童高校二年の鬼川祐です。リレー選抜に選ばれたのでよろしくお願いします......趣味は、ゲーセンで格ゲーすることです。よろしく」

テンプレをなぞった可もなく不可もない自己紹介を終えたというのに拍手はまばらは愚か、一つとして鳴らない。

(勝手に期待しておいて、期待外れだったからってこんなに静まり返る事ある?えっ、もしかして俺また厄日?)

小さく溜息吐き座ろうと椅子を引いた途端。

 万雷の拍手が公民館の低い天井や横広の筒状の形は端に座る祐一点に注がれる。耳を手で閉じていないと如何にかなってしまいそうなそんな感覚に陥り、顔を顰めながら耳を手で覆う。

「いよっ!!今年も我ら白組に勝利を!!」

何処の学校の誰かも知らない男が手をメガホンに見立てそうヤジを飛ばす。期待を一身に背負うというのは、傍から見れば実力の表れなのだが。される側からすれば当然たまったものでは無かった。

 はぁぁぁぁ.....

天井を見上げ、この地獄が夢であることを祈るように祐はそっと溜息を吐き捨てた。



「えぇっとそれじゃあ、私達十人が今回の白組のリレー選抜なわけだけど。一年生も居るからコースを今から説明するね」

団長兼選抜リレーの代表でもある三枝日和は、小型投影式ホログラムを壁に射出する。事細かに拾九番街の地図が俯瞰的に映し出され、その中のいくつかの道路には赤で線が引かれていた。

 第三学区に位置し、拾九番街一であり全国一の超進学校でもある二月(にげつ)高等学院から拾九番街一のバカ学校である天童高校までが等間隔に稲妻のようにジグザグとする線が良く目立っていた。

「ここの二月校から、天童高校までを各二百メートル直進して交差点でバトンを渡してそこからって感じ。特に途中で曲がったりとかしないから安心して」

三枝は簡潔かつ丁寧にコースを説明し終えると、次は走順選択の話が始まった。

 この街は端から端までが恐ろしいまでに整備されており、どこが有利どこが不利などという不毛な争いが一切起きないため基本はじゃんけんで決めるのだが。

「それじゃあアンカーなんだけど......白神様で良いよね?」

決定事項だった。祐としてもそんな気はしていたのだが、いざ目の前で強制決議が行われると言葉が出なくなった。皆が首を縦に振る中、祐を親の仇かのように睨み付ける男が一人いた。

「はぁ?何でこいつなんだよ」

(不良?)

可決寸前の所で男は空気を破壊する、一声を放った。祐を含めない八人からすれば、その男は場違いで空気の読めない糞野郎なのかもしれなかったが祐からすると決議を止めてくれた救世主なのだ。

「前回の宴の最後の最後に俺の代わりに走ったからって、何でこんなカマ野郎がアンカーなんだよ!!」

かなりの声圧で叫んでいる為、周りの選抜競技の生徒たちも一斉にその男を見つめる。

「俺の代わり?もしかしてあんた、去年俺が走る所の担当者だったのか?」

「そうだよ!!折角の活躍の場を奪いやがって、偶々周りの雑魚共を抜かせたからっていい気に成んなよ!!何が白神様だ気持ち悪ぃ」

(いや、俺が決めたわけじゃあないんですけど。そのわけわからん名称はね)

席を蹴り飛ばしながら、その男は椅子に座っている祐に近付き思い切り胸ぐらを掴んだ。

 近場で見るとその男の顔を何処かで見た覚えがあった気がした祐だが、それ以上にこの場をどう乗り切るかに脳のリソースを割いていた。

「ちょっと一ノ瀬落ち着きなって!!」

三枝は二人の間に取り入るように入るが、この一ノ瀬という男の怒りは留まることを知らない様子だった。

「今年こそは、俺がアンカーでゴールテープを切る。この高校生新記録を取った一ノ瀬信介(いちのせしんすけ)がなぁ!!」

「あぁ別に構わんぞ。俺の代わりにアンカーやってくれるって言うならそれこそ願ったり叶ったりだ。まぁだから一旦落ち着けって」

「........はぁ!?」

宴最終日の最終種目にして最も得点の配分が高いその競技のアンカー。それ即ち一位でゴールインすれば街中からの拍手喝采を雨のように浴びれる絶好のチャンス。そんな承認欲求を最高に満たせる役職を祐は、惜しげもなく一ノ瀬に譲ったのだ。

 と言うのもそもそも祐はアンカーと言うモノをよく分かっていない。

「いや、やりてぇんだろ?なら別にやっていいぞ。俺は何処でもいいから。ってかそもそも走りたくないから。まじで」

祐のそのさっぱりとした発言は、目の前の男だけではなくこの公民館に居る全ての選抜選手の口を凍り付かせた。

「........ふっ、ふっ、ふっっざけんなぁぁぁ!!!!」

片手で掴んでいた胸ぐらを彼は両手でがっしりと掴み祐を無理やりに立たせる。

「バカにしてんのか俺を!?しょうがねぇから譲ってやるみたいに言いやがって.......」

「はっ?いや、まじで別に俺アンカー何て大層な役職に興味ねぇから譲るって言ってるだけでお前を馬鹿にしてるわけじ──────



「勝負しろ」

「はい?」

咄嗟の宣戦布告に祐は脳の処理が追い付かずに阿保面をさらしながらそう聞き返す。今この男は勝負を投げかけて来たのかと。

「今から俺と百メートルで勝負しろ」

「.........何で?」

「それで勝った方がアンカーだ。文句ねぇだろ?」

「いや、待て。俺の話を聞け」

祐の声が一ノ瀬の耳に届く以前に空中分解を果たしているのかと思う程に彼は一方的に話を進めるのだった。

「えっ?白神様と一ノ瀬が勝負?」

「マジかよ素数番街の最速決定戦かぁ?」

「本番前だってのに盛り上がって来たぜ!!」

と祐の話は一ノ瀬だけでなく周りの人間にも聞こえておらず、いつの間にか祐が一ノ瀬と勝負をすることが決定したのだった。


 公民館の門前から西側に百メートルに設置された明かりの付いていない街灯に祐と一ノ瀬は横並びになる。街灯のすぐ横にフラッグを持った三枝が合図役を受け持っている。

「それじゃあいい二人とも?公民館の前にある街灯まで先に付いた方が勝者ね。勝っても負けても勝負は一度きり。いい?」

「さっさと始めろ」

その場でぴょんぴょんと跳ねながら一ノ瀬は苛立ちを篭めた声で三枝にそう催促する。

「はぁ.....」(何でこんなことになったんだ?)

二人とも制服の姿ではあるが、公民館にあった運動靴を履き勝負の公平性を保つ。公民館の門前ではその結果を見ようと全生徒が話し合いをほっぽり捨て二人のゴールを待ち望んでいる。

(俺のベストは九秒九七。決して動きやすい格好じゃねぇが、ぶっちぎってやるよ)

「それじゃあ位置について.....よーい....ドンッ!!」

その合図とともに先に飛び出したのは、一ノ瀬だった。高校生離れしたそのフォームと速度で祐を置き去りにする。

(何だ、付いてくることすら出来ねぇのか。所詮は、俺以外の雑魚に勝っただけの凡夫ってところか)

勝利を確信した一ノ瀬だが、速度を一切落とすことなく走り進め残り四十メートルに差し掛かった瞬間。風のような何かが彼の右横を一瞬で追い抜いた。

 何一つとして無かったはずの右隣には、白髪を一つ結びで束ねた一人の少年の背中があり。瞬間瞬間時間が過ぎていく毎にその背中は遠くに走り去り、小さくなっていく。気付いたころには公民前の街灯の横には憎くて憎くて仕方のない鬼川祐が一ノ瀬を見つめていた。

 祐のゴールから二秒後、一ノ瀬信介は二着で街灯までたどり着いた。

「なぁ一ノ瀬って学生記録持ってるんだよな.......白神様が速い事は知っていたけど、これ世界記録より遥かに速いんじゃあ」

関心を越え、戦慄するように一人の女子がそう口にすると、その波は皆に伝播していく。

(感触的に十一秒は切ってるハズだ!!それなのに何でこいつは俺の前を裕に越していった!?俺の横に居なかっただろ!!)

絶望に打ちひしがれるように一ノ瀬はその場に倒れ込み拳を握る。

「クッソ......」


 鬼川祐の性格を表すとすれば面倒くさがり屋が最も最適な単語が存在するのだが。もう一つの候補を上げるとすれば

「アンカー何て役職に興味は無いけど、負けるのはもっと興味が無い」

にたりと笑い祐は項垂れる一ノ瀬を見下ろす。


 そう。この男は死ぬほど負けず嫌いなのだ。

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これだけが、私の生き甲斐でエネルギーですので。

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