0 この世全ての真理
パソコンの整理をしていたら出て来た、プロローグです。
出そうか迷いましたが、中々出来の良い文章なので。
夏休み二日目。言うなれば学生にとって喜びが最高潮から一歩引いたところまで落ち込むこの日。
こと、鬼川祐は見知らぬ外人とカフェに居た。ただどういうわけかこの外人、魔術師であった。それも大陸最強とまで言わしめ、人代が創り上げた天才と評される。
名は語らず、男は不意に祐を見つめては頼んだコーヒーを少しずつ飲み続ける。祐としては何処かこそばゆい違和感を感じざるを得ない状況と言えた。
「あのぉ.....それで俺に何の用で?」
「...........これと言って用は無いよ。只君と一緒に居たいだけだ」
「はぁ....」
加えてこの魔術師、どういう訳か何度祐が質問を振っても男は一切的を射ていない答えを口にする。
同性愛者なのだろうかとも祐は刹那に考えるが、そういう視線や雰囲気はこれと言って纏っていない様子でありやはり疑心が湧くというモノだった。
素数番街の外は、余りに良い場所と言えた。
何せ感知を切ることの出来ない祐にとって、あの街は地獄と言って差支えが無い。常に微弱ながら純度の低い魔力が頭に流れ込んでくると言うのは一般人で言えば、常に耳鳴りがするのと同義として扱える。
(それにしても、静かだ.....あぁもう戻りたくねぇな)
カフェの外に広がる、本来の日本としての風景はあの街には無い自然体とでもいえる。
だが対面に座るこの魔術師と言う男さえいなければ更に完璧に近づく。
(工事現場から落っこちて来た、鉄パイプを粒子レベルで粉々にしたあれ。やっぱり大陸の魔術師ってのは格がちげぇや)
何時ぞや那須世嗣が言っていた言葉が祐の中を駆ける。
しかし、大陸の魔術師の皆が皆あれほどの芸当を無言無動で行える訳では無いのだろう。そうでなければ大陸最強という名が泣く。
「........なぁお代は置いてくから、もう出っても良いかな?」
「それは困るよ。まだ僕は君を堪能していないからね」
「んじゃあ少しは、世間話でもしようぜ。あんたは無言でも満足するかもしれないけど俺はそういう訳には行かないんだ」
「なるほどね....じゃあ面白い話でもしようかな」
翠髪の魔術師は祐の困り果てた顔を見て、まるで情けを掛けるかのように世間話の題目を考え出した。
「君は、転生したらスライムだった件。という作品を知っているかい?」
突発的な切り出しだった。自身の故郷の話や、魔術師としての話を振るのかと思いきやこの魔術師は日本のラノベタイトルを口にした。
「は?」
短い疑問詞を祐は口にする。どれ程思考の猶予があろうとも恐らく祐はその疑問詞の末尾を伸ばす事しか出来なかっただろう。
「おや、知らないのかい?日本の有名なライトノベル作品だと思うのだが。それでは無職転生はどうかな?」
続けて魔術師は二つ目のタイトルを口にする。日本作品が好きな外国人なのだろうか、と祐の中で思考が巡るがそれでもまだ順応には至らない。
「もしかしてそれも知らないかな?ではRe.ゼロから始め──────
「ちょっと待ってくれ。あんた何が言いたいんだ?」
これ以上は知恵熱を出して意識が飛んでしまう一歩手前、祐は咄嗟に魔術師の話を遮った。
「世間話だと言うからアニメの話でもしようかなと。それで知っているのかい?」
「あぁぁ....名前くらいは知ってるけど。それがどうしたんだ?もしかしてあんたの好きな作品だったりするのか?」
「いいや」
即答だった。自分自身で振った話の種だというのに魔術師は、アニメ好きという訳でも無かった。
「...........はぁ?」
掴みどころのない言動の一切に祐の演算処理は、そろそろ限界を迎えそうだった。これがデフォルメされている世界であれば祐は頭から煙を出し始める頃合いだろう。
「私の弟子のひとりにアニメが好きな子が居て、誘われて見てみたのだが。魔法や魔術の精度、その他もろもろの魔術師としての出で立ちなどがどうも私には刺さらなくてね。だから、日本人であり退魔の衆の一員でもある君はどう思っているのか知りたかったんだけど。どうやら無理なようだね」
「あぁ....折角話広げようとしてくれてたのに、何か悪いな」
暖かな笑みを絶やすことの無かった、魔術師がふと萎れて見えた事もあってか祐は申し訳なさげに頭を下げる。
「いや良いんだよ。私も内容について語り合おうなど毛頭思っていなかったからね......そうだね、では少し違う方面で話でもしようか。君は、異世界転生についてどう思う?」
またしても突飛な問だった。ただ先程と比べればまだ思考の猶予が在る可愛げな質問だった。
「異世界転生ってあれだろ。別の世界に行ってすげーつえーって奴だろ?それについてどう思うって言われてもなぁ......」
だがどれ程の猶予が在ろうが、そのジャンルの作品を見たことの無い祐にとっては無用の長物と言える。
「少し雑な問いすぎたかな?......私はね異世界に転生するというのは、万物の真理に背く事象だと考えているんだ」
「ん?........」
論理の飛躍とでも言えるのだろう。魔術師は人の尺度では図り切れないスケールの物事を口にした。
「輪廻転生。文字通り全ての生命は流転する。つまり、誰かが死のうがそれは別の誰かに生まれ変わるという事になるから輪廻の陣には常に同量の魂が乗り続けている事になるんだ。ただ異世界に飛ばされるという事は、別の輪廻に足を踏み入れることになる.......おかしいと思わないかい?」
「あぁぁ....ん?あ、いやそうなのかなぁ?....」
魔術師としては相当に話を砕いて祐に説明しているのだろうが、お生憎の事祐の頭では理解するのに時間がかかる。
「要するに一定の魂が乗り続けるという絶対のルールが存在する輪廻の陣から、魂が溢れ出る事はあり得ねぇって言いたいのか?」
「そういう事だね。──────気になったことは無いかい。例えば百の魂が存在する輪廻から一つの魂が異世界に飛ばされた時、その穴はどうなると思う?」
「さぁ.......」
祐は困惑せざるを得なかった。
外人だというのにこの魔術師は、恐ろしい程流暢に日本語を口にする。だから言葉が分からない訳では無かった。
単純に、そして端的にこの魔術師の問いの答えが分からないだけなのだった。
「君は退魔の衆に属している以上四神力という単語を知っているだろ。魔力、巫力、覇力、闘力の四大力を指す言葉だが、一体どこから神の文字が溢れたか知っているかい?」
どういう訳か、この男は答えを知っていながら祐に問いを浴びせ続けた。それと同時話題の切り替え方が余りに鋭く高速だった。
「神みたいな力を使えるから?」
「ふふっ。強ち間違いではない。けど厳密に言えば、かつて神代の人類はその特殊な力は神からの恩恵だと考えていた。だからこそ、そこに神の文字が刻まれているんだ」
「へぇえ....っで、それが一体転生と何の関係が?」
突発的な話の移り変わりに祐は疑心にそう口にする。
「話が逸れてしまってすまないね。ただ君にはこれからの内容の為に四神という概念を知ってもらいたかったんだ」
魔術師はそう言うと残り少なくなったコーヒーを一気に飲み干した。
カップの内側にコーヒーの筋道がうっすらと影を残している。
「異世界に転生された魂のせいで、この世界の輪廻には穴が開く。ただ輪廻には穴は開くはずがないという絶対の規則が存在するためにそこで二つの事象が反発を起こす。そこで概念としての魔力の神はかつてこんな過ちを犯した。──────
──────その穴の代わりに魔力で出来た人を入れようと
この魔術師は、こんな平穏な日常の一コマにこの世全ての真理を口にした。
あり得ない話ではない。ただそんな事が可能なのだろうか。いやそもそも神何てモノが存在しゆるのだろうか。祐には男の端から端までの話に理解が及ばなかった。
だが、否定するには至らなかった。
どうやらこの魔術師は千年近く生きているのだから。
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