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退魔の英雄  作者: 明太子
宴之魔陰
17/23

16 勝利の白神

更新しました。日常回が続いていましたが、そろそろ本番に差し掛かろうとしていますので今後ともよろしくお願いします。楽しんでいってね。

 素数番街にある中高は定期試験の間隔が外と比べ短いことが多い。祐の通う高校もまたそれに該当し通常七月の頭に始まる定期試験は六月の中盤に行われる。だからと言って夏休みが長くなることは無く、代わりに体育祭が街が一丸となって行う体育之宴が催される。

 

「はい。まぁ相変わらずの面々がそろって訳でこれから補習をはじめます.....ほんと学習しないね君たちは」

だが、そんな宴に参加するには無論条件が存在するわけで。赤点を取らないか、もしくわ補習と課題を五日に渡ってこなすかのどちらかだ。基本は前者の条件を満たす者が大多数なのだが、祐や八田のように赤点を貪る根っからの阿呆は後者を迫られるのだ。

 補習の面々は虎丸の言う通り、相も変わらずと言った具合だった。あるものは項垂れあるものは天を仰ぐ始末の中、いつもの席で祐は真面目に補習を受けていた。深い理由は無く単に試験日に見た坂城の声も顔をも忘れられなかったからだ。視界が黒に染まり、音が少しずつ遠のくと決まって彼女のそれが祐の中に侵入するのが耐えられなかったのだ。

「おや、課題だけもらって後は野となれ山となれと言った鬼川が起きているとは。珍しいねー」

「真面目にすんのも悪くないかなって」

頬杖を突き半ば悪態かのように祐はそう口にする。

「こりゃー今日の夜は雪で降るのかな?」

虎丸涼の補習はいつも決まって、情報基礎の寧洋画大半を占めていた。本来であれば今回の試験範囲をもう一度なぞるだけなのだが、

『応用もっかいやって、君ら又赤点でしょー?何たって基礎が終わってるしねー』

と彼女らしい考えの元、他教科とは少し違う補習を行う。それもあってか、この補習は赤点では無いがもう一度授業を受けたいという熱心な生徒が幾らか自主的に受けに来るのだ。


 補習コマ七つで、その中でも課題を出す科目は数学ⅡとBだけでありプリントの枚数は八枚に及んだ。

 補習一日目は昼過ぎに終わり祐は、訳も無く博士の研究所に足を運んでいた。駅の虚像掲示板には、ここ一週間の天気が横にスライドされながら表示されている。零の一件が終結しやはり拾九番街と拾七番街での怪事件は明らかに減った。何故減ったのか、そんな事は誰も気にも留めず知ろうとしても知れるものでもない。

ぐぅ。と朝から何も口にしていない祐の腹は飯を求めるように高らかに鳴く。

「コンビニで買って、博士のとこで食べるか」

足を止め丁度右側に立つコンビニに足を踏み入れた。五日間の補習の間赤点を取っていない生徒は自宅学習日という名の連休を堪能しており、当然コンビニにもその姿は見て取れる。この時間帯で制服を着ているという事は十中八九が赤点と歩いているだけで恥晒しなのだが、祐はもう慣れっこだった。


 物価高の影響で基本、激安スーパーでしか買い物をしない祐だがコンビニのおにぎりをここまで安く感じたのは初めてのことだった。東雲が働くスーパーでは百円しない鮭握りが倍の価格で売られているものの、背後にある一億という金額はその感覚を鈍らせる。

 計一二〇八円。といつぞやの銭湯以上の金を一食にかけ、祐はコンビニからそそくさと飛び出た。空調がかなり効いていたおり外に出ると暑さをより強く感じられた。

「あれ、鬼ちゃんやん。補習終わりかい?」

「あぁ土屋か。やっと七科目分終わってな、帰ったら明日までの課題全部終わらせねぇと」

「そっか、相変わらず大変やねぇ。ちょっと位なら教えてやろうか?」

「えっ⁉︎」

唐突な提案に思わず祐は息を呑む。

 土屋と言う男は祐や八田とは根本的に頭の造りが違うのか、祐の記憶上全ての定期試験で一位を叩き出している不動の王者なのだが。如何せん人の不幸を喜ぶサゾ気質があった。

「お前が、俺に勉強を?」

「本来やったら手伝う事はせんけど、今日は気分がええからジュース一本で手を打とう」

やはりただでは無かったが、それでも祐としては有り難く二つ返事で了承する。

「ははっ。それ乗った」


 六月中盤の暑さは少々尋常ではなく、木陰の休憩所まで歩いているたった数分の時間でジュースの冷気は空気中に溶けて消えていった。大量の結露がビニール袋の内側で小さな水溜りを作る。

「コーラしかねぇけど、いいだろ?」

「構わんよー」

気分で二本買っておいたコーヒーとコーラの一本を渡すと、相当喉が渇いていたのか一気にキャップを回し開ける。特段袋を振っていたわけでは無いが、泡が溢れんばかりに飛び出る。

「うっへぇ‼︎」

と叫びと呻きの中間の様な声を出しながら、飲み口に口を被せる。

「何やっとんじゃ」と嘲笑しながら祐は微糖の缶コーヒーを一口啜る。博士の為に買ったそれは祐には少し苦い。

「久々に飲んだけど、ぬるいな」やや不快そうな顔を浮かべる。

「この気温だししょうがねぇだろ。それより、勉強見てくれる約束だろ。約束の品も渡したし」

「はぁ、しゃーないな。んじゃさっさと終わらそうかねぇ」

やはり辞めておけば良かったと、明らかにそう顔に書かれた土屋の顔を見ながらあ祐は鞄からプリントを取り出し机に並べた。

「課題ってこれだけなん?随分まぁ少ないねぇ」

「基本補習受ければ成績上で二になるから、課題何て数学しか出さねぇんだよ。まっ土屋は知らなくていい情報だろうけどな」

筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出し祐は、プリントに印字された問題を解いていく。

 俯瞰して考えると百点満点の内たった三十点すら取れないような生徒への問題が難しいはず

「なぁこれどうやって解くんだ?」

「えっ!?これくらい自分で解いてよ鬼ちゃん」

あった。虚数を用いた単純な計算や高次方程式の割り算と平均的な学力を持つ学生であればさくさくとこなせるそれも祐には厳しいモノがあったのだ。数問の度に土屋に問いかけるのだが、分からないことが分からない彼にとって理解し難い質問の返答に都度困り果てる様子。

「凄いな....ここまで勉強が出来ないとはねぇ」

顎で垂れ下がる汗をぬぐいながら、決して大袈裟ではない言動を見せる。

「中学の頃から少しは出来てるようになっとると思ったけど、何にも変わっとらんな鬼ちゃんは」

「クッソ!!これ以上の無い生き恥だ」

それでも祐は諦めることなく数式を解き続け、土屋は質問の度何とか祐に伝わる優しさで言葉を紡いだ。



 約二時間に渡る土屋の徹底指導もあってか、祐は課題を全て終わらせることが出来た。が、二人とも当然満身創痍であった。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。やっと....お、終わった」

「こりゃあジュース一本じゃあ足りんよ」

博士の研究所でと思って買った昼食は結局勉強の最中に祐の脳へと送られた。

「あんがとな土屋。悪態こそ何度か吐いてたけど、結局最後まで付き合ってくれたし後でもう一本奢るよ」

口元を綻ばせ祐はプリントを鞄に仕舞い、近場の自販機に財布を以て行く。ギンギンに冷えたコーラを二本買い、うち一本を土屋に礼として手渡すと再び急いで開けるが今回は噴き出ることなく、勢いよく喉に炭酸を通した。

「ぷっはぁぁぁ!!こりゃ生き返るはわ」

「だな」

椅子に座り祐もまたコーラを飲む。きつめの炭酸が喉を傷めるがなんだかそれが心地よく感じた。

 三時を回ったが日は地を照らす力を弱める事をせずに西に下り、影の位置が勉強を始める前より東に延びる。

「そう言えば鬼ちゃんに一個聞きたいことが在ったんよ。すっかり忘れてたわ」

「何だよ藪から棒に」

「鬼ちゃんとあの時雨ちゃんって実は、腹違いの兄弟やったりする?」

一切の筋道を無視した、八田の質問は祐を固める。どういう関係性なのかは幾らか聞かれた祐だったが、ここまで先を越しての質問は初めてだったからだろう。

「いや、全然違うけど」

「ホンマかぁ?にしては、随分似とるんよなぁ。髪の毛がどうこうとかちゃうくて、何かうぅぅん......そう!顔のパーツ」

「似ては...ないだろ。だって時雨さん相当美人だぜ。別に俺ブスじゃねぇけど、あれに似てる程美男子ってわけでもねぇからな」

鬼川祐は中学に編入した際、時雨程ではないが色々な女子に近寄られた事はそれなりに在った。だがそれを考慮し、尚且つ自信を棚に上げたとしても美の化身とも呼べる霧太刀時雨には遠く及ばなかった。

「まぁ一応、遠い親戚らしいからそのせいかもな」

「そうか......」

何度か問われた関係性を答える際にとっさに思いついた答えを祐は、後出しの様に付け加える。

「まっそういう事にしとこうかねぇ。それはそうと鬼ちゃんは今年の宴はどの種目に出るつもりなんよ?」

「あぁぁぁ.....そっか。補習終わったらもう宴の期間に入るのか」

学生街の拾七番街、拾九番街、二三番街のそれぞれの街を上げての体育祭はその一大イベント振りからも『宴』と評されるそれは二千年に入り、学生を受け入れるようになった年からの恒例であり今年で二十五回目となる。

「俺は去年同様クラス競技と学校競技だけに出場するつもりよ。幸い俺たちは帰宅部やから、部活動ごとのリレーはないからねぇ」

「そうだな、俺は......まぁ声かけられたら個人種目も出るつもりだよ」

「去年は最後のリレーで万人の活躍で勝利に導いた、白神様やしね」

「それやめろ」

白神様と言うのは去年の宴にて付けられた他校での祐の呼び名である。怪我によりリレーメンバーに不足が生じ臨時で祐がアンカーを務めたのだが、日が照り返るコンクリの上を五百メートルも走らないといけず闘力を用いて走ってしまったのが全ての原因だった。

 正式な世界記録は無いモノの陸上部の人間は愚か、世界のトップアスリート以上の走りを魅せ最下位からごぼう抜きを果たし無事チームを一位に昇華させたのだ。そこからか他校では祐のことをその髪の色からか白神様と呼ぶようになった。

「あれから大変だったんだぞ!?こっちの学区は良いけど、それ以外の学区に足踏み入れるとみんなコソコソ俺の事、訳の分からん名称で呼び始めるし」

はぁぁぁぁ.......

溜息よりかは唸りに近いそれを祐は吐き出し、コーラを喉に流し込む。

「俺の勝手な考えやけど今年は鬼ちゃん個人競技とかチーム競技とか、強制種目以外は全部駆り出されると思うよ」

「ははっ。そりゃ笑えねぇ冗談だ事」

乾いた笑いを浮かべながら祐は、嬉しそうにニヤつく土屋を睨み付けた。

 いつの間にか祐は坂城の(しがらみ)から解放されていた。

──────暗転。




 補習期間は無事に幕を下ろした。無事にと言うのも祐は普段課題が終わらず補習後だというのにせっせこと課題に勤しむのだが、土屋の甲斐もあってか何とか無事に教室に居座ることが出来た。

『なにぃ!?お、おおお鬼川が課題を期限内に。しかもまだ補習日数は残っているというのに!?今日は槍でも降ってくるのか?』

と数学担当の伊野頭は、一切の混じりけも無い驚嘆ぶりを見せていた。

「へへっ。俺と、俺の友達を舐めんじゃねぇぞ伊野頭」

宴の二日前、参加種目を決めるための集まりの最中祐は勝ち誇ったようにそう口にする。

「えーそれじゃあ、明後日に控えた宴での参加種目をこのクラスから決めようと思いまーす。それじゃあここからは体育委員お願いね」

彼女はそう言い残し黒板の横の掲示板の椅子で行儀よくアイマスクまでつけて居眠りを始めた。

 入れ替わりで教卓の前に立ったのは、八田弘明と小森明菜の体育委員会に務める二人だった。水泳部一に加え全国でも有数の競泳選手である八田は最早強制的に委員会に加入しており、隣にいる小森もまたこの街では有数の陸上選手なので抜擢されたのだ。

「それじゃあ今から明後日の第二十五回拾九番街体育大会の参加種目を決めたいと思います。例年男子はクラスでの通り棒倒し、女子は借り物競争は強制で参加してもらいますのでそこらへんは有無を言わせないのでご注意ください」

司会は小森が務め、板書は八田が務めているのだが案外にも八田の字は綺麗で読みやすい。軽快な音を立ててチョークを走らせる。

「(ねぇ鬼川君。今回も個人競技に出るの?)」

「(出たくはねぇけど、頼まれたら断るわけにも行かないしな。結構悩みどころだよ)」

あの日のことなど忘れたように気兼ねなく坂城が喋りかけて来たので、祐もたじろぐことなく円滑に話を進めた。

「(そっかぁ....今年も白神様の活躍を見れるかもしれないって皆期待してるから自分から立候補してみたら?)」

嘲るように彼女はそう口にする。

「(あのねぇ、俺は神何て言葉で呼ばれるほど高尚な人間じゃねぇんだよ。そんなことする訳ねぇだろ)」

「ふふっ。」

祐の冷静無比なツッコミに彼女は眼を細めて笑う。時雨がくる以前のこの学校で彼女がマドンナとして生きて来た理由が祐は何となく分かった気がした。


 短距離走。長距離走。大玉転がし。マラソン。と個人種目の候補者が次々と黒板に書き連ねられていくが、その中に依然として鬼川祐の三文字は無かった。

(もしかして、俺の事忘れてんじゃねぇか?このままいけば今年は、クラス競技と学校競技で終わりなんじゃ......)

嘗てこんな言葉を遺した偉人が居たり居なかったりとされている。

『笑うな。最後まで、嗤うな。際にフラグを立てれば、見事に回収するぞ』

──────と。

「えぇっと。じゃあ最後に拾九番街の規定ルートを十人で繋ぐリレー選抜何だけど.......鬼川で異論はないね皆」

候補を集うでもなく当の本人の許可も無い只の提案。応!!と皆が団結し首を縦に振ることでそれは見事多数決と言う民主主義の決定法により可決された。

「........はい?」

一切の不満も、苦言も許さぬ連携により祐の名前は黒板に大きく幅を取るように書き記された。

「それじゃあ。こんな感じで終わりたいと思います。協力してくれて有難うございまし──────


──────ちょっとまてぇぇぇ!!!!」

危うく強制的に議会を閉廷される寸前で祐は、滑り込みの()めを一喝する。

「どうしたんだい鬼川?皆の投票で決まったんだ。精一杯頑張ってくれ。あぁもしかてみんなの前で決意表明でもしてくれるのか?」

「おぉぉ!!!やっぱり白組に勝利を(もたら)す白神様は一味違うぜ」

「よっ!!待ってました」

だがそんな祐の止めの言葉虚しく、既に教室の空気は祐を置き去りにおうおうと湧きたっており祐の入る隙をこれでもかと与えない鉄壁の防御を形成している。


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ................


祐は全てを受け入れ。全てを否定することなく只なされるがままに咆哮のような溜息を吐いた。

評価とコメントとフォローお願いします。

それが作者の生きがいにして全てですので....それでは!!

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